○
参考人(
宮坂功君) ただいま御紹介のありました
全国クリーニング環
境衛生同業組合連合会専務理事の
宮坂功であります。私は、環衛業種の
一つであるクリーニング
業界が
環衛法改正に関しどのような
考え方を持っているか御
説明申し上げたいと思います。
まず、クリーニング業の置かれている現況について申し上げますと、第一番目はクリーニング施設数でございます。クリーニング業は、
昭和五十二年末におきまして一般クリーニング所は約五万八千店、クリーニングの受付及び引き渡しだけを行ういわゆる取次店は約四万五千店であります。そして、このクリーニング施設数の増減の傾向を見ますと、
昭和四十五年と
昭和五十二年の対比におきまして、この七年間に一般のクリーニング所は五一一%の増加でありますが、取次所においては実に九四・五%という激増振りを示しております。このことから見ましても、顧客の争奪競争がいかに著しく激化しているかということがうかがえます。
次に、クリーニング施設の従業員規模を見ますと、その八九%が従業員二人以下という零細規模であり、零細な
環境衛生業全体の中でもその零細性が一段と強い業種であります。これは総理府の事業所統計
調査による数字であります。一方、激増している取次所の多くは、クリーニング
業界の中では比較的大企業のものに属しておりまして、この点で
業界の大
部分を占める中小零細企業の競争力は著しく弱体化しつつあるということが言えるわけであります。
次に、クリーニングに対する需要の傾向を見ますと、これはやはり総理府の家計
調査年報によるものですが、一世帯当たり年間のクリーニング支出額は、
昭和四十五年から五十二年にかけまして、名目で六千三百三十九円から一万一千五百四十三円へと八二%の増加を見ております。しかし、この間の消費者物価上昇率は一〇三・六%に達しておりますので、これを勘案いたしますと、実質では約一二・六%の減少ということになります。
このように、停滞ないし減少ぎみの需要に対し供給側の競争
状態は前述のように激化しておりまして、このためクリーニング
業界は全国的に激しい過当競争の
状態に陥っております。一例を挙げますと、九州のある地区におきましては、Mチェーン——実名は控えますか、このチェーン店か一斉に何でも一点百八十円という料金を打ち出しました。これは
業界としては常識外の料金でありますが、これに対抗するため、この地区のHクリーニング店、これもチェーン店を持っておりますが、この店が何でも一点百四十円という料金を打ち出しました。さらにこれに刺激されましたT店は、何でも一点八十円から百円という全くむちゃくちゃな値段を打ち出し、その地区の同業者は軒並み値を下げざるを得ないことになってしまったわけであります。このような
状況は、全国他の地区でも多かれ少なかれ起きておりまして、このため転廃業施設の数も、全体的に施設数が増加している反面、
昭和五十二年度におきましても、五十二年度末において約七千軒にも上っておりますのが実情であります。
このように激烈な過当競争の中にあって、クリーニング
業界の平均的な売り上げを見てみますと、これは
昭和五十年に私
どもが調べた数字でありますが、従事者三人の店で平均の年間売り上げがたったの六百十九万円であります。この中から材料費を支払い、機械の償却をし、運搬、包装その他諸経費を払ったら一体幾ら残るでありましょうか。年間六百十九万円というちょっとした大企業の高級サラリーマン一人の給料の中で材料その他の諸経費を差し引き、そのささやかな残りを三人で分け合っているというのが実情であります。
次に、今般の
環衛法改正につきまして、わが
業界としての評価を申し上げたいと思います。
総括的に言うならば、今回の
環衛法改正法案は、いままで申し上げたようなクリーニング
業界の
実態において中小零細業者の経営の振興を促進するため、また過当競争による大多数の業者の経営の悪化を防ぐためにぜひとも必要なものでありまして、大いにその
内容を評価をし、かつ一日も早くこれが成立することを熱望しているものであります。その理由及び背景等についてこれから申し上げることにいたします。
私
どもは、自由主義経済ということが現在のわが国の
基本的な
姿勢であることは承知しております。しかしながら、わが国の憲法で保障されている自由とは、あくまでも公序良俗の前提に立ったものでありまして、極論すれば、人を殺す自由はないということはいまさら言うまでもありません。同様に、経済社会におきましても、秩序なき恣意的な自由があるとは私
どもは
考えておりません。資本のある者、力の強い者が弱肉強食的な自由を持つとすれば、そこにはもう
政治の力も法の必要もなくなるのではないでしょうか。いままでとかく国の産業政策から置き去りにされてきた環衛業が、前にも申し述べましたような苦境に立たされているとき、国は何らかの政策をそこに講じていただきたいと思うわけであります。私
