○嶋田
参考人 私は、こういう席にふなれでございますので、時間も限られているようでございますので、個条書き的に三点余りのことを申させていただきたいと思います。
まず最初に、ただいま末永先生が御説明くださいましたように、
飛鳥の遺跡と申しますか、あえて申しますと、
法案の第一条にございます、いわゆる
飛鳥地方ということについてなのでございますが、必ずしも、私どもの従来の
調査では、
明日香村内に限ってないわけでございます。むしろ
明日香村域とは少しずれていると申しますか、お隣の隣接します橿原市域あるいは桜井市域にまたがって存在するわけでございまして、私どもの研究いたします
立場から申しますと、これらはやはり一体的に
保存と申しますか、関連ある諸遺跡として研究してまいらないと、十分な成果が上がらないというふうに考える次第でございます。
それで、私ども、ここ二十数年来、いわゆる地下に埋蔵されております埋蔵
文化財の
保存につきまして微力を尽くしてまいった一員でございますが、従来のこういった埋蔵
文化財の
保存の方法につきましては、私どもは勝手にサンプル
保存というような呼び方をするわけでございますが、と申しますのはそのうちのある部分だけを重要視いたしまして、これについては非常に行き届いた
保存政策を講ずるかわりにというとちょっと言葉が過ぎるかもしれませんが、その区域を外れると、これはもう非常にその区域内の
地域に——これはちょっとけちをつける言い方になって誤解を生むかもしれませんが、劣らず重要であるとわれわれ研究者の
立場から思えるものについても、一方で残されたんだからこちらの方は少し破壊されるのもやむを得ない、あるいは残せる場所へ移す、いわゆる移築というようなことを図られるわけでございますが、私ども考古学の研究者の
立場から申しますと、移築というのは
保存にならない。あくまでもつぶしちゃって持っていくわけですからこれではぐあいが悪いわけでありまして、その場所へ残していただくということがわれわれの研究上は必要でございます。
と申しますのは、われわれの学問は日進月歩でございます。いままではいろいろな調べる
方策がつかないので気づかなかったことが、例の放射性炭素元素カーボン14と呼んでおりますが、そういうものを使って、それが廃絶した、埋まった年代がわかるとか、あるいは熱残留地磁気というんだそうでございますが、そういった新しい
方策が近年開発されまして、非常に厳密な古さ、年代がわかるようになってまいりました。ところが、こういうものは一度壊してしまいますと、そういう
方策がわかってもいかんともしがたい、ああ残しておけばよかったなという後悔ばかりをわれわれは過去に何度も繰り返しておるようなわけでございます。そういう意味におきまして、われわれの言葉を使わしていただきますとサンプル
保存ではいけない、全面
保存ということをぜひお考えいただきたいというのが
一つの希望
意見でございます。
第二番目には、申すまでもなくこの
飛鳥地方に非常にいい状態でこうした古い埋蔵
文化財が残ってまいりましたのは、先年御退職になりました、長い間
明日香村の
村長を勤められました脇本前
村長を初めとして、
村民の皆さんが、
明日香村という場所の
歴史的な性格について非常に御
配慮をいただきました結果今日に残っていることは改めて申すまでもないことかと思います。ところが、今日の状態になってまいりまして、御案内のように
明日香村では思うような農業もなかなか困難になってきたという状態で、こうして今日まで
明日香にずっとお住まいの、
村民という言葉で呼ばしていただきますが、そういう
方々が今後安心して
明日香村で
生活を続けられるような方途と申しますか展望と申しますか、そういうものについて、私ども承りますところでは非常に不安を感じておられるように聞いているわけでございます。
非常に失礼な申し分になるかと思いますが、お示しいただきました要綱なり
法案なりを読ましていただきましても、古くから
明日香村にお住まいの
村民の
方々が今後安心して
生活を続けられるということについてのお示しと申しますか
方策と申しますか、計画を策定するんだというふうなお示しがあるようでございますが、一体それは何を目指し、どういう
生活をするためのあり方なんだろうかといったことについて、私の
理解します限りにおきましては、
法案のどこにもお示しがないように、つまりどういう機関が責任を持ってそういう
明日香村の従来からの
村民の
生活を守れるような方途と申しますか展望と申しますか、そういうものをお出しいただけるのか、このあたりに率直に申しまして要綱なり
法案なりを読ましていただいて私どもにはもう
一つ納得いかないものを感じるわけでございます。ぜひひとつこの点につきましては、本
委員会の
審議において明確な方針をお出しいただけたら非常に幸いだと思うわけであります。
一例を挙げさせていただきますと、最近の農業は、御案内のようにビニールハウスでつくる栽培方法というものが各地で非常に行われておりますが、
明日香村ではこれは
規制の
対象になって、やれない。私ども確かに、ほかの地方へ参りまして、見る限りビニールハウスの
景観しか見えないという状態を目の当たりにいたしまして、これはいささか困る、何とかそうならないような
規制を
明日香村ではお願いしたいということは感じるわけでございますが、それではビニールハウスによる栽培をやらないでどういう農業が今日
奈良を成り立てていくのかというあたりについて、私どもは門外漢でわかりませんですが、いろいろな方に会うたびに伺うのですが、いや、それはと智さん言葉を濁されるようでございます。そうなってくると、最初申しましたように、
明日香村民としてお住まいの方が一体今後どんな農業を続けられたら安心して
明日香で住めるのか、いささか不安を感じる一例として挙げさせていただいたわけでございます。
第三点は、これは私ども
調査研究に当たる者としてぜひ御検討いただきたいのは、今度の要綱なり
法案によりますと、第一種
地域、第二種
地域という
規制にやや差等をつけることをお考えのようでございます。私個人はこの
考え方には全面的に賛成するものなんでありますが、ただ、この第二種
地域につきましていささか不安がある、と申しますのは、これはもう申すまでもないことだと思いますが、
飛鳥地方の埋蔵
文化財の特色は、皆さんおいでになってごらんになれるようないわゆる地上に出ているわけじゃございません。全面的に地下に埋まっておるわけでございます。ですから、全村域に
一つの
規制をお考えいただくことはわれわれの
立場として非常にありがたいことなんでございますが、いま申しているように、第一種
地域はともかくとして第三種
地域になるといささか条件が異なってまいりまして、たまたま先ほど末永先生が御紹介になりましたような新しい重要な遺構が地下に出てまいった場合に、どうもいまの状態では不安を感じざるを得ない。何とかしてそういう場合には第一種
地域並みに、これは
法律技術的なことは私素人でわかりませんのですが、そういう場合には別な
文化財保護法を適用するなり何なりして、そういう場合にも確実に遺構が守られるような方途をぜひお考えおきいただきたいというようなことでございます。ほかに二、三細かいことで、たとえば
古都保存法の
審議会の中に、いま申しますように、
飛鳥は鎌倉や京都、
奈良と違いまして地上の
文化財よりもむしろ地下の
文化財いわゆる埋蔵
文化財というものに特色があると申しますか、そこに力点がございます。したがいまして、従来
審議会に御参加の研究者並びに学者の先生方のやや専門外の部面が
中心になろうかと思います。できましたらひとつ、そういう
飛鳥の特色に対応するような、深いというんでございましょうか、あるいはできればそういう
審議委員の先生方の中に、おいでの末永先生のようなその筋の専門家をぜひお加えいただけたら、私どもとしては非常にありがたい。
時間が来たようでございますので、失礼いたします。(
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