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島田議員 ただいま議題となりました
日本社会党提案に係る
農産物の
自給の
促進及び
備蓄の
確保のための農
業生産の
振興に関する
法律案につきまして、提案者を代表して提案の趣旨を御説明申し上げます。
御承知のとおり、二十一世紀に向けて食糧は、世界的な規模で不安定時代を迎えると言われています。特に、世界の人口が現在の二倍の約七十億人に達するであろうとする国連発表を裏書きするように、途上国を
中心に増加の一途をたどりつつあり、そのため、現に飢餓状態に陥っている国が続出しています。さらに、近年の異常気象は、世界各地に寒波、熱波、長雨、干ばつ、冷害等々と、さまざまの災害をもたらし、世界の穀物需給は極度に緊迫の度を加えています。わが国の昨年の未曽有の冷害は、この地球規模の異常気象の一環であり、今冬の大豪雪と、最近の低温続きの天候に不気味な感じを持つのはひとり私だけではありません。この上さらに、冷害は二年続くと言われていますが、気象庁がすでに予告しているような冷夏が再び襲ってくるようなことになれば、わが国の食糧は、たちまちパニック状態に陥るのであります。
加えて、食糧が戦略物資として外交の手段に使われ始めて、一層食糧不安が加速されています。主要な穀物生産国であるアメリカが、
ソ連のアフガン問題に対する制裁
措置として穀物の輸出禁止を発表し、食糧の戦略化が顕在化しました。
世界最大の食糧輸入国であるわが国が、こうした異常気象や、食糧の戦略化によって国際的な需給逼迫や、国際紛争などによる輸入停滞が起これば、たちどころに恐慌事態に陥ることは、過去のドルショックで痛いほど味わい尽くしています。一九七三年、小麦の輸出削減と大豆全面禁輸は、豆腐が小さくなって値段が三倍になっただけでは済まず、洗剤や砂糖や、果てはトイレットペーパーまで市場から消えて一大パニック状態を生み出し、台所を直撃したことは記憶に新しいところであります。
さて、翻ってわが国の農業の
現状はどうなっているでしょうか。この期に及んでもなお政府は、米過剰を理由にその減反政策を強行しようとしています。
さらに、選択的拡大の戦略作目と政府みずから宣伝してきた畜産酪農、果樹も、米と同じ運命のもとにさらされ、非常な低価格のもとで生産農民は、厳しい経営と生活を強いられ、将来への希望を失っているのであります。
前述のごとき国際情勢の中で、国の安全が叫ばれ、食糧は、エネルギーとともに、国民にとって安全保障の二大主柱として位置づけ、世界の先進国の
自給率水準にまで高めていかなければならないとされているにもかかわらず、わが国の食糧の
自給率は年々低下の一途をたどり、政府の六十五年見通しでは、さらにそれを下げると発表されています。これで果たして国民の生命を守ることができるでしょうか。
食糧は自分の国でつくり賄う、この世界共通の原理と原則が、いま一番わが国に求められているのであります。総理府の世論
調査でも国民の六七%が、食糧の
自給率を上げなければならないと主張しています。
そのゆえに、国会では、昨年四月八日「食糧
自給力強化に関する決議」が、全会一致でなされたのであります。これはまさに国民に対しわれわれが確約をしたものであります。
わが党は、この約束の上に立って、さきにその一つである総合
食糧管理法案を国会に
提出いたしました。
いま、その根拠法であり母法となる食糧の生産を、
自給率向上と
備蓄を
確保することによって
振興を図り、国民の不安を解消し、国の安全保障の柱となり、生産農業者の励みとなることを目指し、この
法律案を
提出することといたしたのであります。
さらに、いま行革のあらしが吹き荒れています。特に、補助金の多い農林水産部門に鋭いメスが入れられようとしていますが、そこに小手先や短絡的な発想や手法で行財政を論ずることが、いままで述べてきた結論から許さるべきことでないことは明らかであります。
以上が、本
法律案を
提出するに至った理由であります。
次に本法案の主な
内容について、その
概要を御説明申し上げます。
第一は、本法における「主要
農産物」の定義であります。
これは国民の基本食糧となる米・麦を初めとした穀類、食肉、牛乳など畜産物、果樹、野菜などであって国民生活と農業経営上重要となるものを指定し、また、将来、国民の食生活などの変化によって需要の増加が見込まれるものも含めて「主要
農産物」といたしました。
第二は、主要
農産物の
自給と
備蓄の目標であります。
この基本的な考え方は、国民の栄養水準を一人一日二千六百カロリー、たん白質八十五グラムの摂取を目途とし、穀物
自給率を十カ年で七〇%まで高めることを目標としております。また、
