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田中寿美子君
澁谷国務大臣、私はきのう
厚生大臣に対しまして、
売春における
前借金の問題、特にそれを
沖繩の問題にしぼりまして、一体それを
厚生省としては
更生保護の方を担当している
立場からどういうふうに取り組んでいられるかということを主にお伺いしたわけです。このような問題にきょうははからずも一時間もらって、めったに
売春の問題に時間をいただくことは少ないんでございますので、きょうは私は、
警察が把握していらっしゃる
状況を篤とお伺いしたいと思っているわけです。
私は、こんな問題で
大臣と
質疑応答するなんてちょっと想像もしておりませんでした。昔なじみの
大臣で、
労働省にいらっしゃいましたころ、
大臣が
秘書課長をしていらっしゃった。私は
婦人課長をしておりました。その当時に、今日の
売春防止法をつくる
仕事を私は担当したわけなんです。ですから、ほとんど
大臣の頭の中には
売春問題なんてないと思うし、きょう初めてこの問題にお出かけになったと思うんですけれ
ども、当時、
婦人少年局というのは、戦後の
婦人解放と
婦人の
地位の確保のために大わらわの
活動をしたわけです。そして、戦前から続いていた
売春問題が戦後の
占領によって
基地売春というか、街娼が発生して大変な問題になっておりました。しかし、
占領軍がおります間は、私
ども、
売春を禁止せよとか、大きな声で
売春問題を取り上げることができなかった。
占領軍が引き揚げていった後、
婦人運動も猛烈に盛んになりましたし、
国会の超党派の
衆参婦人議員団が、
日本の、
国家の公認あるいは黙認しているような
売春制度をなくすべきだということで立ち上がったわけでございます。私の
立場は、しかしそれは、そういう
管理売春で
婦人が
肉体や
精神をじゅうりんされる、全
人格の尊厳を損なわれるという
立場から、これを管理してその
肉体を搾取するような
業態をなくさなけりゃいけない、こういう
立場から一貫してこの問題に取り組んだはずです。そして
婦人少年局には
売春問題に対する諮問が
労働大臣からされまして、そして
売春問題対策特別委員会というのをつくられました。それの
委員長に
神崎清さんがなられまして、私は
事務局担当でございました。
ですから、この
売春防止法というのができましたのは
昭和三十一年で、そして
完全実施になったのは三十三年ですけれ
ども、その前の段階で、
占領の終わった
昭和二十六年以降、この
準備のために
日本全国に
調査活動もしました。
業界やそれから
従業婦の
人たちとずうっと面接して歩くような
仕事もみんなで手を分けてやりましたし、それから
国会方面、
婦人運動との
連絡、そして
売春防止法の立案のために
法務省、
厚生省、
労働省、文部省、その他関係する各省が
連絡協議会を持っておりまして、そしてその
法案作成については、これは
婦人の問題という
立場から
婦人少年局が非常に熱心に取り扱ったものですから、でき上がった当時の
犬養法務大臣は私
どもをいつも呼んで
相談をしてくださる、
法案作成の
準備のことも私
どもがやったということを、私
ども非常に深い印象を持って記憶しているわけなんです。ですから、この
防止法を生み出す
過程で
労働省が果たした
役割りというのは大変大きかったと思いますけれ
ども、今日ではこの一番ネックになっているなと思いますのは、
売春防止法を本当に一番主管する官庁というものはほとんどない。
防止法のたてまえから申しまして
法務省がもちろん関係して、
売春というものを禁止し、それをさせた者及び勧誘した
女性自身もですけれ
ども、刑罰に処せられることになっております。それから、そういう者の
更生の方の
法務省の
仕事もあります。ですけれ
ども、
あとは今度は転落したその
女性、要
保護女子と言っておりますけれ
ども、それは
厚生省が
更生させる任務を持っておりまして、そして
婦人相談所及び
婦人相談員がその
仕事に当たっているわけですね。この
法律そのものが実施されているかどうかということをきちんと見きわめ、そしてそれに
違反する者を取り締まるのが
警察の
役割りでございます。ですから、そういう
意味で
警察がほとんどいまではこの
売春事犯に関しての
取り締まりの
仕事を受け持っていられると思うんです。
当時、
本土もそうでしたけれ
ども、
沖繩は
本土から切り離されておりましたので、
本土に売
防法が施行されて、そして
赤線地帯が全部ともしびを消して
管理売春という形態がなくなりました後も、ずっと
本土復帰のときまで、
昭和四十七年までもとのままの姿で、
集娼制度、つまり
管理売春の地域もあるし、さらにそれにつけ加えて大きな
基地がありますために、
米軍人相手の
バー、
カフェーの中あるいはそこを根城にして
売春を行うということがずっと続いておったわけです。
本土復帰のとき、私
ども婦人運動をしております者が以前の
沖繩を訪ねまして、そして
沖繩でも売
