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伊藤(茂)議員 ただいま議題となりました四法案につきまして、提案者を代表いたしまして、順次提案の理由及びその内容の概要を御説明申し上げます。
まず、
国税通則法の一部を改正する
法律案について申し上げます。
財政の再建が重要な課題となっている今日、
納税者の
税金への関心と不満はかつてなく高まり、とりわけ不公平税制の是正と公平・公正な
税務行政を求める声は大きな動きとなってあらわれてきております。
ところが、このような
納税者の不平不満に対処すべき現行の権利救済制度は、租税事案を正当に解決することにはあまりにも不備であり、かつ、欠陥の多いものであります。
一九六八年に、社会党はシャウプ勧告に基づいて設けられていた協議団制度を廃止し、
内閣総理大臣の所轄のもとに
国税審判庁を設置するという趣旨の
国税審判法の制定を提案いたしました。
政府は、党の提案に刺激を受け、協議団を廃止し、
国税庁に所属をする
国税不服審判所を設置するという趣旨の
国税通則法の一部を改正する
法律案を提案し、一九七〇年に成立し、今日に至っているのであります。長年にわたる協議団制度を廃止し、準司法的運用を企図した審判制度を取り入れたことは、わが国における租税救済制度上一定の前進であったと言えます。
その結果、民間人の起用を含めた人事の刷新が行われ、審判制度は新しい意欲に基づいた運営が始められるかに見えたのでありますが、十年の年月が経過した今日、この審判所とその運営の状態を根本的に見直す必要が生じてきております。それは設置当時危惧された弊害が生じてきているからであります。
たとえば、審判所
事務運営の
現状を見てみますと、まず、最も重要な事項である、審査請求
事務処理すなわち審査、裁決の独立性の保持、あるいは、審判所の独立性が果たして確保されているかという問題があるのであります。
最近では、
国税審判官の多くは、
国税庁、
国税局、
税務署の
職員から直接任用され、数年で再び
国税庁、
国税局、
税務署へ戻る傾向が強くまた、人事権も予算も
国税庁が掌握しておりますので、どうしても
国税庁、
国税局の方を向いて仕事をするようになり、結果的に処分庁と同じ結論を出すという傾向が強いのであります。このような
現状においては、裁決の独立性の保持なり審判所の独立性が、基本的に確保されるはずがないのであります。
また、現行法では、
国税不服審判所長が
国税庁長官通達と異なる
解釈により裁決しようとするときは、
国税庁長官は
国税審査会の議決に基づいて
国税不服審判所長に対し指示することができると規定されておりますが、
国税不服審判所が創設されて十年もたっているにもかかわらず、いままで長官通達と異なる裁決がなされた事案は一件もありません。このことは、
現実の運用において、この制度が空洞化していることをあらわすものであります。
一方、租税事案についての裁判の公正の確保という見地から申しますと、裁判所による救済が最もその目的に合致するものでありますが、裁判所による救済、すなわち訴訟は、費用や時間を要する点に問題がありますので、裁断の公正を保持しつつ、比較的簡素な手続により事案が処理されるような制度が現在強く要望されているのであります。
そこで、第三者機関の公正な裁断による救済の要求と、
行政段階での比較的簡素な手続による救済の要求という両者の要請を満たすような新しい租税救済制度を確立することが必要不可欠であるといわなければなりません。
以上のような
考え方によりまして、第一に、現行の
国税不服審判所を廃止し、
行政段階の新しい租税救済機関として、執行機関から完全に分離独立した裁決機関としての
国税審判庁を設けることとし、この
国税審判庁が、純粋な第三者機関として租税事実につき比較的簡素な手続で公正な審判を行うこととし、第二に、審理手続の一層の民主化により、審判の公正を図ることとし、もって
納税者の権利利益の救済を促進することとする必要があることを強く認識し、ここにこの
国税通則法の一部を改正する
法律案を提案した次第であります。
以下、この
国税通則法の一部を改正する
法律案の内容についてその概要を御説明申し上げます。
まず、第一に、この改正案による制度の基本的な仕組みは、
国税不服審判所にかわる審判機関として、総理府の外局として
国税審判庁を設置することといたしております。これは
納税者の権利利益の救済を図り適正公平の裁決を担保し得る第三者的税務裁判機構をつくるためには、何よりも
