○土井議員 ただいま議題となりました
環境影響事前評価による
開発事業の
規制に関する
法律案につきまして、提案の
理由及びその内容の概要を御
説明申し上げます。
われわれ人間は、自然の生態系の一部であり、自然
環境との調和なくして生存できないのであります。この厳然たる自然の法則に逆らい、目先の繁栄と便利さを追うならば、いずれは手痛い報復を受けること必定であります。
ところが、わが国におきましては、人間の生存と自然
環境との調和を忘れて、自然の浄化能力を無視した高度経済成長政策の遂行を急いだため、不可逆的な自然の破壊と汚染が進行し、日本は世界に類を見ない
公害実験国と言われているのであります。
今日の
公害、
環境破壊をこのまま放置し、これまでのように無分別な開発行為が
実施されるならば、わが国のような狭隘な国土という
環境上の制約のもとでは、人間の生存の基盤が危機にさらされ、現在及び将来の国民がこの国土に生き残ることすら困難な事態に立ち至るのは、時間の問題と言えるのであります。胎児性水俣病の例は、まさに厳しい警告と言えるのであります。一たび進行し始めた
環境破壊は、とどまることなく進行し、一たび失われた自然や健康は、今日の人間の英知をもってしても、回復することがきわめて困難であることは事実が証明しているのであります。
かくして、限られた国土の中で、後代の国民の生存をかけ、
開発事業を
規制していくためには、どうしても、
開発事業の
実施前に、自然的、社会的諸条件の分析や、事業
実施過程における
環境への
影響予測、事業完成後の
施設の操業や交通事情の
変化、人口の移動など将来における
環境への
影響予測などを、
計画段階で多角的、科学的に判断し、
環境への悪
影響が生ずるおそれがないもののみを許すという方途を講ずることが必要になるの
であります。
他方、開発行政は、本来、国民や住民の利益のためになされるべきものであり、その大方の合意なくして行われることは許すべからざるものであります。しかるに、従来の開発行政は、行政庁が勝手に判断したものを公共性の名のもとに無理やり国民や住民に押しつけるというやり口がまかり通り、開発こそは善であり、これに逆らうことは悪であると強弁してきたのでありますが、その実は、国民や住民の利益など眼中になく、ときには人の生命、健康すら犠牲にして、終局的には開発利益を受ける企業の立場のみを代弁してきたというのが行政庁の開発行政の
実態に対する評価であります。また、たまたま、
環境アセスメントを行ったとしましても、国民や住民の目の届かないところで、形ばかりの
調査を行い、おざなりの評価をしたため、
実施後、日ならずして大きな
環境汚染が
発生し、農漁民の生活や住民の健康を脅かしておりますし、ときには、いわゆる沼津・三島コンビナートの例にも見られますように、政府の権威ある科学者を動員して行われた
調査結果が、高等学校の一教師によるじみちな
調査でひっくり返ったという実績もありまして、国民の行政不信は抜きがたいものとなっているのが実情であります。
これに加えまして、水俣病の例に見られましたように、企業は有機水銀中毒の
発生を実験で知りながら、これを長期にわたって放置しただけでなく、実験結果をも秘密にして自己の責任を否定し続け、ついに大量の生命を失わしめ、今日なお
被害の
発生が引き続き、広範囲にわたる関係住民の生活と健康を不安に陥れているというようなことから、国民の企業に対する不信感も、また根強いものがあるのであります。
このような行政不信、企業不信のもとでは、真に国民のため、住民のために必要な
開発事業すら行えなくなっているのが今日の
現状でありまして、国民、住民の大方の合意を取りつけつつ、本当の公共性を持った
開発事業のみを進めていくことが必要なのであります。そして、このためには、
開発事業の事前評価に当たりまして、できる限り、国民、住民が参加できる方途を開き、これによって国民、住民の大方の合意と真の公共性の実現とを期さなければならないのであります。
本法案は、以上のような観点に立ちまして、
開発事業の
実施に先立って、これに伴う
環境の汚染と破壊を未然に防止するため、国民、住民をできる限り参加させつつ、また、公開の場で論議をさせつつ、多角的、科学的に
環境に対する
影響を評価する手続を
整備し、その結果に基づいて
開発事業の
実施を
規制し、現在及び将来の国民の生存と快適な生活を
確保しようとするものであります。
以下、本法案の概要につきまして、御
説明申し上げます。
まず第一に、この
法律案におきまして行おうとする
環境影響事前評価とは、
開発事業の
実施前における関係
地域の自然的、社会的諸条件の
調査、その
開発事業の
実施によって生ずる
環境に対する
影響の予測、その
