○安田修三君 ただいま
趣旨説明のありました
厚生年金保険法等の一部を
改正する
法律案に対し、私は、
日本社会党を代表いたしまして、質問を行うものであります。(
拍手)
わが国の社会保障の主軸は、言うまでもなく
年金と医療であります。
年金制度は、
昭和三十六年、拠出制
国民年金が発足したことによりまして、一応
国民すべてが何らかの
年金制度に入ることになったのであります。しかし、それぞれの
制度がばらばらにできた歴史的
経過があるため、格差と矛盾を生みながら高齢化社会に対処せざるを得ないことになってまいったのであります。
今日、
政府の
経済政策の破綻により、物価に急速、異常に上昇しつつあります。
政府は、大資本優位の失政を省みず、この激しく深く進もうとするスタグフレーションの犠牲をむしろ勤労
国民に押しつけ、高齢者には特に冷たい社会になってまいっているのであります。すなわち、民間労働者や公務員には人減らし、労働
強化を強いつつ、かつ中小企業、農家の切り捨て政策を行っているではありませんか。また、一般消費税導入に失敗したその矛先を、公共料金
引き上げなど大衆負担をふやし、
年金、福祉の水準切り下げに向けているのであります。
しかも、
国民の生存権に関する
年金制度に対しては、
政府の考え方は今日まで全く場当たり的発想であり、一貫性がありません。一体、
政府は、社会保障あるいは福祉とは単なる恵みと考えているのでありましょうか。
さきに、わが党など、すなわち社公民三党予算
修正が行われました。拠出制
年金に対象とならなかつた福祉
年金受給者、ごく低額の
経過年金受給者など、過去勤務に報われぬこれらの人たちに、
年金の増額、今年度二百四十八億円、平年度七百億円を行ったことは、連合
時代の福祉の考え方を示したものであり、
政府のとり得ない大きな成果と言わなければなりません。(
拍手)
いままでの
年金改革についての各界の提言のうち、各種
審議会の建議や
意見について意のあるところを検討することなく、部分的なつまみ食いと批判されたように、
政府は行政上の行き詰まり打開の都合のみに
利用しているのであります。総理は、これら各種の
審議会の提言を誠意を持って受けとめ、生活保障をするにふさわしい
年金改革への意欲を持つ責務があるのであります。ここに、
年金制度改革に対する考え方と各種
審議会の提言の受けとめ方について、総理の所見をただすものであります。(
拍手)
さて私は、これから四つの観点から具体的
施策と問題点をお聞きいたします。
まず第一は、高齢者の生きがいと生活保障をなす道は雇用と
年金を保障することであります。したがって、雇用は六十五歳まで、
年金は六十歳からの支給を保障し、その選択権は高齢者にあるようにすべきであります。
政府は、二十年先には老齢指標一四・三、
年金成熟度二三・五%、社会保障
給付費約二〇%程度になるとの予測数値を描き、財政上から後代の負担が過重になるとして、厚生
年金、船員
年金などの六十五歳支給繰り延べ案を決めましたが、激しい反対の
国民世論に抗し得ず、自民党三役、閣僚懇談会で断念を表明せざるを得なくなったのであります。その無定見に対する政治責任はきわめて大きいと言わなければなりません。
本来、老齢
年金の支給開始年齢は、高齢者の所得保障を
年金で考えるか雇用で考えるかという、
年金政策と雇用政策の接点の問題であります。
人口構造の高齢化とともに、労働力
人口も高齢化してまいります。しかも、不況の長期化によって、労働市場における高齢者の求人倍率の低下、常用雇用の減少、労働条件、賃金水準などは著しく悪化したのであります。
わが国の高齢者は、健康である限り働きたいという志向性が強いと言われております。しかしながら、定年によって解雇され、その意欲と生活を奪われていることは、人間尊重に欠ける資本と
政府の端的な
施策のあらわれであります。定年制を持っている企業の割合七一・三%、そのうちに占める六十歳以上の定年は、わずかに三八・五%にすぎません。
政府は、公務員の六十歳定年制を意図し、一方、民間企業には、六十年をめどにこれまた六十歳定年を促進すると言っております。しかし、今日では、むしろ、雇用保障は六十五歳までとし、労働の意思と能力のある者については、年齢を理由として雇用上の差別をしてはならないと思うのであります。雇用を選ぶか
年金を選ぶかは、高齢者自身の能力と
環境、健康と意欲に応じた選択によるものとし、このことを国が保障する責任があるのであります。
こうした
年金と定年の接点及び六十五歳定年の考え方について、厚生大臣並びに労働大臣に所見を伺うものであります。
さらに、訓示
規定として
本案第四十六条に明記されている、受給資格年齢は、次の財政再計算期に所要の
改定措置をとるということは、次の機会には何が何でも六十五歳支給繰り延べを図りたいということではないのか、明確な見解を総理にお尋ねするものであります。(
拍手)
第二には、婦人の
年金権を明確にし、五人未満
事業所の労働者加入を初めとした
制度内の欠陥を正し、
制度の充実を図ることであります。
今日の
年金制度は多くの矛盾を抱えていることは言うまでもありません。たとえば、元来は適用対象労働者でありながら、五人未満
事業所であるがゆえに
国民年金に加入し、格差に甘んじている労働者、これは厚生
年金に移管すべきであります。
また、いまの
年金の算定はきわめて複雑であり、加入者その者が計算しがたいのであります。この際、点数制による算定方式に変え、各
制度間の
均衡を図らなければなりません。スライドにいたしましても、本来、賃金
改定期の四月
実施であるべきであります。ましてや、支給は毎月一回制にするのが常識であります。
国民年金制度の老齢
年金特例納付
制度は本年六月末で期限が終わります。この
経過年金に障害
年金が省かれているのは、まさに障害者に対する差別であります。
