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参考人(
橋本徹君) ただいま御紹介にあずかりました
橋本徹でございます。
参議院の
地方行政委員会の
参考人として、
地方交付税法等の一部を
改正する
法律案について
意見を述べる機会を与えられましたことをまず感謝いたします。
私は、本日この問題に関連いたしまして、三つの観点から
意見を述べたいと思います。第一は、今般の
改正法案におきまして、とりわけ
総額確保についての
評価に関するものでございます。第二は、この
地方交付税法等の
改正案が
地方団体の行
財政の運営にどのような影響を及ぼすものであろうかといった観点からの
意見でございます。第三は、今後の
地方交付税制度等の改革の方向について、この際若干の私見を述べさせていただきたい、かように考えております。
もっとも、このように考えてきたのでございますが、先ほどから四人の
参考人の方がるるお述べになりました点と、正直なところかなりの点が重複をしてまいります。したがいまして、問題を
整理する意味ではなるべく重複を避けて発言した方が効率的であろうかと思いますので、若干要点だけの発言にとどめさしていただきたいと考えております。
第一の問題に関してでございますが、先ほどから皆さんがお触れになりましたけれ
ども、今日、第二次の
臨時行政調査会が置かれまして、いわば
行財政制度全般にわたりまして見直しが行われようとしております。そのこと自体につきましては私も敬意を表するものでございます。
ところで、国、
地方を通ずる
行政改革は今日急務でございますが、その議論の過程の中で、本日議題になっております
地方交付税に関連いたしまして取り上げられていることにつきましては新聞報道等で
承知しておりますが、それは先ほどから
和田教授、高寄教授、皆さんお触れになりましたが、確かに昨今の
地方団体の運営、とりわけ職員の増加あるいは給与水準の高さ、そして国、
地方を通ずる
財政危機の中にもかかわらず、
地方団体における
単独事業費の
増大といった
状況にかんがみて、この際に
地方交付税率を引き下げるべきであるとする
意見に関するものでございます。また、この
地方交付税率の引き下げにつきましては、昨年の十二月に
財政審議会の報告の中で、
地方交付税の税率の引き下げの
意見もあるといったような趣旨の表現があったように記憶しております。もちろん新聞報道等によるものでございますから、七月のいわゆる中間答申が出ているわけでもございませんし、どのような決着がつくのか予測ができないわけでございますが、したがいまして、そのこと自体を直接論評するつもりはございませんが、
地方交付税の本質を考えるに当たりまして非常に興味のある課題だと思うわけであります。
今般のこの
地方交付税法等の一部を
改正する
法律案の提案理由によりますと、「
地方財政の現状にかんがみ、
地方交付税の
総額の
確保に資するため、」ということで、五十六
年度の
地方交付税の
総額について幾つかの
措置を講じているものでございます。そうして、かろうじて
財源不足額を補てんしようとしているものであります。また、
地方六
団体等では、従来からたとえば
交付税率を四〇%に
引き上げるべきであるとか、あるいは先ほど
和田教授は五%ぐらいの
引き上げが基本的には必要ではないかといったような御
意見も披露なさいましたが、あるいはまた
地方制度調査会にありましても、たとえば第十七次の調査会の五十三年十二月の答申は、例の五十三
年度におきます法定
措置、すなわち
交付税特別会計の借入分を、その
償還に当たって半額を国庫が
負担する、半額は
交付税会計が
負担すると、こういった
措置によって講じられているものを、
交付税法附則第八条の三の
措置の継続を要望しております。
こういった、
交付税率をめぐりまして、一方では
交付税率の
引き上げを主張し、一方では
交付税率の引き下げを主張するというところに、私は
交付税の問題のいわばむずかしさがあると思います。とりわけ、私
ども納税者の一人、
国民の一人といたしまして、確かに私は専門家ではありますけれ
ども、学者ではありますけれ
ども、
国民一般といたしまして、
交付税率というのは非常にむずかしいもの、税制というのはむずかしいものであるし、かつまたわかりにくいものでございます。事ほどさように今日の
財政危機は深刻であるという証拠であるかもしれません。
私は、
交付税率の引き下げ、
引き上げに関して申しますと、もちろん
交付税率の引き下げという
意見には賛意は表しかねるものでございます。その意味で申しますと、今般の
改正案の
交付税の
総額の
確保ということにつきましては一応の
評価をいたします。かと申しまして、それではいま、原案にはございませんか、
交付税率を引き下げることができるだろうか。国の税収の
不足に対しまして、五十六
年度の
予算におきましても特例公債、いわゆる赤字公債が依然として五兆何がしでありましたか
発行されている現状におきまして、所得税、法人税、酒税、この三税の三二%という法定税率を確かに
地方財政の
立場からすれば
引き上げた方が法にはかなう、あるいは
地方財政の運営にはかなうという議論ができるわけでございますが、
制度そのものがそのまま実施できないような経済、社会の環境にありますときに、
