○小野明君 私は、
日本社会党を代表し、ただいまの
大平総理の
帰国報告に対し若干の
質問を行わんとするものであります。
申すまでもなく、今回の
総理の
訪米は、
イランにおける
アメリカの人質救出作戦の失敗後に行われた西側同盟
国首脳の初の
訪米だったのであります。したがって、
総理は、
カーター大統領に対しまして、あのように無謀かつ危険きわまりない作戦について率直に苦言を呈し、二度と再びかかる軍事行動に訴えるべきでないことを理を尽くして進言すべき絶好の
機会を持ち得たはずであります。
ところが、
総理は、
イラン問題については
平和的解決への希望をきわめて抽象的な形で述べたにとどまり、人質救出作戦について反省を求めるどころか、むしろ
カーター大統領の忍耐と抑制に敬意を表し、さらにはその勇気をたたえるなど、
大統領の行動への全面的
理解と同調と受け取れる態度を示されたのは、これは一体いかなる真意でありますか、まずお伺いいたしたいところであります。
すでに多くの報道で明らかにされておりますように、あの救出作戦は、
イラン側からの抵抗があった場合には
イランに対する大がかりな武力攻撃行動を予定していたものであり、まかり違えばペルシャ湾岸全体に影響を及ぼし、石油の供給をとめかねない危険をはらんでいたのであります。
しかも、
アメリカは、一方において
総理も御承知のように同盟諸国に
イランへの
政治的、
経済的制裁
措置についての同調を求めておきながら、他方、一言の連絡もなく、全く独断的にこのような危険な行動に出たのであります。
ところが、
総理、あなたは、
選挙を控えた
カーター大統領の苦況をおもんばかる余り、「共存共苦」だとか、あるいは「苦しいときの友は真の友」といった聞き心地のよい言葉で終始し、
アメリカの国務長官以上に
大統領に物わかりのよい態度を示したのであります。その結果、
アメリカの対
イラン制裁
措置にますますのめり込み、
わが国の自主的な立場と利益を損ねる重大な事態を招来しつつあるのであります。ロペス・
メキシコ大統領は、「人質をとった
イランの行動は非難さるべきではあるが、歴史的背景も分析しなければならない」とあなたに述べたと言われておりますが、ロペス
大統領の方がよほど毅然たる自主的
外交方針を持たれておると言えるのではないでしょうか。
総理は、なぜ毅然たる態度によって
アメリカの行き過ぎを戒め、それによって
わが国の自主的な立場を鮮明にし、もって中東の平和と
日本国民の利益の擁護に努めようとされなかったのか、お伺いいたしたいのであります。
さらにまた、
イランから
わが国への石油供給が完全にストップし、
イラン石油化学コンビナート計画の先行きが危殆に瀕している現在、いかにして
わが国の自主的立場を堅持しつつ、
解決への方途を見出そうとするおつもりであるのか、明確な御
見解を承りたいのであります。
次に、今回の
総理訪米において見逃し得ないのは、苦境にある
カーター大統領に単に同情を示したというだけにとどまらず、
アメリカの
世界戦略に全面的に肩入れする姿勢を示した点であります。対
イラン政策もそうでありますが、さらに、アフガン問題につきましては、たとえ犠牲を伴うことがあっても対ソ制裁
措置に同調することを約束されたのであります。本来、
政治が容喙すべきでないオリンピック問題につきましても、ことさら不参加の意図を再表明し、
アメリカ政府を喜ばせたのであります。これはいかなる御
見解でありますか。
もちろん、アフガニスタンに対するソ連の軍事介入は厳しく非難されなければなりません。しかし、だからといって、
わが国が
アメリカの対ソ戦略に全面的に同調することは、
世界の平和にとっても、
わが国の安全にとりましても、きわめて危険と申さねばならないのであります。
総理、あなたは、
アメリカの対ソ戦略に同調するために一体どのような犠牲を
国民に強いようとしておるのか、明確に示していただきたいところであります。
さらに、
カーター大統領は、トルコ、パキスタンのみならず、
アメリカが中東での軍事施設の利用を望んでおるソマリア、ケニア、オーマンなどに
わが国が
経済援助を提供することによって
アメリカの
世界戦略に肩入れすることを要望し、
総理はこれに好意的検討を約したと言われておりますが、真相を明らかにしてほしいのであります。
いやしくも
国民の血税によって賄われる対外
援助は、
わが国独自の立場から真に被
援助国
国民の福祉と
開発のために行われるべきでありまして、
アメリカの
世界戦略への
協力の視点から行われるべきでは断じてないと思いますが、この点についても
