○内閣
総理大臣(大平正芳君) 下平さんの第一の御
質問は、航空機輸入に絡まる
疑惑解明についてのことでございます。
わが党並びに
政府がこの問題に積極的でないという御批判でございます。下平さんも御承知のように、この問題につきましての刑事当局の刑事
責任の
解明は終わったわけでございますが、刑事当局の発表によりますると、あなたの言われる岸氏は全然この
事件に関係がないという御
報告でございます。
松野君の証言でございますが、これは
偽証罪になるかどうか、主観の絡む問題でもございますので、法務当局としては自信が持てないという
報告を聞いております。
国会がその権威において問題を究明しようとする場合におきましては、こういう事実を踏まえて、賢明な御判断をいただかなければならないと私は考えております。
自民党の
体質と関係のある問題ではありません。また、
政府と
自民党が真相の究明に不熱心であるといういわれなき誹誇は、お受けするわけにはまいりません。
国会の調査権の発動に対しましては、従来どおり、
政府はできるだけの協力をしてまいるつもりでございます。
真相究明につきましての第二の問題は、
国会が
資料を
政府に要求した場合におきましては、これに対して誠実に応じなければならぬという御説でございます。
私は、これまで正当な
理由がなくて
資料の
提出を拒んだことは全然ないことを確信をもって申し上げられます。(
拍手)
問題は、公務員の
守秘義務と
国政調査権との間の調和をどう図るかという問題で、下平さんも百も承知のことと思うのでございますが、この
国政調査権の発動によって
資料の要求がある、その
資料の
公開によって守られる国益と、それから
守秘義務によって守られる国益との間のバランスをどのようにして保っていくかということは、お互いの問題じゃありませんか。そして、これは
国会を通じまして、
政府と
国会が常に話し合いをしながら、そのそれぞれの立場を尊重してまいったわけでございます。今後もこの方針に変わりはありません。
この航空機
疑惑の問題に関しまして下平さんの第二の御
質問は、
再発防止に関した問題でございます。
グラマン事件も
ロッキード事件も、御
指摘のように
アメリカのSECの
資料が発端となりまして発覚いたしましたことは事実でございます。
アメリカに国籍を持つ会社でありました関係等もありましてそういうことになったと思いまするけれども、この
事件を契機として、私どもは、いろいろ反省いたしまして、
わが国におきましても多国籍
企業の
あり方についてはもっと究明しなければならないのではないかと存じまして、三木内閣以来、国連を通じまして、多国籍
企業による海外の不正支払いの防止に対しましては、国際的協力を進めておりますことは下平さんも御案内のとおりであります。国内におきましても監査
制度の充実など、
企業の自主的な監査機能を
強化する、あるいは大規模調達に関係する手続の厳正化を図るべきであるというような御提言は
政府の協
議会でも出ておるわけでございます。私はこの提言を尊重いたしまして、実現に尽くしてまいりたいと考えております。
それから、下平さんが言われるところの
選挙制度の見直し、金のかからない
選挙制度を考えるべきでないか、寄付行為の禁止を含んで、そういうことを考えなければいけないのではないかという御
指摘でございまするし、わが党におきましても、有力な先輩からそういう御提案をちょうだいいたしておりますことは私もよく承知いたしております。本件につきましては、事
選挙のルールの問題でございまするので、
政府がイニシアチブをとるよりは、自由民主党がまずこの問題についての検討を進めてコンセンサスを固めていくべきでなかろうかという判断から、自由民主党に検討を依頼いたしておるわけでございます。
政治家の資産の
公開問題とかあるいは
政治倫理憲章の制定というような問題は、
政府が提唱いたしますよりは
国会において真剣に御検討いただかなければならないものと考え、
政府の協
議会もそういう趣旨の提言をよこしておりまするので、この提言がまとまり次第、正規の手続で
国会に要請いたしたいと考えております。
しかしながら、いま
政府の立場でやらなければならないことは幾つかあると判断いたしておるわけでございまして、第一は、
個人の
政治資金の明朗化を図るべきである、その
措置を具体的に講じなければならない。そのための
政治資金規正法の
改正、それから
企業倫理の
確立をする意味におきまして、先ほど申しました監査
