○久保亘君 私は、日本社会党を代表して、ただいま議題となりました一九七九年度
一般会計予算、同
特別会計予算及び同
政府関係機関予算、以上三案に対し反対の討論を行います。
わが国経済は不況局面を脱出し、順調な回復過程をたどりつつあるとの一部の明るい見通しが出ている一方では、肝心な雇用、中でも中高年齢者の雇用情勢は依然として改善のめどは立っていません。確かに
企業収益は増大してきていますが、減量経営、すなわち人減らし、合理化による利益の追求が定着した
企業は、景気が回復したからといっても雇用量を増加させないのが現在の特徴なのであります。しかも、景気が上昇すれば物価がそれを上回る速度で上昇し、景気の足かせとなる現代資本主義経済の抱える矛盾がすでにあらわれてきていることから、今後も勤労
国民の雇用、所得、生活等々が大福に好転する見込みは持てません。
長期不況を克服して日本経済の転換を図るためには、内需中心の経済構造を確立することが必要であり、その実現が六月末開催の東京サミットにおけるわが国の国際的責務を果たすことになるのであります。しかし、そのおくれが現在ECからの貿易不均衡是正の要望となり、日米通商問題における
アメリカからの圧力の原因となっているのであります。加えて、経済構造の転換が達成されない中で、国内的にはインフレ再燃の危険性が高まり、原油価格の値上げが実施されるのであります。まさに日本経済は、国内外両面にわたって未解決な
課題を抱えた不安定な状態にあると言っても過言ではありません。
かかる経済問題を抱えている一方では、E2C早期警戒機の購入問題に露出したように、政財官の癒着した航空機汚職構造は、経済の軍事化を促進しようとする危険な動きと相まって、
政治に対する不信を増幅しているのが実情であり、
自民党政治の欠陥と限界を示したのであります。
そこで、
予算は
政府の顔と言われるわけでありますが、
政府予算案の具体的問題点を
指摘し、反対の理由を明らかにしたいと思います。
まず第一には、雇用、失業
対策が十分でないことであります。
政府は、十万人の雇用創出と九万人の失業防止
対策を講じ、さらに情勢を見て追加措置をとるとの方針を明らかにされておりますが、最も重要な施策としての民間
企業の人員削減防止策が欠落していますし、
政府みずから新規雇用機会の拡大を図る面で特記すべきものは何もありません。国が雇用
対策を進めれば、
企業が人減らしをふやすというのでは、百二十万人を超える完全失業者が減少する見込みはないのであり、高齢者社会への移行過程の中で、生活
責任の重い中高年齢者の就業の前途に明るさは見出せないのであります。
また、先進諸国で週休二日制を実施していないのはわが国だけであり、これでは外国から貿易の不均衡、国際収支のアンバランスについての批判を招くのは当然とも言えるのであります。
政府の決断が求められているのでありますが、その意欲は見られず、かかる面からの雇用拡大策も図られていません。
第二には、福祉切り捨ての公共事業中心の景気
対策、内需拡大策についてであります。
不況克服のために公共事業投資の拡大を軸にする景気刺激策は従来からのパターンでありますが、一言で言えば、公共事業費の増大が必ずしもかつての成長過程と同様な需要効果は発揮し得なくなってきているのがわが国の需要構造の変化であります。中でも、
政府の公共事業内容は道路、港湾などの大型プロジェクト中心の投資が継続されており、近年の住宅、下水道等の生活基盤整備投資の増加も成長率優先のもとでは抑制されぎみであります。公共事業の需要効果を雇用効果の点から見ますと、生活関連投資の方がより有効であることは明らかでありますが、
政府の投資にはその認識が見られないと思います。新経済社会七カ年計画を見ても、二〇%が道路投資では、いわゆる低成長経済下での雇用確保、生活安定のための公共投資構造とは認めがたいのであります。
第三には、社会保障の停滞と各種公共料金の値上げによる負担の増加と物価の上昇による
国民負担であります。
安上がりの
政府論に立って、初診料の引き上げ、薬代の二分の一負担など、医療制度の改革に着手することなしに受益者負担を口実にして
国民の負担を強化していますが、低成長経済の時代こそ社会福祉の充実を必要としているのであり、この
予算での社会保障の見直し、すなわち高負担先行は
国民の断じて認めがたいところであります。さらに、医療費負担にたばこの値上げ、国鉄運賃の値上げ、授業料の引き上げ等々、公共料金の軒並みの値上げで
