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滝井公述人 日本国有鉄道経営再建促進特別措置法案について、
地方の一
市長として、反対の
立場から
意見を述べさしていただきたいと思います。
まず第一に、この
再建特別措置法で
昭和六十年度までに
国鉄の
再建ができるかどうかということですが、恐らく不可能ではないだろうかということです。現在、
国家財政の中で、三K、いわゆる
国鉄と米と
健康保険という
三つの
迷路に
日本の
政治は入っているわけですが、その中で
健康保険というのは、予防的な
対策を講すれば
医療費は減ると私は確信をいたしております。しかし、勉強すればするほど、米と
国鉄は
迷路から出ることができないというのがいまの
客観的情勢ではないかと思うわけです。そういう意味で、この
特別措置法では
国鉄の
再建は恐らく六十年度までには不可能ではないか。
それはまず過去の歴史的な経緯をごらんいただきますと、過去四回
再建案を
国鉄はお
つくりになったわけです。まず第一次の
計画を
昭和四十四年の九月に
つくりました。そして十カ年、五十三年には
黒字になるという
目標を立てたわけですが、これもだめになりました。それから第二次は四十八年の二月、これも十年で、五十七年には
収支の
均衡ができるという
目標だったのですが、だめでした。それから第三次が五十年の十二月でございましたか、五十一年、五十二年で
収支の
均衡を
目標としましたが、これもだめでした。それから四次が五十二年一月、おおむね五十四年に
収支の
均衡を図る。こういうものを四回やりましたが、二年足らずで全部だめになったわけです。そこで、今度第五次の
計画を出して、五十四年十二月に
閣議了解を得まして、六十年度までに少なくとも
国鉄の
経営を健全化して、
収支の
均衡を図るということになっているわけです。
しかし、これらの五つの
計画をずっとごらんいただきますと、柱はいつでも基本的には三本です。すなわち、
運賃の値上げと
合理化、しかもあるときは五万人、あるときは十一万人、あるときは六万人、あるときは七万四千人というように、必ず
合理化、首切りが伴っております。そして、そういうことをやれば国が
助成をします。
助成は濃淡いろいろありました。しかし、とにかく一貫をしてそういう
三つの
政策でおやりになってきたわけです。
御存じのように、まず
国鉄全体をごらんいただきますと、
昭和三十年には、輸送しておるシェアというのは
旅客で五五%、
貨物で五二%であったのですが、五十四年は
旅客二五%、
貨物一〇%と減っていっているわけです。現実に東京あるいは
県庁所在地の
乗客その他は
増加しておるかというと、決して
増加しておりません。減りつつあるわけです。しかも、五十四年度の
監査報告をごらんいただきますと、とにかく
国鉄の総裁は、
トンネルの先が見えた、明るくなった、こうおっしゃっておるのですけれども、どうもそうではないのじゃないか。ずっと五十年ごろからの
国鉄の
赤字は、五十年度は九千百四十七億ぐらいですか、それで五十四年度は八千二百十八億円で、五十三年度に比べたら六百四十九億減っているのですけれども、しかし、五十五年度と五十六年度の
状態を一見ますと、もうすでに
電気料金が上がり、
石油の
値段が上がる。イラン、イラクの
状態によっては、さらにこれは百十一日か二日の貯蔵しかないわけで、
ランニングストックしかないわけですから、もうすでに
政府自身が、
運輸省自身が五十五年の
国鉄の
赤字は八千八百九十九億、五十六年は一兆七百八十九億になります、
再建の
トンネルは、出口が見えるどころじゃない、まさにお先真っ暗だ、こういう
客観情勢が明確に出てきておる。しかも、
経済は低
成長です。
乗客がどんどん
増加する
客観情勢はありません。
それからもう
一つは、この
地方交通線です。これを今度はいままでと違って法律で本格的に切っていくことになるわけですが、一日一キロ当たり二千人以下のところを切るということなんですけれども、こういうところがどの
