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公述人(田村金吾君) ただいま御紹介をいただきました春闘共闘
会議の
雇用対策
委員会の
委員長をしております田村でございます。
本日は
雇用問題について私の御
意見を申し上げまして、
雇用の問題についてのこの討議が実のあるものにしていただきたいというように考えております。
御
承知のように、わが国の人口は急速な高齢化に向かって走り出しておりまして、年金や医療問題などを初めとした社会保障を頂点にいたしましたいろいろの問題が社会的な課題になっていることは御
承知のとおりであります。人口の高齢化の急速な進行を
数字によって見てみますと、五十二年の十月現在で人口が一億一千四百十五万人でありまして、これが
昭和弐十年には一億二千二百三十三万人、
昭和七十五年には一億三千三百六十八万人というようになりまして、七十年後に
日本の人口がピークに達しまして一億四千万人台になるということが、人口統計その他で
予想されておりますけれども、この間におきます生産年齢人口、十五歳から六十四歳までの人口でありますが、これは大体六二、三%から六七%程度でほぼ同じようなパーセンテージになっております。しかし、六十五歳以上の老齢人口を見てみますと、
昭和五十二年で九百五十六万人、そして六十年には千百九十一万人、七十年には千六百五十万人、五十二年には全人口に占める割合が八・四%、六十年には九・七%、七十年には一二・七%と急速に高齢化が進む現状にあります。
一方、
日本人の平均寿命というものを見てまいりますと、明治の中期ころから戦前までは人生五十年と言われましたように、平均寿命も五十歳以内であります。男子は四十二歳から四十七歳までぐらい、女子は四十四歳から四十九歳、大体こういう水準でありました。しかし、
昭和五十二年の男子の平均寿命を見てみますと、御
承知のように七十二・六九歳、女子が七十七・九五歳というように、世界の最高水準までこの平均寿命が高まっておりますし、余命年数そのもの、これはその年齢の時点から何歳を生きるかというような余命年数を見てみますと、
昭和の初めごろには余命年数が五十歳の時点で十八・五歳でありましたものが、今日では二十六・二歳。余命年数を見ても八年間延びておるというような
状況で、高齢化の実態というものが
数字の上でもいろいろ明らかになっております。
そうした
状況の中で、中高年
雇用というものに目を転じてみますと、たとえば求人倍率が御
承知のようにありますけれども、この有効求人倍率平均〇・五八の場合を見てみますと、五十歳から五十四歳で〇・三一、五十五歳から五十九歳で〇・一五、六十歳から六十四歳で〇・〇八というような指数になっておりまして、この厳しい
雇用情勢の中で、中高年は特に求人一人に対して就職をしたいというように望む人が九人ないし十人、こういうような厳しい
状況にあります。
また一方、最近の
雇用の
状況を
企業の減量経営という面から見てみますと、減量経営の名のもとに
企業から排出をされておりますのは、特に高年労働者が多いわけであります。また一方では、
企業の五十五歳定年、これによって合法的に労働者が労働
市場にほうり出されるという実態になっております。こうしたものを見てみますと、むしろ高齢化社会に逆行する実態となっておるのではないかというように思うわけであります。
ここでひとつ定年制について見てみますと、定年制を設けておる
企業というのは、すでに皆様方も御
承知のように全体の七七%でありますし、そのうち定年制を設けておる中で五十五歳定年は四一・三%、半数の
企業が五十五歳定年で打ち切って、定年を理由にして中高年労働者が首を切られておるわけであります。五十六歳から五十九歳、これは一九・四%であります。この一九・四%はここ数年の間に五十五歳の定年から少しずつ延びてきたという
内容だというように思います。六十歳につきましては三三・七%、六一歳以上が四・八%というような実態にありまして、半分ぐらいは五十五歳定年というところになってきておるという点に注目をしておかなければいけないというように思います。
先ほど定年延長が徐々になされたということを申し上げましたけれども、四十九年と五十年で定年を延長した
企業は四・四%であります。五十一年から五十二年、この二年間で延長したところは四・五%であります。一方、四十六年から四十八年の実情を見てみますと、この三年間で一〇・九%の
企業が定年を延長しておるわけであります。つまり、高度成長時代には定年延長がそれなりに進んできたけれども、不況の局面にあって、経営側が定年延長に踏み切らないでおるということが、その
数字の実態から見られるわけであります。
そうした点を見てみますと、このような
状況の中で、この定年延長について
政府はどのような政策をしておるかという点を見てみますと、五十四
年度予算では定年延長奨励金の増額だとか、継続
雇用奨励金の改善というようなものによって、高齢者
雇用の確保、定年の引き延ばしというようなものをしようと図っておられるようであります。そしてまた、定年延長そのものについては、労使の協議によって推進をされるというような立場を堅持せられておるわけであります。しかし、労使の協議によってなかなかこの定年が延びてこないということは、先ほど不況の場合には定年延長の率が下がっておるというようなことを申し上げましたように、なかなか進めないような
状況であります。
そうした中で、私ども労働団体、私は春闘共闘の
