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塚本三郎君 私は、
民社党・
国民連合を代表し、ここ数日来、
政府が混乱を重ねておられる一連の外交案件について、
政府の明快なる
説明を求め、
国民の不安を除かんといたすものであります。(
拍手)
まず第一に、過日発表されました
日米共同声明についてお尋ねいたします。
今回の共同声明は、幾つかの点においてなお不十分ではありますが、それにもかかわらず、私どもはまずまずのできばえと評価いたしております。
総理が、
日米対等の立場で言うべきことは十分に主張したとされ、したがって、分担についても応分の責任を果たすことは避けられないことと認め、その結果、今回の共同声明は、
日本にとって重荷を負わされたと見るのは正当の評価でありましょう。−しかし他面、
日本としてそれはいたし方のないことだというよりも、これからの
日本としては、けだし当然であるとの評価もなくはございません。
日本は、米国を初め世界各国、とりわけ自由世界の一員として、資源・エネルギー及び食糧などを依存し、かつ工業製品の有力なる市場として、さまざまの恩恵を受けてまいりました。
日本は、極論が許されるならば、これらの国々なくしては生きられない立場にあり、つまり、世界は
日本を必要としなくとも、
日本は世界なくしては生きられないという運命を背負っているからであります。
まして、
日本は、経済大国を自負しながら、その割りには、国際的協力においてきわめて貧弱で、先進自由諸国間にあっては、むしろ非難される国となり、ひいては孤立化への道を進むことを警戒しておりました。
今回の共同声明は、それをある程度緩和する方向にかじをとったという点で、われわれは一応の評価をしているのであります。
恐らく、総理御自身も、その点でアメリカ国内はもちろん、世界各国の意外な好評に気をよくして帰国されたことでありましょう。なのに、
日本に戻ってみると意外にマスコミの論調は冷たく、野党からの攻撃の声にたじろいでおられたのではありませんか。
総理が、十二日の自民党内の最高顧問などとの懇談で、
日米共同声明の作成の
経過に不満を漏らされたこと及び参議院においても同様の発言をされたことは、官僚の思い上がり外交に不満を表現したものと受け取られますが、それは声明発表の前に対処すべき事柄であって、帰国してからの不満表明はみずからの指導力の不足を自白したことにはなりませんか。共同声明は首脳会談の真実、真髄そのものでありまして、これを出した一方の当事者が後になって異を唱えるに至っては、両者の信頼
関係は一体どうなるのか。アメリカへの配慮の不足とみずからの指導力のなさを白状したものにほかならないと思うが、いかがでありましょうか。(
拍手)
首相が異を唱えている間は、いまだ
日本国内における鈴木総理の掌握力の弱さを暴露したにとどまりまするが、伊東外務大臣の辞任に至っては、無責任、不信用のそしりを国際間に招いたものと受けとめるのが常識でありましょう。
そこで、質問しなければならぬ第一は、共同声明そのものに異論があるのでありますか。あれば、どの部分なのか。先ほどは「満足しておる」とおっしゃったが、それならば、共同声明作成の過程に異論を唱えておられるのか。これも「再三立ち会った」といまおっしゃった。それならば、でき上がった共同声明の解釈をめぐってなのでございましょうか。この点をはっきりと御
説明願わなければ、私どもは何が何だかわからないではありませんか。このごたごたの責任は、外務大臣というよりも総理御自身にあると思うが、いかがでございましょう。(
拍手)
次に、共同声明は、「
日米両国間において適切な役割の分担が望ましいことを認めた」とし、「また首相は、
日本の領域及び周辺海・空域における防衛力を改善し、並びに在
日米軍の財政的負担をさらに軽減するため、なお一層の
努力を行うよう努める旨を述べ、この関連で、両者は、六月予定される大臣レベル及び事務レベル双方での
日米両国
政府の代表者による安保問題に関する会合に期待した。」と結んでおります。
これはどう読んでも、米国が分担していた
日本周辺防衛の一部を軽減し、その分を
日本側が分担を増大せしめることによって行うとの約束であります。総理が、いま改めて、新たなる防衛力増強の約束を否定されることには、余りにも無理があると言わなければなりません。
共同声明は、第一項で、両首脳は
日米が同盟
