○
稲葉委員 商法等の一部を
改正する
法律案とこれに関連する整理
法案、両案に対しまして、
日本社会党を代表して反対の意思を表明して、討論をさせていただきます。
率直に申し上げまして、この
商法の
改正について二年有半といいますか三年近くの年月を
法制審議会を通じて
法務省当局が重ねられた
努力に対しては、私は深い敬意を表するものであります。しかし、その
内容を見てまいりますというと、一体それだけのことをやってこれしか
一つの
法案としてできないのだろうかということを痛切に感ずるわけでありまして、試案から要綱、それらのものがだんだん骨抜きにされつつあるという印象を受けざるを得ないのであります。
私は、反省をいたしますのは、本来、この
商法の
改正につきましては、六法にある大法典でありまするから、逐条的な
審議をするのが筋ではなかったかということをいまになって反省をいたしておるわけでございます。しかし、
委員長が非常に言論の自由を尊重されて……(発言する者あり)余り尊重しないという声もありましたが、私は言論の自由を尊重されてやられたというふうに
考えるわけでありまして、その点については敬意を表します。今後ともこういうように
法案については徹底的な
審議、これは徹底的な
審議までいかなかったのですけれ
ども、今後はそういうふうにいくように、いまの気
持ちを忘れないでひとつ
審議に当たっていただきたい、こういうふうに
考える次第でございます。
そこで、
法案につきまして、逐次その
法案提案説明の順序に従いまして私は反対の理由を述べていきたい、こういうふうに思います。
この提案理由説明書によりまするというと、「最近の経済情勢及び
会社の
運営の
実態にかんがみ、
会社の自主的な監視機能を強化し、」ということを第一の目的として掲げておるわけであります。ところが、その
内容の第一に入りまするというと、「株式の流通及びその管理の
実態に照らして株式制度の合理化を図るため、」となっておりまして、一体第一の「株式制度の合理化」というのが「
会社の自主的な監視機能」とどういうふうに脈絡があるのか、どうもよくわからないわけであります。提案理由の中には、もちろん「その
運営の一層の適正化を図る等のため、」こういうふうには出てはおるわけでありまするが、そういうことを言えば、この株式の流通の合理化のために発行価額が五万円以上でなければならないようにするということが一体どこにこれと結びつくのか、私にはどうもよくわからない。この書き方はちょっとおかしいのではないかというふうに私は
考えます。
これならば、むしろ
株主総会なり何なりの方が第一に出てこなければならないのではなかろうかということを私は思うわけですけれ
ども、それはいずれにいたしましても、第一の点で、「株式の流通及びその管理の
実態に照らして株式制度の合理化を図る」ということ、一体株式制度の合理化とは何かということを私
どもは真摯に
考えてみなければいけない、こう思うのでございますが、ここに掲げられておりますのは五万円以上の単位株である、一単位の株式を五万円にするということの単位株制度の導入といいますか、こういうふうなものがここに掲げられておる。
一体、これは合理化とどういう
関係があるのかと言えば、結局、経済界の要請によって全体の
運営というものを
経費のかからないようにしよう、あるいはまた簡素化といいますか、そういうふうにしようということの
意味にしかとれないのでありまして、これに漏れた
株主の提案権のない百分の一以下あるいは三百株以下ですかの
株主の権利というものが、この
法案が成立するまであるいは成立した後におきましてもどういう権限を持っておるか、いまの
法律と比べてどういうふうなものになるか、こういうことについて、私はチッソの例を挙げて、後藤孝典弁護士の
株主権の例を挙げて聞いたのでありますが、それに対しては答えがないという状況でありまして、この株式制度の合理化を図るということは、結局大
会社の合理化であって少数
株主の保護にはならない問題である、こういうのが第一の反対の理由でございます。
第二に、「
株主総会の
運営を適正化するため、
株主が
株主総会における議題を提案することができるとの制度を新設すること」にした、そういうようなことの中に総会屋と称するものの排除を目的といたしまして、「
株主権の行使に関して
会社がする利益の供与を禁止し、その利益の供与を受けた者はこれを
会社に返還しなければならないものとするとともに、これに違反して
会社の計算でそのような利益の供与をした取締役等は刑罰に処すること」としておる。懲役六カ月または罰金三十万円ですか、こういうことにしておるということであります。
いかにも総会屋というものは
日本の特有の現象でありまして、アメリカにもイギリスにもその他の国にもないということは、一体どこにそういう
社会現象というか
社会事象の原因があるかということをわれわれは深く反省しなければいけないというふうに思うわけでございますが、それでは、この条文ができたからといって総会屋がなくなるかということになってまいりますと、この条文というものは事実上非常に適用がしにくいというか、事実上適用にならない
法案であるというふうに私は
考えるわけであります。
なぜかといいますと、第一、
会社から
株主総会でその議決権の行使に関連して利益の供与を受けたということを自白する者はおりません。また、自白したところで、それが証拠に残るわけはありません。