雇用対策
委員会以外にも政策推進労組
会議の政策
委員長もさしていただいておりますけれども、こうした労働団体や各党におきましても、年齢による
雇用差別禁止法の早急な立法化によって中高年
雇用を確保し、定年を延長すべきだという提案をさしていただいておりますし、すでに国会の中でも御討議をいただいておるわけであります。この法律によって立法化をしていただきたいというのは、六十歳の定年制を確立をし、中高年齢者の年齢を理由とする雇い入れの拒否を制限すべきであると思うからであります。あわせて、この法案の中には、職業紹介の際、年齢を理由として募集をしないというようなこと、それから求職者の中から中高年齢者を除外するような広告の禁止というような問題年齢を理由とした解雇の防止、これは
民間の
企業では希望退職等が行われておりますけれども、ややともすれば年齢を理由とした希望退職の勧奨が行われておるというような実態なども含めて考えてみますと、年齢によります
雇用の差別の禁止というものをぜひとも立法化をしていただきまして、中高年
雇用の保護、また
雇用保障の促進をしていただくというようなことが大切ではないかというように思います。
この法律はすでに諸外国でも例がございまして、アメリカでは昨年の三月に現行の年齢差別による年齢の制限、六十五歳を七十歳にすることによりまして、七十歳定年という
方向で、
日本流に言えば七十歳定年という
方向で立法がすでに済み実施に移っております。本年の一月から七十歳以上になったというように私どもは文献、また労働組合からの情報で確認をしておるわけであります。この法律では、二十人以上の規模の
民間企業では、年齢のみを理由として労働意欲のある従業員を七十歳までは解雇できないという改正が実施をされたわけであります。西独その他ヨーロッパでも六十五歳定年というのがほぼ一般化の
状況にありますので、そうした面について、今国会においても十分な御討議もいただきたいというふうに思います。
また、このいわゆる定年法について、これは経営権の侵害ではないかというような
意見が一部の経営側にあるやに聞いておりますけれども、経営権というのは、御
承知のように、
昭和二十五年の労働法の確立に伴いまして、労働側の労働基本三権に対置をして、経営権というものを経営側が主張し今日に至っておるわけでありますけれども、経営権は法律的な位置づけもございません。経営をなすべきに当たって、経営側が行使し得る権というような
意味合いだと思いますけれども、経営権も時代の流れの中で当然制約されてしかるべきではないかというように思います。たとえば、いままで経営権の範疇の中にありました工場の設置の問題等につきましても、公害の問題、地域社会に対する貢献の問題というようなものは当然出てまいりまして、そこに経営権の一応の制約があるというような観点から見ますれば、一定年齢までの
雇用保障については経営権を侵害するものではないというように思っております。
また、最近厚生年金の支給開始年齢を六十五歳にすべきだという論議が始まっておりますけれども、現在でも五十五歳定年が四七%と申し上げましたけれども、支給開始年齢と定年の間、この間には乖離があるわけであります。定年と年金の支給開始年齢についてはドッキングをすべきだというように思います。そうした
意味で、まず定年を六十歳にして、支給開始年齢とドッキングをするというような
意味合いにおきましても、ぜひともこの年齢による
雇用の差別禁止という点についての十分な御審議と御討議をいただきたいと思います。
最後に、この問題につきましては、
衆議院段階ですでに
予算討議の際に自民党は立法化を含めて審議会に諮問するというように野党側に回答をしておられますけれども、ぜひともこの
内容につきましては、審議会の中で一年以内に結論を出して、六十歳定年を含めた法制化をされるように強く希望いたしたいと思います。審議会にかけたわ、三年、四年かけたということでは本来の趣旨が生かされませんので、ぜひとも早急な審議会を開催をしていただきまして、一年以内に結論をお出しいただくようお願いをいたしたいと思います。
次に
雇用創出についてでありますが、五十四
年度政府予算の中で
雇用創出については、
雇用開発事業による
雇用拡大で十万人、中身は申し上げなくてもおわかりだと思いますので、省略をいたしますけれども、それから定年延長奨励金、継続
雇用奨励金で九万人の
失業を予防するというような具体的な
数字を挙げて
雇用増を見込んでおられますけれども、五十二
年度のこれら
雇用関係、特に
雇用保険における
雇用改善事業、能力開発事業というようなものの
予算と執行の実績を見てみますと、細かな
数字も時間の
関係ありまして省略をさしていただきますけれども、
雇用改善事業については
予算百八十四億に対して五十三億、二八・八%の消化でありますし、能力開発事業につきましても二十四億七千七百万円に対して四億二千八百万円、一七・三%というような
予算の執行の
状況というようなものを見てみますと、定年延長奨励金や継続
雇用奨励金、また中高年開発の
雇用給付金というようなものによって、果たして見込んだだけの
雇用増ができるのかどうかという点になりますと、なかなか疑問ではないかというように思います。やはりそれには法の一元化の問題、法のPRの問題を含めての対応が大切でありますけれども、そういうような補助金、また給付金というようなものによっては
雇用の開発ができないのではないか。できるとすれば、プログラムを示して、どのような形でどこからそうした
