○吉田正雄君 次に、
放射線防護基準として一九七七年に
国際放射線防護
委員会、ICRPが出した勧告パブリケーション二十六が今回の
改正に当たってどのように考慮されたか、これが具体的にはどこに盛り込まれておるのかということをお聞きしたいと思うのですが、その前に、先ほどの
質問の最後のところでもちょっと申し上げましたが、ICRPの
放射線防護に対する
考え方と
日本における受けとめ方、
考え方というものには非常な差があるわけです。そこで、私は、この法
改正の時期に際して、特に大臣や
科学技術庁の皆さん方にはその点を今後真剣に
検討していただきたいと思うんです。
昨年十二月七日の
委員会で、私が福島原発について定期検査での被曝許容線量をどのように考えているのか、許容線量というよりも定期検査時におけるその日その日のいわゆる管理被曝線量というものを百ミリから今度は千ミリレムに上げるのではないかというお尋ねをしたところ、通産当局はそんなことは考えてもいないし聞いたこともないというふうなことで、徹底してそのときには否定されておったんです。大臣もお聞きのとおりなんです。ところが、その後、私の総理大臣に対する文書
質問の中では、私の
指摘したとおり、十倍の一日一千ミリレムまでは認める、認めるというよりも法
規制がないわけですから、電力会社が一方的にそういう内部目安というものを決めてそれで労働者を働かせておったという事実が明らかになったわけです。私はあれを見て、これは非常に大変なことだと思ったんです。ことしに入ってからの予算
委員会における私の
質問に対して、同じく通産当局がどういう答弁をやったかといいますと、
日本における基準というのは三カ月間三レムが許容線量になっております、したがって一日三レム浴びても、三千ミリレム浴びても三カ月間三千ミリレムにとどまっておればこれでよろしいのですという、そういう
考え方を披瀝されたわけです。私はこれを聞いてびっくりしたわけです。そんな勇気のある
人間、一日に千ミリレムとか三千ミリレムも浴びるのですよということを言われて働く労働者なんか一人もいないです。そんなこと知らぬでみんな働かされておったわけです、いままでは。大変なことなんです。一番よく知っている人ほどいやがるんです。
正確な数字は忘れましたが、たしか三、四年前だと思いますけれ
ども、東京電力の労働組合が組合員に対して
調査をやったのです。あなたは原発の現場で働きますかという
調査をやりましたら、たしか七〇%前後の皆さんが一日も早く現場から逃げ出してほかの職場へ移りたいと答えておるんです。いろんな深刻な結果が組合側がやった
調査でも出ているんです。組合側がやった
調査で出ているという言い方はおかしいと思いますけれ
ども、東京電力、いわゆる電力労連というのは原発積極推進ですから、下手なことを書いたら逆に組合員からやられるような組合ですから、そういう組合の
調査ですら組合員の多くの皆さんがやっぱり被曝はいやだ、結婚してまた変な子供でも生まれたら大変だというふうなこともあって、できるだけ早くそういう職場から逃げ出したいということが端的に出たわけです。そういう点で、私は低線量被曝の
影響というものに対する認識なり
評価というものが、当局やあるいは電力会社を中心とする
原子力を扱う管理者なり、あるいは管理者というよりも直接それに携わらない経営者、管理者、こういう者の認識が非常に薄い、甘いというよりも、
実態というか、その恐ろしさというものをつかんでいない、認識をしていない、こういう点でむしろ私は背筋の寒い思いをしているんです。私は、この労働者被曝の許容線量というものはいま三カ月三レム、三千ミリレムというふうに
規定され、年間五レムというふうに
規定されておりますけれ
ども、これは徹底的に下げるべきだ。
私
どもの社会党の
考え方では、たとえばこれは原発に限らないわけですけれ
ども、原発の問題で言ったから原発に就労する者についてはというふうに言っているのですが、これは何も原発に限らぬわけですけれ
ども、外部被曝で年五百ミリレム以下、健康に重大な
影響を与える内部被曝についてはより厳しい基準を設けるべきであるという提案をしているんです。これはなぜか、その根拠は何かということですけれ
ども、ICRPは、年五レムの線量当量限度で管理されていると実際には職業上の平均年線量当量は五百ミリレム以下になっていて、この値は危険度が十の四乗分の〇・五で、十のマイナス四乗から十のマイナス五乗の間にあり、職業上の容認できると考えられている危険、年十のマイナス四乗の範囲内にあると述べているのです。つまり年五レムという線量当量制限というものを設けても実際はその十分の一の五百ミリレム以下におさまっているということで、五レムまで浴びていいという
考え方ではないんです。
ところが、
日本での法令に定める最大許容線量に対する
政府、電力会社の
考え方、あるいはこういうものを取り扱う管理者の
考え方は、ICRPの管理基準値に対する
考え方とは異なって、ここまでは被曝してもよいという
考え方なんです。また、実際にもそのように運営されているわけです。そのことは私が先ほ
