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政府委員(
志賀学君) それではお手元に「
イラン・
イラク紛争の
石油情勢に与える
影響」という
資料をお配りしてございます。この
資料に基づきましてこの
イラン・
イラク紛争の
影響につきまして御
説明を申し上げます。
一枚目の御
説明に入ります前に、
背景なり何なりを御
理解いただきますために、二枚目の方からちょっと御
説明をさせていただきます。
まず
イランと
イラクの
石油事情がどうであったかということでございますけれ
ども、最初に一番上に書いてございますように、
紛争前におきまして、
イランの
生産量、これは大体百五十万バレル・
パー・
デーというふうに言われております。それから
イラクが三百五十万バレル・
パー・
デーの
生産というように一般的に言われておりました。
当時、
輸出がどうであったかということでございますけれ
ども、まず
イランがここにございますように、六十万バレルから七十万バレル・
パー・
デーの
輸出、それから
イラクが三百二十から三百三十万バレルの
輸出と、こういう
状況であったわけでございます。
その
輸出ルートといたしましては、
イランについてはほぼ
全量ペルシャ湾経由、
ホルムズ海峡を通って出ていった、
輸出されておったと、こういう
状況でございます。それに対しまして
イラクでございますけれ
ども、これは約三分の二が
ペルシャ湾経由、残り三分の一が、これは
地中海に
パイプラインが続いておりまして、その
パイプラインを通じて
地中海経由で
輸出されておったというのが当時の
状況であったわけでございます。それに対しまして
現状でございますけれ
ども、まず
イランにつきましては、
イランの
ペルシャ湾経由の
輸出の場合に、
カーグ島からの積み出しというのが大宗を占めておるわけでございますけれ
ども、
カーグ島からの積み出しというのは停止しております。それから若干
ラバン島から積み出しが行われておったわけでございますけれ
ども、
ラバン島についても恐らく停止されているであろうというふうに推定されます。それから
イラクでございますけれ
ども、
イラクにつきましては、これは
ペルシャ湾経由それから
地中海経由ともにとまっておる、不可抗力による積み出し
停止通告が来ております。とまっておるというのが
現状でございます。
そこでもう
一つ、
世界の
石油需給状況がどうであったかということでございますけれ
ども、これはその次に書いてございますように、
紛争前、大体
世界で二百万バレルから三百万バレル・
パー・
デーぐらい
供給過剰、余裕があるというふうに言われておりました。まあこういった
供給過剰があるということを
背景にいたしまして、
さきの
OPECの
臨時総会におきまして一〇%の
減産の
申し合わせが行われたとか、いろいろな
情報があったわけでございます。
それから
IEAの
平均の
備蓄水準、これは七月一日現在で百四十日ということでございました。これは
世界のやはりアメリカを初めといたします
先進国の
石油に対する
消費が非常に停滞してきておる、落ちついておるというようなことを
背景にいたしまして、
IEAの
平均の
備蓄水準というのはいままでになく非常に高い
水準にあったわけでございます。
それから、最近の
OPECの
動きといたしましては、先ほど申し上げました一〇%の
減産をするということにつきまして、これを見合わせようというような
動き、あるいはさらには
増産するというような気配というものがサウジの
増産の
情報初め出ておるわけでございます。
それから
日本の
状況はどうであったかということでございますけれ
ども、これは、まず
イランでございますが、これは御案内のように、四月の二十一日以降
イラン側の
価格引き上げを端緒といたしまして、話し合いがつかないということで
船積みが四月二十一日以降すでに停止しておったわけでございます。したがいまして、今回の
イラン・
イラクの
紛争による
日本への
影響というのは直接的には
イラクからの
輸入がとまっておるということでございまして、
イラクからどのくらい
輸入しておったかと申しますと、ここに書いてございますように、GGで十四万バレル・
パー・
デー、DDで二十五万バレル・
パー・
デー、この
程度の
契約量があったわけでございます。これをベースにいたしますと、大体
日本の
イラク依存度は
紛争前におきまして八ないし九%という
程度の
依存度であったわけでございます。
それから
日本の
国内の
石油需給でございますけれ
ども、これは
紛争前、さらに現在もそうでございますけれ
ども、
石油需給は
緩和状況でございまして、先ほど
大臣からも申し上げましたけれ
ども、
燃料油の
販売量で見ますと、七月九一・七%、八月八二%、前年比そういったかなり落ちついた
状況で推移してきている。そういったことを反映いたしまして、
灯油については八月末におきまして六百八十万キロリットル、これは
供給計画で九月の末で六百五十万キロリットルの
灯油の
備蓄というものを
目標にしておったわけでございますけれ
ども、一月早く、かつ量的にもその
目標を上回った形で
灯油の
在庫が蓄積されておった、こういうのが
状況でございます。
そこで一枚目に戻っていただきまして、以上のような
状況を踏まえて考えてまいりますと、まず
日本の八月末の
備蓄、これが
民間備蓄百四日、
国家備蓄七日——上から二行目でございます——ございます。合計して百十日というのが最近の
備蓄の
状況でございます。この真ん中辺に(注)というのがございますけれ
ども、これを過去に比べてみますとどうかということでございますが、
石油危機当時、四十八年の十月末でございますけれ
ども、これは当時六十日ぐらいという
備蓄水準であったわけでございます。それから五十三年の十月、
イランの
政変の
直前でございますけれ
ども、当時が九十一日
程度、このうち
国家備蓄は七日ということでございますが、九十一日。それから
イランの
船積み停止直前、五十五年の三月では九十五日というような
