○
参考人(
地田知平君) 私、一橋大学の
地田と申します。
いままで
海運、
造船及び
船員組合の
方々からそれぞれ詳しい
お話がございましたので、私はその点をいささか略させていただきまして、話が抽象的になるかもわかりませんけれども、
利子補給法のわれわれの理解する意味での理論づけということを申し上げたいと思うんであります。
それで、
海運不況についてはただいま
永井さんの方から非常に詳しい
お話がございましたので繰り返す必要がないと思いますが、ここで私が申し上げておきたいことは、この
不況の中にいろいろな
世界海運について変化が起きているということを申し上げます。その変化と申しますのは、いろいろもうすでに御承知のことと思いますので繰り返しませんけれども、国際
情勢が非常に大きな変化をしてきているということでございます。
もう一点、
日本の
海運の場合について言いますと、そういう環境の変化のほかにいま
一つよく言われますよりに、そしていまもそれぞれの
参考人の方から
お話がありましたように、
日本船の構造的な弱点と申しますか、俗に
国際競争力がなくなったという表現でもって言われておりますが、この点については、
国際競争力についてはすぐ後でもって申し上げますが、とにかく、そういう構造的な弱点がはっきりと出てきたということでございます。そして、その結果、先ほどからも
お話がありますように、
日本船が少なくとも絶対量では
昭和五十二年ぐらいから
減少してきております。そのために、
日本船に対して
日本の国が期待している
役割りというものが十分に果たされなくなるおそれがあるという結果になっているわけでございます。
そこで、私は
日本の
海運業自体としてもそうでありますけれども、
日本の
政府として、
政策の目標は結局この国際環境にどういうふうに対応していくかということ、それといま
一つは
日本船の
国際競争力を
確保するということに尽きるかと思うのであります。その場合の
日本政府のかかわり方ということについては後でまた幾らか抽象的に申し上げたいと思いますが、ともあれ目標はそこに当面置かれなければならないだろうというふうに
考えております。
構造的な弱点は、ということは、先ほども
お話ししましたよりに、俗に
国際競争力の喪失ということでもって言われておりますけれども、
国際競争力というのは非常にあいまいな表現でございまして、一体
国際競争力というのは何かということになりますと、わけのわからないものでございます。
一言で言って、私は市場に
企業が生き残れる力、それが
国際競争力であるというふうに
考えております。したがいまして、市場の
状況が悪くなり、不景気が訪れますと、その市場に生き残る力の弱いものから次第に脱落をしていくということになるわけでございまして、その意味では、今日この
日本のいわゆる
国際競争力というものが露呈してきましたのは、やはり過去にないような
海運不況の結果であるというふうに
考え、そして、
国際競争力というものをいかなる場合にも
維持するということは、結局どんな
不況のもとでも生き残れるような力を培養するということに尽きると思うのであります。
そこで、
国際競争力と言われるものの中身について少し申し上げておきたいと思うのでございますが、これは御承知のように、
企業というのは総力でもって競争を営なんでいるわけでございますから、したがいまして、その中には
経営者の
経営能力というものもありましょうし、あるいはまたそれをバックアップするいろいろな機関の助力というものもあるかとも思うんでありますけれども、その中の
一つの重要な要素は、これは
コストであるというふうに
考えることができます。これは一般の産業の場合と全く私は同じことだろうというふうに理解しております。
しかしながら、
海運の場合には
国際競争の対象となりますような
コストというのは、フル
コスト、つまり
コスト全体が対象になるわけではございません。そのうち国際的に優劣を決めるのは国際的に違うような費用だけでございます。
話がいささか抽象的でございますけれども、一例を挙げますと、燃料費というものは、これは船が運航するためにぜひ必要なわけでございますけれども、この燃料費はどの国の船でもある港でもって補給すれば大体価格は同じことでございます。もちろん、
企業によって買い付けの仕方が違いますから幾らかの差はありますが、しかしながら、
国際競争力を決定的に左右するような
コストではございません。
そこで、
国際競争力の中でもって一番重要なものは何かと申しますと、これは
海運業における慣習的な費用分類によりますと、船費というふうに言われているものでございます。この船費というのは要するに船を持ち、そしてその船を運航可能な
状態に置くために必要とする費用でございます。その中には減価償却費も入りますし、あるいはまた金利も入ります。それから修繕費も入りますし、
船員費も入りますし、あるいは保険料も入ると。いろいろ費用項目がございますけれども、その中でもって特に国際的に違う
コストといいますと、結局は
資本費と
船員費の問題に帰着すると思うのであります。
