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中西一郎君 さて、きょうの
本論に入っていくわけでございますが、
前提といいますか、基本的な物の考え方から入っていきたいと思うのです。英語で言うと
イントロダクションになるのですけれ
ども、ライシャワーの言った
意味の
イントロダクションという
意味ではなしに、序論といいますか、総論といったそういう
意味で、まずこれは
総理に伺いたい。少し
前置きが長くなりますが聞いていただきたいと思うのです。
実は、最近
日本には数多くの
政治課題がございます。いっぱいあります。そういった諸問題の
根底にひそんでおるものといいますか、潜在的な最も
根底にある中心的な
課題、一体それは何なんだろうか。そのことを解決しないままで、いろいろ出てくる
現象面をとらえて
議論をするのも
意味はあるのですけれ
ども、しかしそれ以上に大事な問題が横に置かれておるのではないかという気がいたすのです。これからワ
インバーガーと
大村長官、あるいは欧州へ
総理もお立ちになる、
南北サミットもある、カナダもあるというようなこともその一環とかかわりがあるのではないか。基本的な問題とかかわりがあるのではないか。また国内的にはいまシーリングが、きょうの
新聞に出ていますが、財政、来年の
予算の問題、福祉だとか文教だとか
農林水産関係、
防衛あるいは
技術振興、いろんな問題がたくさんありますが、その
根底の問題の
認識をきちっとしておかないと余り変わりばえのない
政治、行政が惰性のようにこれからは続いていく。そして、ある時期大きな壁に当たってしまうのじゃないかというような
感じもいたします。それは何かといいますと、
日本の国論が見えないところ、あるいは聞こえないところで二分しておるのじゃないか。
断層がある。その
断層について
日本人一般といいますか、
与党も含めて言っていいんでしょう。
与党の一部と言っておいた方がいいのかもしれません。
野党と言うと失礼かもわかりませんが、各政党、
評論家、そういった方々もその見えないところ、あるいは気づかないところ、気づいておるのかもしれませんが、あえて気づかないふりもするかもしれない。
何かと、端的に申し上げますが、
一つは二分する場合に
保守と
革新というふうに分けられます。これは通常の分け方、そして何党が
保守で何党が
革新だと、こう言う。で、また右だ、左だと、こう分ける。それがさらに
タカ派だとか
ハト派だとかというふうに分ける。これは目に見えるところのいわば
断層ではないか。
ところで、私が申し上げたいことは、プロ
アメリカといいますか、親米あるいは反米、そういった点での物の分け方がどうもあいまいになっているような
感じがする。それからそれを言葉変えて言いますと、少し極端な言い方かもしれませんが、
アメリカ依存型の
幼児的心情、子供あるいは
幼児の
母親に対する何といいますか、何を言ってもいい、どんなに甘えてもいいんだといったような
心情のグループ。それとこれは数が少ないような
感じがするのですけれ
ども、乳離れをしたい、
アメリカの手のひらからは離れたい。
日本人なりに、
日本民族としてそれ相当の
自主性といいますか、主体性といいますか、要するに、はっきりした
意味での自立、そういうものを目指すべきではないか。その二つがどうもあいまいになっておるような
感じがいたすのでございます。
その
幼児的心情というのがどうでしょう、こう言うと失礼かもわかりませんが、
与党の中にも相当根強く残っている。同時に、
野党さんのことを言わない方がいいかもわかりませんが、あえて言わしていただければ、やはり三十年間のなれといいますか、本当に
空気か水かのようにそういうものがしみ込んでおって、その上で
アメリカに対して言いたいほうだいを言って、何といいますか、けさのテレビもやっていましたが、少年から
青年期にかけての若い人、
母親に対して木刀を持って打ちかかっていく。お母さんがびっくりして街頭へ飛び出して逃げ回るというような光景をけさやっていましたが、何か似たようなところがあるのじゃないかという