防法がもちろん施行されなければならないけれ
ども、果たしてそれが
本土のようにうまくいくだろうかどうかということを大変心配しまして
調査に行ったことがあります。その当時約一万四、五千名の
売春をやっている
女性がおったと思いますけれ
ども、その
人たちの九八%までが
前借金というのを持っていた、こういうことでございますね。それで、売
防法九条では、
売春をさせる目的で
前借金、金を貸すということは禁止されていて、それに当たる者は処罰されることになっておりますわけです。
本土では
昭和三十年に最高裁の
判決で、
売春のための
前借金無効という
判決が出ました。ですから、あのとき
業者たちは皆
前借金無効ということについて納得して、それで初めのうちは補償せよなんて言っておりましたけれ
ども、
売春に補償した国はないので、やっぱり転業するという
指導をして
転業資金の
貸し付けなどをしたわけなんですね。それでもう売
防法が施行されるときにはあきらめて、全部
前借金は大げさな計算によると
全国で四十億ぐらいあっただろうというふうに
業者の方は言っておりますけれ
ども、それを皆
棒引きにしたわけですね。したがって、私
どもは
沖繩が
復帰しますときに、
沖繩のこういう
風俗営業をやっている
女性のうちの非常に多くの部分が
売春をやっている。経済的にも非常に苦しくて、
母子家庭なんかが困り果てると、そういうところへ行けばすぐ
お金を貸してくれるというような
状況から、もう本当に九八%まで
前借金があるということを知りましたので、そこで
復帰と同時に、
前借金無効の
宣言をしてくれということを
日本の
政府に私
どもは迫ったわけです。そして当時、
沖繩では
前借金無効ということを放送なんかでも知らせまして、そして
女性にも企業にも訴えたわけなんです。ところが、事実上は
売春の
業態は非常に多様化していて、そしてたくさん
お金を貸している
業者からすれば、これを無効にされてはたまらないということで、いろいろ巧みな手をもって、
売春による
前借でないような
肩がわりをしたんですね。ですから、銀行なんかにもずいぶんいろんな形で……。
それから、これは
労働省にいらっしゃいましたから、
労働基準法の中に
前借金で
労働の
相殺をしてはいけないとか、それから賃金は
本人に直接全額を金銭で支払わなきゃいけないとか、それから
強制労働をしてはいけないという
法律もありますので、
風俗営業に働いている
人たちに対してもそういうような
借金との
相殺ということをしてはいけないと思うんですけれ
ども、それはもういまでも非常にたくさんあるという
状況です。これは最近
現地を見てきた方々の
報告から私はそれを承知したわけなんですね。それで、今回、せっかく四月は
婦人週間で、私
どもが
参政権を獲得したのを記念して
婦人の権利とか
婦人の
地位を最も一生懸命にキャンペーンする時期でもありますし、しかも国際的にも
国連婦人の十年の真っ最中でございまして、七五年の
メキシコシティーで開かれた
世界婦人会議のときにあらゆる種類の
売春の
制度を廃止すること、そして
女性の
肉体及び
精神、
人格をじゅうりんすることは一切禁止されなければならないという
宣言をしているわけです。ですから、私はそういう
人権の
立場からぜひ考えてみていただいて、
売春のための
前借と言わなくて、事実上は
売春のための
前借、
売春によって
お金を返させていくような形がいまだに
沖繩に横行しているという
状況に対して、何とかもう一度手を打っていただきたいということが一番のきょうの私の要望の主眼なんでございます。
そこで、
警察庁の方に私は
資料をとってくださいということをお願いしてあったんですけれ
ども、ほとんど
資料らしい
資料が出てこないんですね。これはどういうわけか。つまり
前借金という形になっていない。だから、
管理売春というのは何かそこで金で縛っておかなければ管理することができないから、事実上
管理売春をみんな
前借金の形にして、着るもの、食べるもの、あるいは
生活費を支給して、現金をやらないでおいて、ことに
米軍なんか
相手のときには
チケット制になっておりますね。こういうような
状況になっている事実上の前
借金制度、こういうものをどんなふうに把握していらっしゃるか。
沖繩の
前借金、あるいはそれとおぼしき
管理売春の
状況についてもう少しちゃんとした
報告をいただきませんと、本当にこんなの、もう
資料にならないような
資料しかいただいていないんです。少し事実の御
説明をいただきたいと思います。
その前に、
大臣、売
防法をつくり出した当時の
労働省の幹部でいらっしゃったわけです。それで
売春防止法そのものがもっと本当に生きるように
——私
どもは女の人をいじめるとか、そんな
立場では全然ないわけで、
女性の
肉体や
精神をじゅうりんして
人権を侵害するというようなことは好ましくないので、
売春防止法の施行がもっときちっとされるべきだというふうに思っているんですが、いかがですか。初めに御意見を伺っておきたいと思います。