○谷山公述人 ただいま御紹介にあずかりました谷山治雄でございます。
昭和五十六年度
予算全体につきましては、軍事費の増額や
社会福祉の制限や
増税、いろいろ問題がございまして、このような視角で
予算の編成が行われておりますことは、今後
国民生活に大変大きな影響を与えますので、大きな問題であろうと存ずるわけでございます。ただ私は、私の研究の対象は主に租税、
税金問題でございますが、時間の
関係もございますので、主として
税金の問題、とりわけ日本
国民の税
負担の問題と所得税の問題を中心に私の
意見を述べさせていただきたいと存じます。
まず、従来、
財政当局あるいは税制調査会等の論議を通じまして、現在の
増税政策を
合理化する大きな根拠として国際比較という問題が一つございます。要するに、日本の
国民の税
負担率は非常に低い、こういう
評価が一つございます。この問題について一つ申し上げたいことと、もう一点は、所得税の減税が四年間行われない結果どういう問題が起こっているかということを、単に物価調整減税という視角だけではなしに、むしろ憲法に沿っての減税、言うなれば合憲減税と申しますか、言葉は適当であるかどうかわかりませんが、憲法に合致した減税と申しますか、そういった問題に焦点を当てて申し上げてみたいと存じます。
まず第一に、国際比較の問題でございますけれ
ども、果たして日本の税
負担が低いかどうかという問題がございます。もちろん国際比較と申しますのは、為替レートとの
関係やいろいろな
国民生活の
水準や所得
水準やあるいは租税
制度の差異やらいろいろな問題がございますので、私の結論的な
意見から先に申し上げますと、国際比較というのはあくまでも参考にすぎないのでありまして、租税
制度を考える、税制改正を考える場合には、
国民生活の
実態なり
国民経済の
実態なりからしかるべき租税
政策あるいは税制改正が必要であろうと存ずるわけでありますが、それを一つ前提といたしまして、これから若干、数字を並べて申し上げてみたいと存じます。
まず、マクロ的な観点でございますが、
昭和五十六年度の税収
予算によりますと、国税、
地方税を含めました
わが国の税
負担率は
国民総生産、GNPに対して一九・四%という数字になるわけでございます。これが欧米先進国に比べて低いという問題があるわけでございますが、実は租税
構造の面で非常に特徴的なことは、
わが国の場合にはヨーロッパ諸国のようないわゆる一般
消費税に該当する
税金がございませんので、これによって税
負担率にかなり違いが出てくることは当然のことでございます。もちろん私は、現在の段階で一般
消費税の
税金に反対でございますし、これから申し上げることが一般
消費税の導入を決して
合理化するものではございませんけれ
ども、一応数字の上で申しますと、たとえばこれは一九七八年度、
昭和五十三年度の数字でございますが、西ドイツの場合はGNPに対する税
負担率が二四・九%になっているわけでございます。このうち、いわゆる一般
消費税、正式な名前は付加価値税でございますが、付加価値税のGNPに占める割合は五・七%でございますので、それを差し引きますと、西ドイツの税
負担率は一九・二%と相なるわけで、日本よりも若干低くなる見当になってまいります、同様にフランスの例を引きますと、同じく
昭和五十三年度、一九七八年度の数字でございますが、GNPに対する税
負担率は二三・二%となっておりますが、このうち付加価値税のGNPに対する比率は九・一%でございますので、それを差し引きますと一四・一%となり、日本の税
負担率よりもはるかに低くなってまいります。イタリアの場合も、同様に計算いたしますと一五・七%と、やはり日本よりも低くなってまいりますので、マクロ的な観点から申しますと、日本の税
負担率は決して軽くはないという結論に到達せざるを得ないと私は思うわけでございます。
一般
消費税の欠如につきましては、そのかわり日本の場合には
生活に関する物価が大変高いわけでございますので、これについては購買力平価その他の観点がら別途
検討をする必要があると存じますが、要するに私の申し上げたいととは、
財政当局が盛んにおっしゃっておられる国際的な税
負担が低いという数字には承服しかねるという、そういう観点もあるのではないかということを第一点で申し上げてみたいと存じます。
次に、ミクロ的な観点から申し上げますが、時間の
関係上細かい数字は極力省略させていただきたいと存じますが、たとえば所得税について国際比較をいたしますと、年収三百万円の夫婦子供二人のサラリーマンを例にとりますと、現在日本の所得税、住民税の
負担率は三・九%という数字がございます。同じように西ドイツと比べますと、これは為替レートの
