○瀬崎
委員 私は、日本共産党を代表して、政府
提出の
日本原子力船開発事業団法の一部改正案に反対の討論を行います。
反対理由の第一は、安全軽視の無責任な
原子力行政が何一つ改められていないことです。
原子力船「
むつ」の
放射線漏れ事故は、それまでの国の安全審査体制の欠陥を浮き彫りにしました。そのため、行政権限を持った
原子力安全
委員会の新設による基本
設計、詳細
設計、運転前検査、定期検査など、すべての一貫した安全審査が求められたにもかかわらず、実用原子炉については、すべての安全審査権限を通産省などの開発官庁に与えるという大改悪が行われたのであります。また、一安全審査に当たる専門スタッフも、パート体制はそのままになっているのであります。
第二は、
原子力船「
むつ」は
技術的にも
欠陥船だということです。
「
むつ」は、わが国では初めての
原子力船建造であるにもかかわらず、一基礎
研究もないまま開発に安易に取り組みしかも建造過程で実施された一定の実験等から、
技術者が中性子ストリーミングの可能性を
指摘していたにもかかわらず、あるいは
遮蔽についての新しい発達した計算コードが後日開発されたにもかかわらず、さらにはウエスチングハウス社のチェック・アンド・レビューでも、
遮蔽設計改良の
指摘が出ていたにもかかわらず、
事業団はそれらを検討し、「
むつ」に取り入れ、生かす能力も意思も持ち合わせていませんでした。
そうした事情から、「
むつ」の安全性を疑う声は、科学者や青森県漁民の間に強く出ていました。にもかかわらず、当時の森山
科学技術庁長官は、「
むつ」の安全性を疑う者は世界の科学に挑戦する者だなどの暴言を吐いて強行出港させたのですが、案の定、出力を一・四%上昇させただけで規定値の千倍という
放射線漏れを引き起こし、
欠陥船であることが事実をもって証明されたのであります。
第三は、
佐世保で実施されている
修理が、何ら安全性を回復するものではないということです。
佐世保での改修は、肝心の原子炉内部の点検には一切手を触れず、ただ原子炉を囲んでいる
遮蔽装置を補強するだけであり、それによって安全性が保障されるわけではないことは明白です。
第四は、「
むつ」が
原子力船として存在する上で欠くことのできない母港問題解決のめどが全く立っていないことであります。
もともと政府がみずから四者協定を結んで大湊の母港
撤去を
約束しておきながら、これを何ら履行することなく、再び大湊に母港を押しつけようというのですから、青森県漁民の反発を受けるのは当然であります。しかも、四者協定の政府代表が現在の鈴木総理であり、その鈴木氏はかつて、大湊のようなホタテ養殖漁場の中心地を母港に選定したのが誤りと明言していたのですから、漁民たちを二重、三重にだましたわけです。
母港選定
作業が難航するのは、そもそも「
むつ」が安全を保障できない
欠陥船であることが原因であり、したがって、今後も母港問題解決の
見通しはきわめて暗いと言わざるを得ないのであります。
第五は、
原子力商船の社会的必要性が考えられないということであります。
一九六〇年代において、八〇年代は
原子力船時代というキャンペーンが張られたことは事実でありますが、その当時ですら、一方では
専門家の間から、果たして
原子力船時代は来るのかという疑問が出されていました。もともと
原子力船時代が到来すると仮定しても、商船としては超大型、高速タンカー以外は考えられなかったのですが、第一次石油危機を境にそのわずかな可能性も失われ、わが国の造船会社、海運会社も一斉に
原子力船開発体制の縮小化を図ったのであります。
こうした見込み違いについては、
原子力委員会も「
原子力船
研究開発の進め方について」の中で認めているところです。現に、資本主義世界を見渡しても、運航中の
原子力商船は一隻もないし、積極的に
原子力商船開発に取り組んでいる国は一国もない
状況であります。結局、
原子力船の実用性は軍事用以外考えられないのであります。
第六は、国費の莫大な浪費だということです。
今後「
むつ」につぎ込まれようとしている国費は、国会審議で明らかになった船体改修
関係で約三百億円、さらに政府が確答を避けている母港整備の費用に約二百億円を要すると見込まれ、これまでにつぎ込まれた国費を時価に換算して合計すれば、総額一千億円に達するのであります。
安全性確保のめ
どもない、母港の
見通しもない、
原子力商船の必要性もないというのに、そして福祉、教育など国民生活が大きな犠牲を受けているときに、これだけの巨額の国費を「
むつ」一隻に投入する意義が一体どこにあるのか、政府は検討し直すべきであります。
第七は、
原子力船
事業団には
研究開発の能力、体制がないということであります。
原子力船
事業団は、もともと造船会社、
原子力メーカー、官庁からの出向者で構成され、主力の
技術者は二、三年で交代するという最悪の寄り合い世帯であり、およそ
技術の蓄積や継承性が図られるような体制ではなかったのであります。しかも、この体制の欠陥は、大山
委員会を初め国会でもしばしば
指摘されたにもかかわらず、今日依然としてそのままであります。
こうした
研究開発の体制も施設も能力もない、単なる事務処理機関にすぎない
事業団に
研究業務を付与し、「
研究」という名称をつけ加えるのは、
事業団反対の世論の緩和をねらった延長のための
ごまかしにほかなりません。
第八は、五年後の他の
原子力機関との統合が全くの行き当たりばったりの便宜主義だということであります。
政府は、行政改革の一環として、五年後他の
原子力機関と統合することとしておりますが、この
事業団はもともと時限立法で設立され、解散が
予定されている機関であり、実質的には行政改革の数合わせに利用したにすぎないのであります。
また政府は、統合先の意図を全く無視しているばかりか、原研が受け入れなければ動燃、動燃が受け入れなければ原研と、行き当たりばったりの
態度であり、とにもかくにも既定
方針どおり「
むつ」を
修理しさえすれば、
あとは野となれ山となれの無責任ぶりと言わねばなりません。
私は、「
むつ」が明らかにした
原子力行政の欠陥を根本からえぐり出し、改革することをしないで、またまた
事業団の若干の延長と機関統合でごまかそうとする自民党鈴木内閣の
態度に強く抗議し、政府原案に断固反対の意思を表明して、反対討論を終わります。(拍手)