国税の執行機関から分離させ、独立性を強化することが必要であるからであります。
第二は、
国税審判庁の長は
国税審判庁長官とし、
内閣総理大臣が任命することといたしております。
第三は、
国税審判庁の所掌
事務といたしましては、
国税に係る
行政庁の処分についての不服に対する審査に関する
事務をつかさどるものといたしております。
第四は、
国税審判庁の地方支分部局として各都道府県に地方
国税審判局を置き、さらに地方
国税審判局の
事務の一部を取り扱わせるため、その地方
国税審判局の管轄区域内に、地方
国税審判局の支部を設けることができることといたしております。現行の
国税不服審判所には、全国に十二の支部しか置かれておりませんが、本改正案では、地方
国税審判局は現行の支部の約四倍に増加し、
納税者の便に寄与することといたしております。
第五は、
国税審判庁には、
国税審判官及び
国税副審判官を置くこととし、審査請求に基づく審理及び裁決は、三人の
国税審判官の合議により行うものとし、この合議体の合議は、過半数により決するものといたしております。現行制度では、合議の結果が最終的結果でないため、審判所の合議の価値が大いに問われているので、本改正案では、合議を本来あるべき重要なものとして位置づけているのであります。
第六は、審査手続は、口頭審理により行うことを
原則といたしております。ただし、当事者の申し出により、書面審理によることもできるようにいたしております。
第七は、口頭審理は、公開して行うことを
原則といたしております。
現在は、不服申し立ての審理は非公開で行っておりますが、
国税審判庁の審理を公正に行うためには、その審理を
納税者に公開する必要があろうと考えます。
第八といたしまして、審査の公正を確保するため、審判官の除斥及び忌避の制度を設け、審判官が事件や当事者と特殊な
関係がある場合におきましてはその職務の執行から除斥されることとし、また、審判官について審査の公正を妨げるべき
事情があるときは審判請求人、処分庁または参加人はその審判官を忌避することができることといたしております。
第九は、審理及び裁決は総額主義でなく争点主義に基づいて行うべき旨の規定を新設することといたしております。この点については、一九六九年に政府の
国税通則法改正案が国会で可決された際参議院大蔵
委員会において争点主義の精神を生かすべき旨の附帯決議がなされ、また、
国税不服審判所の審査
事務提要の中でもその旨が規定されてはおりますが、いまだにその趣旨が十分に生かされておりませんので、本改正案におきまして明確に規定することといたしたのであります。
第十は、審理の迅速化を図るために、担当の
国税審判官の指定は、現行法の処分庁による答弁書
提出の時点ではなく、審査請求書の受理の時点で行うべきことといたしております。
第十一に、不服が
国税庁長官の通達が法令に適合しないことを理由とする等一定の場合には、不服申し立てを経ずに、直ちに裁判所に出訴する道を開くことといたしております。
以上が、
国税通則法の一部を改正する
法律案の提案の理由とその内容の概要でありますが、
納税者の権利利益の救済制度の根本的改革という問題は、かねてからの
国民的課題ともいうべきものであり、処分庁から完全に独立した純粋の第三者機関による権利救済制度の実現及びこの機関における審査手続の民主化は、真に
納税者の権利利益の救済を万全ならしめるものとしてこの
国民的な課題の解決への大きな前進を
意味するものであることは明らかであります。
国民の待望するこの
国税通則法の一部を改正する
法律案につきまして、何とぞ御審議の上、御賛成賜りますようお願い申し上げます。
次に、
法人税法の一部を改正する
法律案につきまして、提案の理由及びその内容を御説明申し上げます。
わが国の特例国債依存財政は来年度予算で七年間も続くこととなり、かつて三五%にも及んだ国債依存率が二六%台に下がったとはいえ、国際的に見ても依然として高い赤字財政にあることは言うまでもありません。
政府は八一年度予算を財政再建元年予算と自画自賛し、歳出面においては思い切った節減合理化を行い、歳入面でも徹底した見直しを図ったとしております。しかし、その内容を見てみますと、不要不急経費の削減の全く不十分なことは補助金の整理とは名ばかりのものである一事を見ても明らかでありますし、歳入対策でも既存税制の枠内の増収対策をすべて講じ終え、今後の税収確保は大型間接税以外にないと短絡させていることに見られるように
国民のための財政再建予算となっていないのであります。言うまでもなく、財政再建とは従来の大
