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宇都宮徳馬君
政治解決というのはやっぱり妥協なんですよ、実際言うと。それで、いまあなたがおっしゃったことは、これは妥協した後の情勢が変だものだから、いろいろ御説明になっておると思うんですけれ
ども、しかし、あの金大中事件が起こって、十四日にソウルにあらわれたわけですが、そのはるか前に、ほとんど事件直後にアメリカは、これはKCIAの行為であるということを知っていたに違いないです。これは
先ほどレイナードの話なんかも出ましたけれ
ども。私は、そうじゃなきゃ、大体韓国の政府が殺すつもりの者をああやって生かすはずはないんです。それはやっぱりアメリカが相当な圧力を政府にかけた。政府にかけて聞いたということは、政府以外の人間がやったことではないんだ、政府がやったことだから。だから圧力をかけて、そうして十四日に出てきたと、こういうことですね。私
どもは、この問題についてはいろいろ知っておるわけですけれ
ども、ウルフという、いまアメリカの下院の
外交委員会のアジア・太平洋問題小委の小
委員長であります。この人は私に言っていましたけれ
ども、とにかく金大中事件が起こって、
自分はたまたまとにかくソウルにいた、すぐ
自分は、航空の大佐で、そして余り偉くない
時代の当時の朴正煕大統領を非常によく知っていたものだから、だからすぐ朴正煕大統領に会って、そうして金大中を殺しちゃいかぬと、こういうことを言ったと言うんですね。アメリカの
外交当局とかCIAとかいうものはそういう情報をすぐキャッチして、そしていろんなルートを通じて金大中の命を救ったということはあると思います。だから、そういうことが直ちに
日本の、つまり政府の首脳、当時の法務大臣と言えばそういう関係の政府の首脳です。田中伊三次さんなんかの耳に入って、で、彼は主権侵害であるということを言っているのだと、こう思いますね。ですから主権侵害は明らかなんですよ、本当言いますと。ただ、
政治的解決ということになると、余りしゃくし定規なことじゃいけないから、それはそれとして、金大中の身柄を原状回復と同様な
状態、つまり外遊を含めた自由、外遊して
日本に来れば、これは事実上原状回復ですからね、実際、そういうこと。
それから金大中の
日本その他における言動は処罰しない。同時に、日韓関係非常にけしからぬ主権侵害をやったけれ
ども、それこそ
政治的な解決で、大目に見て正常化しましょうということだったんですね、本当言いますと。私はそう思いますよ。それは大平さんがはっきりそう言ったわけじゃないけれ
ども、やっぱり何度か話した上でそう思いました。
で、大平さんとしては、やはり原状回復の変形である、外遊を含めた自由、それから
日本その他における、
外国における
政治家としての言動は問題にしないと、そういうふうに私は信じていたのだと思います。ですから私は、
伊東さんも御存じと思うけれ
ども、この問題に対しては大平さんは最後まで関心を持っていましたね。
私は、それがいま、原状を回復しろ、主権侵害だということは言いませんけれ
ども、しかし、
日本政府がああいう
政治的解決をしながら、そしてそのときはすでに金東雲の指紋、これは動かし得ない証拠です。KCIAの
一員であり、またそういう資格で駐日韓国大使館にいたわけですから、これは動かし得ない証拠を
日本の警察当局はつかんだ、そういうことなんですけれ
ども、しかし結局何か口先でごまかされてしまって、金大中の
日本側が要求したことは少しも実現されていない、こういうふうに言わざるを得ませんね。ですから、そういう原点に一応返って
考えませんと、この問題は明らかにならぬ。
日本の政府の
態度もいつまでたってもぐらぐらしているということになると思います。私
どもはそういう
立場から、もう一度しっかり韓国側と交渉すべきであると思いますよ。
