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参考人(
梶井功君) 第一点目の
農地法との
関連の問題でございますけれ
ども、確かに
利用増進事業が行われておりました
段階では、
農地法が現在のような
農地法の構造である場合においては、
利用増進事業それ自体も非常に大きな制約があるというふうに私は感じておりました。
まず第一点は、
利用増進事業によります場合に、
農地法による十九条の適用が除外になるわけであったわけでございますけれ
ども、賃料なんかにつきましては
農地法による制約を受けていたわけでございます。したがって、実際に
利用増進事業の中でもって賃料を設定をしていくというふうな場合に、
農地法で
規定されております、たとえば、標準
小作料というふうなものを中心にして、それをめどにして決めるというふうなことではなかなか実際に動かないという実情のところが相当あるわけでございます。
たとえば、
農地法の標準
小作料の方で申し上げますと、これも御承知だと思いますけれ
ども、
農地法の二十四条との
関連でもって、たとえば水田の場合には米の収穫高の二五%というふうなところに
農地法のアッパーリミットといいますか、標準
小作料のアッパーリミットが置かれております。二五%というふうなことが果たしてあるべき地代と言いますか、というものとしてそれで適正であるのかどうかというふうな点については私いろいろ問題のあるところでもございますし、耕作をめぐる条件変化によりましては、二五%以上の地代を払ったからといって必ずしもそれが不当な地代であるというふうにはならない地帯もずいぶんできてきておるわけでございますですね。特に
農業生産力、米の収量それ自体で申し上げましても非常に高まりました。費用の割りにずいぶん収量が高まったという結果としましては、かなりいわば純収益というものもずいぶんふえておる地帯もございます。そういったところでも一律にたとえば二五%というようなところでもってアッパーリミットが画されているというふうな場合に、実際に農家の
方々がお互いに納得ずくでもってつくられている地代の水準というものは、もう少し高いところでもって決まっているというふうなものがずいぶんあるわけです。そういったところでも標準
小作料というふうなものをこれをベースにして決めなさいというふうなことでございますと、なかなか実際にはやりにくいというふうなことを現地の担当者の
方々は漏らしていらっしゃいますし、また事実そうだと思うわけなんですね。その点が
一つ。
それから、もう
一つの点で申し上げますと、
利用増進事業なんかの場合で言いますと、私、これは現在でも、これからもまだ残るんだろうと思うのですけれ
ども、
利用増進事業でもって設定されました
利用権の存続期間がこれが終了しまして、終了してなおかつこれを新たに期間終了後にまた設定するというふうなことを——たとえば、
利用権を設定した方が期間の終了後に申し出るというようなことがございませんと——申し出ることをしないで、そして事実
関係として
利用関係がそのまま引き継がれるというふうなことになりますと、これは
農用地利用増進事業で設定した
利用権でありながら、
農地法上の
賃貸借に移行しまして、解約の場合には二十条に基づく
許可が必要であるというふうな措置も起こり得るわけでございますですね。もちろん自分の財産にかかわる問題でございますから、かなり、
利用権を設定されている
方々なんかは、
利用権の存続期間の終了時なんかには大変神経を使って、そういったことはなかなか起こらないように当人も配慮をしておりますし、またそれをお進めになっていらっしゃる役場の当局者の
方々も御注意なさっていらっしゃるだろうと思うんですけれ
ども、そういう形に移行いたしますよと、うっかりするとそういう危険性がございますよというようなことは、やはり相当
利用権を設定する場合に考慮すべき非常に重大な障害というふうにお感じになる方もいらっしゃるわけなんですね。事実、私
ども調査に伺った
方々でもって、役場のそういうふうなお話でもって
利用権を設定しようかというふうにお考えになったところに、実を言うと、これはうっかりすると、そういう形の手続をきちんとしませんと後で二十条の解約というようなことも起こり得ますよというふうなことを注意されまして、いや、そんなことだったら大変だというのでおやめになったというふうな方も結構いらっしゃるというようなことがございまして、やはり
農地法がある
意味で言いますと生きているということが相当障害になっているという側面はあったわけでございます。
農地法の問題の方に
関連して申し上げますと、私は現在の
段階で言いますと、村の中でのお互いに事情を熟知し合っている農家同士の
耕作目的の
農地移動、こういったものに関しては、もうすでに
農地法上のいわゆる三条を中心にしましたコントロール、管理方式というふうなものは、本来もう不必要なんじゃなかろうかというふうに考えております。しかし、現状でそういったところまで踏み込んでまいりますと、恐らくは四条、五条というふうなものを中心にして歯どめをかけております農外資本の投機的な土地取得というふうなものに対する有効な防御の手段というものがなくなってくるというふうな御心配ももちろんあるわけですね。その辺との絡み合いというものを、そのウエートをどういうふうに判断するかということによって、いまのこの