関係もございますが、一応
財政金融統計月報という
資料に基づいて申し上げるわけでございますが、同じ
収入のサラリーマンは八・七%という
負担率になり、日本の約倍以上になるわけでございますけれ
ども、一方、西ドイツの場合には、扶養控除がないかわりに児童手当が無税で入ってまいりますので、これを扶養控除として考えまして児童手当を所得税から差し引きますと、実に〇・二%の
負担にしかなりません。つまり、日本の同じ年収のサラリーマンの二十分の一近くにしかすぎないことになるわけでございます。
同様の比較はほかのものにもあるわけでございまして、たとえばOECDで昨年、「世界の典型的な
労働者の税
負担率」という統計を出しておりますけれ
ども、これを見ましても、日本のサラリーマンの所得税の
実質負担率は決して軽くはな。い、むしろ重いと言ってもいいわけでございます。
こういうように、国際比較というのはいろいろな角度からできるわけでございますので、国会でもぜひひとつ、いろいろな角度から国際比較について御
検討をいただいて、これが絶対という比較は私はないと存じますので、いろいろな角度からひとつ御
検討を願って、国際比較から見て日本の税
負担は低いという断定はぜひ避けるようにしていただかなければいけないのじゃないか、かように考えているわけでございます。
次は、国際比較の問題から離れまして、日本の税
負担の
実態の方から申し上げてみたいと存じます。
まず第一に私が強調いたしたいことは、御承知のように
昭和五十三年度以来所得税の減税を中止している結果、どのような問題が起こっているかということを、別の一つの角度から申し上げてみたいと存じます。
御承知のように、現在、夫婦子供二人の課税最低限は二百一万五千円という数字になっておるわけでございますが、これは言うまでもなく給与所得控除を含めましたサラリーマンの課税最低限でございまして、万人に共通する課税最低限というのは、基礎控除、配偶者控除、扶養控除の基本的人的控除であるわけでございます。これは御承知のように一人当たり二十九万円でございますので、夫婦子供二人で百十六万円という数字になります。一方、
昭和五十二年度の
生活保護法による
生活保護費を見ますと、東京都の例で、四人世帯で百十四万一千三百六十八円でございまして、このときには夫婦子供二人の人的控除よりも多少下回っておったわけでございます。ところが、御承知のように、今回の
昭和五十六年度
予算で申しますと、東京都の四人世帯の
生活保護費は百六十一万九千七百十二円、百六十二万円になってまいりますので、これは現在の基本的人的控除をはるかに上回る
水準ということになってまいるわけでございます。そうなりますと、
生活保護を受ければ無税で、
一定の
収入が入る
生活保護程度の所得を得ると
税金がかかる、こういう問題になってまいりました。これはヨーロッパでもポバティートラップという言葉で呼ばれておりまして、貧乏のわなというような意味でございますけれ
ども、非常に重要な問題であると存じます。
御承知のように、憲法二十五条に基づきます国の
社会保障の義務を具体的にあらわしたのが
生活保護法でございますので、所得税の基本的な人的控除につきましては、少なくとも
生活保護費程度の
水準までは上げるような
努力をしなければいけないのじゃないか。そこで、私は合憲減税という言葉を申し上げましたけれ
ども、憲法に合致するような減税が必要ではないか、かような主張をしたいわけでございます。
ついででございますが、給与所得者の課税最低限も現在二百一万五千円でございますけれ
ども、現在のように
生活保護費が年率八・七%の
水準で上がっていくと仮定いたしますと、
昭和五十八年度には
生活保護費の
水準は百九十一万三千八百円、約百九十二万円になりまして、まさに給与所得者の課税最低限に接近をしてくることに相なるわけでございます。
そこで話を戻しまして、時間の
関係もございますので要点を申し上げたいと存じますが、仮に現在の基本的人的控除つまり基礎控除、配偶者控除、扶養控除の四人家族で百十六万円を
生活保護費の百六十二万円の
水準に到達させるためには、課税最低限を四十六万円引き上げなければいけないことになるわけでございますけれ
ども、これを仮に所得控除という方法ではなくて税額控除という方法でやり、しかも低所得者層に適正な方法でやるといたしますと、所得税の税率を一〇%と仮定いたしますと、四十六万円の課税最低限引き上げは四万六千円の税額控除引き上げが必要だということになってまいります。一人当たり一万一千五百円という税額控除になってまいります。
さて、話を変えまして、物価調整減税、そういう角度からこの問題を別途考えてみますと、これも時間の