程度の
一体赤字の要因になっているかというと、五十二年度で
国鉄の
赤字が八千三百三十九億円の中で二千三百六十四億円、三〇%です。あと七割はいわば
幹線と言われるところが
赤字なんです。したがって、この
ローカル線を切り捨てても、
幹線のところでどういうようにして
黒字を出していくかということが明確でないと、とてもこの案は成功をしないわけです。
それから、そういう
赤字線、
ローカル線を切り捨てるというのに、
国鉄は一体
ローカル線について
創意工夫をこらしてそこに
乗客のふえるような方途をやったことがあるかというと、やったことがないわけです。たとえば依然として大きな電車を走らせずに、保線区で使っているようなミニカーを走らせる。タクシーと同じように
踏切、
踏切でとめて、つっつっ、つっつっ行ったら、お客は幾らでもふえてくると思うのです。そういうことをやったらどうだと言うけれども、
国鉄はずうたいが大きくてそういうことはできませんと言うわけです。できないから首を切る、あるいは
地方線を切ってしまうというようなことでは、これはとてもだめです。
それから同時に、それならば六十年度になったときにどういう形になるかというと、そのときになるほど五百億ぐらいの
黒字になるわけですけれども、一方においては莫大な
退職金と年金が出てくるわけです。これは
御存じのように、
国鉄は
共済組合の中でも最も
老齢化傾向の強い職員が多いわけで、したがって、ここだけで六千百億、六十年で出てくるわけです。そして同時に、東北新
幹線やら上越新
幹線というのが開始されます。これでもう三千億
赤字が出るわけです。一方で二千三百億の
地方線を切るが、
幹線で三千億
赤字が出るところを平気でお
つくりになるわけです。これはいわば少し分裂的な
状態が出ているのじゃないかという
感じがするわけです。こういう理由で、この
再建特別措置法というのは、六十年に
黒字基調になることは不可能である、
収支均衡は不可能である、これが基本的な第一の
考えです。
それから第二には、非常に根本的な問題を
考えなければいかぬのは、
国鉄がもし特定の
地方交通線を廃止するならば、それは私は
国鉄の
自殺行為であると
考えております。
私は
産炭地に育ったのですが、
昭和三十年代から、
御存じのように、
石油の
値段が
石炭の
値段より安いというので、
エネルギー革命、
スクラップ・アンド・ビルド政策を
政府はおとりになりました。しかし、おとりになりまして十年もたたないうちに、あれは間違っておった、
石炭を見直さなければならぬ。いわば油の
値段が
石炭より高くなってき始めた。油が入りにくくなってきたわけです。しかも、
政府は
御存じのように
省エネルギー政策をとりまして、現在燃料の中の七五%というものが油で占められているのですが、それを
昭和六十五年には五〇%に切り下げるわけです。そういういわば
省エネルギー政策をとり、同時に、もう一方は、一体
石油の運命というのはこれからどの
程度あるか。せいぜい
深海部の探査その他をやっても長くても三十年ではないかと言われているわけです。あるいはこれはもう少し延びるかもしれませんが、しかしいまのような
状態だったら、二十年ぐらいを見ますと、いまのようにモータリゼーションがどんどん進んでいく、
石油の税を取り上げて、そして
道路をつくっていく、とすると、もし油が入らなくなったときには一体
自動車はどうなるのかということです。ここらあたりをもう少し、総合的な
交通政策をお立てになるときには
十分討議をしていかないと、いまの
日本の
社会は、
石油がしみ込み、
自動車がしみ込むというような、そういう
社会になっておりますけれども、
石油と
自動車が同時になくなったときに、
道路というものは長大な
道路ができた、しかしそれならば
自動車を
電気にかえ、あるいはガスにかえる、こんなものは非常に効率が悪い、能率が悪いものになる。というと、
道路は無用の長物になる。そのときに
国鉄は、まさに百年の大計として
国鉄が生き上がってこなければならぬ。すなわち、