制度の
強化等に絡まる商法の
改正問題、それから賄賂罪の刑の
引き上げでございますとか、あるいは公訴時効の延長問題、これは脱税犯も同様でございますが、その
整備強化の問題は速やかに取り上げなければならないと考えておるわけでございます。
政府から御提案を申し上げました場合におきましては、御協力をお願いいたしたいと思います。
国会の
解散は、
民主主義の公正な活力のある運営という立場から行わるべきものでございまして、
私物化すべきものではないことは私もよく承知いたしておるつもりでございます。こういう不幸な
事件があるからいま
解散を急ぐのであるといういわれなき誹誇は、あなたにそのままお返ししなければならぬと思います。(
拍手)
下平さんの第二の御
質問は、
財政再建についてでございました。
財政が今日、非常に多くの
国債につかりまして危機の状態にあることは、下平さんもよく御承知をいただいておるようでございます。問題は、これをいかにして、どういう手順で、どういう方法で
再建に持っていくかということにおいて、あなたと私の見解に若干の違いがあるようでございます。
まず第一に、
自然増収でございますが、これは
景気が
回復いたしてまいりましたので、ことし、来年ある
程度の
自然増収が期待できょうかと思っておりまするけれども、これだけの
財源をもって膨大な
赤字国債の処理というような
財政再建に役立つものとは考えていないのであります。
自然増収がございましたならば、これは優先的に
国債の減債に充てなければならぬということはこの間の
演説でも申し上げたとおりでございますけれども、それだけで
財政の
再建が可能になるとは考えておりません。その点はあなたも御同感であろうと思います。
第二の問題は、
不公平税制の是正をやらなければならないのではないかということでございます。
不公平税制というもの自体の観念をまずお互いに一致させておかなければならぬと思うのでありますが、それは主観的であってはならないのでございます。私は、
特定の
政策目的のために租税
原則を犠牲にしておるものを
不公平税制というものと承知いたしておりますが、そういうものにつきましては、皆さんすでに御承知のように、毎年毎年是正に努めてまいっておるわけでございまして、いま、そういう
政策的に租税
原則を犠牲にしたアイテムを全部集めましても、それを全部やめることによって浮いてくる
財源は三千億にすぎないわけでございます。しかし、それをことしも、御案内のようにいろいろな御批判がありますけれども、
社会保険診療報酬の
課税特例を是正するとか、貸し倒れ準備金の
課税を
強化いたしますとか、価格変動準備金
制度の
改正でございますとか、いろいろやりましたことは下平さんも御承知のとおりでございます。今後も
不公平税制と称するものの是正には全力を挙げてまいるつもりでございます。金額の多寡にかかわらず真剣にやらなければいかぬと考えております。
第二は、現行税制でそれでは
増収の余地があるかないかという問題でございまして、下平さんは
高額所得者への
課税問題を取り上げられたのでございます。
下平さんも御承知のように、
わが国の
所得税法は、先進諸外国に比較いたしまして
高額所得者にきわめて厳しい課
税制度になっておりますことは御承知のとおりであります。また、この
高額所得者は数も少のうございますけれども、われわれはここから多くの
財源を期待できるとはしたがって思っておりませんけれども、最善の努力はしてまいるつもりでございます。
大口資産家に対する
課税はどうだという御
指摘でございますが、この点につきましては、利子配当
所得の総合
所得化につきましては、いま
政府の税制調査会におきまして、総合
課税移行のための準備を検討願っておりますことは御案内のとおりでございまするし、ことしも、御案内のようにキャピタルゲインの
課税につきましては相当の
改正をやらしていただいておるわけでございます。
あなたが言われる富裕税でございますけれども、これは毎年毎年
社会党の御提議にかかっておる案件でございますけれども、執行面で種々の困難があることは、
政府もよく承知いたしておりまするけれども、積極的にこれが可能かどうかの真剣な検討をいまやっておるところでございます。
そのような
措置を一方において進めながら、歳出面におきまして相当思い切った見直しを行い、行政費の節減を図らなければならぬと考えておりますが、そういうことによって浮きました
