○山田芳治君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま提案をされました
所得税法の一部を改正する
法律案及び
租税特別措置法の一部を改正する
法律案について、総理及び大蔵、郵政、厚生の各大臣に質問をいたします。
そもそも政治の基本は、正義の実現であり、公正の確保であります。いわゆる「乏しきを憂えず、等しからざるを憂う」という言葉は、まさに政治の要諦を示す言葉として人口に膾炙されているところでありますが、なかんずく、税
財政制度の根本理念として欠くことのできない
考え方であります。
わが国経済のここ数年の実情を見ますと、長期不況の
回復過程の中で、大
企業は巨額の
利益を享受するために、厳しい
減量経営、人減らし合理化と下請
企業に対する締めつけを強め、
中小企業の倒産は、昨年十二月においては前年同月比二一・二%増と、
史上最高を記録したのであります。
また、
国民生活においては、
所得と富の格差は
拡大し、雇用問題は深刻となり、電気ガス料金を初めとする公共料金の軒並み
値上げや
原油価格の
高騰で、
卸売物価は、この一月で前年比年率二八%を超えるような状態であり、
消費者物価もまた、二けた台の
上昇は必至とされる情勢にあります。
まさに今日こそ、
国民生活防衛のため、
インフレ対策、エネルギー
政策、交通運輸
政策、食糧
政策、高齢化社会への対応などの社会保障
政策が焦眉の
課題となっております。税
財政政策の重点も、また、このような社会
経済的
課題への対応に大きく切りかえていかなければならないのであります。
一方、当面の
財政運営の
最大課題は、
財政の再建であることまた論をまちません。
政府の
財政再建は減量
財政、すなわち福祉の切り捨て、生活関連支出の
削減に主眼を置いていることは、五十五
年度予算の
政府原案において如実に示されているところであります。
インフレ、不況、
物価高で
国民生活が厳しい状況の中で、こうした福祉の後退、切り捨てを絶対に許してはなりません。むしろ
反対に
財政再建の第一は、大衆収奪路線の
一般消費税の導入ではなく、不公平税制の是正と過去において
租税特別
措置等によって蓄積をされた資産に対する課税や、担税能力のある大
企業に対する課税による収入の確保により、税制に対する
国民の信頼を確保することであります。
第二に、
歳出については、不要不急の
経費の思い切った
削減と
歳出の
計画化を図ることであります。従来の長期支出
計画と言えるものは、
公共事業計画にとどまり、社会保障関係の長期
計画は皆無であります。今日必要な行
財政の効率化とは、
国民生活の安定と福祉の充実が出発点でなければなりません。特に老後の生活の安定を確保するためにも、年金を初めとする社会保障関係の
計画化を図ることがきわめて重要な
財政再建の柱の一つであるとういことは疑いもないところであります。
こうした立場に立って、私は、わが党の主張を申し述べながら質問をいたしたいと存ずるところであります。
第一の質問は、昨年十月の総選挙において示された
国民の意思は、
一般消費税導入の明らかなる否定でありました。
従来から、総理は、
国民の理解を得てという言葉をしばしばお使いになられます。
国民の理解とは、総選挙による民意の表明が最も尊重されるべき意思表明であると思います。その総選挙で、
国民は明白に
一般消費税の導入を拒否したのであります。
一般消費税あるいは表現を変えても同一内容の取引高税的な間接税を、少なくともこの衆議院議員の任期中は導入すべきでない、そういうふうに明言すべきであると存ずるわけであります。とりわけ、
さきの当院における
財政再建に関する決議の
趣旨に照らしても当然のことであると
考えますが、この際、
国会を通じて、
国民に対して、
一般消費税を導入しないという点について、総理の明白な
考え方をお示し願いたいと存ずるのであります。(
拍手)
第二に、不公平税制の是正について、
大蔵大臣にお尋ねをいたします。
私たちの言う不公平税制是正というのは、単に