関係に立つことを再確認し、第二項で、ソ連の軍事力増強をにらみ、他国への軍事介入は容認できぬと対ソ共同対決の方針を約束し、第四項で、アメリカは中東湾岸地域の安全確保のため、極東軍事力をその方面に転出させたので、極東の防衛力は弱まった、
日本はこの
措置による受益者だから、この欠落した部分は自分で補充することが必要だと両首脳が
意見の一致を見、第七項で、国際的挑戦に対処するために、
日米はともに西側の一員としてつり合いのとれた役割りを分担すると述べ、第八項で、前述のごとく、在
日米軍財政負担の軽減に一層の
努力をすると言明しているではございませんか。
私が質問をいたさなければならぬ第二の点は、これほどまでに言明されておりながら、新たなる軍事的分担の増大を約束したものではないという
説明は、相手国アメリカに対する背信の行為となることを恐れるのであります。その点、しかと総理の所信のほどを伺いたいのであります。
安全保障は、総理が担う至上の国務であります。
日本の安全に対し不可欠と考えてアメリカ大統領と約束されたならば、総理は、
国民に堂々とその真実を語るべきだと思います。いたずらに右顧左べんすることは、
わが国の防衛の基本をさらに狂わせ、ひいては、外務大臣が憤慨して辞職するにとどまらず、アメリカその他友好国からの
日本不信を増大せしめることは避けがたいと憂慮するが、総理はこれを何と受けとめておられましょうか。
また、共同声明に述べられた国際情勢と認識が正しいとの信念をお持ちならば、防衛庁が今日用いていられる五十一年作成の「防衛計画大綱」を改めるの必要がありましょう。
日米共同声明では、高まりつつある世界の緊張に憂慮を表明し、それに対処する約束を明言されながら、他方、国内では、五十一年におけるデタント時そのままの「防衛計画大綱」を維持し、それでいて、別表による装備の増大のみをねらって、GNP一%論や予算要求におけるさらに来年度へ一〇%増という別枠の数字のみを先走らせることは、
政府の武器の買い物競争ではないかという批判となるのはけだし当然であります。
行政改革が叫ばれ、
福祉や教育や
国民の健康までも切り下げられようとする財政窮迫の今日、なお安全保障がそれらに優先する最重要
課題とお信じになるならば、
政府は、それだけの信念を持って、世界情勢と
日本の果たすべき役割りを
国民に
説明しなければならないことは当然であります。それでなければ、防衛に対する整合性ができないではありませんか。アメリカ向けの約束と
日本国民への
説明との使い分けは、総理個人のみならず、
日本国民全体の不信となることを警告し、総理並びに防衛庁長官の覚悟のほどを伺いたいのであります。
次に、ライシャワー元駐日アメリカ大使の
核持ち込み発言について質問いたします。
いまを去る九年前、沖繩の祖国復帰に際し、わが
民社党は、軍事基地については核抜き本土並みと主張し、それをそのまま佐藤
内閣の方針とされ、アメリカと折衝の結果、返還が実現したことが思い出されます。
その核抜きが
非核三
原則となり、
国会での議決がなされ、これは国是と言うべきでありましょ−う。問題は、「持たず、つくらず、持ち込まず」の三つのうちの「持ち込まず」という項に対する見解についてであります。
政府の公式見解は、一、核兵器の配置貯蔵、二、核搭載艦船の一時寄港、三、同艦船の領海通過というものであります。
しかし、二、三については事実
関係としてチェックが不可能な状況にあり、もっぱらアメリカの行動に信頼することで処理されてまいりました。
日本政府はアメリカを信頼してまいりましたが、これは信頼という名の虚構にすぎないのではありませんか。
かつて、この件に関しては、ラロック米国防情報センター所長が、四十九年の秋アメリカ議会で「核兵器を積んだ艦艇は、どこの港へ立ち寄る場合でも、それをおろしたり積んだりはしない」と証言しました。彼はかつて海軍作戦部長の要職にあり、それは
日本政界に大きな衝撃を与えたのであります。当時、木村外務大臣は、「核兵器の持ち込みは、
日米安保上重要な装備の変更として事前協議を要するが、
日米間にはいまだかつてそのような協議を行ったことはないから、そんな事実はないものと確信する」と述べ、一方、アメリカ国務省は「核兵器の存否については一切言明しないのがアメリカの国是だから、ラロックの証言についても、マクマホン法を盾にノーコメント」と回答しています。
