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参考人(
成瀬龍夫君) 私は、
成瀬と申します。
地方税及び
地方交付税の問題を中心に現在の
地方財政難をどう打開するのかということで私見を述べたいと思います。
わが国が経済不況に突入し、国も
地方も大幅な当初予算の
見直しを行いました——
昭和五十年度ですが、
昭和五十年度を除きましてももう五十一、五十二、五十三、五十四年度と、四年続けて巨額の
地方財源不足が生み出されているわけであります。このような数年度にまたがる
財源不足の発生に対しては、先ほ
どもおっしゃっていましたように、
地方交付税法の第六条にのっとって
交付税率を
引き上げて
財源不足を解消する
措置が必要であるわけでして、これはこの間
地方団体が当然のこととして政府に要望してきたところだと思います。ところが、国の方は、この
交付税率の
引き上げあるいは
地方税制あるいは
地方債制度面での改革というものについても、とにかく
制度改革をかたく拒否するという形で対応されてきているように思います。この間の
財源不足対策は、御承知のように、
地方交付税の投資的
経費の
一定部分を
建設地方債に
振りかえる、あるいは大蔵省の
資金運用部から
地方交付税特会に
借り入れをするといったような形で
財源不足の総額をとにかく国の
責任において確保するという性格のものであったわけですが、この
交付税の
建設地方債への
振りかえ分と大蔵省
資金運用部からの借入分を合計しますと、
昭和五十三年度の場合には
財源不足額三兆五百億円に対して二兆九千億円、五十四年度の場合は四兆一千億円に対して三兆九千二百億円というふうな規模になっておりまして、まさに
地方財政対策もサラ金的
対策といいますか、そういう
方法以外に何もないという感じがするわけであります。このようなこの間の
財源不足対策というのが言わばいっときの緊急避難的な
措置であるならばまだしも理解されるわけですが、これが長期にわたり、しかも今後当分続けられそうな気配にあるということはきわめてゆゆしき
事態ではないかというふうに思っております。五十三年度から
地方交付税特会の
借入金償還金については、
地方負担額を除いた二分の一を国がめんどうを見るということになりましたが、これもやはりいわば問題を先に延ばしただけでありまして、基本的に国が
財源不足の補てん
責任を果たしたということにはならないわけであります。
他方で、私は国の対応について問題を感じています。
一つは、この間
地方自治体に大変厳しいとも思えるいわゆる減量経営方針を強要してきておることです。たとえば、
行政には限界があるとか、それから公私の機能分担をもっと強めよとか、あるいは
行政サービスの民間委託をどんどんやれとか、こういった形で
地方自治体の行
財政運営にかなり憂慮すべき干渉的な態度がありますし、他方では、
地方財政の危機を基本的に解決するためには増税——新税ですね、
一般消費税の導入以外にはないんだという形で
財政収支試算等を発表されているわけです。そういうことで、国の方は直接
責任を問われる
財源不足対策については
借金政策をとりながら、後はもう
地方団体に非常に厳しい減量経営とそれから増税の路線を押しつけていると、これが国の姿ではないかと思うわけです。
私は、今回の
地方財政危機に対しまして、国が原因を構造的あるいは
制度的に
検討をせずに、むしろ
自治体の
財政運営、特に福祉
行政、生活基盤
行政といったところに非常に批判を集中してきたことを大変遺憾に思っておるわけです。そして、
地方自治の使命というのはあくまで住民福祉の向上にあるわけで、
地方団体がその点に大変な努力を注いでいるわけですけれ
ども、こういう努力があたかも
財政赤字を生み出しているような印象を国民に与えていますし、他方では政府の
責任といいますか、国の
責任、特に
制度、
地方行財政制度をどうするのかというそのことに明確な姿勢を見せないままに、この間非常に一方的に
地方責任を問題にしてきたということは、本来、今回のこの
財政危機に対して対処する際に、国と
地方が力を合わせ協力をして乗り切っていくというその条件というのをかなり私は国の側から掘り崩してきているんじゃないかという感じがいたすわけであります。したがって、国と
地方団体間の協力といいますか、協調点といいますか、考え方の一致点といいますか、これがもう著しく少ないままに
事態が経過しておると思います。
その点で
一つ取り上げたいわけですが、今日の
地方財政危機は、わが国だけでなく国際的な現象であることは御存じであると思います。そこで、特に諸外国ではいろいろその原因を究明をして、その原因の
一つに
地方行財政制度の不備があるということを認めて、
地方税の
拡充だとかあるいは国庫からの
一般補助金の
拡大を図るといった相当大規模な
制度改革に着手をしつつあるのが共通した傾向だと思います。
そこで、これはイギリスの例ですが、御存じのように一九七六年にレイフィールド