政策税制、すなわち、
租税特別
措置の減免
措置といった狭い範囲ではなくて、応能
原則、担税能力に即した公正な税制を実現することを意味するものであります。
この観点から、わが党は、
さきに発表した中期改革案において、
一般消費税を導入しないで五兆円を超える
増収のための税制改革案を提示しておりますけれども、当面
措置すべき改正案を提言いたしますので、それに対する明確なお
考えをお示し願いたいと存じます。
その一つは、
所得税に関するものであります。
給与
所得控除の限度額を給与収入八百五十万円で頭打ち、すなわち、百九十万円で頭打ちとするならば、約三百億円程度の
税収が得られるのでありますが、その意思があるかどうか、まずお伺いをいたします。
また、高額
所得者に対して付加税制度を設けてはどうか。すなわち、課税
所得一千万円以上の高額
所得者に対して、その超える部分に対して一〇%の付加税を課せば、約千三百五十億円の
増収が図られるわけであります。
政府案の給与
所得控除について、一千万円を超える控除率の五%の引き下げでは、わずか二百六十億程度の収入しか得られないのではないかと思います。この点について、
大蔵大臣のお
考えをお示しいただきたいと存じます。(
拍手)
次に、利子配当
所得の分離課税の特別
措置の廃止と総合課税に移行する
政府提案は、わが党の年来の主張であり、遅きに失したとはいえ、
昭和五十九年一月一日より施行されることになり、一歩前進として評価するにやぶさかではありませんけれども、なお疑問とする点がありますのでお尋ねをいたしたいと存じます。
その第一点は、
昭和五十八
年度までは源泉分離選択における分離税率を五〇%程度に引き上げて総合課税に移行する
措置をとられてはどうか、そういう点についてお尋ねをいたします。
これに関連をいたしまして、少額貯蓄等利用者カード、いわゆるグリーンカードの導入ではなくて、課税
所得限度の引き上げで対処するということは
考えられなかったであろうかということであります。すなわち、現在、給与
所得者の場合、夫婦子供二人の標準家族で課税最低限は二百一万五千円でありますけれども、この限度を引き上げて、利子
所得の非課税分、たとえば六百万円とするならば、利子六%として三十六万円を上積みして二百三十七万五千円とすれば、カード制度を導入しなくてもその目的は達せられると思うのでありますが、こういったことを検討されたかどうか、お伺いをいたします。
第二に、カード導入に当たって、このカードが、程度の差で
国民管理の強化につながるのではないかとの
国民の不安は、ぬぐい切れないものがあります。この点について、
国民総背番号制の導入や他目的に使われない保証と預金の
秘密等を他に漏らさない保証、特に金融機関における守秘義務には罰則もないわけでありますが、これを一体どのように指導されるか、この
国会を通じて
国民に明確にお答えを願いたいと存ずるところであります。(
拍手)
また、郵便貯金において、この制度について新聞やその他の雑誌で、金融機関からは、郵便貯金についてはしり抜けである、大蔵省は郵政省に対して財投資金の郵便貯金の関係もあり、手を触れないというような批判もあるわけでありますが、この点について
国民に対して明確な
説明を、この
国会を通じて郵政大臣から御
説明をお願いいたしたいと存ずるところであります。
次に、
法人税関係について質問をいたします。
五十五
年度予算編成当初、大蔵当局は
法人税率の引き上げを
意図していたにもかかわらず、財界筋からの強い
反対に遭い、一夜にして撤回をしたと言われていることは、まことに遺憾千万であります。(
拍手)外国に比べても
法人税の実効税率の低さは、このことの問題を避けて通れないという問題であります。異例ではあるけれども、来月にも税制調査会を開いて
法人税の洗い直しを行うという新聞報道もありますが、その際には、これから述べる点についても十分議論をされるということが必要であると存じます。
すなわち、
法人課税に当たっては、まず基本的な