軍艦は、国際法の慣行で不可侵権を認められております。その所属する国以外に、検査や検問は他国の領海といえども認めてはおりません。アメリカの軍艦が入港しても核装備の有無はチェックの方法がないのみならず、問い合わせても言明しないのが国是だと返答されておるのが今日の実情ではないでしょうか。特に潜水艦に至っては、水面下を航行されたら、艦そのものさえも全くお手上げの
日本の実情であります。
国民の多くは、かのラロックの証言のときに重大なる疑惑と不安を抱き、今回のライシャワー氏の確信に満ちた発言によって、
日本政府の虚構の発言がいかにも寒々としたものであることを感じるのは、決して私一人ではないと思います。かくて、核兵器そのものを明確にすることは、
日本政府では本質的に不可能とされておりましょう。
しかし、私がここで指摘しなければならないことは、今回のライシャワー氏の発言の中身は、「
日本国
政府はアメリカの意向を
日本国民に正直に伝えず」——よろしゅうございますか、「
日本国
政府はアメリカの意向を
日本国民に正直に伝えず、さらには
日米両国
政府の約束をも
国民に伝えたがらない」という
日本政府への不満を述べている点であります。
ライシャワー氏は続いて、「私の大使在任中、
日本政府はこの問題を回避しようとした。
国会で議論になったとき、
日本政府のスポークスマンは、領海通過なども事前協議の対象に含まれるという印象を与えるように試みた。このため、アメリカ
政府は非常に困惑をした。」——きのう大使とお会いになったのも、その一つのあらわれではございませんか。「私はワシントンからの訓令を受けて、当時大平外相と会談し、外務大臣は余りしゃべらないことで有名な人物だが「わかった」と言った」と明確にライシャワーは語っておられるのであります。
日本国民が最も信頼しておるアメリカ人の中の一人から、ここまで述べられているにかかわらず、なお
政府がこれを無視するのは、みずからの決定を否定したことになりはしないでしょうか。
政府は、ライシャワー氏の発言を否定する根拠を、この段になりましたならば明確に示す必要があると思うのであります。
この際、改めて、
核持ち込みに対し、
日本政府はいかなる解釈の上に立ち、それは
日米間でどのような機関で確認し合っているのか、
国民に納得のいく、わかりやすい
説明を求めなければなりません。
最後に、私はアメリカの核のかさについてお尋ねしたい。
日本政府は、
日米安全保障条約を締結し、
非核三
原則を国是と定めた佐藤
内閣の当時、これはアメリカの核のかさを前提としていたものと解することが正しいと思うが、いかがでありましょうか。アメリカが核のかさによって
日本国を守ってくれるからこそ、
日本は
非核三
原則を決めたのではありませんか。四十三年当時、佐藤総理は、他国が核を持っている以上、アメリカの核の抑止力に頼らざるを得ない旨の発言を
国会でしておられまするが、
政府は、いまもその方針に変わりはありませんか。
かくして、
日本の領海、領空に核を持ち込ませないとのただいまの
政府見解は、核のかさは必要がないとの前提に立っておられての発言なのでありましょうか。鈴木総理の二十日の記者会見における発言訂正の混乱は、「
日本はアメリカの核のかさは欲しくないということか」という質問が引き金となり、「事前協議の場でイエスもあればノーもある」と答えられた一幕は、やはり核のかさを意識しての発言と受けとめることが自然でありましょう。
今日、総理は、事前協議の場では常にノーであるとの
意見に統一されましたし、ただいま外務大臣も繰り返されたのであります。しからば、アメリカの核のかさは不必要との見解なのでありましょうか、それとも領海への持ち込みを禁止して、なお核のかさに入ることが可能とあらば、具体的に御
説明願わなければなりません。
安全保障は、
政府の有利、不利の計算に立つのではなく、一国の命運をかけての総理の深い洞察ど厳然たる信念によって貫かれなければならぬことは言をまちません。(
拍手)きのうの新聞の第一面は、見出しでありますけれども「おかしいぞ首相の外交感覚」とか、「事前協議 現実的に対処直後、一転打ち消す」とか、「相次ぐ釈明・訂正」「首相発言一また否定あわてて統一見解
日米の解釈の差はっきり」などなど、見るにたえない新聞の見出しばかりでありました。総理大臣の御発言の混乱は、当然
国民の認識の混乱となりつつあることを憂えないわけにはまいりません。
ここにあえて苦言を呈し、明確なる御
答弁を求めて、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣鈴木善幸君
登壇〕