財源をもっていたしましても、八兆円を超える赤字公債を整理するということにつきましては、なお十分な
財源を得られるものとは考えていないのでありまして、その場合におきましては、
国民の理解を得まして、新たな
負担を
インフレ防止のためにお願いしなければならないのではないかと考えております。
しからば、それはどういう方法で実行するかということでございます。
政府も、自由民主党も、
一般消費税を実行するとは言うておりません。
国民の理解が得られるならば、五十五年度から
導入いたしたいという希望は申し述べたととがあります。しかし、
財政再建の
目的がほかの税目の
増収によりまして可能であれば、私はあえて
一般消費税に固執するものではないのであります。(
拍手)
この問題は、五十五年度の
予算の編成におきまして具体的に答えを出す以外に道はないわけでございますので、そのときに
政府がどのような答案を出すかをごらんいただいて、御批判を仰ぎたいと思います。現在の段階におきましては、
財政再建というものがどういうものであるか、これにどういう手順をもって臨もうといたしておるかということを、
国会を通じて
国民に申し上げる段階であろうと考えておるわけでございます。
自由民主党は、相当長期にわたって
日本の政局をあずからなければならぬ立場にあると思います。(
拍手)一時の人気によって言葉を左右することはできないのであります。(
拍手)
国民に重い
責任を持っておる
政党といたしましては、誠実に、具体的に事に当たらなければならぬと考えております。(
拍手)下平さん並びに下平さんの属する
社会党の全幅の理解と協力をお願いいたしたいと思います。
行政整理につきまして、下平さんは、これを推進すべきであるというお立場を表明されましたことを多といたしております。私ども、これまでの経過からいたしまして、必ずしも行政整理につきまして温かい協力を
社会党からお願いができておるようには思わないのであります。(
拍手)しかしながら、
財政再建が今日のように厳しい
課題になりました以上、副
委員長であるあなたからもこの問題についての推進に激励を賜りましたことを多とします。(
拍手)
三Kを初めといたしまして、われわれは、サマーレビューを通じましていま鋭意この問題に取り組んでおるわけでございます。あなたの言われる補助金につきましても、これは
社会保障でございますとか、文教あるいは公共
事業、あるいは
農政等、国の各般の施策を実現するために必要なものでございますけれども、現下の厳しい
財政事情にかんがみまして、いま、
役割り、効果等を総点検を行っておりまして、御期待の
方向に最善を尽くしてまいるつもりでございます。
公団、公社、
事業団の整理、合理化につきましても、これまでも一生懸命にやってまいりましたけれども、この十年間、
政府の努力によりまして、この公社、
公団、
事業団等はその数は増加いたしておりません。しかしながら、
時代に適しないもの、その
役割りを終えたもの、そういったものにつきましては、厳正に
実態調査をいたしまして見直しを行い、整理、合理化を進めてまいるつもりでございます。御協力をお願いいたしたいと思います。
その次の御
質問でございますが、今日の
経済状況についての判断の問題でございます。
経済は順調に、着実に立ち直ったけれども、まだ多くの問題が残されておるという私の見解でございますが、その見解はまだ甘過ぎるという御
指摘でございました。
私が申し上げたのは、いまの
経済は民間の堅調な消費に支えられて、また設備投資も在庫投資も出てまいりましたし、
雇用も改善の歩みをとっておりまするので、順調な
回復が軌道に乗ったということは言えるのではないかと申し上げておるわけでございます。ただし、この春以来、
卸売物価の上げ足、これは海外要因が多いとはいえ、この上げ足は警戒すべきものがございまするので、
政府は、八項目にわたる
物価政策、それから
日本銀行の方も公定歩合の
引き上げ等によって慎重な対応をいたしておるところでございまして、われわれは、そのために
経済状況が最近安定の
方向をたどっておるということを申し上げておるわけでございまして、この評価は決して自画自賛ではないと考えております。
それから、下平さんのその次の問題は、
インフレ対策に関連いたしまして
石油の価格
政策についてのお尋ねでございました。
私は、原油の海外高によるコスト高を転嫁していくことは、
市場の
原則からいってやむを得ないといたしましても、これに便乗する