ども申し上げましたように、たとえば三カ月三レムであるから、極端な言い方をすれば一日三レム浴びたってそれは基準内におさまっておって違法ではないのだというそういう
考え方があるわけですから、一日千ミリレムという諸外国では考えられもしない途方もない目安線量というものを設けて実際に炉心内の作業を労働者にさせているということが明らかになったわけです。ところが、東京電力の労働組合はどうかというと、労働交渉、労働協約の中で、協約までいったかどうかわかりませんが、会社側との交渉の中で確認しているのは、自分たちだけは百ミリレム以内あるいは三十ミリレム以内という、他の下請労働者の十分の一でもってこの管理線量を抑えているわけです。こんなばかげた差別を許しておくこと自体これは大問題であるわけです。
そういう点で、私は通産省の電力会社に対する指導であるとか、それからまた、これは大臣によく聞いておいていただきたいのですが、
原子力安全委員会というのは、この労働者被曝も含めた
安全性についての基準を定めたり、あるいはそれが基準に合致しないというふうな場合のとにかく
原子力に関する
安全性についての責任というのはこの
安全委員会が負っているわけです。ところが、このような
現状が放置されておるわけです。だから私は大変だというふうに思っているわけです。私に言わせれば、この年五百ミリレムの基準でさえ職業上の他の危険、さらには内部被曝、
放射線の遺伝的効果による危険を考慮するとこれでも安全な数値であるとは言いがたいわけです。たとえばマンクーゾ等は、ハンフォードの
データの分析を再分析した結果、がん死亡の割合はICRPの勧告値より七倍以上高いことを発見しているわけです。ICRPの勧告値は、原爆被爆者や強直性脊椎炎患者の
調査結果に基づくものであるわけです。これらの集団ががん以外の死亡率が高く短期間内に高線量の被曝をしたものであるのに対し、ハンフォードの
データは、
原子力産業労働者について、がん以外の死亡率が特に高くないグループが低線量率で低線量の被曝をした場合の唯一の
データであることから、ICRPを初め各国は、勧告や法令化に当たってこのハンフォードの
データというものを十分に尊重すべきであるのです。
さらに、ここで私がつけ加えて申し上げたいと思いますのは、この外部被曝というものだけでなくて、実は他の物質との相乗効果というものが最近次第に明らかにされつつあるわけです。たとえば近年エチオニンと
放射線との肝臓がん
発生に対する相乗作用や、ウラン微粉末とたばこの煙との呼吸器がん
発生に対する相乗作用、そういうものが明らかになってきておるわけです。これは私が勝手に言っているのではなくて、前のエチオニンとの相乗作用については、N・C・テレスほかの皆さんがウィーンで開かれたIAEAの
放射線誘発がんに関するシンポジウムの中でこれは述べておるわけですし、それからウラン微粉末とたばこの煙との呼吸器がんに対する相乗作用についてはV・E・アーチャーほかの皆さんが述べておることなんです。これはジャーナル・オブ・オキュペーショナル・メディスン十五巻の二百四ページに出ておりますけれ
ども、そういうことで相乗作用というものが最近非常に明らかになってきたわけです。そういう点で私たちとしては、単にその
放射線被曝をする職場での被曝だけでなくて、いろんないま危険な物質に取り巻かれておるということからも、どんなに低く抑えててもこれでいいということはないというふうに思うわけです。
また、特に女性と幼児に対する
影響というのは非常に強いということも最近明らかになっているわけです。一般公衆の中には、従来の幼児等だけでなくて、女性の乳がんに関する
研究、あるいはブロス等の
研究によってがんに関して特に感受性の高いグループがあるということが最近わかってきておるわけです。そういうことで、私たちとしてはこの
放射線被曝についてはできるだけ抑えていくということが望ましいわけです。
まだ、これからずっと述べたいのですけれ
ども、きょうはこの問題を中心にやるということでないわけですが、しかし、私は今度のこの法
改正の
趣旨というものについて、もし認識が、私が当初
指摘し、現実にいまの
日本の運営の中で行われているような許容線量というものに対する
考え方が、ここまで浴びてもいいのだというそういう
考え方であるならばこれは基本的に間違っておるし、これは大変なことだ、そういうことから多くの事故というものをまた引き起こしておるというふうに思うわけです。
そういうことを当初に申し上げておいて、今回の
改正に当たっては、そういう点でICRPの精神というものがどのようにこの
法案の中に反映されたのかどうなのか。ところが、一番肝心なそこが置き忘れられて単に法上の技術論に終わっておったとしたら、私はこの法
改正というのはいたずらに逆に事務的に煩瑣さを増すだけであって、事業者にとってもそこに働く人たちにとってもメリットはない、むしろデメリットの方が多くなるのじゃないかというふうに思うので、ちょっと前置きが長くなりましたけれ
ども、その点についての
検討結果なり見解というものをお聞かせ願いたいと思います。