企業優遇の税財政制度を抜本的に改革することであり、それが特例国債依存財政から脱却する道でもあります。
したがって、現在の財政赤字を克服するに当たっては不要経費の削減及び
一般経費の節減に努めるのは当然でありますが、抜本的な税制改革による財源の確保がきわめて重要であります。しかも、不公平な税制を是正し、負担能力ある大
企業に対する課税の適正化を図ることが財源対策となるとともに
国民の税に対する信頼をもたらすこととなるのであります。しかしながら、政府の税制改正の方針にはかかる認識もなければ計画的対応も見られません。すなわち、政府の税制
調査会が昨年十一月に答申した中期税制答申における
法人課税のあり方についても、
企業課税小
委員会の報告に基づいて、現行の
法人税制を維持することが適切としているのであります。
企業小
委員会の報告が、
法人の性格に触れて、実在説あるいは擬制説のどちらかの
立場に割り切ることは困難としながらも、
現状の維持を結論づけていることはとうてい
国民の納得するところではありません。
日本の上場株式の七割以上が
法人所有という
実態を見、かつ、平均利回りが一%にも満たない実情を踏まえるならば、シャウプ税制によって確立された
法人擬制説に立脚した現行
法人税制はいわば虚構の理論に立つ税制になったと言わざるを得ません。したがって、現行税制に立っての一律二%の
法人税率の引き上げといった対応でなく、
法人税制の根本的改革に着手すべき事態を迎えているのであります。これが本法案
提出の理由であります。
以下、この
法律案の大要を御説明申し上げます。
この
法律案は、
法人税についても負担能力に応じた課税を行うため、現行の比例税率を廃止し、所得区分による軽度の超過累進税率を採用するとともに、大
企業に有利な受取配当の益金不算入制度を廃止する等の改正を行うものであります。
まず第一に、税率の改正であります。現行の普通
法人に対する四〇%の税率を、年所得一億円以下の金額については三七%、一億円超十億円以下の金額については四二%、十億円超の金額については四七%の税率に改めることといたしております。
一方、軽減税率の適用幅を拡大し、資本金額等が一億円以下である
法人の所得の金額のうち百分の二十八の軽減税率の適用を受ける所得の金額を、現行の七百万円以下から一千万円以下に改めることといたしております。
第二に、受取配当の益金不算入制度の廃止であります。現行の受取配当の益金不算入制度は
法人間の配当について二重課税を防止する見地から設けられているものでありますが、大
法人の株式投資が増大し、その持ち株比率がきわめて高くなっている現在では、いたずらに大
企業の税負担を軽くする制度となっておりますので、これを廃止し、配当金はすべて課税所得の中に含めることといたしております。
第三に、
法人の寄付金の損金算入
基準の引き下げであります。
法人の寄付金につきましては、資本金
基準及び所得
基準による一定限度の範囲内で損金算入が認められておりますが、昨今では資本金または所得の増大によりその限度額が相当巨額となり、
法人の寄付金支出を容易にしております。そこで両
基準をいずれも大幅に引き下げて適当な限度といたしております。
第四に、
法人の貸し倒れ引当金の繰入限度は政令で定められておりますが、これを本法に規定するとともに資本金一億円以下の
企業については繰入率を緩和することであります。金融機関を初め現行の繰入限度は貸し倒れ
実態をはるかに超えた率となっており、これは利益留保の色彩の濃い制度となっておりますので、とりあえず、金融及び保険業の繰入限度を千分の五から千分の三に引き下げ、他の
業種については、現行率を本法で規定して、経過
措置を認めないこととするとともに中小
企業には大
企業より若干高率の繰り入れを認めることといたしております。
第五に、
法人の退職給与引当金の損金算入限度額の引き下げであります。引当金は準備金と異なり、
企業会計上正当なものと認められ、異なった取り扱いが必要とされていますが、
実態は
租税特別措置法による減税
措置と変わりがないのであります。しかも大
企業が最も多く利用しているものの
一つであり、内部留保金ないし営業資金として利潤増大に役立てられておりますので、資本金一億円を超える
法人の退職給与引当金の損金算入限度額を現行の百分の四十から百分の二十五に引き下げることといたしております。
第六は、資本金額等が一億円を超える
法人及び保険業法に規定する相互会社については欠損金の繰り戻しによる還付を行わないこととするものであります。
企業が赤字を出したときに払い戻される
法人税は
