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1980-11-07 第93回国会 衆議院 法務委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十五年十一月七日(金曜日)     午前十時三十五分開議  出席委員    委員長 高鳥  修君    理事 青木 正久君 理事 木村武千代君    理事 熊川 次男君 理事 山崎武三郎君    理事 稲葉 誠一君 理事 横山 利秋君       上村千一郎君    大西 正男君       太田 誠一君    森   清君       小林  進君    下平 正一君       大橋 敏雄君    塩田  晋君       安藤  巖君    田中伊三次君       中川 秀直君  出席国務大臣         法 務 大 臣 奥野 誠亮君  出席政府委員         法務大臣官房長 筧  榮一君         法務大臣官房司 枇杷田泰助君         法法制調査部長         法務省刑事局長 前田  宏君  委員外出席者         議     員 土井たか子君         議     員 稲葉 誠一君         文化庁文化部宗         務課長     安藤 幸男君         最高裁判所事務         総長      矢口 洪一君         最高裁判所事務         総局人事局長  勝見 嘉美君         法務委員会調査         室長      清水 達雄君     ————————————— 委員の異動 十一月七日  辞任         補欠選任   塚本 三郎君     塩田  晋君 同日  辞任         補欠選任   塩田  晋君     塚本 三郎君     ————————————— 本日の会議に付した案件  裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する  法律案内閣提出第二九号)  検察官俸給等に関する法律の一部を改正する  法律案内閣提出第三〇号)  国籍法の一部を改正する法律案土井たか子君  外六名提出衆法第六号)  最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する  法律案稲葉誠一君外五名提出衆法第七号)  最高裁判所裁判官任命諮問委員会設置法案(稲  葉誠一君外五名提出衆法第八号)  刑事訴訟法の一部を改正する法律案稲葉誠一  君外五名提出衆法第九号)  刑法の一部を改正する法律案稲葉誠一君外五  名提出衆法第一〇号)  政治亡命者保護法案稲葉誠一君外五名提出、  衆法第一一号)      ————◇—————
  2. 高鳥修

    高鳥委員長 これより会議を開きます。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所矢口事務総長勝見人事局長から出席説明要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 高鳥修

    高鳥委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  4. 高鳥修

    高鳥委員長 内閣提出裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。  まず、政府から趣旨説明を聴取いたします。奥野法務大臣
  5. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案について、その趣旨を便宜一括して説明いたします。  政府は、人事院勧告趣旨等にかんがみ、一般政府職員給与改善する必要を認め、今国会一般職職員給与に関する法律の一部を改正する法律案及び特別職職員給与に関する法律の一部を改正する法律案提出いたしました。そこで、裁判官及び検察官につきましても、一般政府職員の例に準じて、その給与改善する措置を講ずるため、この両法律案提出した次第でありまして、改正内容は、次のとおりであります。  第一に、最高裁判所長官最高裁判所判事及び高等裁判所長官報酬並びに検事総長次長検事及び検事長俸給は、従来、特別職職員給与に関する法律適用を受ける内閣総理大臣その他の特別職職員俸給に準じて定められておりますところ、今回、内閣総理大臣及び国務大臣等を除く特別職職員について、その俸給を増額することとしておりますので、おおむねこれに準じて、高等裁判所長官報酬並びに次長検事及び検事長俸給を増額することといたしております。  第二に、判事判事補及び簡易裁判所判事報酬並びに検事及び副検事俸給につきましては、おおむねその額においてこれに対応する一般職職員給与に関する法律適用を受ける職員俸給の増額に準じて、いずれもこれを増額することといたしております。  これらの改正は、判事補及び五号から十七号までの報酬を受ける簡易裁判所判事並びに九号から二十号までの俸給を受ける検事及び二号から十六号までの俸給を受ける副検事にあっては昭和五十五年四月一日から、その他の裁判官及び検察官にあっては同年十月一日から適用することといたしております。  以上が、裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案趣旨であります。  何とぞ慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
  6. 高鳥修

    高鳥委員長 これにて趣旨説明は終わりました。      ————◇—————
  7. 高鳥修

    高鳥委員長 次に、土井たか子君外六名提出国籍法の一部を改正する法律案稲葉誠一君外五名提出最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律案稲葉誠一君外五名提出最高裁判所裁判官任命諮問委員会設置法案稲葉誠一君外五名提出刑事訴訟法の一部を改正する法律案稲葉誠一君外五名提出刑法の一部を改正する法律案及び稲葉誠一君外五名提出政治亡命者保護法案の六法律案議題といたします。  提出者から順次趣旨説明を聴取いたします。土井たか子君。     —————————————
  8. 土井たか子

    ○土井議員 国籍法の一部を改正する法律案提案趣旨説明をいたします。  すでに本年七月十七日、デンマークのコペンハーゲンで開催の国連婦人の十年世界会議において、政府婦人に対するあらゆる形態の差別を撤廃する条約に署名しました。この国際条約の批准に向けて国内法整備が急務でありますが、性別による差別を撤廃し、個人尊厳性両性の平等を保障する上から、可及的速やかにその実現が望まれる国籍法の一部を改正する法律案について、私は、日本社会党を代表して、提案趣旨を御説明いたします。  戦後、日本国憲法の施行に伴い、憲法十四条の法のもとの平等及び二十四条の家族生活における個人尊厳両性の平等の趣旨に基づき、旧来の家父長的家制度は根本的に改められることとなり、民法の親族編相続編は全面改正されたのであります。  国籍法制についても旧国籍法を廃止して、一九五〇年に現行国籍法が制定され、その際身分関係の得喪がその国籍に影響を及ぼす点は改められております。しかし、子の国籍取得における父母同権については改められないまま今日に至り、また日本人配偶者に持つ外国人帰化要件における男女差別もいまだ改正されるに至っていません。  諸外国の例を見ますと、従来は父系血統主義を採用していた国も最近次々と法改正を行い、フランス、西ドイツ、スイスなどで子の国籍取得における平等が実現しているのであります。また国連で採択されました婦人に対する差別撤廃条約の第九条二項には「子供の国籍に関しては、婦人男性同等権利を与える。」と規定されています。これらの例より見て父母血統主義はいまや国際的趨勢となっております。  次に、本法律案要旨を申し上げます。  第一は、出生による日本国籍取得要件に関する改正であります。  国籍法第二条によれば、出生のときに父が日本国民であれば日本国籍を取得できますが、母のみが日本国民の場合は、日本国籍を取得できません。日本人母外国人父を持つ子と、日本人父外国人母を持つ子とは、同等権利を持つはずであります。  したがって、現行国籍法父系血統主義父母血統主義に改め、出生のときに父または母が日本国民であるとき、子は日本国籍を取得することといたしております。  第二は、日本国民配偶者である外国人日本への帰化要件に関する改正であります。  外国人日本帰化する場合には、居住歴五年、素行善良生計能力などの要件が必要であります。そして日本国民の夫である外国人男性帰化する場合には、これらの要件のうち居住歴が三年に軽減されるだけであります。一方、日本国民の妻である外国人女性の場合には、居住歴生計能力も不必要で、日本に入国せぬままに帰化することも可能であります。  ひとしく日本国民配偶者である外国人が、このように性別により明白な差別を受ける規定は、早急に改正する必要があります。  したがって、現行法改正し、現に日本住所を有する十八歳以上の日本国民の夫、または十六歳以上の日本国民の妻である外国人について、引き続き一年以上日本住所または居所を有する者は、平等に日本への帰化ができることといたしております。  以上が本法律案趣旨であります。  何とぞ今回こそ御賛同あらんことを心からお願い申し上げます。ありがとうございました。
  9. 高鳥修

