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河本参考人 河本でございます。
ただいま鴻教授からかなり個別的な点につきましてもお話がございました。二人、あらかじめ報告の
内容を相談し合ったわけではございませんが、少し違った形で御報告をさせていただきます。
今回の
商法、中でも
会社に関する
規定の
改正は多岐にわたっておりますが、それを貫いておる基本的精神は、
わが国の自由
企業体制の健全な発展を図ることを目的としまして、
企業、ことに大
企業のワンマン的経営者の独走をチェックし、これをコントロールする
ために
企業の自主的
監査機能を強化、整備することにある、こう考えております。この目的を達成する
ために、この数年来作業を続けてきたわけでありますが、最終的にこの
改正案は次のような施策を用意しております。
五つの大きな柱で御報告をしたいと思いますが、
一つは
株主総会の健全化、
二つは業務執行における合議制の貫徹、三つは
監査制度の強化、四つはディスクロージャー制度の強化、五つは
株主構成の是正という五つの柱を立てましてお話をさせていただきます。
第一の
株主総会の健全化ということでございますが、これは、
昭和四十九年に
監査役制度の強化を中心とする
商法改正がなされましたときに、
株主総会のあり方について所要の
改正を行うべきことが衆議院法務
委員会の
附帯決議として特に指摘されていたということは、
先ほど鴻教授のお話の中にも出たとおりでございます。これは、
わが国の
株主総会の著しい形骸化の改善の必要性を指摘したものでございます。
これを受けまして、
改正法案は、その形骸化の最大の原因であるいわゆる総会屋を排除する
ための施策を講じております。すなわち、
会社が
株主権の行使に関し何人に対しても財産上の利益を供与することを禁止し、これの違反につきましては、取締役の民事
責任、かつ
関係者に厳しい刑事
責任を課しております。
このような総会屋の排除を前提として、
株主権の強化を図る
ため、
株主の質問権、条文では取締役、
監査役の
説明義務となっておりますが、これを明文化し、さらに提案権を新設しております。さらに
株主の意思の総会へのよりよき反映を目指して書面投票制度を導入しておりますが、ここで総会屋への金銭供与を厳禁しましたことは、
わが国の
企業内に存する金銭で物事を片づけようとする弊風をなくする
ために、
法律が強力な一歩を踏み出したものとして評価すべきではないかと考えております。
第二番目の業務執行における合議制の貫徹でありますが、ワンマン
社長による独裁が
企業の倒産やあるいは
社会的責任に反する行動に
企業を導いた、そういう多くの実例にかんがみまして、
法案は、
取締役会が監督機関であるということを明らかにすると同時に、重要な業務執行は
取締役会で決すべく、
社長等代表取締役にゆだねてはならぬということを定めております。このような合議体としての
取締役会の権限を発動せしめる
ために、各取締役に
取締役会招集権を保証し、他方、代表取締役の
取締役会に対する定期的な業務報告義務を課しております。
第三番目に、
監査制度の強化でありますが、
企業行動の自主的コントロールの方法としまして、いま申しましたそういう
取締役会という合議体を通じて取締役の職務の執行を監督する方法がございますが、それ以外に、
取締役会とは制度的に
独立した機関である
監査役による
監査と、さらに外部のより
独立した
会計監査人による
監査とがございます。
改正法案はこの
二つの
監査制度のより一層の強化を図っております。
その一といたしまして
監査役監査の強化でありますが、いわゆる大
会社にありましては
監査役を複数置くべきものとし、しかもそのうち一名は常勤でなければならぬとして、常時
監査の体制を制度化しております。
それから、
監査役の地位の
独立性を財政的面から強化する
ために、その報酬の額は取締役の分とは別にして定めるべきものとし、さらに、
監査の
ために要する費用の請求に当たっては、
会社側にその費用の必要でないことの立証
責任を負わせております。
さらに、
監査役は、取締役に法令違反、定款違反等の行為があることを知ったときは
取締役会においてそのことを報告する義務を負い、その
ため必要があればみずから
取締役会を招集する権限を与えられております。
ことに