昭和五十四年度で千七百八十七億円に上っております。今日の財政赤字の中でさらに歳入不足に拍車をかけるこのような制度は、
一般の
国民感情から見ても認めがたいものですので大
法人には適用しないことといたしております。
以上、この
法律案につきまして、提案の理由及びその内容を申し上げました。
次に、
租税特別措置法の一部を改正する
法律案について御説明申し上げます。
わが国の財政史においても、また、最近の先進諸国の財政においても見られない異例な巨額の財政赤字を抱えている現在の
日本財政を立て直すには、かつての
高度成長促進、資本蓄積優遇の体質と構造を改めて、いわゆる福祉優先型財政を確立することが必要であります。そのために徹底した財政改革と不公平税制の是正こそ
国民の要望するところであります。特に、今後の社会においては公平、公正、平等の実現が最も重要な政治理念となりますので、税制の改革に当たってもかかる観点に立って対処しなければなりません。しかも、政府はかつてない大増税によって財政再建を図ろうとしている現在、
租税特別措置法による税の減免
措置も最小限に抑えるのでない限り
国民の公平感を高めるのは不可能であります。
ところが、政府の租税
特別措置の改廃、整理はきわめて不十分であります。政府は最近六年間で
企業関係の租税
特別措置九十八項目から七十三項目へと整理合理化を図ったとしておりますが、いまなお七十三項目存在していることが問題と言わなければなりません。しかも、政府の減収見込み額試算は公表されても実績は明らかにされていないのであります。
また、資産所得者優遇の税制も温存あるいは拡大されております。利子配当所得の総合課税化は長年の懸案事項であります。政府は、グリーンカード導入を理由に源泉分離選択制度を継続しておりますが、実施可能な
税務調査あるいは支払い調書
提出義務の強化といった
税務行政面での
措置を講じつつ、不完全とはいえ総合課税化を早めるべきであります。さらに、土地税制の緩和も宅地の確保という保障のないままに三年連続の緩和が行われましたが、それが、かえって地価上昇を引き起こし、課税の不公平だけを拡大する結果を招いているのであります。
このように政府の主張する不公平税制の是正すなわち政策税制の是正も不十分であり、一部には逆に不公平を拡大してさえいるのであります。その上、大
法人優遇税制として批判の強い
法人の配当軽課税率や受取配当の益金不算入などの廃止問題は全く取り上げられておりません。
財政再建のためには不公平税制を是正し、大
法人と資産家に対する課税を強化して税収の増加を図ることが必要であります。これが本法案
提出の理由であります。
以下、この
法律案の大要を御説明申し上げます。
この
法律案は、利子配当所得課税の特例、社会保険診療報酬課税の特例及び
個人の土地譲渡所得課税の特例について是正するとともに、大
企業と中小
企業の税負担に大きな差をもたらしている支払、配当軽課制度を廃止する等の改正を行うものであります。
第一に、利子配当所得課税について源泉分離選択課税制度及び確定
申告不要制度等の廃止であります。これらは資産所得優遇の最たる
措置でありますので、総合課税の本来の姿に戻すこととしております。
第二に、医師の社会保険診療報酬課税の特例
措置の廃止であります。現行制度はかつての一律七二%の経費の控除制度からは改善されておりますが、いまなお不公平な税制にほかなりませんので、特例
措置を廃止して実額経費控除制度に改めることとしております。
第三に、
個人の土地譲渡所得課税の強化であります。長期譲渡所得に対して課税を強化することとし、現行の譲渡益四千万円、八千万円の課税所得区分をそれぞれ三千万円、六千万円に引き下げるとともに、譲渡益六千万円以上の部分については全額総合課税とすることとしております。
第四に、家屋の増改築に対する住宅取得控除の適用であります。現在、新築住宅及び中古住宅の取得者については住宅取得控除による税の軽減
措置が講じられておりますが、家屋の増改築についても税負担の公平を図る
意味からも住宅取得控除を適用することにしております。
第五に、
法人の支払い配当軽課制度の廃止であります。
法人の支払い配当軽課制度は
法人の自己資本を充実する目的で設けられた特例
措置でありますが、いたずらに大
企業の税負担を軽減する役割りしか果たしていないことにかんがみ、この制度を全廃することにしております。
第六に、交際費課税の強化であります。交際費課税につきましては、社用支出の実情にかんがみ一層の強化を図ることとし、損金算入限度額の限度超過額の全額を損金不算入することにしております。
