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参考人(
大屋勇造君) 初めに
一言ごあいさつ申し上げます。
本日は、
民事訴訟費用等に関する
法律の一部改正という大変重要な
委員会でありながら、私
どもの
日本における
法律扶助事業についての
概要を御
説明させていただく機会を与えていただきましたことを大変ありがたく感謝申し上げます。
時間が余りございませんようですので、現在の
法律扶助事業についての
概要を御
説明申し上げたいと思います。
まず、
法律扶助協会の設立の過程についてちょっと申し上げますが、
財団法人法律扶助協会は、
昭和二十七年の一月に、
法律上の
扶助を要する者の
正義を確保し、その
権利を擁護するという目的のために
日本弁護士連合会が、当時、基金百万円を拠出して設立された
財団法人でございます。
監督は、
法務省人権擁護局の
指導、
監督を受けておるわけでございます。
戦前から
法律扶助という
言葉もございましたし、実際にも
法律扶助というものは行われてまいりましたが、当時は一種の慈善的な
社会奉仕活動という域を出ない
事業であったように思われます。それが
日本国憲法の
施行によりまして、
法務省の中には
人権擁護局が創設され、
国民の
基本的人権を擁護するという
立場から、経済的に恵まれない
人たちの
裁判を受ける
権利を実質的に保障しようとする見地から生まれたものでございます。
私
どもは、
戦前における
法律扶助事業と戦後における
法律扶助事業は大きな質的な転換をしたというふうに
理解をしております。
一般的な
言葉で申せば、恩恵的な
扶助から
権利への
扶助、こういう形に私
たちは認識をしているわけでございますが、残念ながら現在の
法律扶助事業というものは、
国民に
期待され得るような
事業になっていないという点を私
どもは深く恥じております。これから申し述べます
概要について特に
先生方に深い御
理解をいただきたいと思うのであります。
すべての人が、富める者も貧しき者も等しく
裁判を受ける
権利が憲法によって保障されたわけでございますけれ
ども、洋の東西を問わず、
裁判所のとびらは金のかぎでなければ開けられないと言われているほど費用がかかります。こういう経済的に恵まれない
人たちのために、
法律の保護、
裁判所における
裁判を受ける
権利を守るために、
扶助協会は日夜
努力してまいっておるわけでございます。
具体的な
事業の内容は、
法律問題に対する
一般的な助言、
指導等も含まれておりますけれ
ども、現在の私
どもがやっております
法律扶助事業の中核は、
裁判費用を立てかえて
裁判をしてあげる。
裁判が終われば立てかえたお金を返していただくという制度になっております。その立てかえの費用といいますのは、訴訟に直接かかります費用、保全
処分などの保証金あるいは弁護士の費用等を立てかえるわけでございます。この点におきまして、諸外国ではこれらの費用は全部給付制度になっておりますが、
日本においては単なる立てかえでございます。このために
国民からは余り魅力のある制度とは思われていないという点が一つの欠点になっております。
そのほかに私
どもは全国の弁護士会において無料
法律相談
事業というのもやっております。これは現在、その資金的な裏づけとしては
日本船舶振興会から補助金をいただいて無料
法律相談
事業をやっておるわけでございますが、その
事業の内容は、常設の弁護士会の窓口とか、あるいは法務局とか、そういうところで常設の相談をやり、あるいは弁護士のいない過疎地には巡回をして無料
法律相談
事業を遂行しているわけであります。
事業の運営について申しますると、
先ほど申しましたように、
日本弁護士連合会が二十七年に百万円の基金を出して財団をつくったわけでございますが、運営の主体は
日本弁護士連合会、各地の弁護士会を母体としているわけでございます。私
どもの
法律扶助協会にも全国五十の支部がございますけれ
ども、独自な運営はできない現状でございまして、弁護士会に一任されております。その主たる財源と申しますのは、
日本弁護士連合会を初め、弁護士会並びに弁護士の寄付によって賄われておるわけでございます。国庫の補助は三十三年度から現在までずっといただいておりますけれ
ども、その総額ば約十一億円ぐらいになっております。しかし、運営費につきましては、ほとんど国庫の補助が使用できないようになっておりますので、この辺が現在の
法律扶助事業が非常におくれているという一点でもございます。
二十七年度から五十三年度までの
扶助の件数を申しますと、三万六千件をはるかに超えておるわけでございます。しかし、二十八年間経過した中で、この
扶助件数が三万件台というのは大変お粗末でございます。アメリカあたりでも一年に百万件を超えているという情勢の中で、わが国においては二十八年間にわずか四万件足らず、こういう数字は大変恥ずかしく思っております。五十三年度の