石炭を切り捨てたら、十年したらしまったと見直すと同じように、また
石炭と同じ轍を
国鉄で繰り返すような
感じがしてならないわけです。
そこで、総合的な
交通政策を、運輸省は陸海空
三つとも持っておるわけですから、
国鉄が今日の運命になったというのは、航空機の
政策がむちゃくちゃに進み、高速
道路がむちゃくちゃに進み、フェリーがむちゃくちゃに進んでいくというところに今日
貨物のシェアが一〇%になり、
旅客が二五%になっておるわけですから、
一つの省でそういう総合的なものを見ながら、
計画経済でなくても、少なくとも
経済計画、
交通計画ぐらいは持っておかなければならぬ。それを持っていなかったところに今日の悲劇があると言わざるを得ないわけです。こういう根本論を二番目に提起したい。
それから三番目は、地域開発との関係でございます。さきに私たち過疎地域の市町村長、住民、議会が一体になって
国会にお願いをしまして、ことしの四月一日から、旧過疎法が十年の期限の経過が終わりまして、新しい過疎地域の振興法ができたわけです。この過疎法の中で、三条、五条をごらんいただきますと、
地方における
交通通信体系を整備するということがあるわけです。この
地方の
交通通信体系の中には、それはバスと船だけであって
汽車は入らぬという主張がありましたので、私は
市長会で、そんなばかなことはない、これを入れるべきだという主張をしまして、それは
政府に申しましょうということになったわけです。
その後、この六月から九月ごろにかけて、私たち全国千百十九の過疎自治体は過疎振興
計画をつくったわけです。その振興
計画をつくるときには、当然
鉄道を頭に置きながらつくったわけです。それは、県の過疎振興
計画の
方針に基づいて私たちが具体的な過疎振興
計画を
つくり、それを総理大臣に出して、そして総理大臣は関係大臣と協議をすることになっておるわけですが、私たちについてはそれは何も言ってきておりません。こういう地域における過疎
計画と、同じ内閣の中でのこの
国鉄の
特別措置法とはどういう関係があるのか。一方においてはそういう決議をして
計画を出して、一方においては今度それを切るというような分裂的な形は困るわけです。
もう
一つ例を挙げますと、
産炭地域振興臨時措置法です。これは五十六年の十一月十二日に期限が切れますけれども、この期限が切れるものを、いま
産炭地域振興
審議会でどういうような答申を出すかということを御討議中でございます。やがて、来月の初めぐらいには恐らく答申が出るのじゃないかと思うのです。この場合に、
産炭地域をブロック別に振興していくという新しいアイデアが出てきました。そうしますと、ブロック別に
審議する場合に、私たちはその地域の
経済基盤を非常に大事に見なくちゃならぬわけです。
経済基盤の中で一番大事なものは
交通ネットワーク、
交通網でございます。たとえば内陸部で新しく産業を興そうとすれば、企業を誘致しようとすれば、
交通網の整備がなかったら内陸部に来ないわけです。
皆さん御存じのように、
日本の産業というのは臨海工業地帯に発展をしております。したがって、私たちは当然
経済基盤として新しいビジョンを出しなさいと通産省から言われ、県と相談してビジョンを出したときには、たとえばわれわれの筑豊の地帯で言えば、二百一号線とか三百二十二号線とか二百号線という国道とともに
国鉄をぴちっと位置づけておるわけです。これは大事な動脈です。そういう
国鉄と
道路網という二本のものがもしここで切られてしまえば、何のために
産炭地のビジョンをつくったか、何のために基本
計画を
つくり、実施
計画を出したかわからなくなってしまうわけです。こういう点についても非常に大きな矛盾が出てきました。
それからもう
一つ、全国的な規模で定住圏構想というのがあるわけです。この定住圏構想は一九八五年には三大都市、東京、大阪、名古屋を中心とする人口は六千四百万人になるわけです。六千四百万人になったら大変だということで、五千五百万に
政府は抑えようという
方針でございました。そうしますと、九百万人だけは三大都市に集まる人をその田舎にとどめておかなければならないわけです。これが
