○榊参考人
全国農業協同組合中央会常務理事の榊春夫でございます。
当
委員会の諸先生方には、常にわが国の
農業並びに
農家の実情に深い御理解をいただき、その安定と向上について御
指導、御高配を賜り、心から御礼申し上げます。
また、本日は、
食糧管理法の一部を改正する
法律案につきまして、参考人として
意見を述べる
機会を与えていただき、光栄に存ずるとともに深く感謝を申し上げます。
これより、
生産者並びに系統農協としての食管法の一部改正案についての
意見を述べさせていただきます。
まず初めに、今回の食管法改正の前提について私どもの考えを申し上げたいと存じます。
食管法は、御
承知のとおり国民食糧の確保及び国民経済の安定を図ることを目的に制定され、今日までその役割りを果たしてきております。それがいま、社会経済、国民生活の変化の中で、この法律と
実態の乖離を是正する必要が生じてきましたことが今回の法改正の
中心かと思います。この是正の必要性は十分に理解するものでありますが、ここでお考えいただきたいことは、単に法律
制度の改正だけでは問題は解決できないということであります。なぜそのような
事態が生じたのか、今後再びこのような
事態を生じさせないためにも、この点を明らかにすることが重要と考えます。
私は、その原因は、食糧、
農業についての基本的な認識がわが国においておろそかにされてきたことだと考えます。ここで申し上げるまでもなく、食糧の安定確保、とりわけ自給力の向上は、国と民族の安全、独立に欠くことのできないものであります。このことについての国政の基本、国民的合意がなければ、どのように法律
制度を改正しても、法と
実態の乖離を是正し、運用の万全を期することは不可能と考えます。
幸い、昨年、本院におきまして、食糧自給力の向上について御決議をいただきました。また、食管
制度の目的とその役割りの重要性についての国民的合意は保たれていると考えております。今後、本
委員会の審査を通じ、さらにこれらの点が明確にされ、食糧、
農業についての正しい認識が確立され、国民的合意の醸成が飛躍的に向上することを強く願うものであります。
次に、今回の食管法改正についての私どもの基本的な
考え方、立場について申し上げます。
このたび
政府から提案されました改正案につきましては、いま申し上げましたような食糧、
農業についての基本的な認識をどうするかという前提、いわば食管法以外の問題がありますが、私どもは、長期的な視点に立って理解し、その改正が必要と考えております。その改正を要する問題点につきましては後ほど申し上げることといたし、ここでは、食管法の中で堅持さるべき基本原則の再確認について申し上げたいと存じます。
食管法は、
昭和十七年に制定されて以来、戦中戦後の異常
事態を経験するとともに、戦後復興、高度経済成長期を経て安定経済成長を目指す今日まで、それぞれの情勢変化に
対応してきわめて弾力的に大幅な運用改善を行い、主要食糧の安定供給を通じて、国民経済の発展、国民生活の向上に寄与してまいりました。そうは言うものの、現段階においては、購入券
制度のような法と
実態の乖離、やみ流通の公然化とこれに対する法的
措置の不徹底、無力化といった
事態に陥っております。
それにもかかわらず、いやそれだからこそ、食管法の基本原則に立ち返り、その本来の機能を
回復しなければなりません。このような幾多の激しい変動の過程を通じて、食管法がよくその命脈を保ち得たのは、食管法が過不足いずれの場合においても、
政府の責任において流通する米麦の全量
管理を行い、
生産者に対しては再
生産を確保するに足る価格を補償するとともに、消費者に対しては家計の安定を図るに足る価格で安定供給を確保してきたからであります。幾多の歴史的試練に耐え抜いた真価を十分に認識した上で、これらの基本原則の確保を前提として法改正に取り組むべきであることを強く訴えたいと思います。食糧の重要性、食管
制度の役割りが正しく理解されるならば、食管法はりっぱに再生するものと考えております。
次に、改正法案の内容についての
意見を述べさせていただきます。
改正法案は、
政府の提案理由の
説明にもありましたとおり、現行第八条ノ二以降の削除による厳格な配給統制の廃止にその出発点があると考えます。そのため、新たに第八条ノ四に、逼迫時における配給統制の復活を明記していますが、その保証として第三条の
生産者の売り渡し義務は存置されたものと理解しております。
実態に即し厳格な配給統制を廃止することに伴い、逼迫時の配給統制を明記することは、国民生活上重要な主食であり、当然のことと考えますが、問題は、