開発事業の
実施によって完成した
施設もしくは土地及びその土地に設けられると
予定されている
施設の利用等によって将来生ずる
環境に対する
影響の予測、その
環境に対する悪
影響の防止策の効果についての予測等に基づいて、
開発事業の
実施前に、その
開発事業の事業
計画及びその代替案を多角的に
検討して評価することをいうものといたしておりまして、これを経て、
開発事業の
実施の認可、不認可が決定されるわけであります。
第二に、この
法律案におきまして、適用対象とされる
開発事業とは、工業用地の造成、土地区画整
理事業、新住宅
市街地開発事業、
市街地再
開発事業、新
都市基盤
整備事業、住宅街区
整備事業、流通業務団地造成事業、公有水面の埋め立てまたは干拓、飛行場の設置またはその
施設の変更、鉄道、軌道または索道の建設またはこれらの
施設の変更、
道路または自動車道の新設または改築、林道の開設または改良、廃棄物
処理施設の設置またはその
施設の変更、
下水道の設置または改築、電気工作物の設置または変更、原子炉
施設の設置または変更、熱供給
施設の設置または変更、石油精製設備の新設、増設または改造、石油パイプラインの設置または変更、ゴルフコース等の建設、
河川工事、港湾工事、海岸保全
施設の新設または改良、鉱物の試掘または採掘(これには、付属する選鉱または製錬を含みます。)、岩石の採取のほか、
環境に悪
影響を及ぼすおそれのある事業で中央
環境保全委員会規則(以下では、中央
委員会規則と略称いたします。)で定めるものをいうものといたしておりまして、これらの
実施について
環境影響事前評価を行うのであります。
第三に、本法案に基づく
規制の
実施機構でありますが、まず、国には、別に法律で定めるところにより、内閣総理大臣の所轄のもとに両議院の同意を得て任命される委員七人から成る中央
環境保全委員会(これは以下では、中央
委員会と略称いたします。)を設置し、さらにその機関として、科学者等の学識経験者の中から両議院の同意を得て任命される五十人の審査員から成る中央
環境影響審査会(以下では、中央審査会と略称いたします。)を設置することといたしております。
また、都道府県には、国と同様に、それぞれ議会の同意を得て、委員五人から成る地方
環境保全委員会(これは以下では、地方
委員会と略称いたします。)と審査員三十人から成る地方
環境影響審査会一以下では、地方審査会と略称いたします。一とを設置することといたしております。
この中央
委員会または地方
委員会が、中央審査会または地方審査会による
環境影響事前評価の結果に基づく意見を踏まえて、
開発事業の
実施の認可、不認可を決定するわけであります。
なお、中央と地方の事務分担は、
環境に対する
影響が二都道府県以上にまたがる場会や飛行場、原子炉の設置、変更等や五十ヘクタール以上の工業用地の造成のほか
環境に著しい
影響があるとして中央
委員会規則で指定した
開発事業については中央が所管し、その他の
開発事業については地方が所管することといたしておりますが、地方はみずから所管する事案を中央に移送する方途も講じております。
第四に、
開発事業を
実施しようとする事業者は、その事業
計画またはその代替案について中央
委員会または地方
委員会(以下、
委員会と略称いたします。)の認可を受けなければならないものといたしております。
第五に、
委員会によって認可または不認可の処分がなされるまでの手続の概要を述べますと、手続は、大きく分けまして
環境影響事前評価のための
調査計画の承認の手続と、その
調査計画に基づいて事業者が行った
調査結果による
環境影響事前評価と、
開発事業の
実施についての認可のための手続という、
三つの段階に分かれます。
まず、
開発事業を
実施しようとする事業者は、その
環境影響事前評価を行うのに必要な資料収集のための
調査計画について、
委員会の承認を受けなければなりません。
事業者は、
調査事項、
調査方法、
調査期間等について
計画を作成し、
委員会に承認の申請をし、
委員会はこれを審査会に送付します。この送付を受けた審査会は、これを公告し公衆の縦覧に供した上、
説明会を開催します。この
説明会は、おおむね人口二万人ごとに、少なくとも一回は開き、そこで事業者が事業
計画や
調査計画の
説明を行います。その
説明を聞いた上で、関係住民や
環境保全を目的とする団体など
開発事業の
実施等に関し
環境保全上の意見を有する者(これらを「関係住民等」と略称いたします)は、審査会に意見を提出することができます。