そこで、ここまで申し上げると大体
国際競争力というものを
回復する方策というのはこれはもう方向がはっきりすると思われる。それは
一つは
資本費をなるべく安くつける、いま
一つは
船員費をなるべく安くつけるということでございます。
それからもう
一つ考えられますのは、
船員費と
資本費というのは、ある意味では相関関係と申しますか−相関関係というのはちょっと言葉が悪いんですけれども、お互いに関連がある項目でございまして、これは一般の産業の場合においても全く同じでございますけれども、資本の費用に対して
船員、労働力の費用、つまり
賃金——あるいは
賃金という言葉は適当でございませんでもって
船員費というふうに申し上げております、あるいは労務費というふうに申し上げておりますけれども、その労務費が資本
コストに比べて割り高になりますと、なるべく労働力を少なく使って資本を多くするような生産の仕方に改めていくのが普通でございます。これも一種の構造変革と
考えて差し支えございません。その意味では
日本の
海運業はすでにかなり前からそういうことに着手しております。それを
一言でもって表現いたしますと、資本
集約的な船になるべく集中していくということでございます。
資本
集約的な船と申しますのは、具体的に申し上げますと、たとえばコンテナ船であるとかあるいは大型の貨物船であるとか、あるいはまたLNG船であるとか、あるいはまた同じ形の船であってもなるべく労働力を少なく使うようなそういう船ということになるわけでございます。こういうものに改めていくということが
考えられるわけでございます。
要するに、私が申し上げたいことは、
国際競争力をつけていくためには、
一つには
資本費というものを安くすることが必要であろう、いま
一つは労務費というものを安くすることが必要であろう。この労務費というのは
賃金という意味では決してございません。
賃金は実は労務費の一部でございまして、それ以外にたくさんの付帯費用がかかっているわけでございますけれども、その全体を含めた上でもって安くするということでございます。そしていま
一つは、なるべく資本
集約的な船を持つように構造的に変えていくという、そういう三つの方法が
考えられるわけでございます。
そのうち、先ほども申し上げましたように、すでに資本
集約的な船の
建造というのはかなり進んでおります。また将来もこういう船の
建造に重点を置いていかなければならないということも、将来の
資本費あるいは
船員費のあり方から言って当然だろうというふうに思われます。
いま一点は
船員費の問題でございますけれども、この主要な部分は
労使間の交渉によって決まる性質のものでございます。外部から特にそれに対して手を加えなければいけないという性質のものではございません。むしろ、苦難の道はあったにしましても、それによって打開していくことが、それが将来の
労使間の健全な発達にとって望ましいことであり、かつまた
企業の健全な発達にとって望ましいことであると私は
考えます。その結果、残るところはやはり
資本費の
減少ということになるわけでございます。
そこで、私は本日の
議題というふうに承っております
利子補給につきましては、これはやはり
資本費を引き下げるという意味を持つという点で
日本船を
維持する上で非常に重要であり、かつまた国際的な競争力を
維持する上でもって重要な方策と
考えているわけでございます。
もう一点、
利子補給について申し上げたいと思うのでございますが、先ほどどなたかから、いわゆる
仕組み船という問題がございました。
仕組み船についてはここでもって詳しく申し上げる必要がございませんけれども、実は
仕組み船をチェックする
一つの方法として
資本費を引き下げるという
政策は
考えられるということ、これは比較的注目されていないんですけれども、そういう効果があるということを
一つ申し上げておきたいと思うんであります。
そこで最後に、一体
政府は
利子補給でもって足りるかということについて申し上げておきたいと思うんでございます。で、もちろん
政府の仕事としては、先ほど申し上げましたように、新しい国際環境に対応するような方策を
考えるということも、これも
政府が
指導的な立場をとらなければならないと思います。しかしながら、私は
政府というのは、
国際競争力を培養するということが必要であるならば、それの条件づくりをすることにとどめるべきである。それ以上
政府の
企業に対する干渉は、とりわけ
海運業のように非常に
経営の上でもって弾力性とそれから機動性を必要とするような産業では、むしろ
政府の干渉というのは有害であって益はないものと確信しております。その意味で、当面は主要な
一つの
政策の柱としてはこれが
考えられる。繰り返して申し上げますけれども、主要な
一つの柱としては、
利子補給というものが
考えられるというふうに思うのでございます。
私、非常に話が抽象的でもっておわかりにくかった点もあるかと思いますけれども、時間の制約もございますので、また御質問でもあれば詳しく申し上げたいと思います。
以上でございます。