  10. 稲葉誠一

    稲葉議員 最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律案について、提案の趣旨を御説明いたします。  憲法第七十九条は最高裁判所の長官及びその他の裁判官について、国民に直接その適否を問う国民審査の制度を規定しています。これは、主権者である国民の監視によって、民主的で公正な裁判を保障する重要な制度であります。つまり憲法が内閣に最高裁判所長官の指名権及びその他の裁判官任命権を認めながら、直接国民の審査に服さなければならぬとしたことは、最高裁判所が憲法と人権の守り手として非常な重要な役割を担っていることから見ても当然のことであります。  ところが、公正中立であるべき最高裁判所が時の政府の党利党略的選任による裁判官で占められ、政治権力に追従、迎合する判決が近年目立っており、司法の反動化はいまや黙過できない状況に至っています。  このような司法の危機を打開するためにも、不合理な投票方法をとっている現行の国民審査法を改め、主権者である国民の権利行使の一つであるこの制度を充実させることは焦眉の急であります。すでに、第七十一国会の本委員会において、「政府は、最高裁判所裁判官国民審査の方法等について検討すべきである。」との全会一致附帯決議を採決しているのも、この制度の改善が国民の大きな要求となっているからであります。  右の理由により本法律案を提案するに至った次第であります。  次に本法律案の要旨を申し上げます。  第一は記載方法の改善であります。  現行国民審査法は罷免を可とする裁判官に×印を記載することを認めているだけで、その他の白票はそれがたとえ棄権の意思を込めたものでも、すべて罷免を可としない票とみなされるというきわめて不合理、非民主的な方法であります。  そこで本法律案は、国民の意思を正しく反映させるために、罷免を可としない裁判官には〇印、罷免を可とする裁判官には×印を記入することとし、無記入投票は棄権とみなすことにより、棄権の自由を保障するものとしています。  第二は点字投票の改善であります。  点字投票について、現行では視力障害者の審査権が行使しにくい面があるので、これを是正するための点字で印刷された用紙を準備し、通常の投票に準じて決められた記号を記入するだけで意思を表示し得るものとしています。  第三は罷免成立有効投票率引き上げであります。  投票方法の変更に伴って、罷免が成立する有効投票率を改め、現行有権者総数の百分の一を、百分の十に引き上げることにより、棄権が大量に出た場合、少数の罷免票で罷免されることの弊害を除いています。  以上が本法律案提案理由並びに要旨であります。何とぞ御賛同あらんことをお願いいたします。  最高裁判所裁判官任命諮問委員会設置法案について、提案の趣旨を御説明いたします。  最高裁判所は、終審としての違憲立法審査権規則制定権、最高の司法行政権を有する司法裁判所であり、司法権の独立と裁判の公正を保持し、基本的人権を保障すべき責務を全うするために、当然の事理として最高裁判所裁判官選任人事は慎重かつ適正に行われなければなりません。そしてその選任人事が慎重かつ適正に行われたことを国民が理解し、納得するのでなければ司法は国民的な基盤を失うことになり、その権威の保持は期待できません。  しかるに、現行法最高裁判所裁判官の指名または任命は、内閣の自由裁量であり、しかも国民はその選任人事が慎重かつ適正に行われたかどうかを知ることができません。これらは明らかに法の不備であり、重大な欠陥であります。  よって、この法の不備、欠陥を是正する必要があります。  なお、一九四七年に、裁判官任命諮問委員会が設置されたことがありますが、その委員会の構成及び運営は政令にゆだねられていたため、その成果は期待に十分こたえるものではなく、翌一九四八年に同委員会は廃止されるに至りました。この経緯を踏まえ、諮問委員会の設置はもちろん、その構成と運営についても法律をもって定めておく必要があると考えます。  右の理由により本法案を提出するものであります。  次に、本法案の要旨を申し上げます。  第一に、最高裁判所裁判官任命諮問委員会の設置だけでなく、その組織・運営についても法律をもって具体的に規定しております。  第二に、裁判所法第三十九条第四項として、内閣は、最高裁判所裁判官の指命又は任命を行うには、最高裁判所裁判官諮問委員会に諮問しなければならないこととしております。  第三に、任命諮問委員会は、委員二十人をもって組織することとしております。  その内訳は、衆参両院議長最高裁判所長官検事総長日本弁護士連合会会長、及び最高裁判所指名裁判官五名、日本弁護士連合会指名の弁護士五名、さらに内閣指名学識経験者二名、日本学術会議指名学識経験者三名、以上のとおりとなっています。  第四に、任命諮問委員会が答申する候補者の数は、内閣の任命権と同委員会権威保持との調和を考慮して、最高裁長官については二人以内、最高裁判事については任命予定者の二倍以内としています。  第五に、任命諮問委員会は、裁判官の適任者として候補者を推薦するに至った理由を、内閣に答申すると同時にこれを広く国民の前に公表することとしています。  以上が本法案の提案理由並びに要旨であります。何とぞ御賛同あらんことをお願いいたします。  刑事訴訟法の一部を改正する法律案について提案の趣旨を御説明申し上げます。わが国において人権意識はようやく高まりを見せているとは言うものの、国内の人権保障の現実には、なおはなはだ危ういものがあります。身に覚えのない事件のために逮捕され、裁判でも有罪の判決を受ける者、場合によっては死刑の執行におびえながら無実を訴え続ける者も少なしとしないのであります。もしも無事の者が国家権力により処罰されるとすれば、およそこれに過ぐる不幸、これにまさる残酷があり得るでありましょうか。このような冤罪者を救済することなくして、人権擁護民主主義も存在しないのであります。  一般世人からは、神のごとく至公至正と見られる刑事裁判においても、不幸にして誤判の数の決して少なくないことを裁判の歴史は示しています。著名な冤罪事件として知られる松川事件、八海事件、仁保事件にしても、三審制の中で二度ないし三度にわたって有罪・死刑の判決がなされた後に、辛うじて最高裁の段階で救われたのであります。また、三審制度の中ではついに有罪が確定し、服役を終わった後において、再審の結果無罪を獲得したものに、最近においては弘前事件、加藤老事件、米谷事件があります。これらはいずれも厳正を生命とする裁判においても、ときに誤判のあり得ることを例証しています。しかも弘前事件米谷事件は、真犯人がみずから名のり出ることによって、ようやく再審開始に至ったのであります。  もって再審開始のいかに困難なるかを想像し得るでありましょう。  また、一九七九年に入ってからは死刑確定の事件のうち、財田川事件免田事件再審開始の決定がなされるに至りました。これらは、即時抗告または特別抗告がなされたことにより、いまだ再審の審理が開始されてはおりませんが、死刑確定の事件の中にさえ誤判の可能性が存するという深刻な事態を明らかにしております。  日本国憲法は全文百三条のうち、第三十一条から第四十条に至る実に十カ条にわたって被疑者・被告人人権保障を規定しておりますが、これは戦前・戦中の司法のあり方を根本的に改善する必要に迫られたからであります。憲法の規定を受けて一九四九年に施行された新刑事訴訟法も、個人の基本的人権保障の観点から抜本的な改正がなされていますが、刑事訴訟法の「第四編 再審」については、不利益再審の廃止を除いて、旧刑事訴訟法をほぼそのまま引き継いだ形になっております。  これらの理由により、再審法の改正は焦眉の急を要するものと思われます。  したがいまして、再審法を無事の救済の立場から正しく運用し得るよう、以下のような改正をしようとするものであります。  第一は、再審要件の緩和及び理由の拡大であります。  再審請求事件の大部分は、刑訴法第四百三十五条第六号によるものでありますが、その要件である証拠の新規性と明白性について、従来裁判所の解釈は厳し過ぎ、そのために再審は開かずの門となっておりました。  そこで「再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用される」という最高裁・白鳥決定の趣旨を踏まえ、刑訴法第四百三十五条第六号を全面的に改正しようとするものであります。  具体的条文は、現行法中「明らかな証拠をあらたに」を「事実の誤認があると疑うに足りる証拠を新たに」に改めることであります。  第二は、再審請求人の手続面における権利保障の明確化及び前審関与裁判官の除斥をしようとするものであります。  再審手続は二段階構造をとっておりますが、第一段階が非常に重要であるにもかかわらず、現行法ではその手続はすべて裁判所の職権にゆだねられておりますので、これを改め、再審請求段階国選弁護人制度弁護人秘密交通権及び記録閲覧権・謄写権、記録及び証拠物の保存、審理の公開及び請求人弁護人再審請求理由を陳述する権利と事実取り調べ請求権の保障等を導入することであります。  また、前審に関与した裁判官は除斥される旨の規定を設け、審理の公正を期することであります。  第三は、検察官反対立証の制限及び不服申し立ての禁止をしようとするものであります。  再審制度は有罪の確定判決を受けた者の利益のためにのみ存在する制度であり、これを具体化するため、再審請求段階における検察官の立証を一部制限し、そのため検察官は新たな事実の取り調べ請求ができないこととし、ただ請求人弁護人側から出された新証拠の取り調べに際し証拠の証明力を争うため必要とする適当な機会を与えられるものとしております。  また、再審開始の決定に対する検察官不服申し立てを禁止することとしております。  第四は、訴訟費用の補償についてであります。  再審で無罪が確定した事件につきその訴訟費用は、現行法では再審開始後の公判に要した費用のみ補償されるにとどまっており、一例を挙げれば加藤新一老の場合、最も困難な闘いを要した再審請求段階費用補償は全く認められず、再審開始後の費用を対象とし、しかも所要経費の一部が認められたにすぎません。  これを改め、再審請求より再審開始決定に至るまでの費用も補償することであります。  第五は、確定判決にかわる証拠についてであります。  有罪確定判決の証拠となった証言・証拠等が偽証もしくは偽造である等の理由で再審請求をする場合、現行法では、偽証・証拠偽造等の事実が確定判決により証明されなければならないとし、確定判決が得られない場合はその事実を証明して再審の請求ができることとしています。この際に刑訴法第四百三十七条ただし書きの解釈として検察官により、偽証・証拠偽造の事実につき公訴提起がなされなかった場合は、再審請求の道を閉ざしているのであります。  これは全く不合理であるのでこれを改め、検察官により公訴提起がなされなかった場合にも再審の道を開くこととすることであります。  第六は、理念規定の創設及び刑の執行停止を規定しようとするものであります。  再審制度は、無事を救済し、その人権を尊重するためにある旨の理念規定を設けるとともに、再審請求がなされた場合は、請求人等申し立てにより、刑の執行を停止することができることとすることであります。  第七は、その他として、不服申し立て期間及び旧刑訴法下の事件について、所要の改正をしようとするものであります。  以上が刑事訴訟法の一部を改正する法律案の趣旨であります。  何とぞ慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。  ただいま議題となりました刑法の一部を改正する法律案について、提案の趣旨を御説明申し上げます。  本法律案は、汚職防止を目的とする改正と、尊属殺重罰規定の削除等を目的とする改正の二件を一本の法律案にまとめたものであります。  初めに、汚職防止を目的とする改正につき趣旨を御説明申し上げます。  現在公判中のロッキード事件を初めとする国際的汚職が国民の政治に対する信頼を損なっておりますが、汚職事件再犯防止策の一環として、さきの通常国会において贈収賄罪の法定刑の引き上げを内容とした刑法の改正が実現しました。今回の提案はそのときに実現しなかった点につき、刑法の一部を改正しようとするものであります。  現行刑法百九十七条の四の斡旋収賄罪の適用を免れるため国会議員等が、その後援会その他の団体等、第三者に賄賂を供与させる事例が多数発生しております。  このような事例に対処するため、改正刑法草案は、第百四十二条に周旋第三者収賄を新たに設けております。が、本法律案の内容の第一は、それをそのまま、「斡旋第三者収賄」としたものであります。  本法律案と同じ内容の案が昭和五十一年十一月ロッキード問題閣僚連絡協議会で合意され、他の諸問題とともに発表されましたが、その後放置されたままとなっており、早急な実現が望まれます。  さらに、最近の汚職が国際的事件であることにかんがみ、日本国民が外国で犯すこの種事件についても、処罰規定を設ける必要があります。  以上の理由により本法律案を提案した次第であります。  改正の要旨は次のとおりであります。  第一に、斡旋第三者収賄罪の新設であります。  公務員が請託を受けて、他の公務員にその職務上不正の行為をしまたは相当の行為をさせないようにあっせんすることまたはあっせんしたことの報酬として、第三者に賄賂を供与させ、またはその供与を要求し、もしくは約束したときは五年以下の懲役に処するものとすることであります。  第二に、斡旋第三者贈賄罪を規定します。  すなわち、前項の賄賂を供与し、またはその申し込みもしくは約束をした者は三年以下の懲役または五千円以下の罰金に処するものとすることであります。  第三に国外犯規定の整備であります。  すなわち、斡旋第三者収賄罪を刑法第四条の国外犯とすることと同時に、贈賄罪を刑法第三条の国外犯とすることであります。  次に尊属殺重罰規定の削除等を目的とする改正につき趣旨を御説明申し上げます。  最高裁判所は昭和四十八年四月四日、昭和二十五年の旧判例を変更して、尊属殺人に特に重罪を科している刑法第二百条は違憲無効であり、尊属殺人についても普通殺人罪の規定である同法第百九十九条を適用するほかはないことを示しました。これは、最高裁が憲法第八十一条に定められた違憲立法審査権に基づき、現行法の規定を違憲無効とした最初の判例でありました。  日本国憲法第十三条は、「すべて國民は、個人として尊重される。」べきことを規定していますが、これは個人の尊厳を尊重し、すべての個人について人格価値の平等を保障することが民主主義の根本理念であるという基本的な考え方を示したものであり、法のもとの平等を定めた憲法第十四条第一項も、右の基本的な考え方に立ち、これと同一の趣旨を示したものであります。  近代国家の憲法がひとしく右の意味での法のもとの平等を尊重、確保すべきものとしたのは、封建時代の権威と隷従の関係を打破し、人間の個人としての尊厳と平等を回復し、個人がそれぞれ個人の尊厳の自覚のもとに平等の立場において相協力して、平和な社会、国家を形成すべきことを期待したものにほかなりません。日本国憲法の精神もここにあるものと解すべきであります。  刑法第二百条の尊属殺人に関する規定が設けられるに至った思想的背景には、封建時代の尊属殺人重罰の思想があるものと解され、同条が、配偶者の直系尊属を殺す場合までも刑を加重するのは旧憲法下の家の観念を存続させるものであります。  ところが、日本国憲法は、封建制度の遺制を排除し、家族生活における個人の尊厳と両性の本質的平等を確立することを根本のたてまえとしこの見地に立って民法の改正を行ったのであります。  この憲法の趣旨に徴すれば、尊属がただ尊属なるがゆえに特別の保護を受けるべきであるとか、本人のほか配偶者を含めて卑属の尊属殺人はその背徳性が著しく、特に強い道義的非難に値するとかの理由によって、尊属殺人に関する特別の規定を設けることは、一種の身分制道徳の見地に立つものと言うべきであり、前述の旧家族制度的倫理観に立脚するものであって、個人の尊厳と人格価値の上平等を基本的な立脚点とする民主主義の理念に抵触するものと言えます。  諸外国の立法例において、尊属殺人重罰の規定を廃止する傾向にあるのも、右の民主主義の根本理念が浸透してきたからであります。  親子の情は美しく、自然であります。だが、それは個人の尊厳と人格価値の平等の原理の上に立って、個人の自覚に基づき自発的に守られるべき道徳であって、法によって強制すべきではありません。強制の上に成立する制度がいかにもろいかは歴史が示しています。  普通殺人と区別して尊属殺人に関する規定を設け、尊属殺人なるがゆえに差別的取り扱いを認めること自体が民主主義の根本理念に抵触し、直接には憲法第十四条第一項に違反するものであります。刑法第二百条だけではなく、尊属傷害致死に関する刑法第二百五条第二項、尊属遺棄に関する刑法第二百十八条第二項及び尊属の逮捕監禁に関する刑法第二百二十条第二項の各規定も、被害者が直系尊属なるがゆえに特に加重規定を設け差別的取り扱いを認めたものとして、いずれも違憲無効の規定であります。  この理由により、本改正案では右に挙示した諸条項を全面的に削除することとしております。  以上が本法律案の趣旨であります。何とぞ御審議の上御賛同あらんことをお願い申し上げます。  ただいま議題となりました政治亡命者保護法案についてその趣旨を御説明申し上げます。  一九四八年の世界人権宣言は、人類の基本的権利と自由を平等に享受することを明らかにし、国連はあらゆる機会に難民に対し深い関心を示し、この基本的権利と自由を可能な限り最大限に難民に与えようと努力し、また難民の地位に関する国際条約の批准を全世界に求めています。  難民受け入れに不熱心であるとして諸外国から強い批判を浴びてきたわが国政府がようやく重い腰を上げ、難民条約加入の方針を打ち出したことは喜ばしいことであります。  しかし十数年来、わが国に庇護を求めて入国した外国人や強制送還を拒否して訴訟を起こした外国人などがあり、その都度政治問題化しております。わが党はこの課題にこたえて、一九六九年以来三度にわたって国会に法案を提案いたしましたが、成立には至りませんでした。  この際、政治亡命者の在留資格など最小限度の要点について、難民条約の批准前といえども法定することが緊要と考え、本法案を提出した次第であります。  以下法案の概要について御説明申し上げます。  第一に、法の目的として世界人権宣言第十四条の規定の趣旨にかんがみ、政治亡命者の保護を図るため、これに対する在留資格の付与その他必要な事項について、出入国管理令等の特例を定めることといたしております。  第二に、政治亡命者の定義は難民条約と同様とし、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団への所属、または政治的思想を理由として自国において迫害を受けるおそれがあるため、自国の外にあり、自国の保護を受けることができず、または自国の保護を受けることを望まない者としております。  第三に、本邦にある外国人は永住許可者を除き、すべて政治亡命者としての在留資格の取得ができるものとし、不法入国者、不法残留者なども法務大臣へ申請することによって在留資格を取得できることとしております。  第四に、申請に対する許可または不許可の処分があるまでの間、不許可の処分に対する出訴期間及び当該処分についての取り消し訴訟の提起後六十日間は本邦から退去させることができないものとしております。  第五に、政治亡命者といえども一定の場合には退去強制を求めるものとしておりますが、その事由は出入国管理令第二十四条に比して著しく限定しております。  第六に、右の場合の送還先については、迫害を受けるおそれのあるときは本国に送還せず、本人の希望する国としております。  第七に、政治亡命者としての在留資格を取得した者については、当該在留資格の取得前の不法入国等の行為は処罰しないものとしております。  その他、在留資格の変更、更新など、所要の規定をしております。  以上が本法案の趣旨であります。何とぞ御審議の上、御賛同あらんことをお願い申し上げます。
  11. 高鳥修