一つの
法律のみを強調してそれの完全実施を迫るというやり方では、いわば
財政、
行政全般にわたる
制度の禍根を将来に残すものになるかと思います。
かといいまして、それでは現在のこういった
措置が好ましいものであるのかということになりますと、決してベストであると私は
評価するものではございません。思えば
昭和五十
年度から五十六
年度まで、そしてこのまままいりますと、まだまだそういった
状況、少し文学的表現を使いますならば、いつまでトンネルの中に入っているのだろうか。トンネルを抜ければ雪国であったというある文学表現がございますが、雪国でなくて、トンネルを抜けても春がいつまでも来ないという
状態を、
地方交付税の
臨時的なと申しますか、この
措置に感じるのでございます。
ところで、先ほど申しましたように、今般の
交付税総額の
確保につきましては、先ほどから各
参考人の方がお述べになっておりますように、
地方財政計画上の
財源不足額一兆三百億円を、いろんな工夫をいたしまして、三千数百億の
交付税の増額、そして
財源対策としての
地方債の
発行によりまして約七千億ですか、といった補てんをいたしております。これについてはまことにやむを得ませんが、
総額の
確保という点については賛成をいたしたいと思います。
ところで、こういった賛成をいたしますのには、もちろんそれ相応の基準が必要だと思います。基準と申しますのは、たとえば
行政改革にも幾つかの基準があるわけですが、三十九年の
臨時行政調査会の答申には
行政事務
配分の原則が掲げられております。その中には、現地性の原則と総合性の原則と経済性の原則と三つが掲げられております。また、私
どもが大学で学生に教えます教科書の中には、たとえばアダム・スミスの国富論の租税原則を引用いたしまして、租税というのはまず第一に公平の原則が必要である。そしてそのほかアダム・スミスは三つの原則を挙げております。御
案内のように、確実ないしは明確の原則といいますか、それから便宜、便利であるということの原則、そして最小徴税費の原則、こういった原則を掲げておりますが、私は、
地方交付税制度あるいは
地方税制度ないしは
地方行政制度等を考えます場合に、やはり原則が要ると思います。これまでの先人のいろんなものは継承はいたしますが、今日どうしても外せないのは効率性の原則であると思います。いま
一つは、公平ないしは公正の原則であると思います。またもろもろ原則はあると思いますが、重要な二つの原則、これは相矛盾する場合もあります。あるいはまた両方ともうまく適用できる仕組みも考えられないこともございません。
ところで、私、ただいま効率性という言葉を使いましたのは、日本語というのは非常に不便でございまして、人それぞれ、広辞苑などを引きまして解釈をするわけでございます。私は、いま効率性と申し上げましたのは、限られた資源を最適に
配分する、
国民経済ででき上がりました約二百兆ほどのGNP——
国民総生産をわれわれの欲求を満足するために民間経済と公共経済とに
配分する、その上で公共経済の中で国と
地方団体のそれぞれの公共サービスに何ほど
配分するか、その
配分が効率的でなければならないという意味であります。もちろん効率性の中には
行政的な効率性といいますか、たとえば最小の
経費で最大の効果を上げるというのもそうかもしれません。あるいは能率と言った方がいいかもしれませんが、そういう能率もございます。その効率性という先ほど申しました意味、資源をできるだけ有効に
配分するということは、これは経済社会の原則としては重要な原則であると思いますが、残念ながら、国の
行政にしろ
地方の
行政にしろ、マーケットメカニズムといいますか、市場機構を持っておりませんので、いろいろな需要の中でどれを優先するかとかどれをたくさんつくるかということについて、市場の価格機構が利用できません。そして
予算機構でそれを決めてまいります。
ところで、
予算機構で決める場合に、私は国の
予算でたとえば教育サービスにどれだけやるか、福祉サービスにどれだけやるかということを決めるよりも、
住民に身近な
地方団体の
予算において、その地域において、公共サービスのうちで教育サービスに重点を置くか、それとも福祉サービスに重点を置くか、教育サービスの中で義務教育に重点を置くか、それとも
社会教育に重点を置くかといったような判断を、できるだけ
地方団体の
予算で、市民に議会で問うた方が資源の効率的な
配分が実現する。これが市場機構を欠く場合に必要であると考えております。
そういう意味で、先ほどの第二の問題でございますが、この
地方交付税法の
改正によりましてねらっておるところは、できるだけ
住民に身近な
地方団体で公共サービスの適否あるいはその数量の度合い、そういったものを判断させようというものであると思います。今般の改革の中には、
総額の
確保以外に
基準財政需要額の適正化、あるいはまた、手数料等の受益者
負担の適正化等も触れられておりますが、
地方団体がみずから
地方税とあわせましてその
一般財源をもって
地方団体の
行政、
財政の運営を行うことがいわゆる効率の原則に合致するわけであります。
ところで、第二の問題に触れたいと思いますが、しからば、そのように
地方団体に判断させるとするならば、本来は
地方交付税ではなくて
