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関参考人 平和研究全体の問題をここでわずかな時間でお話申し上げることは、ほとんど不可能に近いと思いますが、私がここでお話する前に、五月十五日ごろまでに出版するものとして有斐閣から「
国際政治学を学ぶ」という本を編さんいたしまして、その中で私は「
平和研究への道と展望」という章を書きました。恐らくそれをお読みになれば、ある程度概観がはっきりと浮かび上がってくると思います。
そこで、ここでは非常に簡単に申し上げさせていただきたいと思いますが、
平和研究を大きく分けますと、基礎
研究の部分において特に強調されるべき分野として実証的
平和研究というのがございます。これはある意味では、自然
科学がさまざまの因果
関係を
研究するのと同じように、戦争の原因が何であるかを実証的なデータを用いて分析し、さらに、その原因を追求するために、さまざまのデータの収集が行われるわけであります。
方法としては、もちろんさまざまの方法がありますけれども、自然
科学と同じような方法で追求した
研究の例として、最近非常に大きな成果を上げたものの
一つに言及いたしますと、ミシガン
大学のデービッド・シンガーという教授のところの
プロジェクトで、一八三〇年ごろから百五十年ぐらいにわたっての過去の戦争のケースを全部コンピューターに入れてデータ化して、戦争が起こっている場合、起こらない場合がどういう場合であるかという
研究をいたしました。これらの
研究の中には、われわれが安全保障の
学問の中で常識的に考えていることと根本的に違った結論が出ている部分、あるいはきわめて常識的であって、この常識ならば別に
研究をしなくてもよかったのではないかという部分と、いろいろの混合した
研究成果があるということをお伝えして結構かと存じます。
もう
一つの
平和研究の
タイプは、いわゆる主権国民
国家を
中心にした安全保障の合理的政策というものがどういうジレンマを持っているかという点から、安全保障に関する旧来の戦略論の不十分性あるいは欠陥を緻密に分析する流れがございます。この流れは、ある意味では戦略論批判グループと言っていいかと存じます。この流れは、数学的なゲームの理論を
中心にした
平和研究のグループでありまして、その意味で安全保障を
中心にしたさまざまの戦略論との接点が非常に広範にある分野であります。
第三の分野は、全体としての現代の地球的な規模での政治経済構造、
国家の集まりから成っておりますが、それ以外に多国籍企業を含めて非常に複雑な構造がどのように動いて、どういう問題があるかという点に焦点を当てた非常に規模の大きな
平和研究であります。この
平和研究は、従来の政治経済学の流れの発展であるというふうに見ていいかと思いますけれども、ここにもさまざまの
考え方がありまして、旧来の帝国主義論のようなものから、
中心部と周辺部の発展の時差のようなものに焦点を当てる
中心部周辺部理論とか従属理論とか、あるいは相互依存の理論とかがこれらの中に入り込んでおります。
第四番目の
タイプの
平和研究といたしましては、大体六〇年代の後半から進んでまいりました
研究プロジェクトでありまして、規範的
平和研究と呼ばれるものであります。これは現在の
国際秩序のもとで平和を達成することが非常にむずかしい以上、新たな
国際秩序というものを考えて、そこに到達するための具体的なプロセス、その過程についての議論までやろうという広範な分野でございまして、その規範的
平和研究の中に入るものとしては、たとえば
世界秩序モデル
プロジェクト、ワールド・オーダー・モデルズ・
プロジェクトというのがございまして、これはWOMPと呼んでおります。これはアメリカに拠点のあるものであります。もう
一つは、もちろん
国連大学でGPIDの
プロジェクトは、このカテゴリーに入るかと存じます。
第五番目の
研究の群といたしましては、ローマ・クラブから始まりまして、御承知のように第一報告から第六報告まで出ておりますけれども、このグループの中で第六報告が「限界なき学習」というふうに翻訳されておりまして、ちょうど一番
最初の限界の方を強調したローマ・クラブの
方向と非常に対照的なものがありますが、そういうものもかなり規範的
平和研究に近づいているということが言えるかと存じます。
最後のグループとしては、総括学的
平和研究というのが考えられるはずであります。これは現在の
研究のフロンティアの面で実際意識され始めましたわけで、私も、この問題については、まだ書いておりませんけれども、さまざまの、いままでの
大学の制度の中にある
学問が、グローバルプロブレマティックというものに対する地球的な規模で起こっているものに対して知的な解決能力をいまや喪失しておるわけです。したがって、新たな知的な解決能力のある
学問をつくることが必要なわけですが、問題が非常に学際的であるために、広範な問題を取り上げ、それらの間の
関連がどうなっているかというのは非常に複雑なわけです。したがって、さまざまの問題を解決する政策
科学を総括する
作業が必要なわけでして、そういう意味で総括学的
平和研究、これは旧来の哲学はもはや死んで能力を失っているわけですから、新たな
学問を地球的な規模でつくり出さなければならない、そういう見地に立った
平和研究であります。
以上、大体種類を五つに分けて簡単に御説明させていただきました。