会社の方でも、それをほかの方にふくらまして帳簿をつくっておるということでありますから、これは多少は総会屋の、何と申しますか心理的な強制、圧迫になるかもわかりませんけれ
ども、この
法案自身は事実上適用にはならないというふうに私は思います。一年に少なくとも二件以上この条文に即した立件というか送検、そして判決があったならば、私はこの席上で頭を下げて私の不明をわびることはいたします。これはできないと思いますよ。実際上はこれは空文ですよ。
そこで、いま総会屋はどういう現象を呈しているかというと、総会屋は政治結社をどんどんつくっておるでしょう。政治結社をどんどんつくって、
会社の方から政治資金をもらっている。こういう慣行がどんどん移っていく、こういう状況でありますから、それを政治資金としてもらえれば、結局総会屋であったところでそれは決して違法ではないということになるわけですから、この条文というものは
意味がない条文であるというふうに
考えて、
内容がないということで私はこれに対して反対をせざるを得ないのであります。
それから第三に、「
監査役の権限を充実強化する」というようなことを言っております。
ところが、
日本の
監査役というのは、
実態調査がありまするが、どういう人がなっているかというと、これは大体取締役を終わった御隠居さんがなっている場合が多い。隠居というのは、隠れて居るというのも隠居と言うのですが、隠れて去るというのも隠居だということを言う人があります。まあ隠れて居る方でしょうが、隠居というのは。そこで、それだけではなくて、年齢的にもまた五十五歳の定年以上、六十歳以上が圧倒的に多いわけですね。いまは時期が変わってまいりましたから、六十歳でもどんどん働いている人がおりますけれ
ども、結局、こういうように
会社の役員、
会社の機関である、
会社から報酬をもらっておる、こういうことでいわゆる自己
監査、これによって
監査が十分にできるわけはない。
日本人はアメリカ人などと違いますから、報酬をもらっておりますると非常にウエットで、
会社のためにならないようなことはしないというのが事実ですね。だから、よく忠勤を励む人は、贈収賄事件があると必ず自殺が起きるのはそういうところからも出ているわけです。
アメリカ人は非常にドライですから、金は金、もらいはもらい、することはする、こういうのがアメリカなどの行き方ですけれ
ども、
日本はその点が違いますので、
監査役というものはそういうような人がなっているのは十分でないというふうに
考えまするし、
監査役の権限というものは、業態の検査というものについて当、不当を検査ができない、会計
監査だけできるということ。違法な場合はできますけれ
ども、違法であるかどうかということについてはなかなかわからない。それから、会計
監査のことについては、
会計監査人がおるわけですから、そちらの方の
監査をそのままうのみにしていく、こういう状態でありまするから、
監査役の権限を幾ら強化したところで問題にはならぬ。いわんや二人以上置いて一人を常勤にするというけれ
ども、常勤とは何かと聞いたならばはっきりしない。いまの常任
監査役と大して違いがない、こういうことでありますので
内容がない。こういうことで、
努力は認めますけれ
ども、私は
賛成するわけにはいかない、こういうふうになるわけであります。
第四は、「
会社の業務及び財務の
内容の
株主及び
会社債権者への開示を強化するため、営業報告書及び
監査報告書の記載
内容の充実を図ることとしております。」こう出ております。
いわゆるディスクロージャーでありますが、このディスクロージャーの一番大事なところの九項目というものが
法務省令にゆだねられておるわけです。この前、学者の鴻さんと河本さんに来ていただいたときの話でもありましたように、
法制審議会の中ではそれを
法律事項にするという議論もあったところが、それがつぶれてしまった。しかもその九項目の中の(g)項というのが一番大事なのでありまするが、その点についても
法務省令のしっかりとした
内容というものがまだ明らかにされておらない。まだ未確定の状態に置かれておる。これではディスクロージャーの本質というものに対して果たして
法務省当局、
政府が熱意を持っておるかどうかということについて私は疑わざるを得ないのであります。
これは御案内のとおり、アメリカではたとえばニューヨーク州あるいは連邦におきましても、
会社が政治献金をすることを禁止しておる。イギリスでは五十ポンド以上の場合にはそれをディスクロージャーする、こういうようなことが決まっておる。そのことから比べると、
日本のディスクロージャー制度というものがいかに後退したものであるか、いかに未発達なものであるかということがおわかり願えると思うのでありまして、今後こういうディスクロージャーの制度については、私
どもは皆さん方の行き方というものをしっかり見守りながらやっていきたいと思いますが、きわめて不完全である。こういうことから反対をせざるを得ない、こういうふうになるわけでございます。
その他いろいろ申し上げたいこともございまするが、討論でありまするし、討論の時間の制限はないわけですけれ
ども、といって余り常識的な点でないといけませんので、この程度で終わりにするわけであります。私は常識人ですからこれで終わりにするわけでございますけれ
ども、いま言ったような多くの欠陥を持っておる。これをこのまま承認しろ、こういうふうに言われても私
どもは承認するわけにいかないのであります。そういうような事情から、本
法案に対しては反対をせざるを得ないということを申し上げまして、私の討論を終わらせていただきます。