第七に、各種準備金の整理、改廃であります。準備金はいわば将来の費用の繰り上げ計上でありますが、実際には
現実に発生する損失額を上回って過大計上される傾向が顕著になっております。したがって、実際の費用的支出を上回る計上分は利潤の免税もしくは国からの補助金的支出と同じ効果を持つことになっており、利益隠しであるとの批判もある上に、制度の既得権化の問題が
現実化しており、弊害が目立ち始めているのが実情であります。
そのような状態でありますので、とりあえず、特定鉄道工事償却準備金、原子力発電工事償却準備金、電子計算機買い戻し損失準備金、渇
水準備金を廃止することとし、また資本金一億円を超える
法人の価格変動準備金、中小
企業等海外市場開拓準備金、海外投資等損失準備金、金属鉱業鉱害防止準備金、特定ガス導管工事償却準備金、株式売買損失準備金、証券取引責任準備金、商品取引責任準備金、保険会社等の異常危険準備金、原子力損害賠償責任保険または地震保険に係る異常危険準備金、探鉱準備金、海外探鉱準備金を廃止することとしております。
第八に、技術等海外所得の
特別控除や試験研究費の税額控除についても、大
企業が独占的に利用している実情にかんがみ、資本金一億円を超える
法人の技術等海外所得の
特別控除、試験研究費の税額控除については廃止することとしております。
第九に、特定設備等の
特別償却についても減価償却費を過大に計上できることにより利潤を費用化して適用
企業は無利子の融資と同様の資金を調達できる機能が顕著になってきている実情にかんがみ、資本金一億円を超える
法人の特定設備等の
特別償却を廃止することにしております。
第十に、不況とインフレとが共存する経済
状況のもとで、中小零細
企業の税負担を少しでも緩和するため、中小零細
企業に対する
法人税の延納の特例を設けることとしております。
最後に、政治団体に対する
企業の政治献金についてであります。現在、政治団体に対する寄付金も
一般寄付金として損金扱いとされておりますが、大
企業の政治献金が以前から社会的問題となっております
状況にかんがみ、この種の寄付金の損金算入
措置を廃止することにしております。
以上、この
法律案につきまして、提案の理由及びその内容を申し上げました。
最後に、
所得税法の一部を改正する
法律案について申し上げます。
わが党は、深刻な事態に追い込まれている財政を立て直し、
国民生活の安定を図ることを目標にして、まず、インフレによる税負担の不均衡を是正して、勤労者中心に救済
措置をとり、さらに、大
法人課税の改革、租税
特別措置の廃止、資産課税の強化等によって公平な税負担構造を確立して税収の確保と所得の再配分を強化することを税制改正の基本方針に据えております。そのための改革を論議することが中期的税制改革論の内容でなければならないと考えるものであります。
ところが、政府にはその方針に立った計画的対応は見られません。とりわけ、
国民大衆に直接大きな影響を及ぼす
所得税については名目所得上昇に伴う実質増税を防止するためのいわゆる物価調整減税の制度的改革は講じられておりません。このため、
所得税の税収弾性値は二を上回る状態となり、また、
納税者数も増加の一途をたどっており、
給与所得者の
納税者比率は
昭和五十年度の七二%から五十二年度の七四%、五十六年度では実に八四%にまで高まってきているのであります。これらは、勤労
所得税のなし崩し的な増税が行われてきていることを示すものであります。
かかる大衆増税路線を改めるには
所得税制の基本的手直しを必要としておりますが、他面、税制の公平を確保することも重視していかなければならない
状況にあります。したがって、いわゆる物価調整減税の制度化等の問題につきましては、今後
所得税制の基本的洗い直しとの関連で検討することにし、とりあえずは
給与所得者の税制の公平な適用と高額所得者に対する不公平な優遇
措置を是正することが欠かせません。これが本法案
提出の理由であります。
以下、この
法律の大要を御説明申し上げます。この
法律案は、現行
税法では、
給与所得者に必要経費の制度が認められていないことや所得の
捕捉率がきわめて高いことなど不公平、差別的な状態に置かれていることを是正するために
給与所得者に確定
申告選択制及び必要経費の実額控除制度を創設し、労働組合費控除等を新設して税負担の軽減を図るとともに配当控除制度の廃止等課税の強化を図ろうとするものであります。
第一に、
給与所得者の確定
申告選択制度の創設であります。わが国の現行の税制においては
給与所得者については大多数が年末調整で
