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生田参考人 日本エネルギー経済研究所の
生田でございます。
私は
最初に短期、それから中長期の
世界及び
わが国の
エネルギー情勢の展望についての私の見解を申し上げまして、次いで
石油代替エネルギーの
開発及び
導入の
促進に関する
法律案につきましての私の
意見を述べさせていただきたいと思っております。
最初に短期の
エネルギー情勢の展望でございますけれ
ども、最近数日間、イランの情勢、特にイランの対日
石油供給の停止をめぐりまして情勢がかなり急展開しているわけでございますが、この問題を一時たな上げをいたしまして、そのほかの情勢について考えてまいりますと、少なくとも本年は第二次
石油危機の進行過程におきます階段を上ります前の踊り場と申しますか、一段落する時期であるというように考えております。あるいは明年、すなわち一九八一年におきましても同じような中間的な安定の時期が続くというようにも考えられるわけであります。もちろんこういう見通しをいたしますのにつきまして、これは私だけではございませんで、海外の専門家も含めましてほとんどすべての専門家に共通していることでございますけれ
ども、
石油の供給面について何らかの新しい事態の展開が起きなければ、そういう中間的な安定の状態になるという条件づきでの見通しを述べるのが最近一般的でございますし、私もそういう条件づきでございます。
イランの情勢につきましては、もうしばらく情勢を分析いたしまして、それに基づきまして適宜いろいろな対策を講じる必要があると思いますし、いますぐどういうこともないと考えておりますけれ
ども、最悪の場合はまた
世界の
石油の供給量につきまして相当な影響を及ぼす
可能性もなきにしもあらずであります。イランに限らず全般的に中東をめぐります政治、軍事情勢が非常に激しく揺れ動いておりますので、これが
石油の供給に与える影響もいろいろの点において今後とも予想されるわけでございますが、そういう問題を別にして考えますと、昨年から始まりました第二次
石油危機はことし、恐らくは来年も情勢が一段落するということであります。
その主な原因は、産油国の貿易黒字の大幅な増加、いわゆるオイルマネーの蓄積でございますが、それから始まりましてオイルマネーの還流が当分の間なかなかスムーズにいかないと考えられますので、
世界経済に与えるマイナスの影響がかなり大きいわけであります。現実に
世界経済は景気が下降に向かっているわけでありますし、
わが国も早晩その影響を受けることは必至であります。それと同時に、
石油価格の急上昇に伴ういわゆる価格効果に基づく
石油の需要の停滞、それから各国の
石油消費の抑制
政策がある
程度の効果を上げていること、こういう幾つかの要因が重なりまして、本年の
世界の
石油消費はかなり落ち込む見通しでございます。もしも産油国の貿易黒字の蓄積が明年もさらに進行するような状態になったと考えますと、その場合は明年も同じような状態になるかと思われます。現実に、現在の
世界の
石油市場ではかなりの供給過剰があるわけでありまして、先ほど申しましたように今後供給面で何らかの変化があらわれない限りは、多少の供給過剰の傾向が本年、それから明年も続くだろうと考えております。しかし、これはあくまでも一時的なものでございまして、今後
世界経済、それから
日本経済も当然でございますが、ある
程度の、すなわち必要最小限度の経済成長を続けていくということを前提にして考えますと、やはり今後の
石油の需給は、長期的な趨勢としてはかなりタイトになってくるということを考えざるを得ないわけでございます。
主な
石油の供給国についての展望をごく簡単に申し上げたいと思います。
まずOPECでございますが、昨年は
石油危機の進行の中におきまして、各国ともかなりの増産をしたわけでありまして、昨年の平均が三千百万バレル・パー・デー
程度の生産をしております。その後多少の減産をしておりますので、現在はやや落ちまして二千九百万バレル・パー・デー
程度の生産まで下がっているわけでございますし、今後も少し落ちるかもしれませんけれ
ども、それほど大幅な減産はできないというように私は考えております。しかし、今後それでは逆にどのくらいの増産ができるかということになりますと、増産の
可能性も同じく乏しいわけでありまして、各国の政治情勢が絡みまして
石油の生産
計画が大変不透明でございますので、見通しは非常にむずかしいわけでありますけれ
ども、海外の専門家の
意見等も勘案いたしまして、現在のところごく一般的な考え方といたしましては、たとえば一九八〇年代、今後の十年間でございますが、OPECの生産は昨年及びことし