総理の御方針を承りたいのであります。
アメリカの
世界戦略への肩入れは、
防衛力増強の問題によって一層明らかになりました。
カーター大統領は、
わが国の
防衛力増強について、
日本政府内にある計画の早期達成を要望したと言われますが、この計画が
防衛庁の「中期業務見積もり」を指すことは明白であります。昨日、
総理は
衆議院本
会議で否定されましたが、担当の細田
防衛庁長官は、現在
政府内の計画と言えば中業見積もりしかないと肯定をしておられるではありませんか。この食い違いをどう釈明されるのですか。
さらに、
大統領要請に対し、
総理は、「同盟国として真剣に検討し、できるだけ
努力をする」と応じたと報じられたのであります。もっとも、
総理は、昨日の答弁でも明らかなように、国内向けには、検討を約しただけで同意したわけではないと弁解に努めておられます。しかし、
米側は、いわゆる中業見積もりの一年繰り上げ実施に
総理が同意した事実はもはや動かないと、こう見ているのであります。
アメリカの
首脳向け
発言と
日本国内向けの
発言を玉虫色にぼかし、当面
責任の追及を免れようとする姿勢、これほど
国民を愚弄するものはないと言わなければなりません。
結局、大増税か、福祉の削減か、赤字国債の乱発かによってそのツケを払わされるのは
国民なのであります。
特に問題なのは、
防衛庁の内部計画として
国民の前にまだ全容が明らかにされておらず、国防
会議にも閣議にも諮られていない中業見積もりについて、
総理が同意したと受け取られている事実であります。これは明らかに
アメリカの内政干渉ではないでしょうか。大来外相は、
中国の伍修権副総参謀長が私的に語ったという二%論に対し、内政干渉と声高に声明しておりますが、
総理はこの間の矛盾をどうお考えになりますか。
六〇年安保から二十年を経た今日、
わが国の自衛隊が、
日米防衛協力のためのガイドライン、リムパック等を経て、完全に
アメリカの
世界戦略を補完するものへと転換し変質し、グローバルな対ソ包囲網の一環を担うがゆえに現に
日本の平和と安全を危険に導いている事実に対し、
総理はどういう
見解をお持ちでありますか、御
説明いただきたいのであります。
今回の
総理報告によって示されたいま一つの事実は、現在の
日本外交が対米
協調にきゅうきゅうとする余り、第三
世界への十分な
理解と配慮をいかに欠落させているかという点であります。
イラン問題への
対応はまさにその例でありますが、
総理が
メキシコにおいて原油の対日供給量を三十万バレルまで増加させる確約を取りつけることに失敗したのもその一つのあらわれであります。この失敗は、金を出せば相手は応ずるという安易な見通しがしっぺ返しを受けたものであります。
メキシコは、早くからラテン
アメリカ非核地帯
条約を推進し、あるいは非産油途上国の救済を目指す
世界エネルギー計画を提唱するなど、軍縮、
開発の
分野において第三
世界の主導的立場を標榜してまいりました。果たして
総理はこうした
メキシコの立場をどれだけ十分に
理解した上で
協力と石油供給増量のための手を打ってこられたのか、この失敗を
総理はどのように弁解されますか、お伺いいたしたいのであります。
イラン、アフガニスタン問題に象徴される今日の
国際危機は、第三
世界の諸
国民の自主性や
国民的欲求を無視した米ソ両大国の力による政策が失敗し破綻したところから生じていると思います。ところが、
政府はかかる事態の本質を見誤り、憲法の精神をじゅうりんして、ソ連の力の政策に対抗せんとする
アメリカの力の政策に積極的に加担しようといたしております。私は、
わが国があくまでも憲法の精神に立脚し、米ソ両大国の力の政策に巻き込まれることなく、それこそ第三
世界の人々との共存共苦を通じて
世界の平和と福祉への道を探求すべきであると信じます。いやしくも、
アメリカの
世界戦略に肩入れするために軍事大国を目指す
防衛力の
増強など、断じて図るべきでないと存じます。
この点について先ほど藤田議員は、軍事大国化、
日米軍事同盟の強化などはいわれのない中傷だ、党利党略だと言われましたが、この言葉はそっくりお返しいたしたい。
日本の現実を見てください。これは第三
世界、東南
アジア諸
国民、
日本国民の大多数は、この軍事大国、
日米軍事同盟の強化推進を憂慮しておるではございませんか。
総理の明確な
見解を求めて、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣大平正芳君
登壇、
拍手〕