税金を確定させられ、事実上確定
申告権が奪われているのであります。しかし、
納税者が確定
申告を行うことは民主主義的権利の行使と言えるのであり、そのために
給与所得者の確定
申告選択制度を創設することといたしました。
第二は、
給与所得者の必要経費の実額控除制度の創設であります。現行税制においては
給与所得者はどのような職業、勤務状態にあろうとも、給与所得控除という一律の控除を適用されるにすぎません。
したがって、
給与所得者について、給与所得控除制度のほかに実際に要した必要経費を認める実額経費控除の制度を創設することといたしました。
なお、この場合の必要経費とは、別段の定めがあるものを除き、旅費、通勤費、衣服費、
調査研究費、労働組合費その他の費用で給与等の収入金額を得るために直接に要したものと規定いたしております。
第三は、給与所得控除の控除限度額の設定であります。現行制度では給与所得控除額はいわゆる青天井で高額所得者優遇の制度となっておりますので、この不合理を正すため控除限度額を二百五万円とし、いわゆる控除頭打ち制度を設けることとしております。この結果、年収千万円を超える場合の給与所得控除額は二百五万円の一定額となります。
第四は、鰥夫控除の創設であります。これはわが党が年来要求してきたものでありますが、今回ようやく政府案として
提出されるに至ったところであります。
第五は、雑損控除の適用最低限度額の引き下げであります。現行制度では、災害等によって生じた損失が合計所得金額の十分の一相当金額を超えるときは、その超える部分の金額を雑損控除として控除することが認められておりますが、この適用最低限度額を合計所得金額の百分の二または二万円のいずれか低い方の金額に引き下げることといたしております。
第六は、医療費控除の適用最低限度額の引き下げであります。現行制度では、医療費の合計額が合計所得金額の百分の五または五万円のいずれか低い方の金額を超えるときはその超える部分の金額を医療費控除として控除することが認められておりますが、この適用最低限度額を、合計所得金額の百分の二相当金額または二万円に引き下げることといたしております。
第七は、通勤費の非課税であります。現行制度では、実際に支給した通勤手当のうち一定限度までの金額について非課税としておりますが、通勤費は必要経費でありますから、通勤費の実費相当額は全額これを非課税とすることにいたしております。
第八は、夜勤手当の非課税であります。警察官、看護婦等夜間勤務をする者の場合は、心身の消粍が激しく、その回復のためにはかなりの経費が必要でありますので、一定額の夜勤手当についてこれを非課税とすることにいたしております。
第九は、キャピタルゲイン課税として有価証券の譲渡による所得に対する課税の強化であります。現行制度では年間取引五十回二十万株未満については非課税になっておりますが、これを改めて年間取引二十回十万株以上に対して課税をするものといたしております。
第十は、退職金の退職所得控除額の大幅な引き上げであります。退職所得控除額を現行の勤続年数一年につき現行の二十五万円から五十万円に引き上げ、二十年勤続で一千万円まで非課税とするものであります。なお、あわせて退職所得控除額の最低保障額、障害退職の場合の加算額をそれぞれ引き上げることといたしております。
第十一は、労働組合費控除の創設であります。労働組合費は労働者の経済的地位の向上、福利増進を図るための費用でありますから、今日の社会通念から見て当然
給与所得者の必要経費と考えられますので、組合の経常的な費用に充てられる組合費につきましては所得控除を認めることといたしております。
第十二は、寒冷地控除の創設であります。寒冷地域におきましては、暖房費等の生計費が他の地域に比べて多額にかかることは言うまでもありません。そこで、その経費相当分を総所得金額等から控除する制度を新たに設けることといたしております。
最後に、配当控除制度の廃止であります。現行制度は、いわゆる
法人擬制説に立って、
所得税の前払いである
法人税を清算する
意味で配当控除が行われておりますが、この制度によれば、配当のみの所得者は夫婦子二人の場合、課税最低限が四百四十万円となり、
給与所得者と比較して著しく不均衡を生ずる資産所得優遇の制度となっております。したがって、
法人擬制説を維持する
考え方をやめて、税負担の公平を図るため、配当控除制度を廃止することといたしております。
以上、この
法律案につきまして、提案の理由及びその内容を申し上げました。
何とぞ御審議の上、御賛成賜りますようお願い申し上げます。