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田尻参考人 私は、前職の
海上保安庁の現場の体験を通じまして、巨大
タンカーが一たん
事故を起こして大量の油を出したならば取り返しがつかないという問題につきまして、その問題点を若干申し述べてみたいと思います。
現在、
海上保安庁では
海洋汚染防止法とかあるいは海上交通安全法で懸命にこの
タンカーの油の
対策を立てておりますけれども、何分にも
海洋汚染防止法は不法排出を規制する、あるいは油が出た後の処理をする、また海上交通安全法は限られた航路の中の主に衝突
防止というようなことでありますから、
タンカーが座礁したりしまして何十万トンという油が流れることについては非常に大きな限界があるわけでございます。また、乗組員がいかに注意をいたしましても、一番問題なのはやはり受け皿であります港とか石油基地に欠陥がございますと、どうしても
事故が防げないということでありますので、きょうはポイントとして欠陥港湾の問題を申し
上げてみたいと思います。
まずその前提として、一昨年の三月十六日にフランスのブルターニュ海岸でアモコ・ガジス号が座礁いたしました。二十万トン
タンカーでありました。それで二十万トンの油が流れ出しまして、約四百キロの海岸を真っ黒に汚染したのであります。その結果、当時はとりあえず十六隻の軍艦と二千人の軍隊が出動しましたけれども、ほとんど手の打ちようがない。結局最終的に二十万人の
作業員が動員されましたけれども、その被害をほとんど処理し得なかったわけです。そして四千羽の海鳥が死にまして、四千億の被害の補償要求がいま出ているということで、この被害の程度を
日本に焼き直しますと瀬戸内海がすっぽり入る規模でございますので、フランスの海岸より水産物のより豊富な
日本において、もしこの種の
事故が起こったならば、まずあの瀬戸内海でも全部油で覆われてしまうということを覚悟しなければいけないということであります。
さて、二番目に
日本の
タンカーの隻数でありますけれども、
昭和五十二年で
タンカーの隻数が千四百六十一隻である。世界第一位であります。そして五十二年で全国の海での油汚染が八百二十六件に及んでいる。年々でこぼこはありますけれども、やはり数百件の油汚染が後を絶たない。また
タンカーの海難にしましても、五十三年に九十九隻もある。そのうちで一番多いのが乗り
上げであります。こういうことを考えますと、一たん
タンカーの
事故が起こったならばもう手の打ちようがないということは、残念ながら
わが国におきましても
昭和四十六年の新潟のジュリアナ号
事件あるいは水島の重
油流出事件で証明をされていると思います。
さて、本論に入りまして、現在海の巨大開発というのが行われておりますけれども、どうも私たち納得できないのは欠陥が多過ぎるということであります。従来から、まだ私たちが
海上保安庁におりますころから比べますと、どうも最近の海の巨大開発が余りにも基本的な問題を置き去りにして強行されているということに非常に大きな心配を感ずるわけであります。そういうことが原因になって、
タンカーが一たび
事故を起こしたならば大変な惨事が起こるのではないか。
まずその第一といたしまして、むつ小川原でありますけれども、太平洋の
真ん中というか、むつ小川原の吹きさらしのど
真ん中に巨大
タンカーのシーバースをつくるという計画がございます。基本的に不思議なのは、いままで全国の港に高い金をかけて防波堤をつくり、静かな海面を
確保するために港湾造成を行ってきたのであります。それは港湾法に基づいて港の中は静穏であることということを眼目として、長年にわたる風や波のデータも調べてそういう
対策をとってきたはずであります。それが一挙に外洋で大型
タンカーの荷役が安全だということになれば、従来の全国の港湾造成は何のために行われてきたのかという大きな矛盾が生ずると思います。また、こういう外洋でブイが浮かんでいるわけですが、それに係留した
タンカーの荷役、港則法に基づく危険物の荷役が許可できるということになれば、全国の港湾で非常に厳しい条件をいろいろとつけて、その周囲にいろいろな
対策がとられていることを条件に規制し許可してきた危険物の荷役の許可というのはどうなるのかということを考えますと、港湾法上、港則法上基本的な問題があるのではないかと思います。
次に、むつ小川原で外洋で荷役をすることの問題につきましては、
昭和四十八年の第四港湾
建設局の大規模シーバース安全
対策調査報告書に、こういうシーバースは風やうねりが余り入ってこないところでやるべきだということがはっきり書いてあります。外洋でありますから、風やうねりが入ってこないどころではなくて、そのまま吹き通しであります。
次に、
昭和五十二年に第二港湾
建設局が大規模工業港原油ブイバース調査報告書というのをまとめておりますが、この中に、太平洋に面しているから非常に厳しい外海の条件にさらされるということを指摘しております。
それから青森県が作成いたしましたむつ小川原港シーバース安全
対策調査報告書には、このような外洋に面するブイバースの例は数少なく、安全
対策について種々問題かあり、太平洋の波を直接受けるので種々の困難が予想される、こういうぐあいに明快に書いておる。これはあたりまえです。
私は釜石
海上保安部の巡視船の船長をしておりまして、この付近でずいぶん海難救助で苦労しました。三陸沖の突風性低気圧が北上いたしまして、むつ小川原から北海道にかけてはそれが台風並みに成長するところ、しかも津軽暖流、黒潮、親潮、三つの海流がぶつかる非常な難所であります。毎年百隻近くの海難が発生しております。その吹きさらしの海上で巨大
タンカーの荷役をするということは余りにも無謀ではないかということを感じます。
次に二番目の問題点として、家に駐車場が必要なように船にも港の中に避難錨地、台風や低気圧がやってきたならば、ちゃんといかりを入れる、避難する場所が必要であります。第八十回の港湾審議会の議事録でも、港湾審議会の
