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生田参考人 日本エネルギー経済研究所の
生田でございます。
いただいた時間が大変短いものですから、私は、
石油の問題に限定をいたしまして、当面の
石油情勢、特に
イランと
イラクの間の
戦争の
影響及び今後の展望につきまして御
説明をさせていただきたいと思います。
この問題を考えますのに
論点を整理した方がわかりやすいわけでありますので、三つに
論点を分けて御
説明を申し上げたいと思います。
それは、まず九月の末に
イランと
イラクの間の
戦争が始まりまして、本格化し、現在も継続しているわけでありますが、この
戦争が始まる前の
世界の
石油の
需給情勢はどうであったかというのが第一点。それから
戦争の
勃発、拡大によって
世界の
石油情勢がどういう
影響を受けたかというのが第二点。それから今後はどのようになるかというのが第三点でございます。この三点に分けて申し上げまして、時間がまだ余っておりました場合にはそれに
対応する
政策のあり方について私の考えていることを申し上げさしていただきたいというように考えております。
まず第一点の
イラン・
イラク戦争勃発直前の
状態における
世界の
石油需給状況でありますけれども、これは
相当量の
供給過剰が
世界の
石油市場に存在をしていたわけであります。この
供給過剰の量につきましてはいろいろの説がございますが、大体一日当たり二百万バレルないし二百五十万バレルと言われております。私の
個人の
予測ではもう少し
供給過剰が多かったのではないかというように考えておりますが、大体その
程度、二百万ないし三百万バレル・
パー・
デーくらいの
供給過剰が存在していたわけであります。この
程度の
供給過剰が存在いたしますと、従来の
国際石油市場の
状況でありますともっと表面的な
変化、たとえば
価格の
下落が起きるはずでございますけれども、これはそれほど顕著には起きておりませんでした。
この
価格の
下落が余り顕著に起きなかった理由は、
世界の
石油の
供給構造が、昨年の第二次
石油危機によってさらに加速されまして大きく
変化したことによるものであります。つまり
メジャーズのシェアが急激に低下をいたしまして、
産油国との直接
取引すなわち
DDがふえた結果であります。この
DDと申しますのは御承知のように
相対取引でございますし、販売する方は一国の
国営石油会社一社でございますし、それに対して買いに行く方は
石油消費国が多数、しかもそれぞれの国から多くの
会社が行っているわけでございます。つまり
一つの
供給者に対して非常に多数の
需要家が
取引をするということでありますので、当然
売り手市場を形成するわけでございます。したがって
取引全体が
市場経済メカニズムがうまく働かないような硬直化した形になってまいります。このために
需給の
実態と比べまして比較的
価格面への反映が以前と比べて薄かったというように考えられますが、それにいたしましても、たとえば
スポット価格の動向を見ますと、八月ごろからかなり
スポット価格の
下落の速度が速まってまいりまして、明らかに
供給過剰の徴候があったわけであります。
そういう
状況を前にいたしまして
イラン・
イラク戦争が
勃発したわけですが、その
戦争によって
両国の
石油の
生産はほとんど全面的にとまりましたし、
輸出もほとんど全面的にとまったわけであります。最近になりまして
輸出が細々と行われていたというような
情報、あるいは同じく最近になって
イラクが
トルコ経由のパイプラインで地中海から
ヨーロッパ向けの
原油の
輸出を再開したとか、いろいろの
情報がございます。しかし、いずれにいたしましても
戦争以前における
両国の
石油の
生産、
輸出の
状況から比べますとほとんどネグリジブルなものでございますので、その点はほとんど無視してよろしいというように考えるわけであります。
ここで
一つ申し上げておきたいと思いますのは、
イラン、
イラク両国の
戦争によりまして
発生しました
石油の
生産の
減少、それから
輸出の
減少がかなり大きなものであるということでございます。いわゆる
マグニチュードの大きさでありますが、これは非常に大きなものでございます。
戦争直前の
状態におきまして
両国の
石油の
生産が合計いたしまして約五百万バレル・
パー・
デーであります。そのうち約百万バレル・
パー・
デーが
両国の
国内消費でございまして、四百万が
輸出されていたわけでありまして、これが先ほど申しましたようにほぼ全面的にとまったということであります。これは昨年の初め、正確に申しますと一昨年一九七八年の末から一九七九年の初めにかけまして
イラン革命が
発生いたしまして、
イランの
石油の
生産と
輸出が同じくほとんど全面的にとまったわけであります。それによって昨年いわゆる第二次