    高鳥委員長 これにて趣旨説明は終わりました。      ————◇—————
  12. 高鳥修

    高鳥委員長 裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案の両案について質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。熊川次男君。
  13. 熊川次男

    ○熊川委員 ただいまの両法律案について、私は、過去約一年間ぐらいの間で、見方によっては最も慎重を期すべき法律案ではないだろうか、見方によっては非常にこわい法律案だという感を抱きます。たかだか最高裁判所裁判官あるいは検事総長のわずかな俸給増額に関する問題ではないかというような見方もあるかもしれませんけれども、また、それがきわめて裁判官の謙虚性を認めるようなこともないわけではありませんが、他面、これが司法権の独立の基盤であるところの裁判官の身分の保障、それを実効あらしめるところの裁判官報酬にきわめて密接に関連するからであります。したがって、この法案に関連して、最高裁判所裁判官会議においてこれに対する異論が出たのではないだろうかと私は思うのですが、もし出なかったとするならば、私は、国民最高裁判所に対する大きな失望であり、信頼を裏切るおそれがないだろうかと懸念するものであります。  きわめて著しい非行のあった安川元簡裁判事の退職金に関しては比較的寛大な態度をとるように見られた最高裁判所でありながら、いま提案されている法律案に関して安易に応諾あるいは積極的阻止の態度をとらなかったとするならば、どこに起因したのだろうか。多分、最高裁判所長官報酬月額は内閣総理大臣のそれと等しく、最高裁判所判事のそれは国務大臣のそれと等しいとする、裁判官報酬等に関する法律に依拠しているのではないだろうかと思います。しかし、結論から言うならば、法律を守るのかあるいは裁判官の身分保障の原理原則に忠実に従うのかという、両者の選択を迫られるのが本案ではないかというふうに私は思います。  言うまでもなく、国務大臣、こういう方々は国民の感情というものに鏡を当てて行動しやすい。ところが、特によその言うところの憲法裁判所的な一側面も帯びているところの、違憲立法審査権すら持っている最高裁裁判官は、その終審判断者としてのきわめて重責を持っている者であり、特に言うまでもなく憲法と良心にのみ鏡を当てるべきではないだろうかと思っています。金のことはなかなか言いにくいというのが多分裁判官の胸の内を走ったのではないだろうかと思いますけれども、総理や閣僚より高い給料はもらいにくいというような安易な考え方があったとすれば、私は、非常に危険な思想、感情によって動かされているのではないだろうかと思います。見方によっては、司法権の独立を後退させ、若干飛躍的に言うならば、みずから法の衣を脱ぎ捨てかかってはいないだろうかとすら考えます。仮に今後五年間も十年間も、政治資金規正法などの活用によって国務大臣の報酬が上がらないという方策をとるならば、自然に最高裁判事の早期退任を促すことはいとも簡単にできるのではないかと私は思います。  こういう意味において、昨年も増額がストップし、また本年も、続いて三年も続かんとするときに、三年間なら違憲でないけれども、多分、これが十年間も上がらなかったら、これは違憲のにおいが強いとおっしゃるのではないでしょうか。だとすれば、何年から違憲になって、何年が合憲なのでしょうか。私は、そのような年数の問題ではないと思うのです。やはり、一年であってもほかの裁判官と同じように——憲法七十八条は全部の裁判官を包括してその身分の保障をしていると思うのです。なぜ最高裁判事だけがあのように別異に扱われていいのでしょうか。最も保障され、国民が最後のよりどころとしている最高裁判事がこのような別異に扱われるということは、ややもすれば、私はどうも感情、安川判事事件に見られるように、余りにも国民の顔色に向き過ぎて、憲法の鏡に向くのをやや少なくしているのじゃないだろうかと思います。  これは卑近な例でございますけれども、最高裁をおじいちゃん、高裁をおやじさん、地裁を私と考えた場合に、三人でごちそうを食べに行って円テーブルに座って、おやじと私だけが十分食べろ、数がなさそうだからおじいちゃんは遠慮するよと言って、下級裁判所裁判官が気持ちよくいただけるでしょうか。裁判官の本当に調和のとれた、最高裁判所を頂点としたハーモニーのあるオーケストラを奏でるのは、最高裁みずからがその姿勢を謙虚に示さなければならないと私は思うのです。  このような意味において、七十九条あるいは八十条に言うところのいわゆる相当額は、裁判官報酬一般公務員報酬より多くする趣旨だという憲法論者もおるくらいですけれども、私は、仮にその説をとらないにしても、裁判官の職務の重要性にかんがみ、ことに身分を高く保障すべきものとする憲法の精神から言って、裁判官には十分な報酬を与えるべきではないか、それが相当額の言葉の存否にかかわらず憲法の精神だと思うのであります。また、在任中減額されることがないというこの保障の中には、一般公務員が上がったときに特別の裁判官が上がらないというのは、これはある種の相対的、実質的な減額に当たらないかどうか。あるいはまた、少なくも他の裁判官が上がったのに最高裁判事だけが上がらないというのは、憲法七十九条の精神にあるいは少なくも七十八条の精神に反しないのかどうか。全体の公務員俸給を下げることを法律で行う場合においても、裁判官報酬に関する法律を改めて裁判官全体につき報酬を引き下げるということは違憲だというのがやはり多数説であり、有力説ではないでしょうか。また、裁判官がみずから減俸に同意したとしても裁判官の減俸はできないというのが憲法の精神だと承知しております。  このように考えてみるならば、裁判官である以上、私は、一年といわず二年も三年もこんなふうに別異に扱われることは、明確にとは言いかねますけれども、少なくとも憲法の精神にかなり背くものではないだろうかと思います。高等裁判所裁判官最高裁裁判官報酬が、間もなく一致してくるでしょう。場合によれば、いまのままでいけば、わずかの年数で凌駕するでしょう。逆転するでしょう。相当額というのは、身分と、それにふさわしい生活をすること、それからその職責を全うするにふさわしい額でなければならないと言われておりますけれども、実質的報酬減額を容認しようとする最高裁は、みずから職務を減少し責任を回避しているのでしょうか。政治的献金などを受けて、いろいろの面から総理あるいは閣僚は収入を得ることができると思いますけれども、そういう道が全くない裁判官が、総理が云々、閣僚が云々だからというそんな感情で、よそのことを気にしてやったらまずい、本当に心配でなりません。この辺、事務総長からそのお考えをまずお聞かせいただきたいと思います。
  14. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 ただいま裁判官の職務ということについて非常に御理解ある御発言をいただきまして、ありがたく存じておるわけでございます。  裁判官の職務は、ただいま御指摘のように、法律と良心に従って時のいかなる力にも屈せず、自分の信ずるところを行うということでございまして、そのことのために裁判官に身分保障が非常に強く認められておるのでございます。その一環といたしまして、憲法に直接、裁判官は、ことにただいま問題になりました最高裁裁判官は相当額の報酬を受けるということを規定されております。もちろん下級裁の裁判官も同様の規定を設けられております。このように報酬というものが憲法規定されておるということの意味合いは非常に重大なものでございまして、単なる、ある仕事をしてその対価としての金額といったようなものとは、その近代的な憲法的な意味合いにおいて非常に異なるものであることは御指摘のとおりでございますし、非常に深い御理解をお示しいただきましたことについて感謝を申し上げるわけでございます。  ただ、具体的な報酬の額ということになりますと、それがどのようにして決められることが妥当であるかということも、また一つの大きな問題でございます。憲法は抽象的に相当額の報酬という言葉を使っておるだけでございまして、幾らであるということを実は明記もいたしておりませんし、また、だれとの比較においてどのようにするのが相当額の報酬かということも実は規定をいたしていないわけでございます。私どもこれまで、憲法に定める相当額の報酬のあり方につきましては、実はこの新憲法制定以来、これでいいのかということで常に考えてまいりましたし、また、いまから十数年前になりますが、内閣に設けられました臨時司法制度調査会等におきましても真剣にその点が論議をなされたわけでございます。  今日の扱いといたしまして、定着したと申し上げるのはどうかという点もないではございませんが、一応定着いたしてまいりました扱いという点は、日本国憲法は御承知のように三権分立の制度をとっております。立法権、司法権、行政権ということで三権がそれぞれチェック・アンド・バランスの形をとって、そこに民主的な日本国というものを運営していくということを定めております。その三権のそれぞれの長というものは、それぞれの立場において、それぞれ憲法を守り立てていく上の重要な職責を担っておられるわけでございまして、それらの三権の長がどのような取り扱いを受けるか。ことにいわゆる報酬、これはいわゆる報酬でございますが、いわゆる報酬の関係においてどのような取り扱いを受けるかということについて現在定着いたしておりますところは、それぞれが日本国における最高の対価を得る、そしてそれは三権それぞれの立場でそれぞれの重要性を有するがゆえに同じものとして扱っていくという慣行ができておるわけでございます。  諸外国の例等も私ども十分に検討いたしております。御承知のように、外国司法というのは大きく分けまして二つの型がございますが、一つはいわゆる法曹一元の型でございますし、一つは大陸法系の職業裁判官、専門裁判官によるキャリアシステムの型と二つございますが、そのいずれの型の国をとってみましても、その国の最高行政責任者あるいは立法府の最高責任者、それと裁判官最高裁判官の待遇といったようなものは大体拮抗して取り扱われておるというのが実情でございます。そのように見てまいりますと、私ども、現在行われておりますこの三権の長あるいはこれに準ずる方々をそれぞれ対等に扱っていくという慣行というものは、その面ではきわめて好ましい慣行であるというふうに考え、維持すべきものと考えておるわけでございます。  ただ、ただいま熊川委員御指摘のように、実際問題として三年間最高裁長官最高裁判事報酬が据え置かれるということは、まあ御理解あるお言葉として承った私の理解する限りにおきましては、それはかわいそうではないか、むしろそんなことで自己謙抑をしないで、もっと主張すべきものは十分に主張すればいいではないかという御理解あるお言葉というふうに拝聴したわけでございますが、そういった面、私どもも考えないわけではございません。やはり最高裁長官最高裁裁判官は、それはそれとしていわゆる世間の貨幣価値と連動すると申しますか、そういうことによって高い報酬をいただくようなお取り扱いをいただきたいということは私どもの希望でございますけれども、しかしこれにはやはり一定の幅があるわけでございまして、現在のところ、今回政府が御提案になっております措置ということについては、私ども日本国の今日の状況といったようなものから見てみましてやむを得ないというふうに考えたわけでございます。これでいいということではございませんで、あくまでやむを得ないと考えたわけでございますが、ただ、これから何年も据え置かれてそれでもいいのかといったようなことにつきましては、決してそのようには存じておりませんし、また最終的に御決定をいただく国民の代表である国会におきましても、それはそれとして十分御配慮をいただけるものというふうに考えておるわけでございます。
  15. 熊川次男

