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戸叶武君 これは
外務大臣が微妙な
立場にいるので、これ以上突っ込んで聞くことは無理だから、ひとり言でも言って反応を見るより仕方ないかもしれません。
とにかく
園田さんは非常なむずかしい問題に体当たりでぶつかっているんで、ソ連側でも、去年の一月のときのあのさっそうたるあなたの突っ込み、日中平和友好
条約を結んだ前後の
園田、いまになっての
園田さんの姿勢にわりあいに一貫性があるんで、ソ連側からもこれは相当な男だわいというふうに見直されているのも事実ですが、ソ連にほめられても、ソ連にほめられるとろくなことはない場合もありますから気をつけなければなりませんけれども、やはりそこいらに
世界じゅうが本当に相手を理解しようと努めないで、そそっかしく相互不信感がつのっているところにいまの
世界の悪気流があるんだと思います。
官僚なりエリートには頭のいい人がありますが、外務官僚や大蔵官僚、通産官僚なんてみんな秀才ですが、あのダグラスや何かのいろんなもの、裁判や国会のあれを見ていると、官僚は隠れてはいるけれども、くだらない政治家、くだらない商人に手玉にとられて押し流されていくいまの
日本の国家体制、ビューロクラシーというか、それよりももっと悪質なものになって、権力に弱くて、見識を具備してないで、政治屋にでもなればうまいことがやれるというふうに、フランスやイギリスの官僚と違って、忠実に国家のために、ガバメントのために忠誠を誓う人が少なくなって、政治家だけが悪党のように言われるが、政治家よりももっと私はいま道義が退廃してきたところに、いまの政治不信の根底においては、やはり政治家や大企業だけでなく、
日本のガバメントを忠実に守らなけりゃならない人の中にも、それじゃやっていけない、結局、立身出世のために要領よくやっていかなきゃならないところに、いまおおむね選挙でこれから知事でも市長でも、しまいには
国会議員でも、みんな官僚がなってしまうかもしれない。こんなばかげた化け物のような民主主義国家というのは
世界じゅうにない奇形的な存在です。そういうリーダーシップはない、責任は持たない、わき役で隠れてうまいことでもやっていこう、あとのしりぬぐいは政治家の方が少し抜けててずうずうしいところがあるから、その方へ頼もう、財界人の方はこすっからいからその方へ頼もうということになっちゃ、一体、
日本の国の政治をだれがやっているのか。ガバナビリティーなんて言う人があるが、ガバナビリティーかカバのビリっかすかわからないけれども、とにかく本当にガバメントはどうあるべきか、ステーツマンはどうあるべきか、外交、防衛の問題はどうあるべきかということをもっとしっかり、何かつるし上げだけをやるようなやくざ戦法の論戦でなくて、もっと静かに
考えなければ、今日の政治に大衆が愛想を尽かしているんだから、どこに発火点が生ずるかわからないような私は不気味なものがいま出てきていると思うんです。
それで、われわれは抽象的なイデオロギー論争や観念的な宗教論争よりも、常識的に具体的に現在われわれの生活、われわれの安全と関係のある外交、防衛の問題でもっと具体的な、もっと大衆にわかりやすいような的確な表現でその国の構えというものをやはりしっかり浸透させなけりゃ、これは下は庶民から上は天皇の名によって象徴化されている人でもかないませんよ。翻弄され尽くしてむなしさを感じて、その上においてつぶれちゃうんです。
きのうも、私は、よほど
アメリカの学者に言いたいと思いましたが、遠慮しましたが、
日本の方でもこれは気をつけなきやならないと思いますが、CIAの脅えているように、
イランのシャー、王様を
アメリカが捨てないで守っていた方があれほどの
イランの不安定はできなかったんじゃないか。あの
イランの失敗のようなことを朝鮮でしてしまったら大変だから、朝鮮の方はもっと
イランのような変なことをしないように、矛盾があってもそれを守らなけりゃならないという論議のようにも見え、台湾に対してもそういう
見方ですが、これが新しい
植民地主義です。
日本が、大隈内閣を山県と井上が化かして、加藤高明のようなイギリス流の帝国主義でもって二十一カ条を中国に突きつけたことによって百年の恨みを買ったとは、当時の外交官はイギリス本位の外交官だから、御存じなかったかもしれない。
日本のためにと思ったことが百年の恨みを、日中戦争の原因をつくったことであるということに気づかなかったかもしれないが、そういうあさはかな
考えでは今後の外交は私はできないと思うんです。