委員会というのが報告書をつくって発表したわけです。これは約二年間イギリスの
地方財政の
現状について調査をして改革案を提起したわけですが、これによりますと、たとえばイギリスの場合、
地方財政の危機の原因というのは、
地方が
財政支出を行っているけれ
ども、これの
責任のあいまいさにあるということです。また、
地方がいわゆる
財政支出の
責任のあいまいさを生み出しているさらにその基礎には、イギリスの場合、
地方団体の活動の多くが共同業務という形になっています、国と
地方の。そこで、共同業務ということになっているために、実際にはどちらが、国か
地方か、どちらが主要な業務の担い手であるかという点が
制度的に大変あいまいであるということで、そこでその結果何としても、イギリスの場合にはそういう
制度が生み出しておる
責任のあいまいさというものを基本的に解決する
地方の
責任制を強化するということと、それからそれに対応した新しい
財源制度をつくると。イギリスの場合
地方所得税というものをこの
委員会は提起しているわけですが、こういった形の改革案が打ち出されたわけです。私は、このイギリスのレイフィールド
委員会の勧告というのは非常にわが国にもぴったりと適用されるわけでありまして、わが国の場合に、政府は非常に
自治体の
財政運営、
財政支出責任を問題にしているわけですが、やはりその
制度的な
責任のあいまいさというものが重要だと考えているわけです。イギリスともう比較にならないほど
事務配分が基本的に不明確であるというふうに思いますし、また大量にいわゆる機関委任
事務が国から押しつけられており、縦割り的な国の内政のいわば下請機関化しているといったのが日本の
地方行政の
実態であろうかと思うわけです。
にもかかわらず、日本の場合にこのような
制度的な
責任のあいまいさというものが結果的には
地方行政において福祉、それから生活基盤といった分野の立ちおくれを招いてきたと思いますし、またこの立ちおくれを埋めるために
地方団体がずいぶん少ない
財源を
振り向けたり、職員をふやしたり、住民要求を重視するという形で努力を積み重ねてきて、その努力がちょうど定着し始めたところに
財政危機が起こったということになるわけです。しかし、まあいずれにしましても、この定着し始めたやはり住民の福祉、生活基盤、
行政重視の
方向を擁護していくことが基調であるべきだと思うわけでして、逆に今日減量経営とか、あるいは
制度改革も不明確といった形で、いたずらに日時を経過しているということは大変残念に思うわけです。
さらに、それじゃいまの
地方財政危機は増税でしか打開できないのかということですが、当然焦点になっておりますのは
一般消費税であります。一言触れますと、
地方財政との
関係では、
一般消費税が導入されますと、まあこれは収入の面で
地方自治体が収入が増大するという形で寄与を得るという面が一面あるわけですが、しかし他方では、
一般消費税の場合には、
地方団体はいわゆる税を
負担する側、支払う側に置かれるわけでして、その結果
財政支出がふえる。収入がふえるだけじゃなくて、
支出もふえて相当な
経費膨張を引き起こすだろうということが予想されるわけです。いまのところ、その点につきまして試算というものが、全体として非常に
不足しておるように思いますし、ぜひこの
委員会においてひとつ試算等をやっていただければ私は大変ありがたいというふうに思っているわけです。
それでは、今日の
財政危機を解消して、
地方財政の再建あるいは
地方行政を安定した軌道に移しかえていくためにはどのような改革が必要かという点ですが、私は、この数年間の特に国と
地方団体の
関係を反省をしまして、
地方財政の自主性、
独立性、
責任性の強化あるいは回復ということを強調したいと思っているわけです。そして、やはり改革の根本というものを
地方自主財源の安定的かつ十分な保障という点に置きまして、さらにこのために次の四つの原則を確立する必要があると考えています。
第一の原則は、
景気変動のしわ寄せを受けないことです。それから第二の原則は、国の
財政危機のしわ寄せを受けないということです。それから三番目は、今日の日本の
都市部と農村部、この
都市部と農村部の
財政需要、それから必要な
財政力にマッチしたやはり改革をするということ。それから四番目には、やはり中央統制を最小限に抑えて、
地方の
財政自主権を抜本的に確立すること。こういうことが原則的に必要だろうと思っていますが、こうした原則に立って見ますと、とりわけ重要なのは
地方税制と
交付税制の改善であろうかと思います。
そこで、まず
地方税制の改革ですが、今回、もう
交付税率の改定だけではこの今日の困難を打開できないということはかなり明白になってきていると思います。
地方財政の収入におきまして、まず
地方税等の
自主財源が一貫して低下してきている。それから
税源が豊かであるところの
大都市部の
自治体が、
地方交付税の
交付団体化すると、こういったことですから、とにかく
交付税率の改定問題と並んで、あるいはその前提として、