石油危機が
発生したわけですが、そのときの
石油供給の
減少にほぼ匹敵するものであります。
イランは
革命以前におきまして五百五十ないし六百万バレル・
パー・
デーの
石油を
生産し、約五百万バレル・
パー・
デーの
石油を
輸出していた、それがほぼ全面的にとまったわけでありますが、今回はそれにほとんど匹敵するものでございますので、この
イラン・
イラク戦争の結果としての、特に
イラクの
生産と
輸出がほとんどとまったということの事実の大きさを十分御認識いただきたいというふうに考えております。
それにもかかわらず昨年の第二次
石油危機勃発当時におきますように、たちまち
石油危機の
状況が
発生するということにならなかったのは、先ほど御
説明申し上げたように
戦争直前の
状態が
需給がアンバランスである、つまり
供給が過剰であり、
石油消費国の
石油消費が大幅に落ち込んでいるという
状況であるから、これだけ大きな
マグニチュードを持つ
石油供給の
減少が
発生しても、直ちに
石油危機には結びつかなかったわけでありまして、もしも
石油消費国側の
状況が前回の
イラン革命当時あるいは前々回の第四次
中東戦争当時のような、
石油消費がかなり旺盛であるような
状況であった場合には、今回の
イラン・
イラク戦争によってそれがすぐに
石油危機に結びつくことになったのは疑いないところであります。しかし、これからの問題を考えますといろいろの
問題点が出てくるわけでございます。
まず
一つは、いま申しましたようにことしは
わが国を初めといたしまして、主要な
石油消費国におきまして
石油の
消費が大幅に減っております。国によってさまざまでございますけれども、比較的
減少率の少ない国で対前年比で七、八%、それから多い国で一五、六%減っております。
わが国の場合も、最近数カ月間は対前年同月と比べまして
国内の
石油消費が一〇%
程度減少しております。したがいましてこれが
世界的な
石油の
需給に好
影響を与えているわけでありますけれども、ここで
一つ考えなければいけないのは、ことしの
主要石油消費国における
石油の
消費の
減少が、実は
実態よりも見せかけ上減り過ぎているということでありまして、これは非常に重要な点であります。
なぜかと申しますと、細かいことを御
説明する時間がございませんので要点だけ申し上げますが、
統計上の問題でございます。これは
わが国だけではなく、一般に
世界各国とも同じことでございますけれども、
石油の
消費統計といわれるものは実は
石油の
販売統計でございます。
卸売段階における
引き渡し量をすなわち
消費量として考えておりますので、
石油の
需給の
状況なり
価格が安定しておりますときはそれがそのまま
消費の
実態を反映するものとして考えてよろしいわけですが、昨今のように
石油情勢が急激に
変動してまいりますと、今後の
見通しによって
消費者の
対応が変わってくるわけであります。
消費者だけではなくて
石油会社の
対応も変わってまいりますし、あるいは
政府自身につきましても
国家備蓄を積み増しするというような
各国がやっております
政策が進められますと、当然その
対応が変わってくるわけでありますので、そういうものを総合しましたいわゆる仮
需要の
変化が非常に大きいわけであります。昨年は
石油危機の
発生によって一年間で
石油価格が約三倍近くまで
上昇したわけでありますが、それによって仮
需要が
実需に伴って相当
発生したと私は考えているわけでございます。
イラン・
イラク戦争の
勃発以前は、さっき申しましたように
国際石油情勢がかなり安定しておりましたのでそれを反映して仮
需要が逆に
マイナスに立つというような形になりましたので、昨年とことしを対比いたしまして、たとえば一〇%減った、したがって
石油危機をうまく乗り切ってより脱
石油が進んだというように簡単に割り切ってしまうのはきわめて危険であります。これは
統計のそういう数字の
動きを無視した
考え方であります。もちろん昨年の
石油危機以来の
世界的な
経済の停滞、
成長率の鈍化、それから
石油価格の
上昇による
価格効果などによって、
石油の
実需そのものがかなり減ってきているということも事実であります。それから、今後の
石油の
供給制約の強まりが予想されること、あるいは
価格の
上昇が予想されることなどによって、同じく
石油の各
消費者、これは産業も含めまして、それが
石油代替エネルギーへの転換の促進あるいは
省エネルギーの
推進などの脱
石油を進めていることも事実であります。念のために申し上げますが、ことしの
需要の減り方が全部そういう仮
需要の
変化であるということを私は申し上げているのではありません。しかし、
実需の
減少に加えて
相当量の仮
需要の
変動があるというように考えなければいけないわけでありますから、ことしこれだけ