あのときだってシーメンス事件は第一次戦争においてうやむやにして、いまの金にすれば二十億円ぐらいはもらっていたであろうという斎藤海軍大臣が、朝鮮には送られたが、後ではまた総理大臣になって、また後でもひどい目に遭ってはおりますけれども、何か権力を握ればどんな悪いことをやってもうやむやにできるという、この促成栽培的な、民主的基盤を持たない国における政治の間違いから、
日本は取り返しのつかないような犠牲を払っているんです。私は、いま本当に
日本という国を
考え、きのうも、
アメリカのさすが国際法学者、国際関係学者で、最後のところだけは、民主的な基盤を持たないところに民主主義というものは成熟しなかったのかもしれないという
言葉だけは本当のことを学者的に言っていますが、
日本においても、いまのような金のかかる選挙、田中さんでも大平さんでも大変だ、屈辱を忍びながら財界に頭を下げて金でもつくらなければ明日は吹っ飛ばされてしまう。権力を握れば金をつくらなければならない。緒方さんは、先輩はこのことをしみじみ嘆きました。これをだれも変えていこうという者がなくて、個人田中が悪い個人岸が悪い、あるいは佐藤が悪い。砂糖にアリがたかるのはあたりまえのことで、やっぱり甘くなければアリはたからない。
岸さんのような聡明さをもっても、
アメリカヘ一番最初に行ったときには、
アメリカに行った総理大臣においてあれほどりっぱな演説をやった人はいないというほど率直な
意見をやったものだが、ダレスさんにひねられたら、まただあっときちゃって、それ以来、
アメリカ一辺倒で、岸さんというのは向こう岸に吹きつけられてしまって、
アメリカ様々の言うことを聞いている。いまの
アメリカがやっている要求は、岸さんが総理大臣になって最初のときに
アメリカで訴えたと同じようなことを訴えるんではなくて、
日本にこれをやれ、やらなければ
承知しないぞという形で力み返っている。
アメリカの言うことにはあたりまえの点があるが、
日本が戦争で敗れて疲弊して立ち上がることもできないときに、貿易のアンバランスを是正してくれ、貿易のアンバランスを是正できないにしても、貿易外収入としての船賃だけは
日本において片道だけかせがせてくれと言っても
アメリカは相手にしなかったじゃありませんか。このごろ何です、野菜といい、企業といい、何でもかんでも
日本が貿易において
前進したことは
日本が全部悪いことのように——まあ悪いこともずいぶんやっていたから言われてもしようがない点があるでしょうが、そして
自分のやるときには、ダレスなんかが、ダッチマン、大きなずうたい、高見山よりでかいようなずうたいでのしかかって、タカでもタカのひなの干物のような岸さんなんというのを見下してやったときの態度というものは、ああ
日本の政治家にはなりたくないぞ、
内閣総理大臣にはなりたくなかったなあと感じたが、いまになれば岸さんだって、しまったと思っているでしょうが、その後、いいことはないじゃないですか。
アメリカもずいぶんやることはやってくれました。しかし、物の言い方、主張のすべき仕方があります。
日本が
アメリカのおかげでずいぶん復興したのも事実だが、DDTのような薬は、害毒があるというので
アメリカが販売禁止したやつを
日本に持ち込んで、人体に、子供のシラミをとるんだ、ノミをとるんだといってぶっかけたじゃないですか。原爆を投下したと同じ
アジアの民衆に対する軽べつ感からやっているんです。
アメリカ自身にわれわれは学ぶべきものがある、尊敬すべきものもある。しかし、いまの人種問題に対しても、貿易の問題に対しても、戦争でも、ベトナムへ黒人を第一線に入れたために、麻薬を飲ませなけりゃ、死ぬのがいやだから狂気ざたになるので、麻薬の中に——
アメリカの今日のブラック・アンド・ホワイトの戦いは人種の戦いではない、白人帝国主義の他
民族に対するところの害毒がこれだけの
アメリカ自身の精神的な退廃を生んでいるんです。そういう
意味において、私は、
アジアの声を
代表してか細いながら本当のことを言えるのは
日本以外にいまないんじゃないですか。
私は、そういう
意味において、
園田さんはソ連に行っても率直に物を言った。そこが
園田のいいところだが、やっぱり
アメリカに行ってあれだけのことを言うと、
アメリカはソ連以上にうねぼれているから、きげんを悪くしちゃうかもしれない。長い間
日本の官僚や政治家や財界人があめをなめさせていたから、急に「良薬は口に苦し」ということになるかもしれない。しかし、いま
アメリカの危機だ。
アジアを愛する者は
アメリカとの結びつきをも愛するんであって、真のパートナーは
アメリカの政策に対しても露骨に物を言わなけりゃわからないんじゃなくて、まじめな知性人の中には私は