地方税の抜本的な
拡充が何よりも必要であるというふうに思うわけです。
それで、
地方税制の改革については、私は次の二点で進めるべきであると思っているわけです。
一つは、
税源の豊かな
大都市圏の
財政力を抜本的に高めるために、今日の
国税の所得税のやはり
地方移譲を行う。あるいはもう
一つは、
自治体の課税自主権をやはり大幅に保障すべきであるということです。超過課税あるいはいろんな新しい法定外普通税等々ですね。
特に後者の点、
自治体の課税自主権について触れますと、御存じのように、税というのは収入の手段だけではなくて、もう
一つは、何といいますか、地域のコントロール手段といいますか、という面があります。
地方税におきましても、たとえば好ましくない乱開発とかあるいは投機とか、こういったものを規制する機能を持っているわけでして、税制をその面でも活用する。そのために
自治体の課税自主権を保障するということが必要だろうと思うわけです。今日、日本では乱開発や土地投機というのが特に
自治体に大きな
行政財政負担を課しまして、さらには
財政危機の要因にもなるということで、わが国で特に重要な問題だと思います。この七、八年余りでも
地方団体の相当の数のところがいわゆる開発指導要綱などをつくりまして、宅造協力金、
負担金
制度、相当の効果を上げてきているわけですが、いろいろ議論もあるようですが、私はやはりこういうふうな
地方自治体が乱開発や土地投機を規制していけるような、地域の土地利用規制あるいは
都市計画、地域計画、民間
資本の適切な誘導、こういったところでも税制が活用できるように、自主権を保障する必要があると思っているわけです。
次に、
最後に
交付税ですが、いろいろ問題点がありますが、さきの
地方税制の問題とあわせて、
地方交付税につきましては、現在の
地方行財政制度の骨格をつくりましたシャウプ勧告の原則に返るべきだと思っております。
昭和二十九年からこの
地方交付税制度できているわけですが、今日、もう
交付税制度はきわめて大きな
制度的欠陥を露呈しているということは明らかだと思います。その
一つは、やはり
財源保障機能というものを喪失しているという
事態です。
地方の
財源不足を積み上げるということと
国税三税の一定比率に
交付税の総枠を抑えるということは、これはもうもともと論理的な矛盾を内包しているわけですが、特にわが国の場合に、
地方独立税の十分な保障がないためにこの矛盾というものが、この間の不況、
財政危機によって表面にあらわれてきまして、どうしようもないというふうな
事態になったと思うわけです。シャウプ勧告が主張していましたような
地方独立税とワンセットで、またそれを基礎にして
自主財源保障あるいは
財政調整
制度を
整備するということが十分行われなかったと思うわけです。
そこで、どうすべきかということですが、シャウプ勧告以来もう三十年もたっておりまして、先ほ
ども山本先生もおっしゃっていましたが、この間、もう日本の
地方行財政においては
都市自治体の
行財政の比重というものが圧倒的に高くなっております。したがって、この点を考慮に入れて、
地方税と
交付税との
関係の改善を図る必要があるわけでして、私は、
地方税においては
都市自治体のやはり特別な
財政需要を賄うという点に力点を置き、それから
交付税については
財政力の弱い農村の
行政経費に力点を置いて改革すべきであるというふうに思います。
もう
一つ、
交付税について
最後に述べますと、今日
交付税は総枠が先に決められますために、総枠から
地方の必要額あるいは
基準財政需要額の操作、コントロールが行われています。この結果、
基準財政需要額におきましても、いわゆる算入漏れとか算入
不足、あるいは政府が非常に恣意的にあるいは秘密主義的に
補正係数を操作をしたり、あるいは総枠が変わらないのにもう次々と新規の政策的な
財政需要を押し込んできたという過程があるわけです。
そこで、こういうふうな
交付税制度の管理運用という点についても、これはやはりシャウプ勧告の原則に立って改革を進めていくべきであるというふうに思います。シャウプ勧告では、当初いわゆる
地方財政委員会ですね、国と
自治体が対等の資格で
交付税の総枠と
配分方式を
検討していくという機関を構想していたわけですが、やはりこういうふうな
地方財政委員会方式の機関を復活していくということが大事だと思います。この
交付税制度は
地方行政を全般的に包括しているわけでありますし、また
交付税制度は国と
地方の
行政財政の分担協力
関係のあり方を最も基本的に
規定する性格を持った
制度であるわけです。それだけに、現在のように、一方で国が非常に秘密主義的なあるいは恣意的な
裁量や操作を一方でやっておるとか、それから
自治体の首長の
方々が
交付税を多くもらうために国に目の色をうかがうといったことだとか、あるいは
自治体の
意見などを非常に間接的にしか反映しないといったような
状況をやはり基本的に改めていくべきではないかというふうに思っています。
以上です。