○
参考人(
伊藤忠夫君)
日本ニット
工業組合連合会の
理事長の
伊藤でございます。
ちょうどいまから一年半ぐらい前でございますが、
昭和五十二年の十一月一日、ちょうど一ドル二百五十円を割ったころでございますけれ
ども、
産業貿易及び
経済計画等に関する調査の一環として、
不況対策等に関する件を議題とする参議院の
商工委員会、この席でございますけれ
ども、そこに私は
参考人として
意見を述べる
機会を得さしていただいたわけでございます。
その際、
円高の影響はニット
製品の
輸入の大幅増となってあらわれてくる。また、
輸出面においては、ニット生地、ニット
製品の
輸出が減ってくる。
輸出メーカーは当然内地市場に参入してくる。この結果、内地市場に対する供給圧力が高まってくる。一方、低成長
経済下における
衣料に対する
消費の購買力の伸びには限りがあります。さらに、
国内の
小売り
段階ではオーバーストア、あるいは
流通段階では卸商の
企業数が多過ぎる、言うなればオーバーホールセーラー、また
生産段階は、これはオーバープロダクション、そうしてどこの
段階も自己資本が低くて借り入れ金が過大である、オーバーボローイング、四つのオーバーがある。この過剰を何とかしないと
業界の先行きが思いやられる。そこで、需給のバランスを図るために編み立て設備の共同廃棄を速やかに進めなければならない。秩序ある
輸入、これは絶対に必要である。そうしてこの二つを基盤として
構造改善を進めていかなければならない。それには
構造改善が五十四年六月に期限が来ますので、ぜひこれを延ばしていただきたい。
大体、このような
意見を開陳したわけでございまして、それからちょうど一年半、この席でもって
構造改善臨時措置法の一部を改正する
法律案の審議に関連いたしまして、再び
参考人として
先生方にお目にかかることになったわけでございますが、まことに感慨深いものがございます。
まず最初にお礼を申し上げたいことは、
先生方の御
協力、御支援、また
政府御当局の適切な
施策によりまして編み立て設備の共同廃棄は全体の約二〇%、昨年の末までに単年度の事業として終了いたしました。本当にありがとうございました。
それから次に、ただいま御審議中の構改法案でございますが、ぜひ原案どおり成立さしていただきたい、よろしく
お願い申し上げます。
五十四年六月から五カ年間の
延長、
産元、親機とともに親ニッターも構革の
主体に追加する、制度要件の緩和及び運用の弾力化、助成の充実強化、制度に関する産地組合等あるいは連合会等の参画、さらに小
規模事業に対する
配慮、いずれも私
どもが
構造改善の柱として希望している点でございます。
次に、構革の基盤づくりについて申し上げますけれ
ども編み立て設備の共同廃棄によりまして、
国内業者によるところの
国内向けの
生産の需給
関係は改善されつつあります。
しかしながら、
先ほど各
参考人からお話がありました
輸入問題につきましては、私
どもの
業界、
輸入の増勢というのが依然として衰えず、先行きを懸念しております。
参考までにちょっと数字を申し上げますけれ
ども、ニット外衣——シャツとかセーター類でございますけれ
ども、昨年は数量でもって三九%伸びております。その中で特定のニットアウターシャツのごときは一年間で六〇%もふえております。それからニットの肌着で四三%。それで、過去の三カ月——十二、一、二というベースで見ますと、依然としてニット外衣でもって五〇%、肌着で六六%というような、まさに集中豪雨的な増勢を示しているわけでございます。
この
輸入品の
国内供給量に対するシェアでございますが、
輸入比率でございますけれ
ども、ニット外衣におきましては、昨年に二七%ぐらい、過去三カ月においてはすでに三〇%を超えているのじゃないかというふうに私
ども推測しているわけでございますが、秩序ある
輸入の確保を望んでやまないわけでございます。
結局、この暴走
輸入というものは、被害を受けるのは
生産者、同時に
国内の
流通段階の
方々も、
輸入業者自身も、これは結果においてけがするわけでございますし、海外の
生産者も傷つくわけでございますので、何とか良識をもって秩序ある
輸入というものができないかということを常々望んでいるわけでございますが、
繊維製品の
輸入の取り扱い業者は、聞くところによりますと、千七百社くらいあるそうでございますが、そうしてその中でニット外衣の
輸入業者だけでも二百数十社ある。このような多数の人に対して果たして適切なウオッチあるいは
指導というものができるかということがございますけれ
ども、トップの二十五社ぐらいであったならば、かなりのシェアというものを占めると思いますので、行政当局の適切な処理を期待するわけでございます。
それから、
円高下の
輸出という点でございますけれ
ども、これは非常に響いてまいります。私
どもの
業界では、ニット生地でもって数量ベース、昨年三〇%、
製品で二四%、ことしになりましてからはすでに三〇ないし四〇%昨年より減ってきている。もろに
