○田中(美)
委員 大臣、この間、一週間ぐらい前ですが、三月の二十日と二十一日のお彼岸のときに、大阪に住んでいられる方で
広島で被爆をした人たち八十五名が
広島に里帰りしたというニュースがありました。これはテレビで私も見たわけですけれ
ども、早速この人たちの声を聞いてみたわけです。里帰りという言葉はテレビが使った言葉で、別に自分の家族が住んでいるとか親戚がいるとかというのではなくて、
広島で被爆していま大阪で住んでいる方たち、この人たちを大阪府が百六十万円の補助金を出して
広島に里帰りをしていただいた。慰霊塔にお参りをしたり、昔つき合っていた近所の方やお友達や、また中には家族で亡くなった方、こういう墓参りをする。そして、
原爆病院で、
全員じゃないようですけれ
ども希望者だけが健康診断をするというようなことをなさったようです。
私、テレビを見ましてこれはいいことだなというふうに思ったものですから早速いろいろ声を伺いましたら、思ったよりも反響がすごい。非常に評判がよかったということのようです。それで、この八十何名の人たちのほとんどの人たちが、三十何年一度も
広島に帰ったことがないというんですね。それで、希望者五十名が
原爆病院で健診を受けた。その中で新しく要注意というような方もあったようですけれ
ども、健康だと言われて
原爆病院の医者に大丈夫だといって背中をぽんとたたかれたというようなことで非常に安心したというんですね。これは患者心理として私はよくわかるわけですけれ
ども、たとえば指定の医療機関でちゃんと診察を受けたり何かして大丈夫だと言われていても、やはり本当に医者が専門的な知識をちゃんと持っているんだろうかというような、お医者さんに対してはちょっと失礼な感情ですけれ
ども、患者の心理というのはそういうものがあると私は思うわけです。
私も戦後栄養失調の中で結核の手術をしまして、右の肺がいまもうほとんどありません。その若いころに、手術をしたりしたころには、ほとんどの内科医といえば胸のレントゲンの写真というのはベテランですので、小さな影も発見してもらえるという安心感があったわけですね。しかし、最近は、若いお医者さんたちがほとんど胸のレントゲンを見る力がないというふうなことをうわさで言うわけです。実際はどうだか、私も専門家でありませんからわかりません。私の主人も片肺がありません。ですから、どうしても定期的に健康診断をしてもらうというとやはり結核予防会に行くわけなんです。予防会へ行きますと、そこには胸のレントゲンを撮る専門の医者がいつもそれをしているのだということで、果たしてそこのお医者さんの方がよくて、一般のお医者の方はそうではないのだということではないのだけれ
ども、やはり専門医に診てもらいたい。そこで大丈夫だと言われれば安心だ、再発はしていない、こう思うわけです。
それと同じように、私は
被爆者にはそういう心理があるというふうに思います。私が愛知県の愛友会という方たちのお話を聞きますと、彼らが言いますのは、たとえば腰痛とかヘルニアとかいう診断書を書かれますと、健康管理
手当がもらえない。しかし、それが変形性の脊椎症だと書かれれば管理
手当がもらえる。私も医者じゃありませんから、腰痛やヘルニアと変形性の脊椎症とがどう違うのかということはわかりませんけれ
ども、素人から見ますと、自分は
被爆者なんだ、そうすれば腰痛ではなくて脊椎症じゃないか、こう思うわけです。そういうふうに診断してもらえれば健康管理
手当が出るのだ。だから、専門の医者に診てもらえば、そこは専門の医者になっておるわけですけれ
ども、
広島の
原爆病院で診てもらえばまた違った診断が出やしないか。元気だ、大丈夫と言われても安心するし、そこでまた新しいものが発見されるかもしれないというような
気持ちも持っている。これは患者心理として私は非常に
理解できるというふうに思います。科学的な考え方かどうかわかりませんが、わかります。
先ほどから盛んに、
被爆者が老齢化しているのだ、だからいろいろな点で急がなければならないし、特別の配慮というのが要るのではないかというお話がたくさんありましたけれ
ども、一度も
広島に帰ったことがない、一度も
長崎に帰ったことがない、こういう人たちが今度
広島に帰られて、大阪では五十五年度は
長崎で被爆をした大阪に住んでいる方たちを里帰りしていただくようにするそうですけれ
ども、この人たちの声というのは
広島の復興に驚いた。それはあの地獄のときの
広島しかその人たちの目には残っていないし、それは実に終生忘れ得ない強い印象として目の裏に焼きつかれているわけです。それが本当にすばらしい復興をしている。そして、しみじみと生きてきてよかったというふうに言われたり、平和というのは本当にとうといのだということを口々に言っておられるわけです。私は非常に感動してこの反響を聞いたわけです。
せめてこういう方たちに対して国が何らかの里帰りの
検討をしていただけないだろうか。大阪の被団協の人にどうなんだというふうに聞きましたら、大阪などは被団協の力も強く、人数も多いからいろいろな運動もできる。しかし、あちこちに一人とか二人とか三人、十人、二十人というふうにしかいない県などでは、ほとんどそういう夢さえも持てないというようなことを言っているわけです。
そういう点で、何とか国でこういう人たちに対して、地方自治体がやるならばそれに対して補助金を出すとか何らかの
検討をしていただけないだろうかというふうに思うのですけれ
ども、
大臣、いかがでしょうか。