扶助の件数は一年間で二千五百九十八件でございました。五十四年度はいま現在集計中でございますけれ
ども、二千八百件弱
程度の件数しかございません。一年間に国庫の補助をいただいて、この
扶助に充てられる費用は約三億円
程度でございます。
扶助の決定の内容をちょっと簡単に申し上げますると、いわゆる金銭
関係という
事件が非常に多うございまして、全体の三八%ぐらいでございます。それから不動産にかかわる
裁判、
事件が一〇%
程度。最近は家庭
事件が大変ふえてまいりまして、家庭
関係——離婚、認知等の
事件でございますけれ
ども、これが三七%になっております。その他が一五%でございます。
これらの
事件の特徴から見ますると、最近は家庭
事件などは
事件が終わってもなかなか依頼者にとってみては経済的な利益はもちろん非常に少のうございます。このために私
たちがお立てかえをしていたお金が、
事件が終わっても返ってこないという情勢が出てまいっております。どうしても家庭
事件というものはそういうものでございまして、
一般の不動産
事件みたいに何百万円も利益があるようなケースではございませんので、この立てかえたお金が回収できないという事実は、大変今後の私
どもの
扶助事業にとってゆゆしい問題でございます。どうしてそういうゆゆしい問題になるかと申しますると、国庫の補助金は年間七千四百万円
程度でずっとここ経過しております。
事件も二千数百件台にとどまっているということは、まだまだ潜在的な需要者にこたえていけない。
事件をふやそうとすれば、これに投資する資金が不足になってくる。もちろん、この弁護士費用の単価な
どもなかなか引き上げていけない。
扶助のお仕事を担当していただく
先生方は三重の負担をするわけでございます。弁護士でありますので、弁護士会の運営のための財源、会費を出し、
扶助の
事件を担当すればある
程度の奉仕活動、その中からさらに弁護士自身の手数料、報酬から強制的に寄付を取って、この運営に充てているわけでございますが、弁護士会並びに弁護士から見れば三重の負担を強いられているわけでございます。しかし、弁護士法に
法律扶助というものが弁護士会の責務であることが規定されている以上、われわれ弁護士としてもある
程度の奉仕活動はやむを得ませんけれ
ども、費用のないために
国民が、本来
扶助しなければならない
人たちが埋もれているということに対して私
たちは重大な
責任を
感じている次第であります。この辺はどうしても
国会におかれましても、あるいは政府当局におかれましても国庫補助の増額をひとえにお願いする次第であります。
私
どもの窓口は全国に五十支部ございまするが、ここには専任の職員が配置されておりません。弁護士会に働いておられる職員が
法律扶助の
事業も兼務で担当しているというのが現状でございます。この辺に、お金だけふえれば
事業が伸びるという余地はもちろん考えられますけれ
ども、一つの問題点でございます。運営費が、それに伴って何らかの財源を確保する方途を考えませんと、どうしてもその
扶助事業の窓口から混乱を生ずるという点もございます。法務当局などはよくそういう点を
指摘されまして、窓口の整備ができてないところには十分なお金は出せないということはよく言われます。私
どもはそのために、何とか現場の整備をするために、五十一年度において十五億円募金構想というものを打ち出しました。幸い経済団体連合会の御協力を得ながら募金活動を開始したわけでございますけれ
ども、今日現在までわずか一億六千万円
程度しか集っておりません。その中から財団の基金を増額いたしまして、現在
財団法人の基金としては一億二千万円余になっております。私
どもはこのような運営費を弁護士みずから支出をして運営しているわけでございますけれ
ども、どうしてもこのような状況では
法律扶助事業の将来は大変不安に思っております。弁護士も自分が所属している会並びに弁護士会等の会費も年々増加してまいりまして、もはや現在では個人の会費負担は限界に来ているのではないだろうかというようなことさえ言われる現状でございます。私
たちはこの運営費についても大幅な国庫の支出ができますように、
先生方からひとえに御協力をお願いする次第でございます。
特に今回の法案の審議におきまして
裁判の費用が若干引き上げられることは、私は個人としてはやむを得ないと思いますけれ
ども、その中で訴訟救助の運用について大幅な考慮がされたといたしましても、なおそれによって
法律扶助の光から漏れてしまう
国民の層はふえるのではないだろうかと私
たちは不安を持っております。ぜひこういう点につきましても、多くの
国民の方々がお金がないために
裁判が受けられないという事態をなくすために、ぜも
法律扶助事業についても重大な御
関心を持っていただきたいと思うのであります。
時間が参りましたので、これで失礼いたします。ありがとうございました。