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白川委員 時間がないので私の
意見をずっと述べて、後でまとめて
お答えをいただきたいと思うのでございます。
安川裁判官の
一連の言動、
行動、特に今回の
立候補というようなことについては、
国民の間からさらに恥の上塗りというような感を持たれているわけでございます。しかし、それは
安川裁判官が今後個人的に社会的にいろいろな形で評価をされていくと思うのでございますが、私は、
安川裁判官に対して支払われると言われている約一千万余の
退職金の今後の帰属につきまして、
最高裁の方のお
考えをただしたいと思うのでございます。
これは、ああいう
行動をしたわけでございまして、これに対して
退職金が一千万余支払われるというのは
国民感情的にとうてい耐え切れないというのが実情だと思います。しかし、
一連の
予算委員会あるいはその他の
委員会を通じての
答弁を聞いておりますと、いろいろ
考えてみたんだけれ
どもいかんともしがたいというような感を
法務大臣以下が述べられておる。私は、それはおかしいのではないかという気がするわけでございます。現に、いまもおっしゃられたとおり
脱法行為という
言葉が出てくるわけでございまして、
脱法行為というのは、逆の面で言うと、
法律的には一見適法のようだけれ
どもそれはおかしいというようなときにも
脱法行為という
言葉を使うわけでございます。そして、今回の
国民感情なりあるいはわれわれがおかしいと
考えているのは、実質的にも
理由があると思うのでございます。
一つは、
安川裁判官は
最高裁から
訴追請求がなされ、
訴追委員会の方でその準備がすでに始まっていたわけでございます。そこで
安川裁判官が
町長選に
立候補した。しかし、その言によりますと、小さいころから
政治への夢を持っていたというようなことをぬけぬけしく述べております。それは人の心でございますから、みんなそう思っておるかもわからぬ。私な
どもそういうものを持っていたからこういうところに立っているわけでございます。しかし
政治を志す者としたならば、逆の面で言うならば、
訴追委員会に
訴追されたという
立場にある者の場合、いろいろ
政治に対してはやる
気持ちがあったとしても、それにけりをつけてから
政治の
世界に出ていくということを守ることは当然必要なんじゃないかと私は思うのでございます。
裁判官といえ
ども参政権は与えられているんだ、
立候補するのは自由なんだ、まさにそのことを敵は使っているわけでございますが、
政治を志す者としたならば、いやしくも
訴追請求されている
時点で、しかもこれは
裁判官にとって決してぬれぎぬを着せられるというのではなくて、一般の
懲戒手続よりはさらに厳格な
手続が与えられている
手続でございますから、そこで堂々と、
自分が無実であるならばみずからの身の潔白を証明した上で、その疑いを晴らした上で
政治の
世界へ出るのがあたりまえのことであろうと思うわけでございます。
そんなことで、私はこれを
法律論的に
考えた場合、彼が
政治の
世界に志していたと言っているわけでございますが、
通常の
流れに従って
訴追請求され、そして
弾劾裁判所に出され、そこの
判断を待つというような
手続、
通常の
流れというわけですが、
通常の
流れに従ったならば——彼の場合は
通常の
流れに従う
義務があったと私は思うのでございます。
裁判官としてまた
政治を志す者として従うべきであったと私は思うわけでございます。ところが、みずからその
通常の
流れから外れてしまったわけでございます。御承知のとおり、もし
弾劾裁判所で
罷免という
裁判がなされたとしたならば、当然のことながら
退職金の
受給資格を失うわけでございます。そういう
意味で私は、彼の場合、
通常の
流れが終わるまでは、
裁判官としてはもちろんでございますが、
政治家としてもその
流れが終わる
時点まで
行動を慎むべき
法律上並びに
道義上の
義務があったと
考えていいと思うのでございます。そこからみずから離れられたわけでございます。こういう
考え方をいたしますと、
安川裁判官の場合、
退職金を受給する
資格が
法律上も
道義上もないと断言して差し支えないのではないかと私は思うわけでございます。
ところが、これまでの
答弁を聞いておりますと、
先ほども申し上げましたとおり、どうもうまい知恵はない、したがって、一千三十万だったか何だったか、一千万余の
退職金はあたかも支払わざるを得ない、しかも日銀から出たぴかぴかの新品の金で耳をそろえて支払うのではないかというような感がいささかするわけでございます。
そこで私は、それはおかしい。おかしいのは、それは理屈がつくのでございます。私の
意見を述べて、
最高裁の方に、いまどういう
考え方でしておられるのか、後で
答弁していただきたいと思います。
第一に、いまの
時点では多分
請求されておらないと思うのでございます。
安川裁判官の方から
退職金を支払ってくれという
請求はないと思うのでございます。
請求もないのにわざわざこちらから、あなたは
幾ら幾らの