監査役の権限強化の例として指摘すべきことは、
監査役が支配人その他の使用人に対して直接報告を求めることができる旨の
規定を設けようとしている点であります。これによりまして、
監査役は代表取締役を通さずに
会社の従業員に対し、たとえば
先ほど申しました総会屋への不正支出あるいはその他の者への不当、不正な支出等の有無について直接自分に報告せよということを命ずることができるようになります。
それから、その二といたしまして、
会計監査人監査の強化でありますが、
会計監査人の
監査を受けるべき
会社の
範囲を
資本金五億円以上の
会社並びに
負債の合計額二百億円以上の
会社に拡大するとともに、その
独立性を強化する
ためこれを
株主総会において
選任することとし、かつ、その
選任議案の提出には
監査役の過半数の同意を要することにしております。総会が
監査役を解任するときも
監査役の過半数の同意が要ることになっております。
会計監査人の任期は一年と法定いたしますが、定時
株主総会で再任しない旨の決議がない限り再任されたものとみなされます。そういうことにし、再任しない旨の議案を提出するには
監査役の過半数の同意が要ります。こういうふうにしてできるだけ
会計監査人の地位の代表取締役からの
独立を強化しておるわけでありますが、その反面、
会計監査人が代表取締役と癒着してしまいまして十分その職責を果たさない、そういうおそれがある場合には、今度は
監査役の過半数の同意をもって別の
会計監査人の
選任を取締役に求め、そういう議案を総会に出すように請求することができるようにしようとしております。
それから、
会計監査人につきましても、
監査役と同様に、支配人その他の使用人に対し直接
会計に関する報告を求めることができることにしております。
それからその三といたしまして、
監査役と
会計監査人の連係の強化ということがございます。大
会社の行動を効果的にコントロールする
ためには、
監査役と
会計監査人の連係を緊密にする必要がございます。
会計監査人の
選任、解任の段階で両者の
関係が強化されることは上述のとおりでありますが、具体的な
監査活動の面におきましても、
監査役は、必要に応じ
会計監査人に対しその
監査に関する報告を求めることができる旨を定めようとしております。現行法でも、
会計監査人は、
会計監査に当たり取締役の不正行為を発見した場合には
監査役に報告すべき旨を定めておりますが、
改正法案では、
監査役の方から積極的に
会計監査人に対し、広く
監査に関する報告を求めることができる旨を明文でもって定めております。そして、もしも
会計監査人に職務上の義務違反や職務怠慢があることがわかりましたら、
監査役全員の同意で
会計監査人を解任することができるという
規定も用意しております。
次に、大きな四はディスクロージャー制度の強化でございますが、現代
企業の行動をコントロールする立法技術の
一つに、
企業内容の開示制度、いわゆるディスクロージャー制度がございます。これはもともと
証券取引法の分野で発展したものでありますが、明るいところでは悪いことはできないものであるという発想に基づきまして、
企業の不正、不当な行為を予防する効果があると言われている法技術でございます。
今次の
商法の
改正に当たりましても、営業報告書、附属明細書及び
監査報告書の記載
内容の充実によって
企業の
内容及びその行動の開示を強化することが検討されました。しかし、営業報告書や附属明細書の記載
内容はすべて今後の省令にゆだねられております。したがいまして、私の希望を述べさせていただきますならば、試案の段階で発表されておりましたような事項が記載事項として省令に盛り込まれるのが望ましいと思います。そして、そのような省令を前提としまして、
監査役が省令どおりに営業報告書や附属明細書が記載されているかどうかを
監査し、さらにその
会計事項に関しては
会計監査人が
監査し、それを
監査報告書に記載するという、こういう仕組みが望ましいのではないかと考えております。
それから、最後の大きな項目といたしまして、
株主構成是正の
ための処置であります。
以上のような諸施策を通じて、
企業経営者の独走をコントロールすることによって自由
企業体制の健全な発展を図ることを
改正法案は目的としておるわけでありますが、より根本的に考えなければならぬ問題がございます。それは、
わが国の
企業の持つ
株主構成の特殊性でございます。これは
