○
参考人(
肥後和夫君) 私は、五十五
年度の
特例公債発行の問題について
意見を申し上げるに当たりまして、その前提となります五十五
年度予算についての一応の私なりの評価をし、その上に立って、なお幾つかの問題点を指摘したいと存じます。
まず、五十五
年度の国の
予算でございますが、
一般会計の
予算規模四十二兆五千八百八十八億円、五十四
年度当初に比べて一〇・三%増になっております。
財政投融資計画十八兆千七百九十九億円、同じく前
年度当初に比べまして八%増でございます。いずれも、この二十年来かつてなかった低い伸び率に抑えられております。また、
一般会計歳出のうち、地方交付税と
国債費を除きます
一般会計歳出は、前
年度当初
予算の
一般会計歳出の伸びは一三・九%でございましたが、本
年度はこれが五・一%と半分以下の伸びにとどまっております。制度上、義務的に支出しなければならない経費のうち代表的な地方交付税と
国債費を除きますと、かなり諸経費について節減の
努力がなされた結果、このようなことになったのであろうと思われるわけでございます。
他方、税収面では、私見によりますと、避けて通ることができないはずの
一般的な
負担増の問題は見送りになりまして、給与所得控除の見直し、退職給与引当金繰り入れ率の適正化等の部分的な税制改正に伴い、税法上の増収が
一般会計で初
年度約三千五百億円、このほか特別会計で初
年度約八百三十億円の増収が図られたわけでございますが、
景気回復に助けられまして、
一般会計におきましては約三兆五千億円の自然増収を見込むことができました。その結果、増税込みで約五兆円の税収の増加を計上することができたわけでございます。
以上、
歳出、税収両面の要因に伴いまして、
公債発行予定額は、前
年度当初
予定額十五兆二千七百億円に比べまして一兆円を
減額し十四兆二千七百億円、うち建設
公債六兆七千八百五十億円、
特例公債七兆四千八百五十億円が計上されることになりました。
国債発行量を
減額する
予算が編成できたという点では、これまでにない成果であると言うべきかもしれません。これに伴いまして、
公債依存度も、五十四
年度当初の三九・六%から本
年度は三三・五%へ低下いたしましたし、
特例公債依存度も前
年度当初の二七・一%から二二%に、五%も低下を見ております。
しかし、五十五
年度予算におきます以上のような
努力にもかかわらず、
財政の
再建という視点から見ますと、まだ五十九
年度までに
特例公債依存から脱却できるというめどがついたとは言えないように思われるわけでございます。また、仮に五十九
年度に、これからの非常な
努力によりまして、
再建の当面の目標が達成されたといたしましても、六十
年度以降に始まります
国債償還の本格化を考えますと、
財政の硬面化は極度に進行するもののように思われます。その
理由は次のとおりでございます。
まず、五十九
年度までに
特例公債依存を脱却するという
財政再建の当面の目標の達成につきまして、そのめどはまだついていないのではないかというふうに痛感される次第でございます。確かに
年度当初に
国債発行予定額を一兆円
減額できたことは、一応の成果としなければならないでしょうが、これは約四兆六千億円の税の自然増収を見込むことができたおかげでありまして、
歳出と税収入の間にあります構造的な不
均衡は、依然としてきわめて大きいと言わざるを得ません。
高度成長時代を一応三十
年度から四十五
年度までとりまして、それから
石油危機後の四十九年から五十四年の間と、この両期間を比較してみますと、名目GNPが、高度成長時代の一五・一%の平均の伸びから一〇・八%に低下しております。税収の伸びは一五・九%から六・九%に、半分以下に低下しております。ところが、
歳出の方は、依然としてこの両期間とも一五%増ということになっているわけでございます。つまり、
歳出は
石油危機後におきましても、高度成長時代と変わらない伸びを続けておりますのに、税収の伸びは、
石油危機後は高度成長時代の半分以下に落ち込んでいる。
この不
均衡をどうしたら是正できるかということについて、
個人の家計を例にとりますと、収入をふやすよう従来にも増して
努力する一方で、生活程度を落ち込んだ収入に見合うよう切り詰めなければならないのは当然のことではないかと思うのでございます。そうしなければ、生活費に充てるために借金をしなければならなくなってしまう。国の
財政につきましても、収入をふやすことは現在まだ正面から取り上げられていない