程度の生産、すなわち一日当たり三千万バレル
程度の生産が続けば上できであるというように考えざるを得ないというのが、ほぼ現在の時点における専門家としての一般的な
意見でございます。
私は、多少情勢の変化が今後ともあり得る、これは増産の方向にもあり得るし、減産の方向にもあり得るということでございますので、私の個人の見解といたしましては三千万バレル・パー・デーを軸にいたしまして、その上下に五百万バレル
程度の増産あるいは減産の
可能性があるということを考えているわけでございます。すなわち、二千五百万バレル・パー・デーないし三千五百万バレル・パー・デー、この辺が今後十年ないし十五年間のOPECの生産の幅と考えていいだろうと思いますが、国別に検討してまいりますと三千五百万のレベルまで達するのはなかなか困難である、ですから上の方向と下の方向とどちらに
可能性が大きいかと申しますと、上よりもむしろ下の方向への
可能性が大きいというふうに考えざるを得ないと思っております。
次に、
世界最大の産油国でありますソ連でございますが、これはもうことしに入りましてから現実に
国内の
石油生産の停滞傾向があらわれてきております。これはかねがね予測されていたものでございまして、シベリアの
石油開発のおくれと、それからヨーロッパに近い
地域におきます現在の
石油生産の主力をなしております
地域でございますが、そこの油田の老朽化、この
調整がうまくいっておりませんので、ソ連の
石油生産は今後停滞ないし徐々に減少する傾向を続けざるを得ないというように考えておりますし、この傾向は一九八〇年代の後半期以降やや強くなってくると思われます。一昨年
アメリカのCIAが発表いたしましたような大幅な
石油。不足にソ連が陥るということはないと私は思いますが、しかし、若干の
石油不足になることはほぼ間違いないというように考えております。
次に、
世界第三の産油国であります
アメリカでございます。
アメリカの
国内生産は、
アメリカ政府の
計画といたしましては今後の増産を見込んでいるわけでありますし、増産のためにたとえば価格統制の撤廃を進めようとしているわけでありますけれ
ども、
国内の
石油の
開発、それから商業生産に至りますリードタイム、それから
国内の
石油関係の各社の現実の
石油開発の進展
状況その他を考えますと、
アメリカの
石油の
国内生産が増産に転ずるのはかなりおくれるであろうと思われます。恐らく一九八〇年代におきましてはほぼ現状
程度か、ふえても微増にとどまる
可能性が大きいように考えられます。
その他OPEC以外の大きな油田について検討してまいりますと、まず北海油田でございますが、これは現在順調に増産を続けておりますけれ
ども、この油田の性格から考えまして、一九八〇年代の終わりには恐らく増産がとまり、その後徐々に生産の減少、いわゆる減衰に移ることが予想されます。
メキシコでございます。これは埋蔵量はかなり豊富でございますが、メキシコ政府の生産
計画、それから現実の
開発の
状況から考えまして、余り大幅な増産、たとえば三百万バレル・パー・デーを超えるような生産レベルに早い時期に到達するというように考えるのは楽観的に過ぎると思います。恐らく三百万バレル・パー・デー以下の生産レベルがとりあえずの上限であるというように考えた方が妥当であると考えております。
このように見てまいりますと、これから一九八〇年代、さらに一九九〇年代の前半、私
どもが言っておりますいわゆる
エネルギーの谷間でございますが、その谷間はかなり深くかつ広い谷間が出てくる
可能性があると言わざるを得ないわけでございますので、
世界経済の安定成長、もちろん
日本経済の安定成長を考えます上には、こういう
石油の供給制約が中長期において強くあらわれてくるということを前提にいたしまして
エネルギーの需給を考えることが必要であります。その場合に最も必要なことは、申し上げるまでもなく省
エネルギー、もう
一つは
代替エネルギーの供給力の拡大、この二つに尽きるわけでございます。
省
エネルギーにつきましては、現在までもかなり省
エネルギーが進行しておりますし、
わが国の場合は
エネルギー危機を迎えます以前から、国際競争力の強化という
観点から特に産業部門の省
エネルギーが現実に進行していたわけでございます。今後も省
エネルギーはある
程度進行すると思いますけれ
ども、私は、たとえば今後十年間、
昭和六十五年までの省
エネルギー率を考えます場合に、総合
エネルギー調査会の暫定見通しにおきます一五%という省
エネルギー率は、恐らくこれが限界であろうと考えます。この一五%の省
エネルギーの達成は可能であると考えますが、これ以上に、たとえば二〇%あるいは三〇%というような省