関係上簡単に数字を申し上げますけれ
ども、年収三百万円の夫婦子供二人のサラリーマンは、減税をしないことによりまして所得税の
負担率が一・九%から二・五%に上がることに相なります。もしこれを仮に
昭和五十五年度の一・九%の
水準に据え置くといたしますと、結論から言いますと、一人当たり四千七百円の税額控除による減税が必要でございます。同じく年収五百万円のサラリーマンで申しますと、五・四%の
負担率が六%に上昇をいたしますので、これも
負担率を同じように抑えますと、一人当たり一万五十円の税額控除が必要になってまいります。
さて、以上のように、一つの
考え方は、
生活保護費の
水準に近づけるという問題が一つございます。もう一つは、物価調整減税を考えるという問題がございます。
以上の観点から考えますと、相当規模の所得税の減税が必要になるわけでございますけれ
ども、どのくらいの財源になるかということを私なりに、現在いただきました
大蔵省の税収
予算に基づいて計算いたしますと、いわゆる
納税者の本人が四千四十四万人、配偶者が千六百万人、扶養控除を受ける者が三千八百三十三万人で、合計九千四百七十七万人のいわゆる控除対象者がいるといたしますと、仮に五千円の税額控除で四千七百三十八億円の財源が必要である。
〔
委員長退席、金子(一)
委員長代理着席〕
一万円の税額控除であれば九千四百七十七億円の財源が必要である。足して二で割るというのは決して科学的な
お話ではございませんけれ
ども、足して二で割れば約七千億円程度の減税が必要である、こういうような数字になってまいると存じます。
そういうわけで、私の申し上げたいことは、やはり
生活保護費を基本的な人的控除がはるかに下回っている、そういうことを反映して、
労働者、サラリーマンを初めとした
国民の
生活が非常に苦しい、そういう現状があるわけでございますから、もちろん
財政再建という大きな問題がございますけれ
ども、所得税の減税につきましては、
昭和五十六年度の
予算並びに税制改正におきまして格段の
努力をお願いしたいと考えるわけでございます。
時間の
関係で、あと二、三申し上げて終わりにしたいと存じますけれ
ども、さて、税制全体を考えてみますと、個々の税制改正についていろいろ問題がございますけれ
ども、一つの問題点は、不公平税制の是正につきましては、これは
大蔵省当局から
範囲が非常に狭く限定をされておりますので、引当金とかあるいは支払い配当の軽課
措置であるとか受取配当の問題であるとか、
範囲を広く考えまして、不公平税制の是正につきましては一段落したというのでなくて、さらに一歩突っ込んで是正には当たっていただく必要があるのではないかと考えます。
第二の点でございますけれ
ども、大変これは例が悪いのでございますけれ
ども、
昭和二十二年に、ずっと昔のことでございますけれ
ども、非戦災者特別税という
税金がございました。どういう
税金がと申しますと、簡単に申しますと、要するに戦災を受けなかった人が
一定の
税金を納めることによって戦災者を救済しようという
税金であったわけでございます。もちろん、その中身はいわば大衆課税的な性格が強かったわけで、私もそれには反対であったわけでございますけれ
ども、しかしながら、
考え方といたしましては、現在の
財政再建を考えます場合に一つの
経済的道徳的な観念として、終戦直後の非戦災者特別税のような
考え方も導入していいのではないか。つまり、過去の
高度成長と赤字国債
政策のもとでのいわゆる資本の蓄積、利潤の増大、そういったものにかんがみまして、ここでそういった富める者から
税金を取って貧しい者に回すという、そういう終戦直後の非戦災者特別税のような、一つの
経済的道徳的な考えに基づいた課税というものを考えてもよろしいのではないかと考えているわけでございまして、具体的に申しますと、個人、法人を問わず、言うなれば一種の蓄積の
国民への還元と申しますか、あるいは平等化といいますか、そういった観点をぜひひとつ御
検討を願いたいと思うわけでございます。
最後に申し上げたいことは、私もそういう数字に関する専門家ではございませんので何とも申し上げられませんけれ
ども、
昭和五十六年度の税収
予算を見ますと、法人税、物品税等を中心にしまして、大変
自然増収の見積もりが過小であると見受けられるのでございまして、
自然増収の見積もりを低目に押さえるということは
財政当局にとってはそれなりに理由があると思いますけれ
ども、いかんせん、
昭和五十四年度の税収
予算に比べますと低過ぎる感じがいたしますので、そういう意味では、
増税を一層進めていくということについてはやはり非常に疑問があるわけでございます。
以上で私の公述を終わりたいと思います(拍手)