農地法と
利用増進法の両立てというふうな仕組みが出てくるんだというふうに理解しております。
私個人の見解として言えば、
農地法の方は、もう少し、いま言いましたように、村の中でのお互いに事情を熟知し合っている農家同士がいろいろ民主的に話し合って、それを、いわば
農地利用改善事業というふうなものはその民主的な話し合いを組織しようということでございますから、そういう話し合いに基づいて設定されるような
農地の
利用関係ということでございますれば、これは大幅に私はむしろ村の中のコントロール、国の画一的な
要件によるコントロールじゃなくて、村の中での自主的な話し合いによるコントロールというものに大幅にゆだねていいのではなかろうかというふうに現状を見ております。
しかし、その点については、いわば問題になります最後の三番目の問題の地価というような問題とも
関連いたしますけれ
ども、農外資本による土地取得、農外からの
農地料のディスターブ、これを有効に排除する手段いかんというふうなものとの絡みの中でもって、にわかには、その村の中の土地取引であっても全面的に自由化していくというふうなことはなかなかとりにくいというふうな御判断も、これももちろん成り立つ。恐らく行政当局の方はそういう後者の御判断に立っているんだろうと思うのです。その判断が私一概に間違いだというふうには思いませんし、またそういう判断をいまのところは持って、しばらくはこの村の中でのいわばこういう
利用増進法の中なんかでの
農地の動かし方というふうなものを見る中でもって方向を決めていくということでよろしいのではなかろうかというふうに判断しております。
それから二番目の有益費の問題でございますけれ
ども、先生御指摘のように、私、まさに
農地法が十九条、二十条という形でもって耕作の継続性というものを
原則的に保護している、そういう
法律構成をとっている
段階では、有益費の問題というふうなものは発生する余地がなかったということは確かにそのとおりでございますし、その
段階では有益費というようなことを全然問題にする必要はなかったということだと思うのですが、ここに四十五年
改正でもって、六カ月前の文書による
合意の成立、これがあれば届け出でよろしいというふうに、二十条の
例外事項に、
許可を必要としないという
理由の中に
合意解約というものを認めた、あの時点では、本来私は、その
合意解約を認めたものとの
関連でもって有益費の問題というものを法的に
整備しておくべき事柄であったのではなかろうかというふうに理解しております。しかし、それが現在も行われていないわけですけれ
ども、この前の農振法に基づきます
農用地利用増進事業、あの中では、
利用増進規程なんかに有益費の問題をいわば書き込むということになっておりまして、この
利用権の存続期間というふうなものが短期化する中でもって、土地改良投資なり何なりというふうな
農業上の投資が阻害されないような形の配慮というものは、前の
利用増進事業の中でもすでに行われているわけでございます。ですから、今後もこの
利用増進法に基づいての
利用権の設定というふうなものが、いわば三年なり五年なりというふうな存続期間短期なものを前提にして設定をせられるという場合には、有益費の配慮というものは私はやっていく必要があるだろうというふうに思います。
この有益費の問題に
関連して言いますと、実を言いますと、民法で
規定をしております有益費の取り扱い方というもので、私は、
農業上の有益費の問題が十分にカバーされるかどうかというふうな点については非常な不安を持っております。不安を持っておりますというのは、たとえば、民法の方で
規定しておりますように、増価額もしくは費やしたる金額、そのどっちでも選択してやるというふうなことが、そういった形でもって現在果たしてやれるだろうか。たとえば増価額というふうな場合に、恐らくは地価の増価というふうなものを前提にしてというような話になりましょうけれ
ども、それでもって現実にこういう有益費というようなものの償還というものが、このインフレ過程の中でもって考えていくときに果たして妥当かどうか、これは大いに問題がある。同時にまた、インフレという問題で
関連して言えば、費やしたる金額というふうなことで
農地を補償されたんじゃ話にならないというふうなこともあるわけです。
そういう点で言いますと、
農業上の有益費に関しましては、具体的にどういうふうな形でもって保証していくのかというふうな点についての考え方というものを、私は行政当局は指導方針としてお出しになることが必要であろうというふうに理解しております。ただしそのときに、現在の
段階でもって私はあわてて——あわててと言いますか、いまの
段階でもってすぐにこういう方針でもってたとえばやるべきだというふうなことをなかなか決めにくいであろう、もう少しこういう短期の
賃貸借というものを前提にしての土地改良投資なり、有益費を構成すべき中身というものがどういう形でもって構成されるのかというふうな点を見きわめながら具体的な指導方針を打ち出していくというふうに心がけるべきではなかろうかというふうに思います。
現実にもうすでに、こういう短期の