値上げあるいは買い占め売り惜しみ等につきましては、断固たる
措置を講ずると申し上げておるわけでございます。
私はいま、
石油価格
政策につきまして
政府の持っておる権能を行使してこれに介入すべき段階にあるとは思わないのであります。
石油は需給の安定がとれておる以上、そんな必要はないと考えております。そういう不当な介入をやると、かえって
石油の
経済を乱すおそれがあると判断しておるからでございまして、私どもいま
政府がとっておる
政策によりまして、
石油の需給は安定の
方向に向っておりますることは御案内のとおりであります。しかし、一部にあなたの言われるような事実が全然ないと私は強弁するものではないのであります。そういうものにつきましてはケース・バイ・ケース、われわれの通産官庁あるいは
公正取引委員会等の機能を行使いたしまして、厳重な監視を続けてまいるつもりでございます。
次に下平さんは、
土地政策についての御提言がございました。
私は、当面の
課題は、
地価の安定を図り、優良低廉な住宅地の供給の促進を図ることが
土地政策の
基本であると考えております。このため、
国土利用計画法の的確な運用、
計画的宅地開発
事業の促進のための
措置を総合的に講じて、御期待にこたえたいと考えております。
次に、
中小企業対策についてのお尋ねがございました。
中小企業は、量的にも質的にも
わが国の
経済を支える根幹でございます。しかしながら、技術力、経営力が弱うございまするので、
中小企業の経営の安定のために技術開発力の
強化、それから中核的な人材の養成に全力を挙げますとともに、
地域産業、地域の特性、あるいは高度の技術に支えられた多彩な
地域産業の育成に
当たりたいと考えております。
御
指摘の下請取引の適正化あるいは
中小企業に対する官需の発注の
確保等につきましては、全力を挙げておるところでございます。
次に、
農業政策、食糧
政策についてのお尋ねでございました。
御
指摘のように、
国民に食糧を安定的に供給することは、国政の
基本的な要請
課題でございます。このため、
政府としては国内で生産可能なものは極力国内生産で賄う方針のもとに、地域
農業の
振興を図って総合的に食糧自給力の向上に努めておるところでございます。
道路
整備の問題でございますが、この問題は
エネルギー政策との関連におきましていま関心を呼んでおるわけでございますけれども、
わが国の道路はまだ十分とは言えないのでございまして、
負担と受益の関係を精細に吟味しながら道路
政策は考えていくべきでございまして、ガソリン税の使途との関連におきまして、道路
財源をいまにわかに変更するという考えは持っておりません。
それから、原子力の平和
利用の問題につきまして御注意をいただいたわけでございますが、
石油の供給が量的にも価格的にも不安定になってまいりました今日、代替エネルギーといたしましてわれわれが
信頼できるのは、目下のところ原子力と石炭でございまして、これにつきましては、
信頼できるエネルギー源ではございますけれども、
安全性の
確保に周到な配慮を加えながら、住民の理解と協力のもとにこの開発を進めてまいりたいと考えております。
老齢化
社会に関連いたしまして、六十歳に定年を延ばし、完全週休二日制を
計画的に
実施せよということでございます。
さきに
政府で決めました新
経済社会七カ年
計画、それから第四次
雇用対策
基本計画におきましては、今後の
高齢化社会に対処いたしまして、
昭和六十年度には六十歳定年を一般化する等、高年齢者
雇用対策を進めますとともに、週休二日制を含めまして
企業の労働時間が欧米先進国並みの
水準に近づくことができるよう、その目標の実現を積極的に図ってまいることにいたしております。
最後に、
政府の外交防衛
政策についての御批判を含めての御注文をいただいたわけでございます。
私は、あなたが御
指摘のように、軍事力によってすべてができるなどという妄想を持っておるものではございません。と言って、軍事力を軽視していいとは考えていないのであります。われわれは、防衛力の
整備も、安保条約の誠実な運営も、総合的な外交努力も、整然たる内政の民主的な展開も、一緒になりまして
わが国の安全と名誉が守られるものと承知いたしておるわけでございまして、そういう
基本の見解には毛頭変わりがないことを御理解を願いたいと思います。(
拍手)
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