状況でございました。したがいまして、この前の幾つかのいわゆる
石油危機と申しましょうか、といった当時と比べてみますと、現在の
備蓄レベルというのは非常に高いというのが
実態でございます。
そこで、かつ先ほど申し上げたように
消費も落ちついておるという
状況であるわけでございますが、ここで
イラクの
依存度というのを仮に約八・五%ということで計算してまいりますと、三十日分の
備蓄取り崩しによりまして、
イラクからの
輸入がとだえても約一年間持つ、六十日分の
備蓄取り崩しによりますと約二年間対応可能と、こういうようなことに計算上なってまいります。そういうことからこの
備蓄という
観点からだけ考えてまいりましても、したがいまして、
イラクからの
原油の積み出しが相当期間とだえても、
日本の当面の
石油需給には大きな
影響は出ることはないというふうに私
どもは判断しているわけでございます。
ただ、
他方やはり
消費節約、
石油の
消費節約努力というのはさらに
徹底をしていくということは当然必要になってまいりますし、あるいは
代替エネルギー開発の
推進というのもさらに強力に行うことは必要であるということは当然であろうかと思います。
さらに、
世界の
石油需給でございますけれ
ども、先ほど申し上げましたようにかなり緩和した
状況であるわけでございます。ことしの一月、特に四月以降
OPEC諸国はかなり
減産をしてまいりました。それにもかかわらず、先ほど申し上げましたようにこの
紛争の前におきまして大体二百万ないし三百万バレル・
パー・
デーぐらいの余剰があるというふうに言われておったわけでございますけれ
ども、ここで仮に
イラクからの
供給が
長期間行われないというようなことになりますと、当然他の
産油国の
増産、これは現にサウジの
増産その他があるわけでございますけれ
ども、そういった
動きが出てまいります。そういった場合に、
減産をすでに行っていただけに、
供給余力というのは十分あるというふうに判断をされるわけでございます。で、
さきの
IEAにおきましても、いま申し上げましたような
実態判断と同時に、
世界の
備蓄レベルが非常に高いというようなことを踏まえまして、冷静に各国が対応すれば十分対処可能という情勢判断をしたわけでございます。その上に立って、
さきの十月一日におきまして、
IEAにおいてスポットマーケットにおける異常な購入を差し控えると、あるいは
備蓄を弾力的に運用すると、そういったことによって、
石油需給の安定に
努力するというような
申し合わせが行われたわけでございます。で、すでに私
どもといたしまして、
IEAの
申し合わせに即して各
石油企業に対して指導を行っておるところでございます。
次に、やや問題になりますのが、
ホルムズ海峡の通航がどうかという点でございます。
ホルムズ海峡を通ってどのくらい油が
輸出されておるかということでございますが、もう一度次のページをちょっと見ていただきますと、一番下の方に、「ホルムス海峡、ペルシャ湾の通航」というところがございます。
世界の
原油貿易の
ホルムズ海峡の通過量というのは、ここにございますように、五十四年で千八百万バーレル・
パー・
デーということでございまして、
世界の
原油貿易の約六〇%が
ホルムズ海峡を通過しておるということでございます。で、
日本の場合には、五十四年においては三百六十万バーレル・
パー・
デーということで、
日本の
原油輸入のうちの七五%、これが
ホルムズ海峡を通過して
日本に入ってくると、こういうことであったわけでございます。最近では約七割というのが
状況でございます。したがいまして、
ホルムズ海峡の通航に
支障が出るということになりますと、大きな
影響を
世界に与えるわけでございますけれ
ども、ただいまのところ
ホルムズ海峡の通航については特段の
支障は生じていないというのが
状況でございます。
ただ、
イランがペルシャ湾内において航路指定をやっております。まあその
影響が言われておるわけでございますけれ
ども、これについても、通常
原油の輸送に使われております二十万ないし三十万トン級のタンカーの場合については、特に通航に
支障はないというのが
現状でございます。これは、一番最後の三枚目に、「ペルシャ湾東部略図」というのがあります。これをちょっとごらんいただきますと、この右の方に
ホルムズ海峡がございます。
ホルムズ海峡の通航には現在特段の
支障はないということでございます。で、
ホルムズ海峡を通りましてペルシャ湾の中に入るわけでございますけれ
ども、
紛争前におきましては、この真ん中に航路が——往路、復路、これが書いてございます。大トンブ島、小トンブ島をはさみまして往路、復路がございまして、これは
紛争前ここを通っていたわけでございます。で、ここをごらんいただきますとおわかりになりますように、水深七十メートルということで非常に深いわけでございます。それに対しまして、最近におきましては
イランが、この下の方にアブムサ島、シリー島というのが書いてございますが、アブムサ島、シリー島の十二海里よりも南の方を通ってほしいと、こういう航路指定をやっております。そうなりますと、アブムサ島の南十二海里の辺になりますと水深が二十五メートル
程度ということで、かなり浅くなります。それからシリー島の南の方、これは海底油田がございます。十二海里の線と海底油田の区域との間が非常に狭いということで、この辺に三十万トンを超えるような大きなタンカーの場合にやや
支障が出ると、こういうことでございます。ただ、先ほ
ども申し上げましたように
原油の輸送の場合に、大宗は二十万ないし三十万トンクラスということでございますので、
実態的にはそれほど
影響はないというのが
現状でございます。ただ、いずれにいたしましても、
ホルムズ海峡あるいはペルシア湾の運航というのは非常に重要でございます。現在のところ
イラン、
イラク双方とも
石油ルートの安全
確保に努める旨表明しているわけでございますけれ
ども、
わが国といたしましても、今後ともこの
地域の動向について十分注意していくことが必要であるというふうに考えているわけでございます。
以上でございます。