退職金があって、どうぞ受け取りに来てくださいということをまず言う必要はないだろう、これが第一点であります。向こうも、
自分は
政治の
世界に出たいからやむを得ず急いで出る必要があったから出たんだけれ
ども、当然のことながら
裁判所に御迷惑をかけたんだし
国民にも迷惑をかげたんだから
請求しないというつもりかもわかりません。したがいまして、
請求もしないのに、こちらの方からどうぞあなたは
受給資格がありますから取りにいらっしゃい、最低限このラブコールはする必要がないのじゃないかと思います。
第二番目として、まあああいう人でございますから、ぬけぬけしく
請求するかもわかりません。しかし、
請求して、したがって
義務があっても、支払うかどうかというのは
任意に
支払い義務者が
考えていいわけでございます。
裁判を起こすというようなことについては
国民はいろいろな
考え方を持っておりますが、
任意に支払わないのは御存じのとおり刑法上の罪になるわけでもございませんし、ましてや、こういうふうに非常に
疑義が多い場合、
支払いを留保されること自体、私は不当だとは思いません。そうすると、彼は
裁判官でございますから、
訴訟ぐらい
自分で起こせるかもしれない。多分
弁護士に依頼しても
日弁連加入の
弁護士はだれ一人受けないと思いますが、本人は
自分で
訴訟を提起するかもわからぬ。それくらいはまたきっとできるでしょう。だから
裁判官に任命されたと思うのでございます。
訴訟を提起されたら、そこで素直に払うかどうか。これもまた一考を要する。私
どもなんかは、かなりだめそうな
事件でも一年間ぐらい延ばしてほしいというときに、じゃわかりましたということで延ばすこともあるわけでございますから、ここで
訴訟を受けるかどうかということも十分
考えていいことでございます。
しかも
本件の場合、形式上から見るとなるほど
退職金請求権があるように見受けられますけれ
ども、いま言ったように、
法律上もそして同時に実質上もまた
道義的にも
本件の場合は
疑義があるわけでございまして、果たして
退職金受給資格があるかどうか、
請求権があるかどうかということについては、
十分司法裁判所において御審判いただく価値のある
事件だと私は思うのでございます。全然
理由がないのにあえて
任意に支払わないで
訴訟を起こす、起こすというか受けるというのとは、全然性質が違うわけだと思うのでございます。そういう
意味でぜひ、
訴訟を相手が提起してもそこで払わないで、なおかつこれは
裁判所の御
判断をいただくのだという
立場で私はいっていただきたいと思うのでございます。
裁判所でございます、あるいは国が被告になるわけでございますから、勝つか負けるか、負けるような
訴訟をしてはならぬということを、
裁判官でございますからちょっと先に
考えるようですが、
弁護士的な発想で言うと、
裁判官が
判断してくれるのだから、余り当事者が勝つか負けるか
裁判官的に
判断をすると
事件の筋を見間違うということがありますから、この辺はよく
考えていただきたいと思うのです。よしんば、その
退職金支払い請求事件の判決が出たとします。結果は必ずしも国によくない結果が出たとしても、私は、それはそれとしていいのではないだろうか、こう思います。
いま
太田先生の方からもいろいろと御
質問がございました。この
脱法行為を機に
弾劾裁判所法もしくは
公職選挙法を若干
手直しする必要があるんじゃないだろうか、それはそれでいいでしょう。私は別に反対するものじゃございません。しかし、とんちんかんな
裁判官は何も今回のこの場合だけとは限らぬと思います。そうしたら、また別のいい
方法があるかもわかりません。なるほど
法律を朝から晩までやっている者ですから、
法律の裏をかくということは幾らでもできるわけでございます。
そういう
意味で、今回の場合は
立法論を構えるのも大事でしょうが、いまのところだと一見だめそうだと思っているわけでございますが、ここでとり得るあらゆる法的手段をとって、そういう
脱法行為をした者は最終的にはわれわれは許さないのだ、それは司法上も許されないのだという個別解決にやはり全力を尽くしていくことが、今後こういう
脱法行為を
考える者に対する最高の警世あるいは警告の態度だろうと私は思うわけでございます。一言に言うならば、
裁判官の
身分保障も、あるいは
国民の
参政権の自由の問題、それを守っているからこそこういう不都合が出てきたのですが、これは両方とも大事にしなければならぬと思うのでございます。ただ、違法は許してはならない。この違法を許さないという
意味で、ここで
最高裁判所が、また国が
訴訟を受けた場合は当然ながら
法務省がここに関与するわけでございますが、今回の個別的
事件の処理いかんによって日本の将来がかかっているんだというような
立場で全知全能を傾けたならば、必ず私が申し上げたような大筋の線に沿って
本件が解決する、私はこう
考えているわけでございます。いままでの、何となく新品の新札を一千何百万円耳をそろえてわざわざ持っていくというような
事件処理はぜひ改めて、私は、しかるべき筋を通していただきたい、こう思うわけでございます。
最高裁の御見解をお伺いいたしまして、御
質問にかえたいと思います。