賃貸借を前提にしまして、たとえば転作がらみの問題でございますけれ
ども、暗渠を入れるというふうな場合に、
耕作者が暗渠投資をやりまして、その場合に途中でもって仮に解約というふうな事態になったときに、後をどういうふうに保証していくかというふうな点について契約例を結んだというふうな実例も出てきております。そういった実例の検討の上でもってしかるべき指導方針というものをお出しになるということがいいのではなかろうか。もう少しこれにつきましては、有益費のあり方というようなものにつきましてはなかなか画一的にいかないファクターがいっぱいある。それぞれの土地条件あるいは
地域での営農の仕方というふうな問題に
関連しまして、たとえば有益費の範囲をどういう範囲でやっていくべきか、あるいは償還すべき有益費としてどういうものをどういう中身でもって算定していくべきかというふうなものについてはもう少し検討を要するであろうというふうに思います。しかし、いずれにしましても、その点の手当てというものは十分にやっていく必要があろう、指導は強めていく必要があるというふうに理解しております。
三番目の、地価の高騰対策という問題でございますが、実を言いますと、私これについては名案——名案といいますか、方法はございません。地価の問題に
関連しましては、私現在の
段階でもって主に基本的問題にすべきファクターとして三つほどあると思っております。
一つは、これはインフレという問題であるわけですね。これももう私などから申し上げるまでもないことでございますが、土地資産というものはインフレに対して一番抵抗力がある、一番強いというのがこれはある
意味で言えば常識でございます。したがって、このインフレという傾向の中では地価高騰というふうなものはインフレ
経済の中では心然的であるという問題、これが
一つであります。ですから、その点で言いますと、地価高騰対策いかんということはインフレ対策いかんという問題ともつながるというふうにも私言って差し支えなかろうというふうに思います。その点を、
わが国の場合には御承知の過剰流動性の問題がさらに加速するというファクターがございます。
それからもう
一つの問題、これが実を言いますと具体的な問題としては大変大きいかと思うんですけれ
ども、私はこの地価高騰の問題に
関連して言いますと、都市政策というふうな問題が非常に重要な
役割りを果たしているというふうに思います。ただ、東京なんかの例を考えてみればすぐおわかりだと思いますが、都心部の人口はむしろ減っていっている、周辺部に人口がふくらんでいる、そういう構造を基本的に持ちながら、しかも宅地空洞化地帯というふうなものを残していく、そういう形のいわば都市政策になっているわけですね。むしろ、その点で言いますと、私はこの都心部、
社会資本投資がこれだけ行われているというのは、都心部にこそ人口がたくさん住むというふうないわば都市政策、そういったところに根本的に転換していきませんと、本来的に地価の抑制というふうなものは不可能だというふうに思っているわけですが、この以上三つの問題点というのは、これはいずれも私はある
意味で言うともう現在の体制の問題それ自体であるというふうに理解しておりますので、これについて、この対策を前提にした場合にはもうほとんど策はないというふうに言っていいだろうと思います。
理論的に言えば、たとえば増価税というふうなものを設定するというふうなこともあるいは考えられるわけですけれ
ども、増価税なんかは言うはやすくして行うのは非常にむずかしいということはもう御承知のところだと思います。
じゃ、それを前提にしまして
農業政策の分野で一体何ができるかということを考えますと、私はいま設定されておりますような農振法によるゾーニング規制というものを前提にしまして、四条、五条でもって転用を本当に抑えていくという措置、これが一番ベターといいますか、それぐらいしか方法はなかろうと。より踏み込んで問題にするとすれば、そういう都市での宅地化というものに伴って出てまいります代替地需要、都市周辺でもって高い地価で、宅地価格で売った方が
農地を遠隔地で求めていく、それに伴って地価が非常に広範囲に高地価が波及していくこのメカニズムを何らかの形で抑えていく、この措置が必要であろうと思います。この代替地需要というふうなものが無制限に広がっていくというふうなものを抑えていくのにも、私はむしろ形式的な
要件でもってそれを縛るよりは、村の中でもってこういう
農地取得は望ましくないんだというものが排除できるような村のコントロール機能、こういったものを強めていくということが非常に有効なのではなかろうかというふうに思っております。その点が
一つです。
それからもう
一つの点は、それは制度の問題として言えば、そういう代替地需要なんかに
関連して言いますと、私はたとえばかつてこの
国会でも問題になりました
農地管理
事業団なんかがそういう売買なんかに介入しまして先買い権を行使するというようなことについては、まだ地価抑制というふうなものについては多少有効な作用を与えることができたかというふうに思うんですけれ
ども、これも恐らく問題にはならないだろうと思いますので、理論的には考えられるけれ
ども、実行はなかなか不可能だというふうなことになるのではなかろうかと、こう思っております。