    ○熊川委員 いま御理解あるとかかわいそうではないかという御質問という話がありましたけれども、私は国会議員になりたてでまだまだ理解も十分できませんし、そういうものじゃなしに憲法の基本原則に背馳しないか、もとらないかということを考えておるわけです。  なるほど三権の長が拮抗する、これはもちろん結構でございますけれども、拮抗の美名のもとあるいは日本の今日の現状から見てやむを得ないじゃないか、今日の現状、私のとり方によれば財政再建という命題かもしれません。財政再建であろうがなかろうが、人権の番人として、財政再建というオオカミが来ても人権の前にははだかって、門番をして入れないというところに司法権の独立、身分の保障、それを実効あらしめるところの裁判官報酬の問題があると思うのです。本法案が違憲のおそれがなく、その成立が可能だとすると、司法権の独立を脅かす大きな萌芽がすでに出ているということを私は心配するわけです。  そういう意味において、その定着したとかあるいはチェック・アンド・バランス、こういう言葉も言われましたけれども、いまの場合は立法権と司法権のチェック・アンド・バランスではなくて、司法権からのチェック・アンド・チェックではないか、両方チェックされているのじゃないだろうかと私は思うわけでございます。こういう意味において非常に残念といいますか、もう一度よく御深考を仰ぎたいと思います。そして何としても、アメリカなどにおけるところの違憲立法審査権が、立法権ではなしに裁判所の並み並みならぬ努力によってかち得たものであるという歴史的事実を踏まえて、私は深く考えていただきたいと思います。そして財政再建というブルドーザーに押し戻されることなく、しっかりしてもらわないと、未来にわたる大きな汚点を残しはしないかと私は心配いたします。かような意味で、何年もこのままでよいとは思わないがという気持ちをもっと強くしていただいて、過去停止していた分を早急に取り戻すような、原状復帰をするような方策を近いうちにとるということを私は心から祈念いたしますが、いかがでしょうか。
  16. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 司法府におります者といたしまして、憲法によって与えられた違憲立法審査権、法令の適用権といったものについては、その報酬額のいかんにかかわらず、断固として行うべきときにはこれを行うという決意においてはいささかも欠けるものはございません。そういう点からの報酬の保障でございます。そういった観点を踏まえまして、今後も十分にあるべきあり方というものについて検討してまいりたいと存じます。
  17. 熊川次男

    ○熊川委員 それから、もう一つほど質問させていただきます。  最高裁判所裁判官並びに検事総長報酬俸給は引き続いてアップを停止されそうなんですが、東京高裁長官との月額の差は、いままで十五万円であったところが、改正案によれば今度は十万円に短縮してくる。こういうことがいわゆる給与の体系上どういうふうに見受けられるのか。また、判事八号以上、検事八号以上の改正報酬俸給の実施時期は十月一日と聞いております。そのような案でありますが、たとえば判事八号と簡判五号との年間所得を比較すれば、今年には逆転するのじゃないでしょうか。この辺をいかが御理解しているか、ちょっと教えていただきたいと思います。
  18. 枇杷田泰助

    ○枇杷田政府委員 ただいまの御指摘のまず第一点の、最高裁判所判事と東京高裁長官との金額の差がだんだん詰まってまいりまして、今度の案によれば十万円ということになるわけでございますが、やはり最高裁判所裁判官と下級審の裁判官との間には実質上にもかなりの違いがあるという評価があってしかるべきだと思います。そういう観点から、給与の面におきましても、ここには相当額の差があることが相当であろうということは私どももよく承知しておるわけでございますが、先ほど来のお話のように、最高裁判事については据え置きということになりまして、結局十万円という差に縮まってまいりました。私の感覚といたしますと、大体このぐらいがもう限度ではないかという感触でおります。  それから第二点の、検事八号、判事八号以上のいわば指定職相当の者につきまして十月一日からということになっておるわけでございますが、これも現在の裁判官報酬を相当性というところでどういうところに比較をしたらいいかということで、一応一般政府職員の指定職の各号俸のものに相当するというふうなことで評価をしております。その対象になります指定職の方が十月一日からということでございますので、それに合わせざるを得なかったというのが正直に申し上げたところでございますが、裁判官検察官については、その施行時期といいますか適用時期については、何もそこまで合わせなくてもいいではないかという御議論もあろうかと思います。しかし、この相当性というものの中には、やはり適用時期という関係につきましても配慮さるべき点があるのではないかということから一般職に合わせたわけでございます。  その結果、ただいま御指摘がありましたように、簡裁判事の五号と判事八号、それから副検事二号と検事八号との間に、昭和五十五年度の一年間の給与額を総計いたしますと、これは扶養家族の多い少ないによって実は変わってまいりますが、配偶者と子供が一人いる簡易裁判所判事の五号俸の方と判事八号の方、同じように副検事の二号と検事八号の場合には、年間トータル金額では若干逆転するという計算に相なってまいります。その点は若干問題があるということはわかりますけれども、ただ御承知のとおり、簡易裁判所俸給を受けるという方はその系列で昇給されるということでございますし、副検事はまた副検事ということで俸給の体系が違うと申しますか受けるグループが違いますので、実際上はそれほどの逆転は現実問題としては出てこないというふうに考えて、これもやむを得ないではないかという考えでございます。
  19. 熊川次男

    ○熊川委員 時間がわずかですが、もう少し聞きたいと思います。  いまのお話に、限度ではないかと思うという趣旨のことがありましたが、これは、これ以上このようなことを進めていけば憲法に触れるというような意味でしょうか、それとも何が限度だというのでしょうか、一言だけ。
  20. 枇杷田泰助