国民の負担は高まる一方であり、その上卸売物価は四カ月連続で上昇しており、年率では一〇%を超え、消費者物価も東京都区部では三月に年率一〇%を超えました。加えて原油価格は当初の予定を半年繰り上げたこの四月から一四・五%の値上げとなり、円のレートも最近では二百円台に下がりぎみであることから、物価の動向にはすでに危険信号が出ているのであります。特に物価上昇要因が地価の騰貴、公共料金、国債の大量発行など次第に国内要因主導に移ってきている折から、物価抑制
対策が重点施策とならなければならないのでありますが、その対応策に見るべきものがなく、
国民負担を一段と高める無策は許されないと思います。
第四としては、財政再建に関しての問題であります。
その
一つは、十五兆二千七百億円の巨額の国債発行によって国債依存率三九・六%、いまや財政史上かって見られない深刻な赤字財政に陥ったことからいかに脱却するかは財政上の最大の
課題であります。それは歳出の洗い直しと歳入の改革でありますが、補助金支出の削減
一つを見ても、わずかに千二百億円の整理にすぎないのであって、歳出の洗い直しを思い切った財政再建の足がかりとすべきであります。また、歳入の面でも、税制
改正は物価調整減税の見送り等を含めると実に一兆円に上る大増税を行っておりますが、その内容は、たばこの価格改定による負担増、ガソリン税など取りやすいところから取る大衆増税であり、その一方で、大
企業、資産家に対する不公平な優遇税制の是正については、社会保険診療報酬課税の特例措置の全く不十分な手直し、土地税制の緩和、
企業の準備金・引当金制度の微温的な
改正等々、不公平税制がすべて温存されております。このような
状況で、一般消費税を新設して大衆課税による財政再建を実施しようとしても、
国民の大きな批判を招くのは火を見るよりも明らかであります。これでは財政赤字脱出の方途が明らかにされたとは言えません。
その
二つは、国債管理政策が欠落していることであります。国債償還が今後ますます重要な
課題となることは言うまでもありませんが、特に今日の時点で
指摘しておかなければならないのは、国債消化とインフレの問題であります。大量の国債発行が市中消化難から通貨供給増につながる通貨当局の介入が予測されますが、すでに三千億円の買いオペが行われるなど予測どおりの事態があります。さきに見た物価上昇の動きに拍車をかける国債の発行と消化についての
対策が具体化されていないのは危険きわまりない姿勢と言わなければなりません。
第五には、財政改革の大きな柱としての地方財政改革に対する問題であります。
地方債の残高は五十四年度末に二十五兆円に達し、三割自治の地方自治体にとっては大きな負担となり、財政危機は国以上に深刻になっています。地方交付税制度は実質的には破綻してしまったのでありますが、自主課税権も起債権も制限されている現状では、地方分権の確立は望むべくもありません。国と地方との財政構造の改革は経済の転換と
密接不可分な
関係にありますが、
政府はその認識に全く欠けていると言わなければなりません。
最後に、防衛
関係費についてであります。
防衛
関係費二兆円は世界第八位の軍事費支出国であります。福祉
予算は真っ先に見直しの対象にされますが、軍事費こそ俎上に上せるべき不要不急経費の最たるものと言えます。今回のE2C機購入
予算をめぐっての
一連の黒い動きは、わが国の再軍備増強過程に絶えずつきまとってきた
疑惑が表面化したにすぎないのであり、今後の軍備増強がこれらの黒い
疑惑を拡大再生産する
可能性を否定することはできないのであります。防衛大綱の修正の要求が制服組によって根強く主張されていることからしても、いま
政府は軍事力の縮小、防衛
関係費の圧縮、削減こそ必要でありますが、
政府にはこれに逆行する姿勢が顕著になりつつあり、加えて元号の法制化、教育勅語、軍人勅諭の礼賛などに見られるように、
政治反動化が目立っていることを憂慮しなければなりません。これは真に日本の安全保障となり得ないことを強調しておきたいのであります。
最後に、航空機輸入をめぐる
疑惑の
解明に当たって、
政府・与党が終始
政治家の
国会喚問に反対し、
事件を商社の不正に矮小化して、戦後
政治の構造的汚職の
解明を妨げていることに対し強く遺憾の意を表します。
国民の信頼をかち得るために、さらに今後積極的な
解明の姿勢をとられること、またE2C
予算凍結の参議院の意思を体し、議会民主主義の道を誤ることなきよう措置されることを強く要求し、
政府予算案に対する私の反対討論といたします。(拍手)