日本型
社会福祉構想だと
政府は説明しているわけです。そうしますと、そういうところに出ていくのは青年ですが、
鉄道を全部のけてしまう、一日二千人以下になってしまうということになりますと、青年は田舎に魅力を持ちません。すなわち、過疎が進み、そういう定住圏構想というのは絵にかいたもちに終わってしまうことになります。こういう地域開発との関係についてどうしても納得がいかないわけです。
それから四番目に、
ローカル線問題について、実はいままで
国鉄はいろいろ答申を出したのですが、
国鉄地方交通線問題小
委員会のお出しになった「
国鉄ローカル線問題について」という、この文書でございます。この最後にすばらしいことを書いているわけです。これまで
ローカル線対策は
国鉄経営の改善に重点が置かれ、地域住民の足の確保について十分な配慮が足りなかったことが大きな
原因であった、これがうまくいかなかったのは配慮が足らなかった、こういうことです。だから、今後立法や行政上の措置をとるときには地元との連絡調整を十分しなさい、それから同時に、
経営の
状態とか
国鉄の持っておる情報というものを全部公開しなさいということを書いてあるのです。こういうことはいままでなかったことですが、今度の小
委員の
皆さん方は非常に民主的な
ローカル線問題の取り扱いをしていただいているわけです。
国鉄は、いままでこの
特別措置法の立法に入る前あるいは立法過程において、われわれ自治体とひざを交えて、現地に来て
意見を交換して住民の
意見を吸収してこういう立法をやったという事実は何もないわけです。まさに天下り的な、官僚的な、よらしむべし、知らしむべからずという態度でおやりになっているわけです。こういういわば生活
ダイヤ、
国民生活の中に組み込まれておる
ダイヤはそういう死に方をさせるわけにはまいらぬという形になるわけです。これが四番目です。
それから最後に、
ローカル線の切り捨てと教育の問題についてひとつぜひお知りいただきたいのは、私の市郡十六万のところですが、県立の保育短大がございます。ところが、
御存じのように、最近は
国鉄がどんどん
列車を間引いていくわけです。その保育短大というのは県下各地からやってくるわけですが、授業が八時とか九時にはできないのです。
国鉄がたまにしか伊田という駅に来ないわけです。九時四十分からです。そして、授業は四時に終わってしまうのです。クラブ活動も何もできないです。教育が成り立たないわけです。
それからもう
一つ、もし今度
ローカル線で一日一キロ当たり二千人だと、これで、私の市に六つの線があるのですが、二つがまずだめになります。いわば大阪冬の陣です。それから今度は一日一キロ当たり四千人になりますと、あと四つあって、これが全部夏の陣になるわけです。そうしますと、私の地域には
国鉄が
一つもなくなる。そうしますと、十六万の市郡ですが、高等学校が六つあるのです。それは東の方に二つ、それから南の方に
一つ、中央部の東と西に
一つずつ、中央に
一つと、六つあるのです。そこに通学する人は全部
国鉄を利用している。高校生は
御存じのように十八歳以下ですから、
自動車の運転免許は取れません。いわば
交通弱者です。こういう
交通弱者が利用をしておるものを、単に
経済合理主義で切っていくという血も涙もない
政策、しかも
幹線だけは損であろうと何であろうとやるというならば、田中角榮先生じゃないけれども、いままでの
日本の
経済というのは大企業と大都市が支配をした、これからの
日本列島というものは太陽と水と人間が豊かになるものにしなければならぬと
日本列島の改造論にお書きになっているのですけれども、まあ改造論少し間違ったところはありましたけれども、根本精神はそうおっしゃっている。したがって、私は、そういう点では一歩下がって、人間が主体ですから、そういう教育の点を
考えなければいけない。
国鉄にそういう
考えは全然ない。
こういう点で、私は、本
特別措置法案については、一
地方自治体の
市長としては納得ができませんということでございます。
以上でございます。(拍手)