    ○枇杷田政府委員 憲法の相当額というところの議論になりますと、なかなかむずかしい問題がありますけれども、やはり憲法上も七十九条と八十条というところで別々に書いておるというふうなこともございますので、そこら辺にはかなり差があってもいいだろうという憲法の精神といいますか考え方ということからしますと、やはり余り詰まってはおかしいということでございまして、憲法違反というふうな観点でぎりぎり詰められますと、私も答弁しかねるわけでございますが、しかし、いろいろなほかの裁判官給与の体系の流れをずっと見てみますと、大体十万円ぐらいがもう限度で、また来年も同じようになりまして今度は五万円に縮まるというようなことになると、少し給与体系としてはおかしいのではないかというような考えでございます。
  21. 熊川次男

    ○熊川委員 法務大臣、ただいまいろいろお聞きいただいたのですが、事務総長からも丁寧なお答えをいただきましたが、本法案自体に対する法務大臣の御所見、並びに仮に当を失する面があるとするならば、今後この解決策に対してどのような御見解をお持ちか、お聞かせをいただきたいと思います。
  22. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 大変重要な御意見だと拝聴いたしました。同時に、バランスが適当でないから最高裁長官判事報酬をストップしたわけではなくて、時節柄いろいろなことを考えて今回は見送るということになったのだと思っておりますし、したがいまして、改正できます場合には何年か分をまとめて引き上げるというような措置がとられるべきじゃないかな、こうも思っておるわけでございまして、将来こういう問題があります場合には、いまの御意見も十分踏まえて私たちは検討しなければならない、こう思っております。
  23. 熊川次男

    ○熊川委員 では、希望を一つ述べてさせていただきます。  時節柄かくなったと思われるという御判断ですが、それも無視できないと思いますけれども、時節に余り流されないところに私たちのよりどころ、門番あるいは番人があろうかと思いますので、時節も無視できないでしょうけれども、時節におもねて本来の憲法の番人的な職責を軽視することのないように、裁判官だからといって、その妻子だからといってかすみを食べているわけじゃないのですから、ひとつその辺もよく内々で——ある人の結婚式で私聞いたことがありますけれども、ある最高裁判事さんのスピーチに、新婦に向かって、新郎の胃袋を取れ、把握しろ、征服しろ、コントロールしろ、こういうふうに言う。聞いてみたら、要するに新郎に一番気に入る料理をつくれ、こういう趣旨のことです。それが新郎と仲よく平和な家庭をつくる一番のポイントだと聞きましたけれども、家庭の平和、一番の財布を握っているのは奥さんですから、奥さんに余り心配をかけることのないようにすることが、強いて言えば身分の保障そして司法権の独立に欠くことのできないものであろうかと思いますので、どうか御深慮を仰ぎまして、質問を終わらせていただきます。
  24. 高鳥修

    高鳥委員長 横山利秋君。
  25. 横山利秋

    ○横山委員 法案内容に入るに際しまして、法務大臣に少し一問一答をしておきたいと思います。  それと申しますのは、就任以来あなたの主として憲法に関する発言について余りにも騒然たる状況であり、国民の中にもかなり重大な問題提起をなさっておる。私ども野党といたしましても、とにかくあなたの政治姿勢をみんなが疑っておる。与党内にも不協和音が目立つ。このままでは、この委員会の円満なる運営といいますか、形の上では動いておっても、実際問題としては気持ちよくあなたの話を聞く、気持ちよくあなたに対する質疑がやや行えない、こういう感じがいたします。  そこで、私がきょう聞きますのは、やや復習的ではありますが、なぜ私がそれをやろうとするのか。私は一つの折り目をいま感じておるわけです。このままではいけない。私どももじっとしておれない。恐らく他の野党の皆さんもそうだと思うのです。あなたの言いっ放しを聞き流しできません。そういう意味合いで、あなたに率直に一問一答をいたします。意見の交換をしようとは思いません。  まず第一に、靖国神社に対する閣議で稲葉委員に対して行われた回答と、あなたが本委員会でその後行われた答弁とは明らかに違う。これは官房長官も違うと言っておられる。この間稲葉委員に対して答弁された問題は明らかに違うと思われるから、この際撤回をなさる意思はないか、端的にお答えを願いたいと思います。
  26. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 私から進んで発言したといいますよりも、稲葉さんから率直な気持ちを聞きたいというお尋ねでございましたから、私が率直にお答えをさせていただいたわけでございます。  同時に、内閣稲葉さんに答弁いたしましたのは、あのときにもお答えいたしましたように、靖国神社は憲法上の宗教団体であると明言しているわけでございます。参拝等の問題につきましては、問題があるという表現を使っておるわけでございまして、それは違憲だと言っていないわけであります。違憲とか合憲とか決めかねる、こういうことでございまして、その中におきまして、私は年来そこまで禁止しているわけではないじゃないかなという疑問を持っているのです。しかし問題がありますから、靖国神社に参拝しますときにも私の資格で参拝しています、こう申し上げてまいってきているのです。ぜひすっきりした姿にしてもらいたい、こう願っているのです、こう申し上げてまいっておるわけでございまして、私は、内閣の方針と私の述べておりますことに食い違いはない、こう思っておるわけでございます。
  27. 横山利秋

    ○横山委員 憲法二十条は「いかなる宗教團體も、國から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」こう書いてある。かつ、閣議で一つの見解が出された後に、矛盾しないとは言いながら、あなたはそれに対する反発を示されておる結果になっておるわけです。  私はもう意見のやりとりをしません。この間稲葉委員に言われたこと、きょうあなたがいま言われたこと、それを撤回する意思は絶対ありませんか。それを聞いて次に進みます。
  28. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 憲法二十条三項に、国及びその機関は宗教教育その他宗教的活動をしてはならない、こう書いてあるわけでございまして、その宗教的活動に靖国神社の参拝が入るか入らないか、こういうことだと思うわけでございます。  それについては政府は、問題がある、違憲とは言い切れない、しかし問題がある、こういう態度をとっておるわけでございますから、私も法務大臣として参拝に来たわけではないのだ、個人として来たのだ、こう言っているわけでございますけれども、私としては、その宗教的活動の中には参拝まで含んでいると解し得るものかどうかということについては疑問を持ち続けている、こういうことでございまして、これはやはりいろいろな考え方があるということを政府も認めておるわけでございますので、その中では、私はどちらかというと、私がいま申し上げるような気持ちを持っているのだ、疑いを持っているのだ、こう申し上げているわけでございますから、私は撤回する必要はないのじゃないか、こう思っておるわけであります。
  29. 横山利秋

    ○横山委員 では、あなたは、閣議で出されました統一見解に対して疑義があり、かつ自分の言ったことを撤回する必要はない、そう言われたと承知をいたします。  次に、あなたは閣僚の一人として、あらゆる機会を利用して改憲の運動助長を図っていると思われる。結果はそうなっている。このことは、憲法九十九条の国務大臣の義務に違反していると思いませんか。
  30. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 鈴木内閣は憲法改正全く考えない、こう言っているわけでございますから、鈴木内閣の閣僚といたしまして、私の言動が憲法改正を推進しているような動きにとられることは避けなければならない、こう思っておるわけでございます。したがいまして、鈴木内閣の方針が明確になりまして以来、私はあとう限りそういうように受け取られないような配慮はいたしてまいってきておるつもりでございます。
  31. 横山利秋

    ○横山委員 配慮をいたしていると言いながら、いま靖国神社の問題で閣議の回答について疑問を呈しておられることを念頭に置いておきます。  三番目に、あなたは法務大臣である、歴代の法務大臣が常に法秩序の維持を言われる。それは中心として憲法について自分の立場を明白にされておられる。最高裁長官もまた常に訓示の中でそういうことに言及されておる。あなたは特にほかの閣僚と違って、法務大臣として最も法秩序、最も憲法秩序について責任者である、あなたはそう思いませんか。
  32. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 憲法理論といたしましては、閣僚も国会議員も憲法を尊重擁護する義務を負っておるわけでございまして、どの閣僚であるからということでその間に違いはないと思います。ただ、人の感じとして、法務大臣だからどうのこうのと言われることを私は別段非難しようとは思いません。しかし憲法論であります限りにおいては、閣僚の間に憲法尊重擁護の義務に差はあるものではない、こう思っておるわけでございます。  同時にまた、この憲法をよりよいものにしていくための責任もみんなが持っているのじゃないだろうかな、こう思うわけでございまして、そういう意味において、憲法解釈あるいはまた改憲論議、そういうことにつきましても率直にお互いに議論を言い合いますことがこの憲法をよりよいものにしていく上において大きな効果があるのじゃないかな、こう考えているわけでございます。したがいまして、尊重擁護の義務と改憲論議とは矛盾するものではない。しかしながら、鈴木内閣は憲法改正を全く考えていない、こう言っているわけでございますから、私の言動が改正方向に持っていこうとしているような誤解を与えないようにしなければならないと考えておるわけでございます。
  33. 横山利秋

    ○横山委員 あなたはかつて、今日の日本国憲法が占領軍から押しつけられた、自発的なものではないというような趣旨の発言をいたしました。それをいま撤回する気持ちはありませんか。
  34. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 私は、押しつけられたという言葉をいまだかつて使ったことはないように思っております。八月の末に稲葉さんからお尋ねを受けまして、自主憲法についてのお答えの中で、日本国憲法は占領軍の指示に基づいて制定されたものであると理解しています、こう答えたわけでございまして、その考えには変わりはございません。
  35. 横山利秋

    ○横山委員 あなたは護憲運動について批判をなさいました。あの発言を撤回なさるお気持ちはありませんか。
  36. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 護憲運動全体がどうのこうのと言っているわけではございませんで、憲法改正運動もございますし、あるいは憲法改正反対運動もございます。これはもうどちらも憲法上大いにやってしかるべきことだと考えておるわけでございます。  ところが護憲を名のっておられる団体の中に、それは護憲というよりも憲法改正反対運動でありますけれども、改正運動を封殺しようとするような動きをなさる、改正運動を認めないというような動きをなさる団体があるものでございますから、これは自由な論議を守っていこうとする憲法の基本姿勢に反するんじゃないだろうかな、こう考えておるわけでございまして、そういう意味で、私は護憲運動について論及したことがございますし、いまもそのような考え方を持っておるわけでございます。改正遅効であれ改正反対運動であれ、自由にすればいいじゃないだろうかな、こう思っておるわけでございます。
  37. 横山利秋

