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渡部(行)
委員 都合のいいところばかりとって
解釈したのでは弱い者はどうしようもないのですよ。このカナダ裁判は東京高等裁判所に控訴して、
昭和四十年一月三十日に
判決が出た。その
判決は一応棄却はしているものの、中にどういうことが書かれているか、ちょっと読んでみます。時間の関係で要点だけ読みます。「元来交戦国といえ
ども自国内にある敵
国民の私有財産を恣に没収することができないとするのは、確立された国際法上の原則である故、交戦国が
戦争遂行の必要上、敵
国民の資産を管理し、時にこれを処分することがあっても、その管理にかかる財産又は処分された財産に変るべき代価は、
戦争終結と共にこれを原所有者に返還すべきであり、相手国の承認を取り付けない限り直ちに賠償に充当することはできない筋合であると解される。」このことは何かと言うと、結局手続の問題でそういう請求権が成り立たないということを言っているのですね。しかし、その請求権を決して否定していないのですよ。そしてさらにその次に、「本来ならば私有財産不可侵の原則により原所有者に返還さるべき在外資産が、平和条約締結の結果賠償に充当されたことは、国が
戦争損害の賠償義務履行という公共の目的のために自らこれを処分したのと結果において何ら異なるところなく、従って国はかくして在外資産を喪失せしめられた
国民に対し、平和条約自体に補償条項がなくとも、国内的には
憲法第二九条第三項の規定の
趣旨に照らし、正当な補償をなすべき責務を有するものといわなければならない。」こういうふうに言っておいて「しかしながら、
憲法の前記規定(第二九条第三項)は、国が
国民の財産権を保障し、これを公共の用に供する場合には正当な補償をなすべきであるとの一般的原則ないし方針を明らかにしたに止り、直接同条により具体的な補償請求をなしうることを定めたものと解することはできない。そして在外資産に対する補償の措置を講ずる場合国の財政状態を慎重に勘案する必要のあるのは勿論のこと、今次大戦中及び終戦後の困難な経済建直し時期を通じ、直接間接
戦争に基因して各方面に亘り
国民が蒙つた犠牲と苦痛との関係において損害負担の公平を考慮すべきことは、
国民感情の上からも当然であるから、この
意味で社会政策的経済的配慮をも加え、納税者たる
国民が真に納得し得る範囲において合理的に補償の程度、方法、手続等を決定すべきであって、それは正に
法律の規定をまつべきものと
考える。」したがって別な
法律をつくってやりなさいと言っているのですよ。そうすれば、
憲法二十九条が生きるのです、ということをこの
判決は判示している。このことについてはどうですか。