石油の
消費が減った、あるいは引き締まったからそれで大丈夫だという
考え方は非常に危険でございます。これは私の
個人だけの
意見ではございませんで、
各国の
石油の
専門家が一様に同じような
考え方をしているわけであります。
ということは、これから先の
イラン・
イラク戦争の
推移、それに関連する
国際石油情勢の
実態的な
変化によりまして、再び
価格の
上昇あるいは
需給がタイトになるというようなことが予想されますと、再び昨年と同じような仮
需要が
発生する
可能性があるわけであります。そうしますと、昨年
プラスに出た仮
需要がことしは
マイナスに出たので差が大きくなったわけでございますが、ことしの
マイナスの仮
需要が今年末から明年にかけまして、
情勢のいかんにもよりますが、もしもまた
プラスの側に立つことになりますと、ことしと比べた来年の
世界的な
石油の
消費量は逆にふえてくるということも考えておかなければいけないわけでございます。この心理的な
変化が一番
心配だというのが現在国際的に
石油の
専門家の間での定説になっているわけでございます。この点をぜひ
国会の
先生方に御認識いただきたいというように考えております。
次に、それではこれから先どうなるかということでございますが、これはもう一にかかって
イラン・
イラク戦争の今後の
推移によるわけでございますが、現在までのところ
戦争が早期に終結する兆しは残念ながら見当たらないわけであります。国際的な調停の
動きその他はございますけれども、まだしばらく
戦争状態は継続するというように考えなければいけないと思います。まあ
戦争状態が継続するにいたしましても、今回の
戦争の初期の
段階におきますように、
両国とも
戦闘爆撃機あるいはミサイルなどの
近代兵器を使いまして相互に
石油施設を
攻撃するというような
状態は、現在では武器の
供給の
不足あるいは燃料の
不足によって急激に
規模が縮小しているわけでございますので、今後ともそういう
状況で
戦争の
規模が縮小いたします場合には、
戦争そのものは存続していても、
両国の領土内への
攻撃が、特に
イラク側への
イランの
攻撃が余り行われなくなるということになりますと、これ以上の
石油施設の破壊もないかもしれません。楽観的に考えますと、一方で
戦争は継続しながら、特に
イラクの側におきまして
原油の
供給施設の
復旧作業が開始される
可能性もなきにしもあらずというふうに考えるわけでございますが、ここの点は余り楽観的に考えるのは現在ではまだ危険であるというように考えます。
そういたしますと、いつの時期で
戦争が終わるかということでありますけれども、かなり楽観的な
予測ではありますが、本年の年末ごろで一応どうにか
戦争が終わるという仮定をいたしまして、その
前提から出発いたしますと、それではそれから
復旧作業に取りかかりまして、
原油の
輸出が再開されるのにどのくらいの
日数を要するかという検討をしなければならないわけでございます。これは非常に
予測が困難であります。なぜ困難かと申しますと、
被害の
程度がまだわからないからでございまして、それが正確に
予測できますのは、
戦争が終わりまして
被害の
調査団が
各国から派遣されまして、それによって正確な
被害の
程度が把握され、それに対する
復旧の
所要日数が計算されるということにならないと
予測ができないわけでございます。現在のところ、いろいろの
情報を総合いたしまして判断いたしますと、
原油そのものが再び
生産され、
輸出されるようになるまでに最小限三カ月、恐らくは六カ月くらいは必要であろうという説が比較的多いわけであります。ただし、
両国とも当初の
爆撃等によって破壊されました
石油精製施設につきましては、これは
復旧に数年を要するということでありますので、それが
復旧いたしますまでは
イラン、
イラク両国とも、
原油は
輸出いたしましても
国内の
石油製品は海外から輸入しなければいけないということになりますので、これはやはり国際的な
石油の
需給に
マイナスの
影響を与えるものであるというふうに考えるわけであります。したがって、先ほど申しましたようにかなり楽観的な
前提ではありますが、本年末ぎりぎりのところで
戦争が終結したといたしましても、
両国、特に
イラクからの
石油の本格的な
輸出の再開は早くても来年の夏ごろ、春の遅いころから
初夏のころになるというように考えざるを得ないわけであります。したがって、まずこれから始まりますことしの冬、北半球に存在します
石油消費国にとっての
石油需要期でございますが、この間に
原油の
輸出が再開される
可能性はゼロであると考えなければいけないわけでございますので、その間徐々に
石油の
需給は詰まってくる、タイトになってくるわけであります。しかし、何回も申しましたような
戦争直前の
需給の緩和した
状況がございますので、ことしの冬の