雇用が出ていくかという点などは明確にされるべきではないかというように思います。
雇用の創出については、
景気を
回復をさせること、これが第一でありますけれども、現状、
景気が緩やかな
回復をし、
企業の利益がふえておるという実態でありますけれども、
企業側の減量経営というものはその基調が変わっておりません。常用
雇用はふえておりません。時間外や縁辺労働力がふえておるということではありますけれども、現状の
雇用問題が解消するというようになっておりませんので、永続的な
雇用の
増加をしていくべきだというように思います。
また、新
経済社会七カ年計画という中でも、
昭和六十年には
失業者を百万人程度、
失業率を一・七%という
見通しを立てておられますけれども、その前提となっております
経済成長率六%弱というようなものについても、いろいろな
状況の中から見てまいりますと、かなりの不安があるというようなことになれば、この時点でも一・七%の
失業率にとどめておる。さらに私どもが希望しております一%の
失業率というようなところにはとうていいかないのではないかというように思っております。
そうした観点から見てまいりますと、やはり
雇用安定化のために有効的な長期政策、たとえば週休二日制、週四十時間労働の法制化、時間外労働の規制の強化、有給休暇の完全取得というようなものによって
雇用の
増加を図るということが大切ではないかというように思います。さらにそうしたものとあわせながら、いま言った
雇用が厳しい
状況の中で、職種ごとに細分化された
雇用開拓というようなものを含めた
雇用創出というものをしていく必要がありますし、また潜在需要を開拓をして、中高年
雇用を創出していくというようなことが大切ではないかというように思います。
こうした点については、労働団体の中で提唱しております
雇用創出のための機構の設置というようなものをぜひとも御
検討をいただきたいと思います。この
雇用の創出の機構については、屋上屋を重ねるものであるとか、労働省の所管であるというような観点からの論議がなされておりますけれども、
民間の活力を生かし、労働組合の代表、そうしたものの
意見も生かしながらの
雇用創出についてもぜひとも御
検討をいただきたいというように思います。
この機関については、
政府の
予算案の中でも
雇用政策
会議、また
雇用発展職種研究開発
委員会というようなものの中で御討議をいただくことになっておりますけれども、現状で見てまいりますと、
雇用政策全般についての論議が調査程度になっておるわけであります。一歩足を、地域の段階なり、
雇用が創出ができるような具体的な
検討というものをぜひともお願いをしたい。そうした
意味では、
一つには労、公、使、学識経験者で構成をいたしました
会議を、中央のみでなく地方にも設けていただきまして御
検討をいただきたいというように思います。そして、この
会議については、ややともすれば、このような審議会は一年に一、二回申しわけ程度に開くだけでありますけれども、定期的に開催をして、そして必要に応じては調査権や勧告権というようなものも付与するというようなところまでその
機能を高めていただくことが大切ではないかと思います。そして、この
会議については、
雇用問題の総合的な
検討の場にしていただくというようなことにしたいと思います。そして、総合的な
検討という点については、
雇用機会の拡大及び解雇の防止、
失業中の
生活の保障、再
雇用の条件整備というようなものも含めて御
検討をいただければというように思います。特に都道府県段階における
会議については、地方
経済の振興や
民間活力の引き出しを図るための公共投資の
効果、また潜在需要をつくり出すための新たな仕事の開発、こうしたものには
民間の委託をも含めたことなども考えていただければというように思います。このようなことによりまして、
雇用の創出を図っていただくということが大切だろうというように思います。
雇用の創出について
意見を申し上げましたけれども、最後に補足する
意味を含めて一、二点申し上げておきたいことがございます。
一つは、貿易摩擦、輸入規制などによりまして、現状輸出が減少するということも、徐々にこれからあらわれてまいりますし、私は電機労連という電機産業に働く労働組合の役員もしておるわけでありますけれども、こうした産業の
状況なども見てみますと、海外生産のための
企業進出というものが最近非常に盛んになってきております。こうした面から
雇用が失われるというような実態もございます。アメリカが今日輸出能力をなくしておるというようなことは、海外の
企業にその戦略的な位置を移したことも大きな一因であり、今日これがアメリカの
雇用不安を高めているというような
意味から見ましても、海外進出に対し、またそこから失われてくる
雇用に対しても十分な留意が必要だと思います。また一方、電電の資材開放というような問題におきましても、
雇用の面から見てまいりますとかなり大きな影響があるわけであります。一方では
雇用をつくりながら一方では
雇用が失われるというようなことも、放置することのないような努力もあわせてしなければ総合的な
雇用対策と言えないのではないかというように思っております。
以上、一、二点付記をいたしまして
雇用の創出の問題と年齢による
雇用差別禁止の問題につきまして二点を
中心にして御
意見を申し上げさしていただきました。どうもありがとうございました。(拍手)