状況でございますし、支出を切り詰める
努力も、まだきわめて不十分ではないかと思われる次第でございます。
税の自然増収約四兆六千億円のうち、
公債減額に充てられましたのはわずか一兆円で、残りは支出増加に充てられました。しかし、五十五
年度はともかくとして、五十六
年度以降に同じような税の自然増収を見込むことができるかということになりますと、現在の
石油危機下における世界的な
経済の停滞とわが国の本年秋以降の
動向を考え合わせますならば、現段階で楽観的な期待に基づいた
長期見通しを持つということは、国民に与える国政の
影響から考えまして、十分に責任を果たすことになるかどうか疑問であると思うのでございます。
次に、国際的な
規模で現在
金利水準に革命的とも言うべき
変化が生じております。
金利を名目
金利に
物価上昇率を上乗せをして考えるというようなことは、これはまさに
石油危機後に生じた重大な
事態であろうかと思うのでございます。そうなりますと、高
金利をつけなければ国際の円滑な
発行が進まないというおそれが非常に出てまいりました。
お二方の
参考人からもすでに御指摘があったわけでございますが、昨年以来五次にわたる
公定歩合の引き上げが行われたわけでございますし、本
年度に入りましても、すでに二回
公定歩合の引き上げがありました。投機的な心理に早目に水をかけるということと、それから
国際収支の悪化に対して、当面できるだけの
措置を講じるという二つの
観点から言いまして、この
措置は当然の適切なやむを得ない
措置であったと思うのでございますし、また、この高
金利状態は、日本の国内だけではどうにもならないような国際的な要因によって生じている面もあるわけでございますが、一方では、このことによりまして国際価格の暴落が生じ、
金利の天井感が出てくるまでは、常に国際の
消化難に当面せざるを得ないと思うのでございます。
と同時に、またこの高
金利は、いろいろな経路を通じまして、
国債費、
国債の
金利負担を急激に増加させるおそれがあります。これが、もう
一つの問題でございます。
それから第三番目に、五十
年度以降
発行しました
特例公債の償還は現金償還を行うという方針に基づいておりますので、六十
年度以降、五十
年度から
発行した
特例公債の償還が急増する
事態をわれわれは迎えなければならないわけでございます。元利を合わせて、償還費はきわめて
巨額のものになると予想されるわけでございます。
さきに発表されました大蔵省の一応の仮定的な計算に基づきましても、たとえば六十五
年度の元利償還費は、現行
金利のもとで五十九
年度に
特例公債発行がゼロになったと仮定いたしましても、五十五
年度の
国債費五兆三千億の四倍以上の
巨額に達することが予想されているわけでございますが、仮に、きわめて重大な
事態でございますけれ
ども、五十九
年度までに
特例公債依存が
解消できないような
事態が生じ、しかも現在の高
金利の
影響で
国債費が将来とも増加するということになりますと、この
国債費の増加はさらに
巨額のものになり、
財政にきわめて重大な
負担を及ぼすのではないかということをおそれる次第でございます。
以上のようなことを考えますと、一応五十五
年度の
特例公債の
発行は、諸般の
事情からきわめてやむを得ない
措置であったといたしましても、やはりこれはきわめて将来に重大な問題を残しているということを認識しなければなりません。
そのような
理由から、仮にこの七兆円余の
特例公債の
発行を一応
予定しておりましても、
年度途中でできるだけやはりこれを
減額する
努力が払われなければならないと思うのでございます。特に現在は、諸般の
情勢からきわめてインフレの危険が増大しているわけでございまして、このインフレの危険に対する対応を
金融政策だけに比重をかけて行うということにつきましては、国の
経済の発展の源でありますところの設備投貧に及ぼす
影響等も考えますと、やはり問題である。やはり
財政再建にできるだけの
努力をすることが将来の
経済の発展、国民の生活の向上に寄与することになるのではないか。
そのような意味から、五十五
年度予算における
財政再建の
課題は、五十六
年度以降に大きな問題を、宿題を残したままになっていると思う次第でございます。
この
事態を直視されまして、
財政収支の構造的な不
均衡の
解消に、
長期的な視野から掘り下げた御検討をお願いしたいと感じる次第でございます。
以上でございます。