感じがする。
ところで、
アメリカが一体そういった
事態に対してどう
感じておるかということになると、相当じれったがっておるのじゃないか、いらいらしている点もあるのじゃないかというふうに思います。そのことはちょっと長くなるのですけれ
ども、十分時間をいただいておりますのであえて申し上げますが、
占領憲法、
アメリカがつくったと言われている、そのとおりだと思う。そのせいだとも言える。
占領憲法がずっと続いていますし、
改憲なんというのはなかなかむずかしい。そのことにどっぷりつかっている。しかも、
駐留米軍がいてくれる。何にも
自衛隊を強化しなくたって
アメリカが守ってくれるのじゃないですかというのが、おおむね
日本人の多くの常識じゃないかという
感じがする。
安保条約がその
背景にあると。
ところが、いま申し上げたように
改憲はむずかしいし、
安保条約はいまのままでいきますと皆さんがおっしゃるし、
アメリカも行
政府はそう言う。
米軍の数は少し十年前から見ると大分減ってきておるようです。最近はまた少し減ったという
ニュースもございます。が、
米軍は相当な勢力をもって
日本並びに周辺に送ってくれておるんだという
安心感といいますか、
日本が何も
自分でごそごそしなくたっていいじゃないか。そういうことを考えますと、これはちょっと説明がしにくいのですけれ
ども、
防衛力の
整備というのと
防衛力の
無用論というのがある。で、両方とも何かこうその
前提に平和といいますか、
アメリカがおってくれるというような
前提があると
議論が本筋にのってこないのじゃないかというふうに私は思います。
そこで、それはもう
前置きで、聞いておっていただくだけで結構です。
総理に伺いたいのは、その甘えの
心情、
精神構造、おんぶにだっこの
幼児的心理といいますか、それをそのままにしておいて、
日本の将来はいいのだろうかということが一点。
それからもう
一つは、
アメリカの
空気といいますか、
レーガンが大勝して、そしてその後の
予算編成あるいは
防衛予算、
国防予算ですか、なんかにあらわれておりますが、総じて、きざなようですが、
向こうの言っておる言葉そのとおり言いますと、
ノット・
イン・
ピース、平和な状態ではないという
認識が
アメリカにはある。ところが、
日本の方はそうでなくて
イン・
ピース、平和なんだと、こういう
前提が浸透している。そこで私思うのですけれ
ども、戦前いろいろな経験をした方もたくさんおられる。われわれもそうでございますが、これからの
危機というものは、そう長い時間かかってじわじわと押し寄せてくるというようなものでなしに、相当短い期間に何かの
前提条件が具備されたときに突然来る。そういうのがこれからの
危機の実体ではないかという気がいたすんです。で、そういうことを考えますと、
ノット・
イン・
ピースか
イン・
ピースかというようなことをあえて申し上げた
理由もここにあるのですけれ
ども、
備えの
気持ち、何か起こったときに
対応はできているんだ。諸外国、スイスの例やスウェーデンの例、あるいは
ソ連、
アメリカ、それぞれいろいろな
意味で
備えをやっておりますが、
日本ではその
備えというのがほとんどない。後でいろいろな点について触れたいと思います。それが第二点。
それから第三点は、みずからはみずから守るという
防衛意識です。これが
国民の間に定着しておると、
世論調査はそうだという説もあるのですけれ
ども、
大村長官、大変御苦労なさってまするが、何といいますか、
心配をしておる多くの
人たちの期待に沿えるような
予算編成というのはなかなか困難である。その
理由も
国民の
意識構造の中にあるのかもしれないということは、その
危機が
世界的ないろいろな
情勢把握、そういったものが十分でないからそうなっているのじゃないかと。あるいはPRが足りないのかもしれない。その辺です。
総理、
大変回答はむずかしいと思うのですけれ
ども、重要な問題だと思いますので、
総理から、まず冒頭、御
所見をお聞きしたいと思うのでございます。