○八木一郎君 私がこの問題に非常な関心を持っておるのは、実は、この数年来、日中関係の文化交流の
動きの中に——かつて私自身が蚕糸業を通じて、絹を通じて、上海を拠点とする国際競争場裏において、不幸な状態がだんだん迫ってくる時点において、その商売の競争が闘争になり戦争になっていくということを防止せよということで、農林省、
政府から特に専門家だという派遣を受けて、十年前後、中国の蚕糸業をめぐる
情勢の中に明け暮れしたことがございます。そのためでもありますが、二度と再びあのような不幸な
事態にさせないためには、こういう歴史と伝統のあるルートを生かしていくようにと思っております。そういう注目をして見てきたせいか、最近のテレビや、日中条約締結後は、特に新聞の記事その他、シルクロードに関連したものが数多く目につくのであります。
文部省、その他、
政府関係におかれても、こういう目的を意識してではないことはもちろんですが、学術調査あるいは東西文化交流の歴史学者その他の方々が数多く、派遣せられておるやに見受けるのであります。またNHKでは、さきには平山芸大教授の
先生が「私のシルクロード」と題して三日間にわたって茶の間のテレビを通じて、大変興味深く、親しみ深く中国のいまお話しのありました西北地方の
実態に触れた放映を見ることができましたが、承ると、NHKはさらに過去二カ年の歳月をかけて制作してきたマルコ・ポー口とシルクロードの関係のものを連続放映するという予告をしております。
私がこういう話をしますと、ある人がこれは中国のピンポン外交というようなもので、これはシルク外交じゃないかと言う人さえあるのでありますが、結構なことだと。いずれにしても平和的な民族的な、古い、そして新しいこの
情勢の中に、文化的な国際交流を深めていくという好
影響のある問題はその
動きに乗って大いに歓迎をして、いま読売は意図しておられるようでありますが、けさも新聞を見ると、大型の取材団が二十三日にわたって調べてきて、これを連続新聞やあるいはテレビで放映していこう、こういう企画があるようでございます。私は、博物館でこの文物展を主催された場合のように、交流協会と適当な団体の中で、シルクに関係して、蚕糸、絹に関する団体な
ども、いたずらに商売がたきで輸入
規制のことばかりにこだわらないで、もう少し広く目をあけて、こういう問題には
協力をしていくおおらかな姿勢が必要じゃないか。きょうは農林省からも来てもらいましたが、そういう姿勢を農林当局にも要請いたしたいところであります。
いずれにしても、私がこのような時期にこの問題を取り上げましたのは、蚕糸、絹は紀元前三百年前に、博物館で見ればわかりますが、このような絹とお茶と陶器というのが東西文化の橋渡しになっておったことは確かであります。それから流れ流れてこちらの方に来ておるというふうにうかがわれるのでありますが、先ほど私が申しましたように、戦前、不幸な
事態が勃発しそうだという
情勢では遅かったんです。その当時は、中国の図書館へ入って文献を調べますと、あらゆるところに抗日運動の材料にされておる蚕糸の状態が書き出されてある。
日本側では、眠れる獅子、競争相手だといったような言葉で学校の教科書にまで載せられておるというようなことがだんだん集大成されていっておるというので、専門的に国際分業として東洋、アジアの特産品を分け合って発展さしていく方途がありそうなものだということで参った経験を通じて見ましても、わざわざ私のところへいまそういうことを言ってくださる人があるところを見ますと、ああいうことにならないようにという配慮から、いろいろな問題が考えられます。
たとえばオランダにあります国際裁判所から、全
世界から特産品を集めてこの国際裁判所をつくったときに、
日本はシルクだ、絹だというので絹製品を持っていったが、これももう半世紀過ぎて傷んできたから何か配慮してもらう道はないだろうかという声が私のところへ来ておりますし、また、そんな話をしておりますと、国産品で築き上げたこの
国会議事堂の御休所、あの広間に絹のじゅうたんが敷かれておるのであります。なるほど明治、大正の
貿易の大宗、
輸出の大宗だといったシルクの全盛時代の面影が文化の流れの中に遺産として残っておるということを思いますと、私は、後ほど農林省に対して提言かたがた御
質問申し上げたいと思いますが、外務省もひとつ、話は違いますけれ
ども、食糧を農林省に言うて特段の配慮を外務大臣もなすってベトナムへ手配をされたように、農林省所管で生糸の滞貨があるわけです、その滞貨生糸を使って国際交流の親善に寄与するような御配慮をしてもらってもおかしくはないじゃないかとさえ思うわけであります。
こういうようなことを考えますと、学界で広く専門の歴史家、考古学者、その他が派遣されて現地へ行っておられる状況について、わかりますれば、文部省の担当官から御
説明を求めたい、かように思います。