○川本
委員 それでは一応この問題はそこまでにいたしまして、次に話を進めたいと思います。
全国抑留者補償協議会というのが全国で大ぜいの組織を持っておられる。また
一つの旧軍人
軍属恩給欠格者全国連盟というのもございます。こういう
方々は、すべて戦闘に参加をし、そして戦後シベリアに抑留をされる、こういう中で
大変御苦労をいただいた
方々でありまして、その抑留者の総数は約六十万人とも言われておりますし、その抑留中に現地で亡くなられた人の数は六万人もおると言われております。ところが、こういう
方々に対する
処遇の問題、あるいは旧軍人
軍属で命がけで戦地で戦った、砲煙弾雨の下をかいくぐった
人たちでも、その勤続年数が短いという方は、軍人恩給等の欠格者として全部そのまま放置されておる現状にあると思うわけです。
特に全抑協に結集しておられる
方々の話を聞きますと、抑留中には労役に携わったというわけです。ソ連がこの
人たちの労働力あるいは技術、こういうものをフルに活用して、そしてソ連の国土建設のために働かしたわけですから、その
方々のいわゆる俸給とかあるいは労務賃金というものは当然受け取る権利があるわけです。ハーグ条約の陸戦法規に照らしても、あるいはジュネーブ条約に照らしても、これは明らかに国際間の条約として決められておることは御承知のとおりであります。個人の俸給ないし労賃の支払い請求権は個人が持っておるわけですけれ
ども、残念ながらわが国は、
日ソ共同宣言において、その第六項の第二文において一切の請求権を相互に放棄をするという協定をしてあるわけです。だから、ソ連に抑留された
方々のこれらの俸給ないし労賃の請求権を一方的に政府が担保としてソ連との間にお互いの請求権を放棄しますという共同宣言に署名したわけです。だからこの
人たちの個人の請求権がなくなったのかというと、私はそうじゃないと思うわけです。
国がこれを放棄をした。だから国家の財産として化体をして、この
人たちの俸給ないし労賃がすべて国家の資産、財産として化体をして、ソ連との間にその請求権を放棄するということに決めたわけですから、本来の
考え方から言えば、この
人たちに対する俸給ないし労賃金の補償というものは、
日本国の政府の責任においてなさるべきではないかと思うわけです。
ドイツは戦後、戦時捕虜賠償法という
法律をつくりまして、国家が放棄をした請求権、それにかわって今度はドイツの政府が、一人一人のそういう捕虜になった
人たちの労賃や俸給を支払うという
法律をつくっておるわけです。ところがわが国では、一方で国家の財産に化体をしたみんなの一人一人の労務賃金や俸給その他のものを国家が勝手に
本人に
相談もなしに放棄をしておいて、その後の補償も今日までしていない。こういうことは果たしてそれでいいだろうか、それで公正なんだろうか、こういう感じが私はするわけであります。
ちなみに調べてみますと、
昭和二十四年四月にいわゆる阿波丸事件というものに対する
国会の決議があります。阿波丸というのは、戦争中アメリカ側の潜水艦が過って
日本の阿波丸を撃沈をして、多くの死傷者が出たわけですけれ
ども、これについてもアメリカ側は、これは補償しなければならぬ事件だということを、その当時から言明をしておった。ところが、日米の平和条約の中で、
日本がこの請求権を放棄をしたために、そのアメリカから賠償さるべきはずであった阿波丸の死傷者その他に対しては、わが国の政府がこれに対してアメリカにかわって補償をする、こういう措置がすでにとられておるわけです。前例はあるわけです。ところが、ソ連の抑留者に関しては今日まで言を左右にして政府はこれをやろうとしていない実情にあります。今日生き残りの
方々の戦争犠牲者の最たるものだと私は思うわけです。
あの酷寒零下四十度、何メートル下の土の中まで凍るような酷寒の地で労役に服した、それも国家のために労役に服してこられた
方々に対して、このようなことを今日まで放置しておるのはおかしい。戦争犠牲者に対する対策の、今日までまだ残っておる大きな仕事の
一つではないかと私は思うわけですが、この点について厚生
大臣どのように思われますか。