二つの面においてあらわれております。
一つは、額面五十円を基本にした株式制度のもとでの極度に零細な
株主の存在ということが
一つであります。もう
一つは
株主法人化の現象であります。
第一の問題は、およそ財産権としての株式の価値を守るという、そういう意識を持つとは思えないほど低価値の株式一株を有するにすぎない者が私的
企業としての株式
会社の最高機関である
株主総会の構成員になるというのは、いろいろな制度との整合を考えました場合にどうも不合理でございます。
改正法は、そこでこの単位を現在の証券取引の単位に合わせて五万円に引き上げようとしております。
しかし、いま直ちにこれを実行いたしますことは莫大な数の株券の交換を必要といたしますし、ひいては上場されておる株式の流通の阻害を生じます。それからまた、既得の
株主の権利の保護から考えましても多くの問題がございます。また、従来
わが国の
企業が行ってきました小さな割合での
株主割り当て新株発行や無償交付は、一株の額面額を五万円とこう一挙にいたしますと多量の端株を生ずる
ために、そのような財務政策は困難となってまいります。
そこで、当分の間、一株の額面額はいままでどおりとし、ただ千株未満の
株主には利益配当請求権、新株引受権、株式の無償交付を受ける権利等のみを与え、総会に
出席して決議に参加する権利は与えないことにするといういわゆる単位株制度を採用することにしております。そして、株券の整理の状況と今後の
企業金融の実態の推移等を見て、適当な時期に一単位の株式を一株に併合することを考えている非常に実際的な法であります。これは生きて動いている経済の実態にショックを与えることをできる限り少なくしつつ、法
改正を実現しようとするものとして採用された施策であろうと考えております。
それから第二の問題は、
わが国の
上場会社の
株主構成が法人
株主に偏し、個人
株主が極度に減少していくのを放置しておくことはできないという問題であります。このことはいろいろな弊害をもたらしておりますが、経営者のもたれ合いの大きな原因の
一つでもございます。
この
ため、
商法としてできることは、まず子
会社による親
会社株式の取得を禁止いたしました。さらに、相互保有を規制する
ために、
会社が他の株式
会社の発行済み株式総数の四分の一を超える株式を取得したときは、その株式
会社はその有する
会社の株式について議決権を行使できないことにしております。もっとも、これだけでは、
わが国の特徴であります
企業集団における広
範囲な株式の持ち合いを規制することはできません。その規制の
ために実にいろいろな方法が部会においても検討されましたが、
先ほどの鴻教授の御報告の中にもありましたように、立法技術的に非常に困難であります。結局、上述のような措置にとどめざるを得なかったわけであります。
次に、個人
株主減少の大きな
理由の
一つとして、
わが国の株式の極端な利回りの低さということが指摘されておりますが、時価で資金を調達しながら、配当は額面すなわち資本を
基準にして、多くの場合一割をもってよしとするという、
わが国経営者の一般的な
考え方に基づくものとも言われております。この
考え方を打ち破る
ために、
改正法案は、発行価額の少なくとも半分は資本に組み入れなければならぬ、こういうふうにしております。試案はもともと、御承知のように三分の二を提案しておりましたが、財界の
反対等々で二分の一に落ちついております。不十分ではありますが、これによって、
わが国の経営者が、
わが国の株式の極端な低利回りの是正の方向に心理的にでも動いてくだされば結構だ、こういうふうに期待をしております。
私は、
先ほど申しましたように、今回の
改正は大体この四つの大きな柱で動く、こう考えておりました。したがって、またそれぞれの点につきましてはもっと進んだ方法も考えられると思っておりました。しかし、現実との妥協におきまして最小限できるのはどういうことかということになりますと、やはりこの辺がやむを得ない線ではないかと思っておりますし、そしてまた、四十九年の
改正のときにもいろいろ言われましたが、少しでもよくなった、また今後少しでもよくなればいいという線から、基本的にはこの
改正案に
賛成しておるわけであります。なお、
個々的な問題につきましては、後ほど御質問に応じましてわかる
範囲内でお答えさせていただきたいと思います。
どうもありがとうございました。