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公述人(稲葉秀三君) 御紹介を受けました稲葉でございます。
予算案全体について
意見を申し上げるべきではございますが、すでに公述も行われていることでございますから、エネルギーの分野について見解を申し上げます。
御存じのように、
昭和四十八年、一九七三年に
石油危機が起こりまして、わが国といたしましては非常に大きな
経済的、社会的
影響を受けました。ですけれども、昨一九七九年の初めに
イラン革命を転機にいわゆる第二次
石油危機が発生をいたしまして、これが今日まで続いております。これによりましてさらに大きな
影響を受けねばならないことになっていることは皆様方も御存じのとおりでございます。私は、第二次
石油危機の方が第一次に比べまして構造的、
長期的な要素を多分に持っている。そして世界並びに
日本の
経済を大きく揺り動かしていると思っております。特にエネルギーの中の
石油依存率が全世界の五〇%強に比べまして、
日本では七五%に達しております。そのほかのエネルギーもあわせまして九〇%弱のエネルギーを私たちは輸入依存をしております。したがって、わが国といたしましては、
国民経済全体の
立場から真剣な基本認識と対処策かぜひとも必要であると、このように思っている次第でございます。
エネルギーは、われわれの
国民生活、産業活動そして輸送などを賄う源泉であります。第一次
石油危機後はもちろんのこと、特に第二次
石油危機以降は特にシビアな
政策をとることかわが
日本でも要請をされるようになってまいりました。その
一つは、省エネルギーを積極的に推進をしていかねばならないということであります。その二つは、
石油にかわりまするエネルギーを積極的に開発をしていくことであります。昨年の東京サミットを
契機に他の先進
経済国は今後
石油の輸入を増大をしていかない。
日本も一九八五年に一日六百三十万バレルにこれを制限しなければならないということになりました。しかし、ことしに入りまして、これからのIEAの理事会や閣僚
会議、またイタリアで開かれまするサミットでは、明八一年についても、八五年につきましてもその輸入目標がさらに下げられるだろうということが言われております。また、
石油一バレルの輸入
価格は一九七〇年、
昭和四十五年ごろでは一
ドル七十セントでございました。それが
昭和五十三年の暮れには十三
ドル八十九セントとなり、その後また大幅に
上昇して、いまでは平均輸入
価格がFOB建てで三十
ドル強になっております。また、
事態を放置をしておきますると八五年には現在の
ドル価格で三十八
ドルから四十
ドルに、また九〇年になりますと四十五ないし五十
ドル見当に
上昇していくだろうというのか世界のほぼ専門家の共通の見解のように思われます。平均三十
ドルになるということはわが
日本にとりまして
石油の輸入量を従来ベースでやるだけで六百億
ドルの外貨を払わねばならないということを
意味いたします。輸入力の半分を
石油だけに割いていかねばならないと、こういうことになりかねないのであります。したがって、代替エネルギーの開発はさらに積極的にこれを推進していかなければならないと考えます。
政府は、第一次
石油危機後、
昭和五十年と五十三年と二回にわたりまして、新しい局面に対処しての総合エネルギー
政策を閣議で決定あるいは了承をされております。私もこの仕事に御協力申しました。しかし、昨年の新
事態に即応いたしまして、
事態の緊迫化に対処をして、さらに新しい暫定
需給見通しと、これに基づく諸
政策を推進しなければならないことになり、これに基づいてのエネルギー関係
予算案が今議会に提案をされ皆様方の御審議にゆだねられております。また、これと並行いたしまして、
石油代替エネルギー開発のための新エネルギー総合開発機構その他の法律案か上程をされているのであります。時間の関係上、
予算案の各項目についての私の見解表明は省略させていただきます。しかし、このエネルギー関係
予算案並びに法律改正には私は賛成をいたしたい所存でございます。では、これで
日本のエネルギー
対策は軌道に乗って
国民は安心してよいのか、こういうふうに認識をしてよいのかということになりますと、決してそのようには思わない次第でございます。
今後のこともございますので、いささかこれについて私の所見を申し上げまして皆様方の御
参考に供していただきたいと思います。
その
一つは、私の思いますのに、このような二重のむずかしい情勢変化にもかかわらず、エネルギー、特に
石油の数量の制限が行われたり、
価格が大幅に
上昇をしているということがわれわれの社会や産業活動、また
国民生活にどのような
影響を与えるのかということにつきましての基本的認識というものが遺憾ながらまだ十分確立をされていないのではないかということであります。私は、
政府や各界のエネルギー問題や
政策のお手伝いをいたしております。また、国際的にもエネルギー問題や
政策について若干のお手伝いもいたしております。一九七四年から七六年まで、世界の十五カ国を代表する専門家が足かけ三年かかりまして、この地球の上のエネルギーがどうなっていくのか、二〇〇〇年を過ぎた後までどのようなことになるのか、これにどう対処をしなければならないかという研究組織を設けました。私も
日本の代表の一員としてこれに参加をいたしました。このWAESの報告の重要な点は、世界のエネルギーの半分強を占めている
石油が一九八五年から九五年ぐらいの間に供給の限界点に達するであろうということでありました。しかし、第二次
石油危機を