どもは無条件に国の保護のみを要求するつもりは全くありません。少なくとも苦境の中にありながらも自助
努力によって
自分の進む道を切り開こうとする零細業者にとりまして、
努力をしさえすれば道は開けるのだという方向だけは示していただきたいのであります。
この
意味におきまして、今回の
環衛法改正は、従来日の当たらなかった環衛業に対し他の中小企業
団体法等並みの施策を講じてくれております。たとえば、クリーニング業の経営について国がその振興指針を
作成し、これに沿って
努力する者には相応の援助をするという点、また指導センターを設け、適切な経営指導をしようとする点な
どもろ手を挙げて賛成するものであります。
次に、私
どもクリーニング業自体が
考えている現在の苦境の打開策について若干申し述べたいと思います。私
どもは、
業界内だけでなく
業界外の学識者や衣料製造その他の関連
業界の知恵もおかりして、この四年くらいをかけましてクリーニング
業界ビジョンを策定いたしましたが、その底流となる
基本的な
考え方だけをかいつまんで申し述べますと、まず第一に、
昭和三十年代から四十年代前半の私
どもの
考え方についての
反省であります。当時のわが国の高度経済成長下にありまして、これはもう国是とも言うべき近代化、合理化に向かって私
どもは進んだわけであります。しかし、そこに思い違いがあったのは、当時の風潮として、機械化イコール省力化イコール量産化というような、こういう
考え方一辺倒になったことであります。クリーニング
業界ビジョンはこのことを強く
指摘し、「クリーニング業は製造業ではなく、サービス業である」、また「その限りにおいてもクリーニング
業界が第一に
考えるべきことは、
自分勝手な店内の合理化ではなく、消費者のニーズの変化に
対応できる店づくりである」ということを述べております。また「多様化、ファッション化する衣料と消費者ニーズに
対応できる第一の条件は、機械や洗剤の改良よりも、それを使いこなし、また、衣料の特性を診断し、その最適な処理を行い得る人間作りが大切である」としております。
こういった観点から、私
どもが現在特に力を入れていることは、店主を含めた従業員の教育ということであります。今般の
環衛法改正によって示されるであろう国の振興指針、これによって、こういった方針が打ち出され、また新たに設けられる指導センターによってその指導がなされ、また、やはり法
改正によって明示されるでありましょう技能検定によってクリーニング従事者の資質の向上を図るといった、このような一連の効果に私
どもは大きな期待を寄せているものであります。
また、クリーニング事故に対する消費者のクレームが非常に多いことにかんがみ、私
どもクリーニング環
境衛生同業組合では、クリーニング研究所をつくってその防止策を図り、また起きてしまった事故については、できるだけスムーズにこれを解決すべく、クリーニング賠償基準をつくるなど自主的な
努力を重ねておりますが、この種のことは、やはり国が関与して定めた標準営業約款、すなわち今回の
環衛法改正に盛られているものでありますが、この標準営業約款により、よりオーソライズされた形で行うことが消費者の利益にもつながることだと
考えております。私
どもがこのように
理解し期待している今回の
環衛法改正なのであります。
最後に次の点だけ補足
説明さしていただきたいと存じます。
まず、クリーニング
業界の大多数の
意見は私
どもが代表しているということであります。申し上げるまでもなく、私
どもは
厚生省の指導監督のもとに
環衛法に基づいてつくられた法定の
団体であります。そして、
全国クリーニング業者約五万八千四百のうち、約三万四千五百を組合員としており、その組織率は六〇%であります。そして、この
環衛法改正をしていただくことについては、早くから組織内での論議を重ね、全国連合会においても、
昭和五十二年五月二十七日開催の
昭和五十二年度通常総会、
昭和五十二年十一月二十三日開催の臨時総会、さらには、
昭和五十三年五月二十六日開催の
昭和五十三年度通常総会において、引き続き
環衛法改正の促進をすべき旨の最高機関での意思決定をいたしております。さらに昨年四月には、これに加えて全国の組合員及びその従業員等から七万人の署名陳情を得ておりますが、組合内コンセンサンスを得るための
努力は十分にしたつもりであります。これに対して、反対を表明している
団体の会員数は全業者数の一%にも満たないごく一部であります。しかしながら、私
どもは、たとえ一部の反対とはいえ、お互いの
理解を深めることの必要性を感じて現在
努力を続けていることを申し添えます。
以上のことにつきまして、
先生方の御賢察をお願いいたしまして私の
説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。