エネルギーを期待するのは無理であろうかと考えるわけであります。
代替エネルギーにつきましては、
世界各国とも特に第二次
石油危機を迎えましてから、
代替エネルギーの
開発、利用の拡大に積極的な
政策を展開しているわけであります。ただ、
代替エネルギーについてひとつ考えなければいけない点といたしまして、それぞれの国の経済事情、それから資源の
状況等を総合的に考えました場合に、それぞれの国によって重点を置くべき
代替エネルギーが異なってくるということであります。
アメリカがある
政策をとるあるいはヨーロッパ諸国がある
政策をとる、したがって
日本もそれと同じ
政策をとるということは間違いでありまして、
わが国には
わが国に最も適した
代替エネルギー政策があるということであります。
わが国の場合は、申し上げるまでもなく経済情勢、経済規模あるいは今後の経済成長の必要性等に比較いたしまして資源の
状況が極端に悪いわけであります。したがいまして、
わが国の場合は、ある
一つの
代替エネルギーに重点をしぼって、これだけやれば
エネルギー問題が
解決できるというようなものはないわけであります。すなわち
わが国の場合は、できることを全部やっていくというかなりどん欲な
代替エネルギー政策を展開いたしませんと、とても今後の
石油供給の制約の中におきまして
日本経済の成長を確保することは不可能であると考えられます。すなわち、可能である
代替エネルギーはすべて
開発し利用していく、それも最大限に利用していくということが必要でございます。総合
エネルギー調査会の暫定見通しはかなり大きな
代替エネルギーの供給を見込んでいるわけでございますが、あれがあのとおり実現いたしましても、それで
昭和六十五年、つまり十年後の
わが国の
エネルギーの供給構造は現在のヨーロッパと同じような構造でございます。つまり、あれだけの
代替エネルギーの供給増加を見込んで十年後にやっと現在のヨーロッパの水準まで達するわけであります。
アメリカはもちろん
わが国よりはるかに有利な条件にございますし、現在は申し上げるまでもなくヨーロッパと見比べまして非常に大きくおくれておりますので、恐らく、十年後に
わが国があの水準まで到達した時点には、
アメリカはもちろんのこと、ヨーロッパはさらにもっと
エネルギーの供給の安定性を高めるようなポジションまで行っているということで、完全に後追いの形になっているわけでありますので、なるべく早く、しかも大幅に
代替エネルギーの供給を拡大する必要があるわけであります。
そういうことでございますので、
わが国におきましてこの
代替エネルギーの供給の拡大は経済の安定及び成長のために不可欠の条件でございます。また、
石油の確保を図る上におきましても産油国と消費国との対話を開始し、それを続けていくことが
石油の確保のために最も必要なことだと私は考えておりますが、産油国との対話を行います場合に、これはただ
石油が欲しいから
石油を供給してくれという形での対話はもはや不可能であります。産油国との対話をいたします唯一絶対の条件は、
石油消費国として最大限の
代替エネルギー及び省
エネルギーの
推進の
努力をするということを前提にしまして、強力かつ現実的な省
エネルギー及び
代替エネルギー計画を持って、それによって
石油の消費を抑制するという態度を明らかにしながら産油国に対して対話を求めるということは十分に可能でありますので、
代替エネルギーの供給というものは、これはただ量的な面でつじつまを合わせるというだけではございませんで、
石油の確保を図るためにも必要な一種の武器であるというように考える必要があると思います。
以上が
エネルギー情勢につきましての私の展望でございます。
最後に、この法案につきましての私の
意見でございますが、ただいま申し上げましたような考え方に立脚いたしますと、この法案は必要最小限度のものであるというように私は考えます。もっとより強力な
政策が盛り込まれた
法律が今後必要になってくると考えられますが、当面これは必要最小限度のものでありますし、ぜひとも早くこの法案が国会で御承認を賜りまして実現することを期待する次第でございますし、あえて申しますれば、こういう法案あるいはこの法案をめぐります各種の
政策でございますが、これはでき得れば十年前、遅くとも五年前にはすでに実施されていたことが必要だったものと考えます。この五年間のおくれがただいま申しましたような
わが国の
エネルギー情勢におきますきわめて不安定な地位をつくり上げてしまったものと思いますので、一刻も早くこの法案が実施されることをお願いする次第でございます。(
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