    ○横山委員 あなたは本委員会で私どもの質問に答え、私も質問したのですが、今度の戦争はやむにやまれぬ理由から戦争になったんだという趣旨の発言をなさいました。つまり、私はそれを自衛戦争と考えるのかと言いましたところ、それははっきりしませんでしたが、戦争責任、戦争の原因について言われた言葉を撤回なさるつもりはありませんか。
  38. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 参議院の本会議でしたでしょうか、戦争の性格を尋ねられて、そのことに関連してまたここでお尋ねをいただいたのかもしれません。そのときに、ちょっといま正確な言葉を忘れましたが、戦争に追い込められたというのですか、そういう状態になったことを残念に思っていますと、こう申し上げたと思うのです。  私は、あの戦争が単に、昭和十七年ですか、あのときから始まっているとは思えないわけでございまして、ずっと長い間の経過をたどりながらついにあの事態にはまり込んでいった、こう理解をしているわけでございます。明治以来十年ごとに戦争をやってきたということも申し上げたと思いますし、そういう原因をいろいろ探求してくると、帝国憲法にも私は原因があったように思うのだということを申し上げたと思いますし、その中で特に統帥権の独立ということが災いしておったように思います。当時帝国議会があったけれども、軍部を批判した人たちが逆に帝国議会から去らなければならないような状態に置かれたりしておって、本当に自由濶達な論議が帝国議会ではなされなかった、これも残念であったということを申し上げたことがあるわけでございまして、私は、いろいろな原因が積み重なってああいう事態に日本は入っていったのではないかな、そういうところに追い込められていった当時の状態というものを残念に思っているんだ、いまもそう考えておるわけでございます。
  39. 横山利秋

    ○横山委員 私は、なるべく自分の意見を言わずに問題を整理をしておるわけですが、冒頭に申しましたように、あなたのおっしゃっておられることについて、一つ一つ私どもとしては憤激を禁じ得ないのであります。  率直に申しますが、昨年の十月以前の保革伯仲時代においては、恐らくそんなことはどなたもおっしゃらないであろう。いま自民安定のときに、あなたがその政治情勢を踏まえて、かかる発言を堂々と、うまくかわしながら、そして憲法改正の方向へ進めようとしておる。あなたは学者でも評論家でもない、政治家でございますから、自分が何を言っておるか、自分の言っていることがどういうふうに影響するか、人に聞かれたから答えたんだ、そういうばかりではないと私は思うのです。そのあなたの本質というものについて、あなたは自分でどうお考えになっていらっしゃるのでしょうか。あなたがそうでないと言いながら、人は、マスコミは、国民は、与党の中には、あなたの発言を政治的に解して、あなたのやろうとしておる真意というものを想定をしておるわけです。そのことについて、あなたは何らの責任も感じないんですか。
  40. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 国会でいろいろお尋ねをいただきながら、その都度私なりに率直にお答えをし、またいまのように、横山さんからそれについての批判めいた意味のお言葉もございました。十分それぞれ謙虚に受けとめていきたいと思っております。  私はひたすら、国会においては、国の運命を背負っているところだから、今後の日本のあり方について率直に意見を交換する、議論を交わし合っていく、それでなければ責任を果たせないのじゃないだろうか。あんなことを言ったらいけない、こんなことを言ったらとがめられるということよりも、むしろ自由濶達に論議を尽くす、そうして国の将来に過ちなきを期していく、これが大切じゃないかな、こんな気持ちを深く持っているものでございまして、特段に策を持って私はお答えをしているというつもりはございません。できる限りお互いが率直に意見を交換し合って、日本の将来に過ちなきを期していかなければならない、そういう一番大事なところが国会じゃないだろうかなということを常日ごろ思っていることだけは御理解を賜っておきたいと思います。
  41. 横山利秋

    ○横山委員 もう一つだけお伺いをいたします。  総理大臣、それから官房長官、閣議、そういうところがあなたを迷惑がっておる、与党の一部でも迷惑がっておるという雰囲気が今朝の新聞にも出ています。あなたがどう言われようと、客観的には閣議で決まった方針に矛盾しておる。あなたは認めざるを得ないじゃありませんか。あなたがどういうふうに言いつくろおうと、閣議で方向が決まったすぐ直後にそれに矛盾することを言う、官房長官も矛盾しておると認める、そういうことについて、閣僚の一人として責任をお感じになりませんか。
  42. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 靖国神社の問題、この間稲葉さんから率直に気持ちを聞きたい、こうおっしゃられましてお答えをしたわけでございますし、いまも申し上げましたように、稲葉さんの質問に対しまして内閣としてお答えをした、その中では靖国神社は憲法上の宗教団体ですと、こう答えておりますし、私はこれに対しまして別に違った意見を申し上げたことはございません。  公式参拝等の問題につきましては、問題があると答えておるわけでございまして、私も問題があると、こう理解しておるわけでございます。違憲論もあるし合憲論もある、そういう意味合いで、ことさら地鎮祭の例まで、津の地方裁では合憲の判決をし、名古屋高裁では違憲の判決をし、最高裁では合憲の判決をしておる、そのように、宗教的活動の範囲をどこまでにするかということについてはいまだ定説がない。したがってまた政府も、問題がある、違憲だとも言い切れない。その中で私は、そこまで禁止しているんじゃないんじゃないだろうかなと思いますと、少なくも私が靖国神社に参拝する場合には、個人の資格で来ましたと言わざるを得ないような形はすっきりさせたい、こういう希望を持っています、こう申し上げてきているわけでございまして、私は内閣の方針と違ったことをお答えしているわけではない、むしろ率直にそうやって意見を交換し合いながら正しい道を求めるのが国会のあるべき姿ではないだろうかな、こんなことを言ったら社会党の方にしかられるからなるたけ言わぬ方がいいじゃないかなというような配慮なしに、私は、自由濶達に国会議員が意見を交換し合えるような国会にしていくことが、日本の将来に対して責任を負える国会になっていくのじゃないかなと念願しているわけでございます。
  43. 横山利秋

    ○横山委員 問題のすりかえをなさってはいけません。  冒頭に申しましたように、これだけ私が詰めましたのは、私が一つの決意を持ってこれからしようとする意味において、せめてあなたが、いろいろと閣議の方針あるいはまた与党、野党の中に不協和音を起こしたことについて多少の反省をなさるかどうか、それを考えながらもう一遍再整理をしたつもりであります。しかし、あなたは反論をなさる。大変残念でございますが、これはもうやりとりをしても意味がないようでございます。あなたのいまの御答弁で、少し私ども野党側としても考えたいことがございます。  それでは質問を次へ進めます。  政府にお願いするのか、どこへお願いするのかわかりませんが、委員長を通じて裁判官の立候補制限の問題について御検討をお願いいたしておきました。新聞でも若干政府筋の報道が出ておりますが、現在結論としては、これは何も政府が責任を持って答弁するということではございませんが、そういう出どころは別といたしまして、立候補制限問題はどういうような状況にございますか、御報告をお願いします。
  44. 枇杷田泰助

    ○枇杷田政府委員 御承知のとおり、現在、国会裁判官弾劾裁判所の方で弾劾法の改正の問題としてこの問題を御検討になっておられます。その際に、私どもの方では参考意見を申し上げるという立場で従来から検討作業を進めてきたわけでございまして、したがいまして、政府としての見解をまとめるというふうな立場で作業をしておるわけではございません。  いろいろな角度から検討を進めてまいりましたけれども、近く開かれます裁判官弾劾裁判所の検討の会議の際には、私どもの見解といたしまして、立候補を制限しないで、いわば弾劾手続中に裁判官が立候補したという場合には、一般的な意味においては免職というような状態をつくりながら、なおかつ弾劾手続の上においてはなお裁判官の身分があるというふうな形で処理をするという方向で現在その考え方を整理しておるところでございます。
  45. 横山利秋

    ○横山委員 私は長らく訴追委員をいたしておりましたが、弾劾裁判所の訴追請求それから訴追委員会のこの問題についての決定等を含めて、訴追委員会の役割りはその中でどういうことになりますか。
  46. 枇杷田泰助

    ○枇杷田政府委員 訴追委員会は、事案を御審査になりまして、罷免理由ありとすれば訴追をされるというような御任務であるわけでございまして、今回の問題につきまして訴追委員会に一定の役割りを持たせるというふうな案もあろうかと思いますけれども、私どもは、むしろ訴追手続の方は何ら変更を来さないで平常どおり進むという形が一番いいのではないかというふうな考え方で、立候補の問題は立候補でやりますけれども、従来の弾劾裁判手続それ自体には変更を及ぼさないということを原則にしたいという考え方でございます。
  47. 横山利秋

    ○横山委員 私の申し上げるのは、弾劾裁判所が立候補制限の最終的判定権を持つといいますか、そういうほかに、私ども訴追委員会において、いろいろと訴追請求がある中で、弾劾裁判所からは来ないけれども、訴追委員会としてこれは立候補制限すべき事案ではないかという問題がないとは言えないのではないか、こういう意味でございます。
  48. 枇杷田泰助

    ○枇杷田政府委員 そのようなことも考え方としてはあり得ると思いますけれども、全般的な問題として立候補制限をするということが弾劾手続において基本的に必要なことであろうかというところに一つの問題があるわけでございます。  民事的に申し上げますと、本案は罷免をするかしないかということが中心になって進む手続でございますので、いわば被選挙権をどうするかということが対象になって進む手続ではございません。したがいまして、現在問題になっておりますのは、立候補ということから公職選挙法の規定により反射的に身分が失われてしまい、その結果、弾劾——訴追手続も含めてのことでございますけれども、それが消えてしまうということが問題であるという観点で問題提起をされておりますので、そこらには影響を及ぼさぬように、立候補は立候補でできるし、それからまた弾劾手続、訴追手続もそのまま継続していくというふうなことができる方法はないだろうかという観点からの考え方を先ほど申し上げた次第でございます。
  49. 横山利秋

    ○横山委員 安川氏の起訴を地検でされたそうであります。安川氏の起訴理由は、罪は何の容疑でございますか。
  50. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 お尋ねの点は、いま地検の方で捜査をしている途中といいますか段階にあるわけでございまして、明確に何罪ということにはなっていないわけでございます。
  51. 横山利秋

    ○横山委員 この問題を中心にして、いわゆる簡裁判事の任用方法について各方面で議論が起こっておるわけであります。  そこで、この任用方法について見直しをする必要がないだろうか。任用は、私の承知するところによれば、偉い人、裁判所で上層部の人が自動的に選考で任用されるのと、それから試験を受けてなされるのとある。しかしながら、そもそもこの発足のときには、部外の人を、民間人をたくさん起用するというところにポイントがあったのでありますが、いまはもう部外の人の任用はだんだん少なくなってしまったというのですね。推薦委員会の推薦を受けようとする者の上司や監督者は、推薦の過程で司法行政上の一定の配慮をされるということでございますが、簡裁判事の任用のやり方について、もう一遍考え直す必要があるのではないかと思うのですが、その点いかがですか。
  52. 勝見嘉美