裁判になった、裁判は干渉できない、これはそうでしょう。福田さんの帰ってきたときの言いぐさだとね、全斗煥氏が言っていたというんだ。つまり、あれは裁判だ、裁判だから
自分は大統領であっても一指も染められない、まことにりっぱな話である。しかしながら、これは光州事変というきわめて非人間的な方法で韓国の
国民に、みずからの
国民に韓国の軍隊が銃を向けて非常な残虐な殺し方をして、そして
国民を全く逼塞さしておいて、そして行われておる裁判ですからね、だから正当な裁判とは違います。ですから、裁判を含めて、
日本と金大中とのいままでの関係から申しますれば、もう少ししっかりした言い方をしても私はいいんじゃないかと思いますね。
今度の裁判そのものについて申し上げますると、幾つかの訴因があります。結局死刑の判決をしたんですけれ
ども、判決文というものは公表できないと、こういうことでありまするけれ
ども、しかし起訴状とかそれからこの判決に対する短い説明書みたいなもの、そういうものによると、これは内乱罪は適用されない、内乱予備罪である。それから反共法は適用されるけれ
ども、しかし死刑に該当する条項ではない。それから、為替管理法なんてのはもちろんこれは死刑にはならない。死刑になるのは国家保安法である。国家保安法はなぜかと言いますると、韓民統という団体が
日本にありますね。これは反国家団体である。私は反国家団体であるとは思いませんけれ
ども、反政府団体であったことは明らかです。朴
政権に反対もしておるし、現在の全斗煥
政権にも反対しておる。それは民主自由主義を韓国に実現しようとしている人たちだから、
軍事的独裁に反対しているという
意味でこれは反政府団体ではあるけれ
ども、しかし決して反国家団体ではない。まあしかし、これを反国家団体と認定いたしまして、そしてこれを死刑にすると、こういうことなんですけどね。しかしこの韓民統の結成というものは、御
承知のとおり金大中がすでに拉致されてから。韓国政府はソウルに拉致されたとは一言も言わない、
日本ではもう拉致という
言葉をはっきり使っているけれ
ども。ソウルに来たと言っていますけど、ソウルに来てからなんですね、韓民統の議長になりましたのは、そうでしょう。
それから、その後まあ韓民統としても金大中の助命運動とかなんとかをする、これはまああたりまえです。きわめて
日本自身が主権侵害という非難がごうごうとするような、それからまた刑事犯罪であるということが明白なような、そういう乱暴な方法で連れていったわけですからね。だから、韓民統の方で金大中の身柄についていろんなことを
考えるのはあたりまえだ。しかしながら、身柄はすでにソウルにある。そうして、私は韓民統の人からも聞きましたよ。韓民統の金ショウ……、金鍾泌じゃないですね、金のつり鐘の何とかいう名前だけれ
どもちょっと忘れましたが、その人が金大中とあの全羅南道の、馬山でしたか、どこだったか、木浦でしたか、あそこのつまり郷里が一緒で、学友であって、そして、金大中に対する見舞い電話を何回かかけたことがある。しかし、金大中の方からは一言もかかってこない。こういう状況でソウルに行ってから反国家活動ができるはずはないです。ですから、この国家保安法をもって死刑に処すということは、これは全く法を無視したものである。
われわれは韓国とも仲よくしたい。特に韓国
国民というものはそれこそ
日本国民と、まあ
中国流の
言葉を使えば子々孫々まで仲よくしなきゃいかぬ
国民ですよ。ですから、彼らに対する一部の権力者の弾圧に対しては、われわれは非常な憤りを持っているわけでありまするけれ
ども、しかしね、それだからこそ、また、それゆえに、けじめというものははっきりし、主張すべきものははっきりしなきゃ、日韓の末永い
友好は阻害される、変な何かとげみたいなものが日韓関係の中に絶えず刺さっていると、こういう
状態になるわけですね。
で、私が伺いたいのは、一体その、金大中を死刑にする訴因は何であるかということを伺いたいと思います。