備蓄は国民の主食である米・麦については必要の六カ月分、大豆、飼料穀物にあっては必要量の三カ月分とし目標を明らかにしたことであります。
第三は、国及び都道府県、市町村における長期計画と年度別計画の策定と農
業生産者の生産計画についてであります。
まず、その一は、国の長期計画の策定に当たっては、主要
農産物の種類別の需要見通し、種類別、地域別の生産目標と
備蓄目標を立てることにしていますが、この策定に当たっては、あらかじめ、都道府県知事を初め農協中央団体、農民
組合など
関係団体と協議し、新たに設けられる総合食糧審議会の
意見を聞かなければならないものとしました。同時に、年度別計画についても同様な手続によって定めるものといたしております。
なお、国はこの目標達成のために必要な、農用地の開発と高度
利用、農業の協業化及び近代化のための施策、
農産物の価格保障などを初め、農
業生産振興に必要な金融、財政の
措置を講じなければならないものといたしております。また、国の長期計画と年度別計画を決定した場合には、これを国会に
提出し承認を受けるとともに、公表しなければならないものといたしております。
その二は、都道府県及び市町村における長期計画、年度別計画の策定については、都道府県においては国の計画に基づいて都道府県内における主要
農産物の生産に関する長期計画、年度別計画を策定しますが、この場合、計画策定に当たっては、あらかじめ県の農協、農民
組合など
関係団体と協議するとともに、新たに設けられる都道府県農
業生産振興審議会の
意見を聞かなければならないことといたしております。なお、都道府県における長期計画、年度別計画の決定は都道府県議会の承認を受けるものとし、この決定を経た後は公表しなければならないものとしております。
なお、市町村における長期計画、年度別生産計画についても、市町村内における農協や農民
組合などとの協議、市町村農
業生産振興審議会の
意見を聞き、市町村議会で決定しなければならないものとしております。
その三は、農
業生産者の生産計画の作成であります。市町村の長期計画、年度別計画の策定のため、農
業生産者はあらかじめ主要
農産物の生産計画を作成し市町村に
提出し、市町村農業
振興審議会の議を経て認定されるものとします。この場合、この生産計画がすべての基本であることを十分認識の基礎に置かなければなりません。
第四は、市町村、都道府県、国に
報告の義務を与えたことであります。市町村長は都道府県知事に、都道府県知事は
農林水産大臣に対して、長期計画及び年度計画の進捗
状況を毎年度
報告することとし、また、政府は国会に対し、国の長期計画、年度別計画の実施
状況を
報告し、次年度以降の実施計画等の
変更を図らなければならないものとしております。
第五は、総合食糧審議会と都道府県、市町村農
業生産振興審議会の設置についてであります。
すでに述べましたように、本法案の目標を達成するためには、政府の減反政策の一方的な押しつけに見られるような強権的なことはやめて、真に生産者の自主性と地方公共団体が一体となった農業
振興対策を推し進めていかなければ、食糧
自給向上の具体策とはなり得ません。したがって、その民主的な手続の保障となる審議会は重要な役割りを担っていると言えます。
まず、総合食糧審議会は
農林水産大臣の諮問機関とし、その諮問に応じて
自給と
備蓄に関する
調査・審議を行います。
委員は学識経験者、生産者、消費者で構成し、二十五人を限度といたしております。また、都道府県、市町村の農
業生産振興審議会は同じような目的と構成を持たせ、
委員は十五名以内といたしております。
なお、本法案施行に要する経費でありますが、本法案が計画法的性格でありますので、長期計画、年度別計画の作成に要する費用、審議会設置と運営に関する費用として七十億円
程度を要するものと見込んでおります。
以上がこの
法律案の主なる
内容であります。
すでにおわかりいただけたとおり、本法案を
提出することによって、さきの総合
食糧管理法案との関連が明らかになりました。同時に、農
業生産の今日的役割りと課題も新たに与えられるわけであります。そのことは、
現状追認の形式的手段で済まされないことを明らかにしたわけであります。さらに、行財政改革に単におびえるだけで済まされないことも明白であります。
したがって、わが党提案の二法案が真剣に国会において論議されることが、国民の不安にこたえ、生産農業者の負託にこたえる道であることを強調したいのであります。
何とぞ、十分御審議の上、速やかに可決されるようお願いを申し上げます。
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