    勝見最高裁判所長官代理者 私ども人事を預かっている者として、そのポスト、ポストに適格な者を採用するにはどうしたらいいかというのが最初にして最終の問題でございます。  簡裁判事の任用につきましても、あのような不祥事を出来いたしまして、十分考えなければならないというふうに思っております。現在、部内の職員についての経験年数それから年齢につきまして手直しをいたしましたけれども、それをもって尽きるというふうにはとうてい考えておりません。改むべきところは十分改めるようにしていきたいと考えております。  なお、外部からの採用の問題でございますが、現在の裁判所法のたてまえからいきますと、やはり簡裁判事も裁判官の一種でございますので、法律的な素養はどうしても必要でございます。外部の方でそのような方につきまして簡裁判事になれるような仕組みといいますか手続を十分考えさせていただきたいと存じます。現在、簡裁判事の応募者数は大体三百名ぐらいでございますが、例年このところ一割程度は、三十名程度はやはり外部の方が応募されております。このような現状に相なっております。
  53. 横山利秋

    ○横山委員 裁判官というものは、一体どういう人が裁判官に最も適当であるかという点については、私もここで何回も議論を重ねたわけでありますし、あるいは諸外国に行きまして諸外国裁判官の御意見を伺ったことがあるのですけれども、今日、鬼頭判事補といいあるいはいろいろ問題となってまいりました裁判官の人となり、経歴その他を見ますと、任用なり試験なりの中で、裁判手続なり運用なりそういう事務的に練達の人、法律をよく知っておる人、そういう学術偏重のきらいが結局は任用基準になっているのではないか。頭さえよければ裁判官になれる、そういうところにおのずからどうしてもいっておるのではないか、そういう感じがしてならないのであります。  裁判官の評価はどういうふうに評価しますかという点について先般私がここでやりとりいたしましたときに、最高裁はおのずからなる評価という言葉を事務総長が使われました。法曹界の意見をいろいろ聞いてみますと、横山先生、反発されるかもしれませんけれどもそれはわりあいに適当な言葉ですよという言葉がございました。しかし、おのずからなる評価ということは、本人が自分でやっていることをよそから見て世論的に、あの人はいい人だ、あの人はりっぱな裁判官だ、こういうことだと思うのでありますが、この簡裁判事にしろあるいは司法修習生にしろあるいは司法研修所のありようにしろ、法律や学問ばかりをしている人たちの中に独立心、人間的素養、りっぱな人格、それを一体どうしてあなた方は期待できるのでしょうか。
  54. 勝見嘉美

    勝見最高裁判所長官代理者 先ほど冒頭に申し上げましたように、裁判官として適格な者をいかにしてスクリーンするか、一言にして申し上げるわけにまいりませんけれども、究極のところは横山委員御指摘のとおりだと思います。決して私どもは法律学にたけているからといって採用しているつもりはございません。  ただ、残念ながらこのたびの安川元簡裁判事につきまして申し上げますれば、任官以後相当年限がたっております。あのようなことをしでかすということにつきまして周りも、上も下もだれもそうは思わなかったというところに、またこれ問題があろうかと思います。先ほど仰せになりましたおのずからなる評価というものが当然出てくる、それをしんしゃくして人事を行っているというふうに申し上げているわけでありますが、残念ながら安川元簡裁判事につきましてはそういう評価というものが少なくとも私どものところには参っておりませんでしたし、当時おられた周囲の方も思っておられなかったということもあるわけでございます。  人間のあり方、一人の職業人としての人間のあり方につきまして、いろいろそれなりの分野で問題があるわけでありますが、私どもの場合には裁判という非常に重要な仕事に携わっているわけでありますので、この点は周りも十分気をつけなければならないところでありますが、やはり究極のところ自粛自戒を促す、自粛自戒をしていただくということに尽きようかと思います。
  55. 横山利秋

    ○横山委員 だれも考えるように、本件をもって角をためて牛を殺すようなことをしてはならない。裁判の独立だとかあるいは裁判官の身分保障という牛を殺してはならないとはだれも自戒はしています。自戒はしておるけれども、何かそこに足らないところがあるのではないか。  たとえば一例をもって見ますと、司法研修所の卒業試験でことしは戦後最高十一人も落第したそうですね。落第した結果について勝見人事局長は「合否の詳しい理由は言えないが、この程度の問題で合格点をとれないのでは国民に顔向けできない」と力不足で不合格にしたことを認めておるというが、この試験は筆記試験と口述試験、筆記試験は民法と刑法裁判、検察、論文などの六科目、方法は一日一科目で、百ページから二百ページの記録に基づき、たとえば民事裁判なら主文、事実整理、判決理由などを書く。そういうことに考試の主力を置いておれば、頭さえよければ突破できるということをまざまざと意味しているのではなかろうか。頭のいいやつ、しかられそうになったらすぐに立候補すればしかられぬでも済むというような頭のいいやつが通る仕掛けになっているのではないか。あなた自身が、この程度の問題で合格点をとれない、つまり学問、知識が不足しておる。ここには人間的な合否のあれはないんじゃありませんか。
  56. 勝見嘉美

    勝見最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘の問題は、いわゆる二回試験の問題でございます。  司法研修所における修習生の研修というものは、最低限度法曹として一人前にやっていけるかどうかというところをテストするところでございます。国費をいただいて二年間研修をいたすわけでありますが、その結果、私どもから見て、試験委員の方から見て、これではとうてい一個の法曹人としては通用しないということでありますれば、やはりそれはそれなりに評価をすべきであるということで、先ほど不合格というふうにおっしゃいましたけれども、成績の悪い者につきましては追試制度を設けておりまして、いわゆる不合格ということではございませんので、その辺を御理解いただきたいと思いますが、そういうことから、知識偏重ということにはならないというふうに考えております。やはり法曹も一個の職業人でありますから、職業人としての法曹の最低の要件であるというふうに御理解いただければと思います。
  57. 横山利秋

    ○横山委員 追試があることは知っていますよ。しかし、追試ということは決して人間的素養という問題じゃなくて、もうしばらくしっかり勉強して追試験に合格するようにしてもらいたいということなんで、本質は何も変わってなく、私の質問に対して答えになっていない。くつの裏から足をかくような、私もどうもいい知恵が出ない。さりとて最高裁が、人間的素養が大事だといって、最高裁の一定の方針で、青法協のようなものはいかぬとか、上の人の言うことを聞かぬようなものはいかぬとか、何とかかんとかまた人事統制をなさるようなことでも困る。  そういう気持ちもあるし、同時に、法曹界のいまの試験制度が学問偏重であるところに問題の本質が存在するという点について、質問する私もいい知恵がないと自分でも自戒しておるんだけれども、あなたの答弁も、こういう人間的にもりっぱな裁判官をつくり上げたい、その方途は何かという点についてどうも何かまだ確信がないような気がしてならないのですが、どうですか。
  58. 勝見嘉美

    勝見最高裁判所長官代理者 大変抽象的で恐縮でございますが、結局、司法研修所における研修というものにつきましては、担当している教官の人となりというものが大きく影響しようかと思います。私どもといたしましては、教官になっていただいている裁判官は私どもなりに十分選びまして教官になってもらっております。実務修習の間において、それぞれの教官ないし実務担当者から、日ごろいわゆる実務の研修それから研修時における講義等を通しまして、法曹としての人間的なあり方というものも十分教え込んでいただきたい、そのように研修所にもよく言っておるところでございます。
  59. 横山利秋

    ○横山委員 十分な答弁がいただけないのですが、お互いにこれは重要な検討課題です。必ずしも法律に通暁しただけでりっぱな裁判官とは言えない、私はそう思っております。そこがこれからわれわれがどうあるべきかについて十分検討すべき点ではなかろうか。最高裁としても十分そこにポイントを置くべき問題ではなかろうかという問題を提起して、次に移ります。  刑事局長にお伺いをいたしますが、先般私が申し上げました証拠開示の問題であります。  あのときにあなたは、部落解放関係の青年の問題について証拠開示を求めたものについて、出すものは出した、あとの点についてはもうそういう証拠はない、こういうふうにおっしゃいました。ところが、あなたのところへ後でお届けをしたと思うのでありますが、足跡写真、事件当日の石川青年の着衣の血痕鑑定書、ボールペン鑑定書は、捜査の際の資料、書類、裁判の中における諸問題等からいって明らかに存在をしておったはずである。いろいろな文書の中にあったのだから、それがないというのはどう考えてもおかしい。こういう点について文書を差し上げておきましたが、いかがでございましたか。
  60. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 前回もお答えしたと思いますけれども、御指摘の三点について全く証拠がないということではなくて、証拠証拠としていろいろ出ているわけでございますが、残った開示請求のものとしてはないということは申したわけでございます。重ねての御指摘もございまして、その後もまた警察庁の方にも問いただしたわけでございます。  たとえば例の足跡の問題でございますが、実況見分調書というのが証拠として出ております。その記載を見ますと、「地下足袋の跡が印象されていたので写真を撮影した」云々という表現があるわけでございますが、その写真なるものを見ますと、いわば遠景写真とでも申しますか、そういうものが添付されておりまして、足跡そのものの接写写真とでもいいますか、そういうものはついていないわけでございます。  そのことにつきましては、この事件で四十九年に東京高裁の判決がございますが、その中でもたとえば、実況見分が行われたその日は足跡がついてからすでに三十数時間を経た後であるので、雑多な足跡が入りまじっておって犯人の足跡を判別することができなかったために接近した写真が撮れなかったというふうに認められるというような判示も出ているわけでございます。そういう意味で、御指摘のような足跡そのものを撮った写真がないかということになりますと、それはない、こういうことに相なるわけでございます。  二番目にボールペンの問題があったと思いますけれども、これは記録の中に出ておりまして、やはり東京高裁の審理中でございますけれども、いわゆるボールペンの鑑定書と言ってもいいかと思いますが、その問題になりました脅迫状は押収されているペンまた万年筆を使用しており、脅迫状の文字の色素とボールペンの色素とはよく一致するという趣旨の鑑定書が出ておるわけでございます。ただ、いろいろ言われておりますように、何か警察の方で鑑定的なものをやったというようなことが言われているようでございますけれども、そういうものはない、こういうことであるわけでございます。  それから着衣の血痕の問題でございますけれども、これは血痕があるかないかということ、あるとすればその血液型がどうであるかということは一つの問題点でありますので、それが何もなされていないということからとらえますと、いかにもおかしいじゃないかということに相なるわけでございます。その点はまさに東京高裁の判決でも指摘されておりまして、そういう鑑定は行われていない、それは端的に言えば捜査として必ずしも十分でないという批判めいた言い方も含めて御指摘を受けているわけでございまして、そういうことから裁判所判決でもそういう点はなかったというふうに認められているわけでございます。
  61. 横山利秋