地方税ではないかという議論が当然できるわけであります。その点については当然でございまして、
地方団体の
財源は本来
地方税であるべきだと思います。ところが、いかんせんいま
一つの原則である公正の原則を考えてまいりますと、現在の地域間の所得の格差ということを考えますと、いま主として所得課税による現行税制を
前提にいたしまして税制を組んでまいりますと、言うまでもなく地域間には税収の格差が出てまいります。しからば、税収の少ない地域に住んでいる
住民は低い公共サービスを甘受すべきかということになりますと、そうではございません。
地方交付税法の第一条にございますように、ある妥当な水準の
行政水準を全国ある一定
程度確保するということが考えられるわけであります。
ところで、
地方交付税の仕組みが、五十
年度以降このようにいわば
臨時的、緊急避難的な
措置を講じたために、
地方団体は
財政運営においてみずからの責任で運営しようということが、ややもすれば怠りがちになると言えないこともないと思います。
〔
委員長退席、理事熊谷弘君着席〕
特に国が赤字
財政を続けているにもかかわらず、
地方交付税では
財源不足額の
措置ということで
財源が補てんされる。もちろん
財源対策債あるいは減収補てん債等も出されたわけでありますが、そしていつの間にやら
交付税特別会計の
借り入れだけでもう五十六
年度末には約八兆円になるということが
算定されますが、これは全国で八兆円であって、各
地方団体にとっては、その八兆円という
借り入れは将来のことというふうに感じられないのでございます。そういたしますと、ちょうどことしはその
償還方法を変えて幾らかお金をつくり出すということが行われましたが、
地方団体はややもすれば、五十九
年度、六十
年度になるとまた何か国が適切な
措置を講じてくれてわが身には火の粉は降りかからないといったようなことを考えないとも限らないわけでございまして、そういう意味ではこの際
地方団体も、みずから
財政運営についてその適正化を図っていく、とりわけ長期的な
財政運営といいますか、長期的な観点から見直すということが必要であると思います。今度の
交付税改正案におきまして、たとえば先ほど申しました手数料等の
引き上げ等はそれの
一つの刺激であろうかと思います。
第三に、関連いたしまして、今後の国と
地方の
財政を通じての、とりわけ
地方交付税法の改革について若干の
意見を述べさせていただきたいと思いますが、基本的には国と
地方の事務の再
配分が
行政改革の中になくてはなりません。とりわけ国の
地方出先機関の
整理、あるいはすでにもう
行政改革の方針として決まっておりますけれ
ども、
地方事務官の問題、機関委任事務の
整理等、すでにもう現在
地方団体はその
行政をかなりをゆだねても十分な力を持っていると思います。とりわけ
地方団体において納税者の意向に沿うように総合的に、そして現地性の原則に従って
行政を
確保しようとするならば、
住民の監視のもとに
地方団体の
財源をして
行政を進めるべきでありまして、その意味では、各
参考人もお触れになりましたが、国と
地方を通ずる
税源の再
配分も含めまして税制改革が必要でございます。租税の総量の
増大につきましてはかなり
意見の衝突が見られますが、私自身は効率的な
政府をつくるという
行政改革の考え方と、小さい
政府にするか大きい
政府にするかということは峻別すべきであると思います。現在のわが国の
国民の全般的な感覚はともかくとして、あるべき姿としてはいま少し現状よりも——現状を特例公債等で糊塗しておりますが、税によって賄うことの方が合理的である。ある
程度いまよりも大きい
政府にすることが必要であると思いますので、税の総量についての
増大も必要でありますが、国と
地方の
税源の再
配分をその中で取り上げるべきであると思います。したがいまして、
地方交付税制度はその再
配分をした結果、
地方税の地域間の格差がどのようになるかということとの関連で
制度改正が行わるべきでありますが、
制度そのものについていいますと、一口に言えば、私は現在よりももっと
制度を
簡素化した方がいいのではないか。もちろん世界に冠たる精緻な
制度であることについてはそういう
評価はございますが、もう少し簡単になった方がいいのではないだろうか、もう少しみんなで工夫をして、
地方交付税制度の仕組みを
簡素化する方がいいのではないかと、かように思います。
ところで、一気に税制改革が、
税源再
配分ができないとするならば、経過的には全国知事会あるいは
地方制度調査会、
全国市長会等が主張しておりますように、
国庫補助金の
整理合理化、そして
一般財源の振替が必要かと思います。とりわけ職員設置費、保健所あるいは農業改良普及員、生活改良普及員、
社会教育主事等々職員設置が
国庫補助金で見られておりますが、人件費に関するものは義務教育
国庫負担については
意見が分かれるかと思いますが、人件費に関するものはできるだけ
一般財源に振りかえることでもって
一般財源を
強化するという必要が経過的には必要であろうかと思います。
以上、少しはしょって発言をいたしましたが、今般の
措置につきましては、
総額確保については基本的には賛成をいたしますが、今後の
改正、改革を強く要望いたしまして、
参考人としての
意見を終わらせていただきます。
ありがとうございました。