審査会は、これらを踏まえて公聴会を開き、関係住民等の意見を聞かなければなりません。この公聴会は、やはり人口二万人ごとに少なくとも一回開催し、意見を述べようとする関係住民等には必ず意見陳述の機会を与えるとともに、陳述時間等について不当な制約をしてはならないことといたしております。公聴会がすべて終わった段階で、審査会は
調査計画の可否について意見を決定し、これに基づいて
委員会が承認をすることになります。
次に、事業者は、この承認を受けた
調査計画に基づいて
調査を
実施し、その結果に基づいて
環境影響事前評価を行い、これを
環境影響事前評価報告書に作成することになります。これで、初めて
開発事業の
実施について認可の申請ができることになります。なお、この事業者の行う
調査には、関係住民等の立ち会いも認められております。
認可の申請を受けた
委員会はこれを審査会に送付し、審査会は、これを公告し公衆の縦覧に供した上、審査の手続を開始することになります。審査の手続は、期日に、公開して行われ、関係住民等の代表者もこれに出席して、意見陳述、
質問、物件提出をすることができることになっております。また、審査会は、この審査手続の中途で、おおむね人口二万人ごとに二回以上公聴会を開き、関係住民等の意見を聞かなければならないことになっております。この場合においても、関係住民等の意見陳述権は保護されることになっております。
以上の手続を経た上で、審査会は、審査の手続を終了し、事業者の事業
計画またはその代替案について、
環境影響事前評価報告書の記載、みずから行った
調査の結果、審査手続中に明らかになった事実と意見及び公聴会における意見を基礎として、みずから
環境影響事前評価を行い、認可すべきかどうかの意見を決定し、これを
委員会に文書で送付することになります。なお、事業者は、審査の手続の中途で、事業
計画の変更を申し出ることも認められております。
審査会の意見書の送付を受けた
委員会は、その意見に基づいて、認可、不認可の処分をすることになりますが、良好な
環境の
確保上
支障が生ずるおそれがあると判断したときは、認可をすることはできないことになっております。
委員会は、認可の処分をするときは、条件を付することができることになっておりますが、この条件につきましては、関係
市町村の住民は希望する条件案を住民投票に付することができることになっており、
委員会は、この住民投票の結果を配慮して条件を付するわけであります。
なお、ここに述べました
調査計画承認の手続及び認可のための手続に要する費用は、すべて事業者の負担とし、その細目は、別に法律で定めることといたしております。
第六に、以上のような手続を経て、認可を受けた後、
実施の段階で事業者が事業
計画を変更しようとする場合には、第五で述べましたのと同じ手続を経て、事業
計画の変更についての認可を受けなければならないことといたしております。
第七に、第五及び第六で述べました手続は、いわゆる適正手続、デュー・プロセス・オブ・ローの要請にこたえるためには必要不可欠のものでありまして、本来は、法律に詳細な規定を設けなくとも、そのように実行されなければならないのでありますが、わが国におきましては、行政も企業も法律で書かない限りは、できるだけめんどうなことを避けようとする風潮が顕著でありまして、この弊害を
除去するためには、やむを得ないことと判断したわけであります。したがいまして、このような手続に手続違背がありました場合には、それを
理由として、すべての手続が無効となるように不服申し立て及び訴訟の制度を
整備することといたし、関係住民等にも訴えの提起を認めることといたしております。
第八に、偽りその他不正な手段によって認可を受けたり、条件違反のあった場合に認可の取り消しがなされることはもちろんのこと、無認可の
開発事業や条件違反の
開発事業については、
委員会は、停止命令、原状回復命令等の命令をすることができることとしております。また、たとえ認可を受けたといたしましても、その後、
開発事業の
実施によって良好な
環境の
確保に
支障が生じたり、生ずるおそれがあると認めるときは、
委員会は、審査会の意見に基づいて、認可の取り消しをしたり、停止命令や原状回復命令等の命令をすることができることといたしております。なお、関係住民等も
委員会に対して、このような処分をするよう申し立てることができることといたしております。
第九に、
委員会及び審査会は、関係行政機関の長や、地方公共団体の長に対して、資料の提供等の協力を要請できることといたしております。また、国は、この
環境影響事前評価の制度の充実のため、試験
研究体制の
整備、手法の開発、専門
技術者の養成等の措置を講じなければならないことといたしております。
以上が本
法律案の提案の
理由及びその概要であります。
何とぞ慎重御審議の上、御賛同くださいますようお願い申し上げます。