生産者の利益を害することなく、また消費者の納得を得てそのような切りかえが実際に可能かどうかということであります。私は、そのような
事態に至らないことを願うものでございますし、
政府も国民も同じ考えだと信じます。だとすれば、逼迫時の配給統制の前に重要なことは、備蓄に対するしっかりした
考え方と、それを重要な
事項として法に明らかにしておくことではないかと思います。
この点については、第二条ノ二の基本
計画の中で明らかにする考えと聞いておりますが、私どもとしては不安に感ずるところであります。ただいま申し上げました点と関連いたしますが、私どもは、備蓄については、現在の全量回転を前提とする方式を改め、
一定量を通常の
需給とは切り離し、いわばたな上げした形で備蓄し、何事もなかった場合にはこれを他の用途に処分する
方法を
制度化することが必要と考えます。
次に、新たに規定される第二条ノ二の基本
計画についてであります。この基本
計画は、改正法案による米の
管理の、文字どおりの基本となるものと考えております。この基本
計画について三点
意見を申し述べさせていただきます。
その第一は、基本
計画は「米穀ノ
需給ノ調整其ノ他本法ノ目的ヲ遂行スル為」定めるとされています。この「
需給ノ調整」というところが率直に言って気になるところでございます。基本
計画によって米の
生産や価格の抑制を意図するものではないとの言明がございますが、この基本
計画の決定がどのような場で検討または審議をされるのか、特に
生産者の立場、
生産事情等がどのように反映され、守られるのかといった点を明確にされることを
要望するものであります。
第二点は、
政府の
管理すべき米穀の数量等についての規定であります。ここでは、
政府の
管理すべき米穀の数量について、用途別、品質別、さらには
政府米と自主流通米といった流通における
管理の態様別に定められることになっておりますが、この中には、転作目標を達成しても、天候等によって発生が予測される予約限度超過米と、改正法案において新たに認められることとなる縁故米等は含まれないことと聞いております。縁故米につきましては後ほど
意見を申し上げますが、予約限度超過米といえども、現に流通する以上、全量
管理の当然の帰結として、
政府の
管理すべき米穀の中に明記すべきものであると考えます。
予約限度超過米は、これまで転作等目標面積を大幅に上回った達成の中で、しかも平年作ベースでも発生しております。この超過米は、従来、自主流通ルートでの集荷、販売を行っていますが、
政府の消極的な取り組み姿勢によって、やみ流通の温床となりつつあります。改正法案は、このやみ流通の取り締まりの強化を目指しておりますが、単に取り締まり強化というネガティブな
対応だけでなく、この予約限度超過米を正規流通させるよう
基本方針の明確化と、万全の積極的
対策を講ずることを強く
要望いたします。指定集荷業者といたしましても、この
政府の
施策と相まって、自主的な全量集荷の努力を払う所存でございます。
第三点は、備蓄と消費拡大についての明確化であります。備蓄についてはさきに申し述べたとおりでありますが、消費拡大につきましては、学校給食への米飯導入以外、政策としての裏づけは皆無と言っていい
状態となっております。一方、米作
農家は、公平確保という名のもとに、ペナルティーを科せられた
生産削減を余儀なくされております。そのような中で、米の消費は年々その
計画量を下回っております。このことが、さらに
生産調整の強化と
生産者米価の抑制という形で
生産者にしわ寄せされているのが現状であります。このような
事態に対する
生産者の不信、不満はいよいよ充満しつつあります。私は、米の消費拡大の目標を基本
計画に明示するとともに、その内容として、備蓄用米の処分
方法とも関連して、加工原料向け等、新規
需要の開発拡大を含めた積極的な拡大均衡
対策を推進されるよう
要望いたします。
次に、自主流通米
制度について
意見を申し述べさせていただきます。
自主流通米
制度は、発足十年にしていまなお議論のあるところでありますが、米の流通上大きな役割りを果たしていることも確かな事実でございます。この自主流通米
制度について、改正法案の第二条ノ二並びに第三条において法的位置づけを明確にされたことは、
事態に即応した前進と評価するものであります。ただ、運用改善の
考え方の中では、自主流通米の質的改善ということが言われております。これだけではどのような改善が意図されているのか明確でありませんが、
政府米と自主流通米との基本的な性格づけやその運用の基本を明らかにするとともに、