    ○横山委員 時間がありませんからなにですけれども、どう考えても、一人の女性が殺された、捜査に行った。そして足跡を写真で写した。そうして被疑者である青年の着物が押収された。そして着衣に血痕がついておるかどうかを調べる。あるいはまた脅迫状がボールペンで書かれたならば、ボールペンはどんなボールペンであるか。そういう点は捜査のイロハのイの字。それがいま再審になるかならぬかの重要な因子であるというので注目を集めている問題である。  きょうのお話によりますと、先般よりも少し前進したようなお答えではありますけれども、いずれにしても私は不可解な問題だと思う。これほどの重大な三つの問題について証拠開示をなさらない。それらしいものがないとは言えないけれども、それずばりはないということは、客観的に言って、これほど重大な、有罪無罪かを左右するかもしれない問題について証拠開示を渋っておられるような気がしてならないのであります。きょうここでやりとりはしませんけれども、一人の人間の生命にかかわる問題でありますから、関係者間での話し合いがもし進むようであれば、親切にいまのさらに細目についての説明もしてやってもらいたいし、あるいは要望があったらそれについて協力することにひとつ努力をしていただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。
  62. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 もちろん御納得のいくようなことはしたいわけでございますが、いまも仰せになりましたように、そういう問題は一審、二審、三審、さらには再審の中での大きな争点でもあったわけでございます。そのことは、いまも若干申しましたように、高裁の判決でも触れているようなことでございますので、また御趣旨も十分わかるわけでございますので、念には念を入れて調査もしたつもりでございますけれども、警察官の方に残っているのじゃないかというお疑いを受けましても、率直に申してそういうものはないということでございまして、それ以上ちょっとお答えはいたしかねるわけでございます。
  63. 横山利秋

    ○横山委員 これはさらに争いの生ずる問題であって、客観的に言って、ないというようなそんなばかなことはないと言われたときに、あなたの方としてもちょっと答弁に困るのじゃないかと思いますよ。  最後に、東本願寺についてあと若干、十分ばかり拝聴したいのですけれども、新聞の伝うるところによりますと、東本願寺につきましていよいよ捜査の終結が近く、結論が近いと言われる一方、その情勢を受けて法主側と内局側との話し合いが進んでおるようであります。私は、かねて申しておりますように、総理大臣であろうと御連枝であろうといかぬことはいかぬ。そのけじめをしっかりしてもらわなければ困る。ともすればここ二年有余、法務省、検察陣が、京都では坊主と学者と祇園は手がつかぬとちまたにうわさがされておるような状況にあったのではないかという疑問を持ち、法務省にはずいぶんこの点についてもお力添えを願ったと私は思っておるわけでありますが、いまは捜査状況、終結状況、どんな状況にありますか。
  64. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 先般、たしか十五日であったと思いますけれども、そのときもお尋ねを受けまして、その時点における捜査状況を申し上げたわけでございますが、実はその当日、四男の暢道氏の居宅等の捜索をしておりました。しかし、お尋ねを受けております時点ではまだやっているかどうかということを確認しておりませんでしたので、そのことを申しておりませんでしたが、そのことはたしか新聞にも出たところで、横山委員も御案内のとおりだろうと思います。その後引き続きまして関係者の事情聴取等を続けておるわけでございまして、一言で申しますと、なお捜査継続中ということでございます。  それで、再三御指摘も受けておりまして、事柄の性質が非常に複雑でございますので、手間もかかっておるわけでございますけれども、その他のいろいろな配慮というようなことは抜きにして、事件事件としてきちっと処理をしたいというふうに考えて、そういう線で鋭意努力をしているところでございます。  なお、いわゆる和解の話が別途進んでおりますことは、それなりに結構なことではないかというふうに思うわけでございますが、いま申しましたように、それはそれとして、事件事件として処理をしたい。もちろん最終的な処理の段階におきましては、和解というようなこともその処理の際には一つの事情として勘案されるであろうというふうに考えております。
  65. 横山利秋

    ○横山委員 結構でございます。  私は、いま一つの大詰めだとは思います。思いますが、過去の例を振り返ってみますと、やれ五億円持ってきた、十五分たった、遅かったからまた持って帰ってしまったとか、あるいはまた担保を抜く抜かぬといういわゆる陽動作戦というものがしばしば行われたのでありますから、今回大詰めに入ってきた東本願寺問題がそういうような陽動作戦によって検察陣が手を抜いたり何かしないように、くれぐれもひとつこれはしっかりするところはしっかりしてもらいたいと特に要望をいたしておきます。  文化庁おいで願ったのですけれども、新聞に伝わっております和解の問題について何らか御報告を受けておりますか。
  66. 安藤幸男

    安藤説明員 お尋ねの関係者による和解の動きについては、所轄庁であります京都府におきましても直接には承知していないというふうに連絡をいたしております。文化庁にも直接には連絡が参ってきておりません。
  67. 横山利秋

    ○横山委員 私はそれでいいと思うのです。私もたびたび言うように和解を望みたい。わが国の歴史と伝統を持つ宗教のメッカともいうべき真宗大谷派がいつまでもこういうことをやっておってはいかぬから、和解を望むのでありますが、しかし、その和解というのはあくまで、いままでございましたやれ児玉譽士夫だとか、やれ福田総理大臣のおいだとか、やれ右翼の暴力団だとか、あるいは今回は余り表へ出ておりませんけれども政治家だとかあるいは役所だとか、そういうもの抜きで、全部抜きで、法主側と内局側がさしでひとつ自主和解を行うことを特に要望しておるものでございますから、各方面十分注意をして、注目をして、それが達成されるように、余分なことは言わぬというように私はありたいものだ。検察陣は別ですよ。検察陣は断固としてやる。やることの方が和解へよりなる、そう私は信じておるわけでありますから、その点十分御留意を願いたいと思います。  ただ、文化庁に念のために聞いておきたいと思いますことは、和解をしたところで問題は残るわけですね。たとえば和解の話としてございます問題としては、これは新聞によりますと、宗派、本山・東本願寺代表権の宗務総長への委譲、法主側の借財の整理などを考えますと、代表権の委譲ということになりますと、やはり京都府とそれから文化庁両方にまたがってそれが認可がされなければできないわけですね。それから借財の整理といったところで、私の承知するところでは、もう複雑怪奇にしてわからぬ。実際問題としては検察庁が一番よく御存じかもしれませんけれども、それでもなかなか、何が一体借財で、何が一体正当なものであるかについてはなかなかわからぬのであります。ですから、その点は検察庁の結論が済めばある程度その問題の整理がむしろ促進されるのではないかというふうに思いますし、それから文化庁への要望は、こういう和解があって、京都府及び文化庁の認可を得なければならないという問題があるわけであります。そこでまたごたつくと問題が複雑になるわけであります。だから文化庁としては、和解があって、そういう代表権の委譲など京都府並びに文化庁の認可を要する問題については、自主的な和解の線ができたならば、これをなるべく尊重して、好意をもって取り扱うというふうに理解をしてもよろしゅうございますか。
  68. 安藤幸男

    安藤説明員 和解の話が進みまして、代表権を宗務総長へ移すというような認証申請が出てまいりますれば、申請書を審査した上、所定の手続をとられていれば認可をいたしたいというふうに考えております。
  69. 横山利秋

    ○横山委員 法務大臣、最近宗教界には余りにも問題が多過ぎると思います。そう言えばあなたもおわかりだと思うのですけれども、私が取り上げておりますのは真宗大谷派、それでもやはり法務省の非常な努力が和解の方向へ追い込んでおる、率直に言うとそうだと思います。そういう政治的な配慮をなさってやっていらっしゃるわけではないのですけれども、私が、もう悪いことは悪いのだ、やれというふうにたびたび要望いたしましたのが、私はこういうふうになってきたと思うのであります。  われわれは、あなたのさっきの靖国神社を含めて、あるいはまた口には出しませんけれども、いまいろいろ宗教問題が山積をしておる、そのことについて憲法は一つの明文として国家権力なり何かが宗教に関与してはならぬということを言うておるわけです。そのけじめが大事だと思うのです。その法務大臣が、公式参拝もいいじゃないかとおれは思うとか、こういうことは本当に時宜に適した問題じゃないと思うのですよ。私は、いまの宗教法人法というものが必ずしもいいと思っておらぬ。国家権力をそこで強めるということについても必ずしも賛成できない。しかしながら宗教法人がもう少し自主、自律、自営、特に財政問題あるいはまた脱税問題あるいは収益事業、そういう問題についてもう少ししっかりしてもらわなければ困る。その内部規律といいますか内部牽制制度といいますか、そういう点については少し宗教法人法を改正する必要があるのではないか、こう思うのです。突然の質問でありますが、あなたはどうお考えになりますか。
  70. 奥野誠亮

    奥野国務大臣 宗教法人法は文部省の所管でございますけれども、きわめて簡単なものになっておるわけでございますし、だれでも届け出ればそのまま宗教法人になってしまう。私も問題があると年来考えておるものでございます。法務省としては、やはり悪は悪、正は正、その立場で臨んでまいりますことがいろいろなこんがらかった問題も解決しやすい、これは横山さんと同じ気持ちでございまして、そういう努力を払っていかなければならないと考えております。  同時に政教分離、これも大事なことでございまして、その中で私が疑問を提示をしておりますのは二十条の三項、国及びその機関は宗教的な活動をしてはならないというのを靖国神社に参拝してもならないとまで読み切るのがいいのか悪いのかということについては疑問を持っております、こういうことでございます。  公式参拝であるとか非公式参拝であるとか、そういう言葉になってまいりますと、その言葉から議論してかからなければならないわけでございますが、私がたびたび申し上げておりますのは、二十条三項の宗教的活動の中に靖国神社が入るのかどうか、これは非常に疑いを持っております。しかし疑いがありますから、政府としては、この際は法務大臣としては参拝しない、個人として参拝しているんだ、こういう姿勢を貫いているということでございます。
  71. 横山利秋

    ○横山委員 一言多いんだ、あなたは。言わずとものところをあなたは言う。人に聞かれたから言う言うと言って、本当にあなたは一言多いと思いますよ。  文化庁、後段のことはともかくとして、法務大臣もああいうふうにおっしゃった。私は宗教法人法で国家権力をそこへさらに強めるということはどうかと思うんだけれども、内部規制それから財政等の内部牽制制度、あるいはまた財産処分、財産処分はわりあいにきちっとなっているんですけれども、そういう点について一遍見直す必要があると思うのですが、どうですか。
  72. 安藤幸男

    安藤説明員 宗教法人法につきましてはいろいろと問題があるということは御指摘のとおりだと思います。これにつきましては、かつて宗教法人審議会におきまして検討した経緯があるわけでございますが、その結果、まだ時期が早いのではないかというようなことで見送られたという経緯もございます。いろいろと過去の経緯等も検討しながら、さらに考えてまいりたいと思います。
  73. 高鳥修

    高鳥委員長 次回は、来る十一日火曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時四十三分散会      ————◇—————