円高というものが
中小企業の製造
段階、軽工業に響いているということが言えると思います。
さて、その次に構革の基盤でございますところの
生産流通の
協調的
発展、これは非常に大事な点でございます。今後パイの成長に限りのある低成長時代、そうなりますと、当然パイの分配というものに関心が寄せられてくるわけでございます。
取引の
近代化と合理的
取引慣行の確立が非常に大事になってまいります。私
どものニットの
業界は、この
生産段階とそれから
流通段階が完全に分離しておりまして、
生産者が自分で原料を買って
製品をつくる、それを問屋さんに売る、この問屋さんは仕入れ問屋と、こういう形でやっているわけでございます。こういう中において今後垂直的にお互いに取り組んでいって共存共栄を図るためにまさに商工一体となって、グループ全体として総合力を発揮して、そうして高い
付加価値を追求する。もちろん、グループとグループとは非常に激烈な競争になりますけれ
ども、その中において、グループ内においてはそれぞれの果たしている社会的な機能と責任に応じて、
付加価値を適正に配分されるようにしなければならない。
取引面の優越というような
立場を利用し、弱者の利益を簒奪する流通
業界の強者の
取引姿勢——
先ほど諸
参考人から御
意見の開陳がございましたけれ
ども、私
どもは公取
委員会の厳然たる態度とその処置を高く評価するものでございます。自由
経済の活力というものは非常に重要でございますけれ
ども、自由
経済というものの秩序もまた欠くべからざるものであるというふうに
考えるわけでございます。
次に、
アパレル産業の
振興に関連して留意すべき点を述べさせていただきます。
日本の
アパレル産業というのは、
わが国独自の
産業、
経済、社会、地域、こういうものの特性を顧慮しながら、欧米の合理的体制と慣行の長所も取り入れて、そうして
日本独自のものをつくっていかなくてはならないと思います。
日本には、ではこの長い歴史の中において、製造と販売、あるいは工業資本と商業資本の分離というような問題がございます。この社会的分業体制というのは現にあるわけでございます。急速にこれを直すということもなかなかむずかしいと思います。
それからもう一つ、季節の移り変わりというものが
アパレル産業あるいは
繊維全般にも非常な影響を与えてまいります。シーズンとオフシーズンがある。それで、その繁閑の差というものがありまして、この持続安定
生産というものがむずかしくなる。
生産性の発揮がむずかしい。どっちかと言うと、これは商業の方に有利なわけでございますけれ
ども、この中においていかにして流通も
生産もともに繁栄していかなくちゃならないか、これが今後の
アパレル産業の課題でございます。
それに関連いたしまして、
雇用面においては、
生産段階は、
流通段階仮に一人といたしますと、まず三人とか四人とか人をよけいに抱えるわけでございます、当然つくるということは売るということより手間がかかるわけでございますから。これは別の
考え方でいきますと、それだけの大きな
雇用力を持っている非常に大事な分野であるということでございます。ですから、
先ほども各
参考人からもお話ございましたけれ
ども、
生産部門が適切な
付加価値というものを確保して、それで健全な経営を行うということは、結果的においては共通の利益につながるものでありますし、商工一体の繁栄になってくるわけでございます。
それから、私
どもは、
アパレルの
生産段階でございますけれ
ども、
アパレルの
発展のためには、素材分野、テキスタイル分野の企画開発能力、加工技術等の進歩向上に大きく期待するものがあります。
それから、この自由主義
経済みんなそれなりのリスクにチャレンジということがございます。それで、
流通段階の商品リスクということをしばしば言われますけれ
ども、
生産段階も機械設備というもの、これに相当な投資をして、従業員を確保して、それで訓練をする。さらに外注工場も稼動させなくちゃならない、いろいろのこういう
生産面のリスクというものもあるわけでございまして、しかも
消費者のニーズやウォンツの変化、需要動向の移り変わりというようなことで大きな打撃を受けることがありますので、
生産者の
段階においても流通と同じように大きな
企業経営のリスクがあるということを
考えて、いろいろの
施策あるいは
アパレル産業の
振興を図っていかなくちゃならないと思うわけでございます。
それから、実需に見合った
アパレルビジネスというものを何とか確立しなくてはならないと思います。オーバーストアの問題と絡めまして、現在のファッションビジネスというものは余りにもロス発生型、その傾向が強過ぎると思います。言うならば、商品の的中率が悪過ぎる、これを何とか直していかなきゃならない。そういう点に関連いたしまして、まあ
アパレルの
生産流通段階の統計というものが全く私は不備だと思います。まあもちろん
生産段階では統計があるわけでございますけれ
ども、
流通段階の統計は大したものがないようでございます。