考え方として、従来から主張されてきている
法人擬制説、つまり
法人は個人の集まりであるから、その
所得は個人に還元されるという
考え方をとらないで、
法人は独立したものとして、
法人実在説的な
考え方に立脚をして、
法人利潤税の方向で
法人税制を組み直すべきではないかと存ずるのであります。
そういった
考え方に立って、まず第一に、
法人税率に累進率を導入すべきだと
考えます。現行の
法人税は二段階比例税率でありますけれども、これを
所得を基準とした軽度の超過累進税率にすべきではないかと思いますが、
大蔵大臣はいかにお
考えでありますか。
また、これに伴い配当軽課税率を廃止するとともに、
法人の受取配当は益金に算入されていないという
現行制度を改めて、全額益金算入を行うべきであると思いますが、この点について
大蔵大臣の所見はいかがでありましょう。
そもそも、
所得すなわち
利益があるから配当するのでありますから、
所得がなければ配当するはずがないのでありますから、こういった
措置をすべきであります。
なお、配当軽課税の廃止で千七百三十億、受取配当益金不算入制度の廃止で千百二十億円の
増加が見込まれるのであります。
その他、
租税特別
措置について見ますと、今回一定の見直しをされ、これは一歩前進ではありますが、各種引当金の適正化がまだまだ必要であります。
特に退職給与引当金は、今回
政府案において五〇%を四〇%に引き下げられましたが、定年延長必至の状況から見て、まだまだ不十分であります。
また、貸し倒れ引当金は、金融機関の引き当て率については順次引き下げられてまいりましたが、現実の貸し倒れの発生状況と引当金との差は、金融機関でも五倍程度の差があり、縮小すべきであり、当面一千億程度の
増収を図るぐらいの
圧縮を考慮すべきと思いますが、いかがお
考えでありますか。
その他、
昭和四十九
年度行われた
会社臨時特別税を導入し、
財政再建期間中だけでも協力を求めていってはいかがでありましょう。これによって毎年二千七百億程度の
増収を図ることができると思いますが、このお
考えをお示しいただきたいと存じます。
また、現行の有価証券取引税は余りにも安過ぎます。その税率を二倍に引き上げれば九百八十億程度の
増収が見込まれます。これぐらいは一日も早く実施すべきことだと存じますが、決断のほどをお伺いをいたしたいと思います。
このほか、交際費の課税の強化、大
企業の広告費課税の新設、減価償却期限の延長、富裕税の新設等も当然検討されてしかるべきであると思いますが、その意思ありや否や、お答えを賜りたいし存じます。
以上、増税面について質問をしてまいりましたが、ここで
所得税の減税についてお伺いをいたします。
社会党は、過去二年間行われなかった
所得税の
物価上昇による調整減税三千七百億程度を
措置山べきであると主張し、他の野党の皆様方にも
同意を求めているところでありますが、この点についての所見をお聞かせいただきたいと存じます。
所得税の人的控除の現行二十九万円をせめて三十二万円程度に引き上げ、低給与
所得の控除五十万円を七十万円に引き上げ、老齢者
所得控除の年齢の引き下げについても、現行六十五歳を六十歳に引き下げること等もきわめて緊急な要求であると思われますが、お
考えをお伺いをいたしたいと思います。
最後に、厚生大臣にお伺いいたします。
先述をいたしましたように、
財政再建には、単に税の
増収を図るのみでは
国民の理解は得られません。治水事業や下水道
計画等と同様に、社会保障、福祉についても一定の
計画を樹立し、老齢化社会が進む日本において、老後の生活の安定と生きがいを図ることは、
財政再建に対する
国民の理解を得る絶対的な条件であると存じますが、その
計画を樹立する意思ありゃ否やをお伺いをいたしたいと存じます。
以上、今回提案されました
所得税法及び
租税特別措置法の一部改正についての
質疑をいたしましたが、
国民に対して、この
国会を通じて誠意ある明快な御
答弁を期待して、私の質問といたします。(
拍手)
〔
内閣総理大臣大平正芳君
登壇〕