委員から、ここは避難錨地がない、非常に深くて海底が急斜面になっているからいかりがもたない、避難錨地がないということを指摘しております。
三番目に、ブイにつないで船がぐるぐる回るわけですから、油が出たときにそれをとりあえず囲むオイルフェンスがぐちゃぐちゃになってしまうわけですね、オイルフェンスはいかりでとめなくちゃいけませんから。それで第二港湾
建設局の報告書にも、こういうブイバース方式ではオイルフェンスは使えないと書いておるわけです。
そして、次に水深ですが、第二港湾
建設局の石油ブイバース調査報告書では、潜水夫がもぐるのに四十メートルが限界である、ところがこのブイバースの付近はそれより水深が深いから海底パイプの点検ができないということを書いております。これは基本的なことだろうと思うのです。
最後に、この付近が米軍の海上演習場でありまして、
タンカーが走っているところへ弾が飛んでくる。これはどういう解決をしていいかわからぬということであります。
次に、時間がありませんのでもう一つだけ例を挙げますが、五島の海上石油
タンクであります。五島の青方というところに折島という島がありまして、その島より大きな九百メートルの長さの六百万トンの石油
タンクを海上に浮かべるという、これは世界に例のない計画でありますけれども、二十万トン
タンカーの三十倍でありますから、これは大変なスケールであります。これを浮かべてドルフィンで固定をするわけですが、非常に心配なのは、台風に直撃されたときはどうするかということです。これは別段スクリューもかじもついておりませんから逃げようがありませんので、この六百万トンの海上
タンクが台風に直撃を食って島に激突をして破れたならば、もう想像のできない致命的な海の破壊というものが行われるのではないかと思います。最近北海で十メートルの大波で海上宿泊所がひっくり返ったことがございますけれども、あれは波の力をまざまざと思い知らされた大きな例だと思います。したがって、どんなに堅牢なものをつくりましても、ルース台風や伊勢湾台風級の台風が直撃したならばこの
タンクがどうなるかということを考えますと、非常に心配であります。
それよりもっと具体的なことは、五十三年七月七日の運輸省の技術審議会の答申、これは安全指針であります。世界にかつてないこういう
タンクを浮かべるということについて、運輸省の技術審議会が指針を出したのでありますが、その指針に違反をしている。たとえば、七つに分かれておるわけですが、その一つは、
日本でつくられた
タンカーの最大クラス以下であることということが書いてあります。これは強度に自信がないのでそれまでにせよということで、あたりまえでありましょうけれども、
日本でつくられた
タンカーの最大は、私の記憶ではグロブティックトウキョウの五十万トンであります。ところがこの海上
タンクの一つは八十万トンであります。そうすると何のために技術審議会で指針をつくったのか、こんなに明白な違反があったのでは話にならない。
それから、横に巨大
タンカーの桟橋ができるわけですが、
タンカーというのは操船中よく流れますから、その
タンカーと
タンクが衝突しないように、また衝突しても安全なようにという
規定ができたわけです。ところが、三菱重工の安全計画書という資料によりますと、この海上
タンクの強度は三千トンの船が四ノットでぶつかったときに耐えられると書いてあります。ところが、横にできる桟橋に着く
タンカーは三十万トンですから〇・〇四ノットのスピードでぶつかって限界だということです。ところが〇・〇四ノットといいますとたしか毎秒二センチですか、風に吹かれただけでもそれぐらいのスピードになるわけですから、どうしてこれが安全と言えるのかということです。
それから、いろいろとありますけれども、桟橋に入ってくる
タンカーは安全に操船できるような配置になっていなければいけないと書いてあるのですが、実はこの
タンカーは、非常に港が狭いので、百二十度曲がらなければいけないようになっています。しかし運輸省の省令三十号では、航路は三十度以上曲げてはいかぬ。これは、二十万トン
タンカーともなりますとデッキの広さは後楽園球場と同じくらいありますし、エンジンをとめたって四千メートルくらいとまりませんし、こういう腰の重いのは三十度以上曲がれないわけです。タグボートを使えばいいと言うでしょうが、タグボートも冬のしけたときは必ずしも有効ではありませんので、百二十度も曲げる、しかも運輸省の省令を四倍も上回っている。
こうなりますと、私は、こういう計画は具体的にもっと良心的にやらなければ、これによって
海上保安庁や船舶乗組員がどんなに注意をしても
事故が防げるだろうかということが憂えられるのであります。
最後に、提案だけを簡単にいたします。
意外に海上におきましては法令が
整備されておりません。実に陸上に比べておくれております。
その第一は、
タンカー安全法をつくるべきであります。
第二は、海上消防法をつくるべきであります。消防法が海上にございません。そのために
タンカー乗組員は危険物の免状が要らない。陸上ではローリーの運転手でも要るような危険物の免状が義務づけられていない。
あるいは
タンカーのアセスメントをやるべきであります。石油基地をつくるのに煙突と排水口のアセスメントだけをやってもとんちんかんな話でありますから、
タンカーのアセスメントをやるべきであります。
最後に、
日本が
海洋国として非常に恥ずかしい便宜置籍船、世界的にもぐり船と言われまして、リベリアやパナマのような検査のない税金も要らない国に国籍だけ移して、リベリアの旗を立てて世界じゅうを——海の無法者としてきらわれているこの欠陥船、この最大の大手がアメリカと
日本で、
日本の場合六百九十隻もそれがあるということは、われわれ
海洋国として恥ずべきであり、世界に対して胸を張って
海洋国であることを誇れるように、まずこのようなもぐり船を早急に解消すべきであります。
以上でございます。