アメリカでは、センサスといいまして——国勢調査でございますけれど、二年目ぐらいごとに
政府ベースでもってその調査をしております。もちろん、これは
業界の
協力も必要になってまいりますけれど、今後長い視野で見たときに、資源エネルギーの浪費を防ぐというようなことも
考えて、ぜひセンサスというものを行っていただきたい。もちろん、これは管理
経済に今後移行するというような、そういう布石であってはならないわけでございますが、物事を論議するときに、単に定性的——性質だけを論議するんじゃなくて、定量的——量的に詰めていかなけりゃならぬような
段階に来ているのではないかと、資源小国の
日本においてそう感ずるわけでございます。
それから、
アパレルの
振興というもの、それからその中で新しい需要を開拓するということ、これは重要でございますが、それはまた新しいライフスタイルというものを生まなければならない。ですから、そういう点においては、ときには脱
アパレルの柔軟な発想というものが逆に
アパレル全体の
発展をもたらすというようなことも必要ではないかと思うわけでございます。
次に、人材の育成の問題でございますけれど、今度の人材育成は既存の人材、まあ中堅幹部経営者でも結構でございます、を対象として専門的な知識や技術を高めていくわけでございますが、同時に今後国際競争を
考えたときに、そのような中堅幹部あるいは経営者が絶えず自分の能力の向上に進んで
努力する、リスクに挑戦する勇気と意欲も持たなくちゃならない、弱者に対しても思いやりがある、人間性豊かな、こういうような人材を育てることが非常に大事じゃないかと思います。ただ、これに関連いたしまして、いま
アパレルの第一線が求めているところの
情報というもの、あるいはノーハウというものは、それはもう
企業秘密に属するレベルのものではないかと思います。もちろん、
企業秘密というものは、一年一年どんどん進歩するわけでございますけれど、こういうノーハウを出していただく
企業あるいはそれを教える先生のできる方、
アメリカのFITにおきましては、
業界の経験者が先生をやっているわけでございます、教授をやっているわけでございますが、しかしそういうような方は、人材は
日本では
アパレルのすでに第一線で活躍しておりまして、その
企業では欠くべからざる人だ、そういう人たちを何とか
アパレル産業の
発展のために出てきていただかなきゃならぬわけですが、これにはその
企業の経営者の
考え方というものが非常に大事になると思うのでございますが、このようなノーハウの公開、人材派遣というような
企業に対しましては、ひとつ
先生方におかれましてもまた
政府におかれましても、何かそういう方たちが出やすいようなシステムあるいはほう賞というようなことを何かお
考えになっていただきたいと思うわけでございます。
それから、この人材育成でございますけれど、最終的には
アパレルの
発展というものも人間としての教養を高める、文化を
理解する、個性を磨く、想像力をはぐくむと、こういうような基本的なところが
アパレル全体を進歩させる推進力じゃないかと思います。言うなれば、
アパレル産業は、ある意味においては文化
産業ということも言えるわけでございます。
それから、終わりに申し上げたいことがございますが、この零細業者というものはすべて弱者という見方もございますけれ
ども、零細業者の中には借金もなく、マイペースでもってやっている頼もしい人もあるわけでございます。ただ小さいというだけでございます。しかしその反面に、戦後三十数年、経営者も従業員も、非常にだんだんと老齢化してまいります。中には後継者難の方もいらっしゃいます。また
アパレルビジネスの急速な変化というものに追随し得ない人たちもいらっしゃいます。それに対して
輸入がどうなってくるか、なかなか予断は許されないと思います。ですから、私は
輸入情勢のいかんによっては事業所閉鎖を前提とする転廃業対策というようなことが必要になってくる場合も出てくると
考えられるわけでございますが、
産業政策の一環として十分先を
考えて御研究していただきたいというわけでございます。
以上、いろいろと申し述べましたけれ
ども、ニットの
生産業界は自主自立を基本とする自由な
経済体制下における活力と、公正な競争場裏における優勝劣敗と、市場
経済を左右する需給の大則、みんなよくわかっております。今回の
法律改正の指針とも言うべき新しい
繊維産業の
あり方の提言の中の
消費者指向の
アパレル路線、これがための垂直的連係の
重要性、ニット
生産——
企業としての
主体性の確立、十分
理解しております。すでに一部の有力
企業におきましては、
自助努力によりまして、有力
アパレル卸商との間に垂直的連係を進めて、着々と成果を挙げているというようなことも御披露できるわけでございます。
いろいろと
繊維産業あるいは
アパレル産業の
振興発展のために、
先生方の御
指導と御
配慮をいただいておるわけでございますが、今後ともよろしく
お願い申し上げます。どうもありがとうございました。