需要に対して
供給が
不足するというような事態は、
戦争が現在
程度の
状況で続く限りは私はまずないというように考えるわけであります。
ただいま申しましたようなことで
予測をしてまいりますと、比較的早い時期に回復するということでも、来年の
初夏、夏ごろにならないと
原油輸出が再開されないということでありますので、それがそのとおりにいけばぎりぎりのところでどうにか国際的な
石油の
需給は破綻を来さないでいけるというように思いますが、それが少しおくれました場合には、かなり
影響が来年になって出てくるというように考えなければいけないわけでありますし、特に問題は、来年の春から秋までの
石油の不
需要期におきます在庫の積み増しが、
石油供給の
減少のためにむずかしくなってくるということが予想されるわけでありますので、その場合は、仮に
戦争が終わりましてもそれからしばらく間を置きまして来年の冬、一年後に
石油の
需給の逼迫が訪れるということになるわけであります。
この
石油の
需給は、そういうことで当面すぐ
影響が出る場合と、いま御
説明申し上げましたように、ある
程度の時間を置いて
影響が出てくる場合と両方あるわけでございます。そういうことがありますので、
石油の
供給減少を引き起こした
原因そのものがもうずっと前に終わっているのに、いまごろになって
石油がないとか、
石油価格が上がるとか、これは
メジャーズの陰謀であるとか、
石油会社の悪いしわざであるということがよく言われるわけでありますが、これは
石油の
需給の
実態を御存じない方のおっしゃることでございまして、
石油の
需給と申しますのはそういう性格を持っておりますので、私は、ことしの冬は乗り切れても、
戦争が早く終わっても、来年の冬が乗り切れなくなる危険があると考えております。
ちょっと時間が過ぎましたので一
あと一言だけ申し上げさせていただきますが、そういう
需給の
状況にもかかわらず、
石油の
価格はもうすでに
上昇を始めているわけでございまして、
スポット価格は、アラビアン・ライトをとりましても一バレル四十ドル以上という高値がついております。これは
イラン、
イラクからの
原油に大きく依存しております国が、その
供給を確保するために現実に
スポットをすでに買いに出ている結果であるというように考えるわけでありますし、
スポット以外の
長期契約原油につきましても徐々に
価格が
上昇する気配にあります。
もしも
予定どおり十二月に
OPECの
総会が開催されました場合には、当然そういう
状況を踏まえて値上げの協議が行われるようでありますが、恐らく現在の
戦争の
状況から考えて、
OPECの
総会は延期される公算が大きいというように私は考えております。その場合には、ちょうど昨年の上半期と同じように、
OPECが統一的に
価格水準を設定して上げていくということではなくて、各
産油国がそれぞれ自国に対する
石油の
消費国からの引き合いなりあるいは当面の
需給の
状況をながめながら、それぞれ自分の判断で
価格を引き上げていくというような行き方をとると思います。
いずれにしても、繰り返しますと、ことしの冬の
需給の
実態については
心配はないと私は思いますが、それにもかかわらず
価格はこれから
上昇していくというように考えるわけでございまして、
石油価格の高
価格時代がちょっと一段落して、一息ついた感じでございますが、たちまちこの
戦争によってまた
価格上昇の
時代に入ってきたというように考えております。
最後に一点だけ申し上げたいと思いますのは、かつての
スエズ動乱のころから始まりまして、
中東には何度か
政治的、軍事的な
変動がございまして、その都度
石油の
需給に
影響を与えてきているわけでありますが、歴史をたどってみますと、その
政治的、軍事的な
変動の起きる間隔がだんだん狭くなってきているわけであります。最近の例をとりますと、第四次
中東戦争が起きたのが一九七三年、これでいわゆる
石油ショック、第一次
石油危機が
発生したわけでございますが、それから
イラン革命までの間に五年の期間がございました。ところが、
イラン革命の
発生から今回の
イラン・
イラク戦争までは一年十カ月ぐらいしかないわけであります。ということは、
中東の
政治、
軍事情勢の
変動がますます間断なく起きるという
傾向に、非常に困ったことでありますが、進んでいるわけでございまして、特に
わが国のように一次
エネルギーの中の
石油依存度が高く、しかもほとんど一〇〇%
輸入石油であって、
ペルシャ湾依存度が
世界の
石油消費国の中で最高であるという国にとりましては非常に不安定な
状況が進行しているというように考えますので、この際、そういう
状況をぜひとも御認識いただきまして、強力な
エネルギー政策を
国会で御審議、御立案いただきますように
お願いしたいと思います。
以上でございます。