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参考人(
前川春雄君) お答えいたします。
最初に国際収支の見通しでございます。国際収支もいろいろ内容がございますけれ
ども、まず貿易収支でございますが、輸出は、最近の円安傾向もございますし海外市場がかなりインフレ的な情勢になっているということもございまして、現在のところ着実に輸出は上昇傾向にあるというふうに思います。一方、輸入でございまするけれ
ども、何分原油価格その他の一次産品価格全部大幅上昇いたしましたので、輸入を金額的に見ますると、まだかなり前年に比べて高いわけでございますけれ
ども、輸入の数量的にはもうすでに上昇傾向はとまりましたし、現実にはやや減少傾向が出てきておるということでございまして、これから総合的な物価対策ということの効果も出てまいりますし、総需要に対する適切な管理ということが効果が出てまいりますれば、そういうふうな貿易収支の改善傾向というのは着実に進むものであろうというふうに思っております。そういう
意味で、経常収支につきましてはまだ現在のところ赤字が続いておりまするけれ
ども、昨年の十−十二月が赤字のピークであったというふうに思いまするので、今後これからは改善に向かっていくことはまず間違いないというふうに思いますが、そのスピードは
余り速くないというふうに思います。経常勘定以外の国際収支の項目といたしましては、資本勘定の動きがございます。これも黒字対策として資本の流出促進策をいろいろ過去にはとってまいりましたけれ
ども、現在では状況が一変いたしましたので、むしろ資本勘定の流入促進策をいまとっておるわけでございまするが、そういう効果はこれから着実に出てくるであろうというふうに考えております。そういう
意味で、国際収支につきましては漸次改善に向かうことは大体確実に予想できるであろうと思います。
貿易摩擦等についての御懸念もございますが、前回の第一次石油ショックの後は高度成長からかなり強い引き締めが行われました。そのために内需が極度に圧迫され、いわゆる需給ギャップというものが出ましたので輸出プレッシャーが非常にかかったわけでございますが、今度はそれほど大きな成長率の屈折はございません。その点は前回とはかなり違うのではないかというふうに思いますが、ただ個々の商品についてはそういう危険が起こることは十分考えられますので、前回の経験もございまするので、各業界においてはそれぞれ十分情勢を的確に判断されて自制していただきたいというふうに私
どもも希望しております。
外貨準備がいま毎月減ってきておりまして、三月末に百八十五億ドルぐらいになりました。三月、相場安定のためにかなり強度の市場介入をいたしましたために外貨準備が必然に減るわけでございますが、現在の水準が私
どもが適切な為替政策を運営してまいります上において十分な水準であるというふうに私
どもは考えております。また、これが非常に不足いたしましたときに、これを補てんする
方法はいろいろ
方法ございまするので、その点については全然心配をしておりません。
円安、円相場の問題についてでございまするが、円相場は為替市場における外貨と円との需給関係でございまするので、基本的に国際収支が赤字を続けておりまするときには円安になる傾向を持つわけでございまするが、相場は何分市場における需給関係のあらわれでございますので、そういうふうな国際収支だけでなくて、国際収支の先行きに対する見通しというのが市場関係者によってどう受け取られるかということが大きな要素になります。また、何分マーケットのことでございまするから、心理的にいろいろの要素で動きます。現在は心理的にやや行き過ぎておるというふうに私
ども判断いたしております。もう一つ、相場は通貨の間の相対関係でございまするので、ドルが強くなりますると円が安くなるというような傾向になります。いろいろそういうふうな要素が総合されまするので、的確にそのときの情勢をそのときどきに判断することはなかなかむずかしいわけでございまするけれ
ども、私
どもいまの状態で円相場はいろいろそういう状況を総合いたしましてもやや行過ぎておると、円安の方に行き過ぎておるというふうに判断いたしております。いろいろ三月の初めにアメリカ、ドイツ、スイスとも相談いたしまして市場介入を強める、同時に行き過ぎた円安傾向に対してそれを阻止するような動きの措置をとったわけでございまするが、その主要国がそういうふうに協調して為替相場の安定に
努力するということは非常に市場の心理的にもいい影響があるというふうに判断しておりますが、その一環といたしまして一昨日スイス中央銀行との間のスワップ
協定も結んだわけでございまするが、こういう措置がだんだん功を奏しまして市場の安定化に進んでほしいというふうに思っております。
アメリカの高金利というのはいま非常に大きな問題になっておりまして、米ドルが強くなっておりまするのも大きな背景の一つでございます。世界的な高金利競争ということをいろいろ言われておりまするけれ
ども、確かに高金利が続くことが望ましい状態ではございませんけれ
ども、一方、物価の上昇傾向がそれぞれ主要国で二けたになっておりまする状態では、金利についてもそういうふうな高い金利が続くということはある程度やむを得ないことでございます。現在主要国の間の共通の認識といたしましては、高金利は確かに望ましいことではないけれ
ども、それぞれの国がまずインフレを収束することが一番肝要であるということが共通の認識になっておりまするので、そういう
意味で、高金利も続いておりまするが、漸次そのインフレの収束とともにその高金利がだんだんおさまっていくことは望ましい状態であるというふうに思っております。
金の問題についての御質問ございました。国際通貨制度の中でIMF
協定の第二次改定が先年行われまして、その結果IMFの取引の中で金というものを排除するという方針が決まりまして、日本もその線を支持しておるわけでございます。国際通貨制度全体の中で金の役割りというのはだんだんもう、少なくとも国際的な取引には金を使わない、あるいは金を中心には考えないという思想になってきておるわけでございまするが、しかし一方、各国の外貨準備の中で金の割合はまだかなり多いわけでございまするので、金の価格が非常に変動するということは望ましいことではございません。」われわれは、そういう金の価格が安定することは望ましいというふうに考えております。ただ、御承知のように、一月には八百五十ドルになり、現在では五百ドルを割るというような非常に大きな激しい変動をいたしておる金を再び国際通貨制度の中心に据えるということは非常に危険でございまするので、そういう論評が一部にはございまするけれ
ども、私は現実の姿としてはそういうことにならないと思いますし、また、現に金の産出量も、いまは工業用あるいは民間の需要で手いっぱいでございまして、通貨用に金をさらにふやすというような余裕がございませんので、そういうふうな金が再び脚光を浴びるというふうなことはないと思います。ただ、先ほど申し上げましたように、全体の各国の通貨準備の中の、外貨準備の中の金の割合は大きいわけでございますので、その価格が安定することは望ましいことであるというふうに考えております。