前提として考えますと、われわれは、その時期はもっと早まりそうだと、
事態はもっと深刻になりつつあると思わざるを得ないのであります。そのためにはもっとはっきりした対処策を、世界もそうですし、わが
日本もとっていかねばなりません。この点、
日本の各界の認識はまだ甘いと、このように申し上げねばなりません。
その二つといたしまして、
日本では
昭和三十年以降エネルギーの消費が急速に
伸びております。つまり高度成長に伴ってエネルギーの消費が急速に
伸びたということであります。そして
昭和三十年から四十八年まで平均の拡大の年率は一一%ぐらいでございました。つまりこの間に七倍弱のエネルギーがたくさん使用されております。しかし、その後エネルギーの消費量はおおむね横ばいで現在に至っております。その間、産業用、特に
製造工業用のエネルギーが減りまして、
国民生活用と輸送用と農業用、水産用のエネルギーが相当の勢いで
伸びていることは御存じのとおりでございまして、これによっておおむね横ばいという状況になっている次第でございます。しかし、この間、二十年とちょっとの間に、エネルギーの使用量は過去において七倍、電力の使用量は驚くなかれ九倍弱ふえているのでございます。これを今回の場合、
政府は十五年後の
昭和七十年、一九九五年までエネルギーの
需給を想定をされまして、一七%弱エネルギーを節約をする、そして
石油の供給を余り増加させないでいても、その間エネルギーの供給量は実質倍にしなければならないと言うのでございます。電力の供給量は倍強にならねばならないと言うのであります。
国民の望んでおりまする一年平均五%強の成長を確保するためには、そのようなバランスでなければならないと言われるのであります。これが今回の暫定
需給見通しの背景となっております。そのためには、実は
石油以外のほかの国産並びに輸入エネルギーというものは、おおむねこれから十五年間に四・五倍にせねばならないということになるのであります。それ自体に私は反対はいたしません。先ほどお話がございましたが、不可能とは申しませんけれども、私は、著しくそのような
状態を実現をしていくことは困難だと、このように思わざるを得ないのでございます。
今後のことを考えまして、私が先生方に
お願いを申し上げたいのは、
経済や
国民生活はこうならねばならないから、エネルギーはこれだけ必要だということからだけで物事を考えていただきたくはないということであります。エネルギーの
需給いかんが社会や
国民生活の大きな制約でありとするならば、エネルギーの節約をまず積極的に行っていく、そして
石油以外の供給増加を講じていく、これがより効率的に進めることができるかどうかということに私たちの社会活動、
国民生活、つまり
経済成長がかかっている次第でございます。つまりいままで行われている推算は、むしろ逆さまの推算だと、このようにも言えるわけであります。こういう形で事をこれから進めていかねばならないと思うのであります。遺憾なから
日本には、まだそこまでのエネルギーに対する基本認識というものが確立をしていないと、このように思う次第でございます。
昨年、私が世界のエネルギー専門家
会議で印象を受けましたのは、ほとんどの先進各国が、
経済成長はこれを推進しなければならない、このように考える。しかし、エネルギーの制約を考えると、二〇〇〇年ぐらいまでは、自分たちの国は二ないし二・五%の成長がせいぜいではなかろうか。しかも、エネルギーの節約は、これから
日本がやろうとしているよりももっと強くやっていかねばならない、こういう雰囲気がきわめて強かった次第でございます。このように考えますと、私は
予算案あるいは法律改正案に賛成をするものでございますけれども、これで決して
日本のことが解決をしていると、このようには考えない次第でございます。
最後に、これからのエネルギーに対処をしていくための費用というものが、実は
政府の場合、まだ公式に算定されておりません。私が副
委員長をいたしておりまする民間機関であるエネルギー総合推進
委員会の中で、先ほど申しました
政府の暫定の
需給見通しか実現をしていくための費用を各種関係団体と連絡をとりながら推算をいたしました。それによりますと、五十四年度
価格で約百五十兆円ということになった次第でございます。過去におきましては、一昨
昭和五十三年の
政府の推算では、十年間で六十六兆円でございました。また実績では、
昭和四十年代は全部で十七兆円であったのでございますか、それがそのような金額になるわけであります。その百五十兆円の六〇%は電力関係でございます。
このように考えますと、今回の
予算案は、まだそのベースに入っていない、このように申さねばなりません。しかし、一挙に大きくしていくことはむずかしいと思いますか、これらの点を考慮しながら、実は今後のエネルギー
政策と
予算案について多元的な御配慮をしていただきたいと思います。恐らく
経済成長がいまのテンポで続きますると、五、六年先にはエネルギーの制約のゆえに何事もできないという時代が訪れてくるのではなかろうかと思います。しかも、今回の電力料金、ガス料金の査定からいたしますると、私はこのように積極策をとっていくということはむずかしくなるのではなかろうかと思います。何しろ電力の場合八〇%の値上げ要因というものが
石油の値上がりからきているわけであります。ですから、一応円を値下げをするとか、あるいは投資を縮小するとかいうことをいたしますると、当然先になって私たちはそのひずみを受けねばならないと思っております。そのことを私は、田中さんも含めまして、消費者代表とそれから各界を代表される
方々によくよく御認識を賜りたいと思う次第でございます。
どうもありがとうございました。