今回の
改正案では、被用者の妻の
年金については、
国民年金任意加入制のまま放置されております。妻の無
年金をなくするため、離別に遭った妻の
年金権を認めるべきであります。また、その措置として、
経過年金の特例納付
制度に強制加入の道を開く考えはないでしょうか。
ところが、逆に、四十歳未満の子供を持たない妻には遺族
年金を与えないことにする改悪案が出てまいったのであります。いわゆる、この寡婦の所得能力や夫の
年金拠出の実績等を無視し、生涯にわたって不支給にすることは、妻の家庭における存在を抹殺するとともに、世帯を単位として
制度化されている厚生
年金の本質すら否定するものであり、
政府は撤回されたいのであります。また、遺族
年金そのものも、
加算方式でなく、
給付率を当面七〇%とした支給率方式に変え、生活保障をなしていただきたいのであります。
以上、各項にわたり、厚生大臣の答弁を求めるものであります。
第三には、厚生
年金積立金の目減りを防ぎ、保険料率の
引き上げを抑制するとともに、積立金運用の徹底的な民主化を図るべきであります。
わが国の公的
年金の中で一番積立金を持っているのは言うまでもなく厚生
年金であります。五十四年度末で実に二十四兆円に達し、五十四年度に繰り入れられる積立金だけでも二兆七百七十九億円になるのであります。しかし、これが
政府案のごとく、今後五年ごとに保険料率を一・八%
引き上げたといたしましても、十八年先には単年度収支がゼロになり、二十七年先には積立金そのものもゼロになるのであります。この
政府の財政計算が、直ちに支給開始年齢の
引き上げや料率の
引き上げとなることは、まことに無策と言わなければなりません。
厚生
年金は、今日まで、その膨大な資金量で国の財政投融資のほとんどを賄い、
年金制度発足以来、この労働者の汗にまみれたお金を当て込まなければ財投運用ができない財政構造になっているのであります。したがって、この実質的な運用による国と産業界の利益は、はかりがたいほど大きいものがあるのであります。
また、四十八年から五十一年までの間の物価上昇による積立金の目減りは、運用利回りを差し引いても、二兆五千四百二十七億円に上るのであります。慢性インフレ化した今日、この目減り分は
政府の責任において補てんすべきであり、営々と積み上げてきた労働者に覆いかぶせるべきものではありません。そして、現状の
修正積立方式であれば、インフレ
防止ができない以上、財源の枯渇は免れないのであります。いまこそ、インフレ
防止と抜本的な財源方式を立てるときでありますが、総理の考えを伺いたいのであります。
今回の料率
引き上げ案は、健康保険法の改悪とともに、これが実現いたしますならば、公共料金、諸物価の高騰に加え、社会保険料だけでも家計を破壊いたし、とうてい容認できないものであります。したがって、保険料は、財源方式の抜本的な改革を図る中から妥当な負担額を考えるべきであり、被保険者負担は、労使間の負担割合を三対七に移行させるととが望ましいのであります。これら保険料について、厚生大臣及び労働大臣の所見をお聞きするものであります。
また、膨大な積立金の運用は、被保険者代表が参画した自主
管理体制をつくる中で行い、運用に当たっても、各
制度間の不
均衡を是正しなければなりません。積立金資金運用の民主化について、厚生大臣の見解をお尋ねするものであります。
民主化に当たって、積立金資金が大蔵省の桎梏のもとにあること自体が本筋から外れているのでありますから、この際、大蔵省の管理から独立させる必要があると思いますが、大蔵大臣の所見を伺うものであります。
第四には、
年金制度の充実を図るため、
年金行政の一元化をなし、
制度間格差と見られる
課題について統一
基準を設定して、実質的統一を進めることが必要であります。
公的
年金制度は、八つの体系に分かれ、成熟度の高い公企体職員共済から、未成熟な私学共済、船員保険、厚生
年金など、その態様はさまざまであります。すなわち、共済
年金、
国民年金、厚生
年金の間に、
給付水準や支給要件、
年金額の計算方式、保険料負担の水準等に著しい差異、不
均衡が生じているのであります。それぞれの
制度の沿革や、対象としている社会集団の生活実態の違いがあるとしても、全く合理性を欠いているのであります。これらは、加入者の年齢構成、所得分布、
制度の成熟度合いなどの相違から、費用負担、財政力に不
均衡が生じたからであり、
政府の無策と怠慢のしからしめるところであります。
この際、あらゆる格差解消のため、格差の
課題について統一
基準を設定し、
制度間の統一を進める転機のときではないかと思うのであります。また、このことを進めるためにも、各省庁にまたがる
年金行政を一つの省庁に統轄して一元化することが望ましいのでありますが、この点、総理大臣の所見をお聞きするものであります。(
拍手)
最後に私は申し添えたいと存じます。
政府には、医療及び
年金など社会保障に対する定見がありません。日本型福祉と称して、低福祉高負担のもと、恩恵的発想でお茶を濁しているのであります。だからこそ、インフレはとどまるところを知らず、殺人、心中の世の中となっているのであります。八〇年代の最大の
課題であります、そして避けて通れない高齢化社会に
対応するまじめな政策を持たない大平
内閣は、まさに新しい
時代の政権担当能力がないと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
ここに、人間の尊重と生存は、国の秩序の中でこそ実現されるのが政治であるとの考えに立って、総理及び関係大臣の誠意ある答弁を求めるものであります。
以上をもって、質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣大平正芳君
登壇〕