アメリカの危機を痛感している人がある、ソ連よりも早く気づくかもしれない。ソ連だって、いま変わらなけりゃ、いまどこかでマンモスか何かの展覧会をやっている、このごろだんだん寒くなったからソ連自体が今度は餓死してしまうようなことがないとも限らない、人類の歴史にはかつてあったんだから。ばかげた原爆競争より食糧の問題、エネルギーの問題、もっとまじめに全人類的な
立場から、ソ連の将来のためにもというので
考えさせるような動機を、
アメリカやソ連なんかはどこか生活が楽だから心の一部にはゆとりがあるんだから、餓死しようとする連中じゃ聞けないかもしれないが、
日本の
外務大臣、変なやつが出てきて、今度は遠慮会釈もなくおれたちの前で、おれたちも
考えなけりゃならないことを言っていったというだけの印象をやれば、
園田さんの後で行く大平さんも楽なんじゃないでしょうか。「ああ、うう」と言っても、あうんの呼吸で物は通ずるかもしれませんから。その間の置き方をよほど気をつけて、やはりあなたほどはっきりしたことを大平さんにやらせろと言ったって、生まれ変わらなけりゃ「ああ、うう」は直りやしないんで、それは天皇が「あ、そう」と言うがごときものであるから。
どうぞそういう点を率直に、先進国
会議が開かれるというときに、ドル減らしの話ばっかりやったり、貿易の不均衡のことばっかりやってないで、
アメリカとソ連の積極的な軍縮、戦争を再びすまいというまともな取っ組み方をやらせていくことが
世界の平和を導く、疑心暗鬼をなくさせる一番の根本の問題だし、
アメリカの
婦人や青年はそれに必ず呼応するような時がいま回ってきたと思うんです、タイミングが来たと思うんです。戦場は、
イスラエルや
アラブ諸国との間や
イランに、ベトナムと中国の間にあるんじゃなくて、モスクワとワシントンにぶち込む
一つのわれわれの平和外交攻勢以外に
世界を変える道はないと思うので、やはり遠慮会釈なく、私は、パートナーシップというものは茶坊主的な取り巻き精神じゃない、本当に
アメリカとソ連が変わればわれわれももちろん変わっていく。われわれが変わらないで
アメリカ、ソ連だけ変えろと言うことはできないが、そういうことを一発、
園田さん、いままでの
外務大臣の語学だけはうまいが腰の方がしっかりしていなくてというような、相撲取りでもこれはもうだめです、黒星です。
どうぞ、そういう
意味において、時が、天があなたのような野性に満ちた、本当のことを言い得る、断行し得る勇気のある人を
世界は求めているんだから、ナポレオンや毛沢東のまねをしないで、もっと独自な、
日本における、われわれは凡人だけれども、われわれは常識人だけれども、大衆の願っているものは常識的で具体的なものであるというふうに凡の哲学を、非凡ぶっている鼻持ちならないエリート衆に、やはりぶち込んでいくのが
日本の外交攻勢の唯一の道だと私は思いますが、今度の
アメリカ行きは、本舞台の前の花道が見ものだと思うので、
日本に攻め込まれてからの言いわけ外交で、先進国
会議を開くというのに公害問題もそっちのけにして、そうして公害関係もまたいで通るというようなことでは、先進国としての価値が何にもなくなってしまって、財界の一部あたりの恫喝に通産官僚なり
政府の与党が、献金の都合もあるから胴ぶるいしてしまうんじゃ、とても外国に対しては、
アメリカさんなりソ連に対しては物を言っても効果がない。むちゃなことをやれと言うんじゃないが、先進国にふさわしい国内体制だけは整えるだけの見識がなけりゃ、
政府の看板はおろしてもらいたい。そういう
政府は国民のためにもならないし、
世界のためにもならない。いたずらに時間つぶしだけで、こういう激動の時代においては、めんどうくさいから、そういう看板は外して、
一つのもっと何かやり得るものを国民が求めているのだから、それに席を譲ってもらいたいという声が必ず起きます。米騒動だって、わからないうちに起きたんじゃないですか。そういう
意味において、米騒動のところから見ると天草はちょっと遠いが、海は続いているでしょうから、どうぞ東南
アジアに、
イランに、ベトナムに火はついているんです。韓国の周りにおいても、
アメリカがやるから今度はソ連もというので戦争をやるほどばかじゃないでしょうが、
両方でおどかしっこの演習をやっていれば、私は、危険な事態が生まれてからでは、火事が起きてから拍子木を鳴らしているんでは何にもならぬと思います。
時間が来たと言いますから、一分でお答え願います。私は、もうむなしいから、ひとつ
園田さんだけ、聞いてくれようが聞いてくれまいが、物を言っていればどこかで思い出すから、その瞬間が大切だと思ったから、いま私はむなしいと知りながらも、あなたにぶち込んだんです。一分でも二分でもいいです、時間は長いことは必要としません、実のある答弁を願います。