一定のルールのもとでは、自主流通
制度が持つ機能や役割りに必要以上の国の干渉や制約を加えることのないよう、十分な配慮をお願いする次第であります。
次に、流通業者の地位と責任の明確化の関連についての
意見であります。
今回の改正法案では、現行法では明らかでなかった集荷業者の位置づけを第八条ノ二で規定するとともに、第八条ノ三に販売業者を規定し、いわゆる流通ルートの特定を行っております。集荷を
中心とする系統農協として歓迎するところであります。改正法案はこれら業者について、集荷は農林水産大臣の指定、販売は知事の許可と、これまでの登録制と異なる決め方をすることとしておりますが、その指定や許可の基準を早急に明確にしていただきたいことをお願いいたします。
さて、食管法改正の契機と申しますかその原因ともなりました不正規流通の規制についてであります。
冒頭にも申し上げましたが、法と
実態の乖離を是正するということから末端流通規制が緩和され、個人間の無償の譲渡行為、つまり贈答米や縁故米が認められることになります。この点につきましては、米の自由化ムードを助長するとして私どもの組織内には警戒する声が多くありますので、その適正な運用を強く
要望したいと考えております。
特に、これら贈答米や縁故米に名をかりた不正規流通の発生を強く懸念いたしております。そこで、これらの米の取り扱いについて
一定の基準などを明らかにすべきだと考えます。それとともに、これらの米以外の米も含めて、不正規流通の防止とその取り締まりをどのように行うのか、その
方針を明らかにし、体制の確立強化も含めて万全の
対策を講じていただきたい。もちろん、不正規流通の防止については、集荷、販売の衝に当たる私どもが第一に率先してその責任を果たすことをここでお誓い申し上げる次第でありますが、
政府の責任ある
対応があってこそこれらも生きるものと考えております。
最後に、法改正に伴う運用改善
事項に関連する集荷、販売面への競争条件の導入の問題についてお願いを申し上げます。
米の消費拡大を図る見地から卸、小売業者の新規参入、小売の複数卸との結びつき等の
施策を含め、流通に競争条件を導入することは適切な
措置であると考えますが、集荷と販売とではその事情が全く異なっている点に御留意いただきたいと存じます。
販売面では消費者のニーズに合ったサービスの提供による
需要の拡大が最大の課題であり、競争条件の導入に整合性があり、よい
方向を指向するものと考えます。しかし、集荷面につきましては、円滑かつ適正に全量集荷する体制の確立が重要でありますとともに、それ以前の問題がさらに重要となっております。それは言うまでもなく
需要に合った米の
計画的な
生産、つまり
生産調整の遂行と良質米
生産指導の強化徹底であります。
生産された米をどのように集荷するかという以前に、どのような米をどれだけ
生産するか、その
指導は、行政
指導とも相まって、時としては
農家を十分説得して行わなければならないのが実情であり、そのことが食管
制度を守る基本でもあると確信いたしております。このことは国の政策の基本でもあろうと存じます。
この点を配慮せずに、集荷だけを念頭に置いての競争条件の導入は、いたずらに混乱を招くだけでなく、国の政策、地方公共
団体の行政
指導との整合性を欠くものであり、私どもとしてはとうてい承服できません。特に、伝えられるところによれば、集荷業者の事業区域を隣接
市町村にまで拡大することを考えておられるようでありますが、このことが、ある
市町村において指定集荷業者となった者は、その隣接
市町村においては指定を受けることなく、自動的かつ任意に集荷業務を行うことができることとなるものとすれば、このような体制は、国の直接買い入れを基本とする食管
制度にとってゆゆしい問題であり、致命的な破綻となる懸念があります。隣接
市町村といえども必ず指定を受けた上で集荷業務に従事するようにすべきものと考えております。何とぞ御理解と御高配をお願い申し上げる次第であります。
以上で私の
意見を終わりますが、諸先生方も御賢察のとおり、過剰過剰と言われながら、本米穀年度の米の
需給事情はさま変わりとなり、新たな
事態に直面しております。食管
制度の健全な運用が国民的な課題としていよいよその重要性を高めつつあります。当
委員会におかれましては、これらの
事態に対処する新たな米の流通
管理についての指針を早急にお示しいただくことをお願いしますと同時に、重ねて、
意見を申し述べさせていただきましたことに心から感謝を申し上げる次第でございます。どうもありがとうございました。(拍手)