○内閣総理大臣(大平正芳君) 渡部さんの御
質疑にお答えいたします。
第一の御
質疑は、共同声明にうたわれておる「千九百八十年代に向つての実り豊かなパートナーシップ」というものの実質的な意味は何かということでございました。
今次首脳会談におきましては、現在の日米間のパートナーシップが相互の信頼
関係に支えられてきわめて強固であることを踏まえて、一九八〇年代に向かって、両国がそれぞれの政治経済両面での活力を生かしまして、世界の平和と安定のためにさらに一層幅広く協力を行っていくことを両首脳の間で確認し合った次第でございます。そういう意味におきまして、この副題が選ばれたわけでございます。
第二に、「日米両国が分かち合う政治上及び経済上の理念」とは何かという御質問でございました。
これは申すまでもなく、日米両国は、政治的には、民主主義と個人の自由、尊厳を尊重するという
立場をとっております。経済的には、自由市場経済を基調といたしまして経済の
運営を図っておりまして、そういうことを共通の理念としておることを述べたものでございます。
それから、渡部さんは、私の外交政策を
国会におきましてもっと具体的に、また精力的に
説明すべきではないかという御指摘でございました。私の外交の考え方につきましては、施政方針その他両院の
質疑におきまして随時申し述べておるつもりでございますけれども、今後一層精を出してまいるつもりでございます。
それから、自衛力の質的改善ということは今日それを必要とする国際情勢が発生したかというお尋ねでございましたが、そうではなくて、アメリカとわが国との安全保障体制を基調としながら、わが国みずからの防衛力の質的改善に努めるということは、すでに防衛計画大綱等において明らかにしてきたところでございまして、共同声明におきましてはこの基本的政策を確認したまでのものでございまして、今日の国際情勢にかんがみましてにわかに思いついた考え方ではないのであります。
防衛力の質的改善とは、諸外国の軍事技術の動向に対応いたしまして装備の更新、近代化等を着実にやってまいるということを意味するものでございますが、わが国の
憲法、非核三原則を前提といたしておるものでございますから、核戦略を含めたものでないことは言うまでもないことを、ここに念のため申し添えておきたいと思います。
それから、わが国の防衛費負担はGNP一%でコンセンサスができておる、これ以上でも以下でも
国民は納得しないだろうという意味のことを私が述べたという御指摘でございまして、大体そういう意味のことを述べたわけでございます。これは、渡部さんも御承知のように、各年度の防衛
関係費の総額は当面GNPの一%を超えないところをめどにいたして編成いたしておるつもりでございまして、私は、このような従来からの
政府の方針を踏まえて申したつもりでございます。
なお、最近のこれに関しましての世論調査を見ましても、渡部さんも御承知かと思いますけれども、増額した方がよろしいというのが四十七年に一〇%、五十三年に二〇%出ております。いまの程度でよいというのが四十七年には四二%、五十三年には四八%、いまより少なくてよいという
意見が四十七年に二三%、五十三年には一〇%というような傾向を示しておりまするので、ただいま
政府がとっておる政策は、ほぼ
国民の世論にも合致しておるのではないかという判断を踏まえて申したつもりでございます。
それから、渡部さんは、対ソ、対中、対ベトナム等についてのどういう話をしたかということについてのお尋ねがございました。
中国との間では、日米両国とも安定した建設的な
関係を維持していくこと、そして中国の近代化に対しましては、平等の
立場で協力しようということで
意見の一致があったわけでございます。
ソ連との間におきましては、未解決の問題はございますけれども、経済その他の交流を進めて、安定した
関係をもって進めてまいりたいと私が述べたに対しまして、カーター大統領よりは、SALTⅡの
合意を得るために努力しており、近く妥結の見込みであるとの
説明がございました。私より、日本はこのような米国の努力を評価しており、成功を祈ると申し述べておきました。
朝鮮問題につきましては、何らかの
合意があったかというお尋ねでございましたが、今回の首脳会談におきましては、朝鮮問題につきましては、南北間の対話が実を結ぶことを期待しながら、日米両国が朝鮮半島における緊張を
緩和するため、その国際的環境づくりに努力を続けるということで
合意を見たわけでございます。
北朝鮮との国交樹立につきましては、今次首脳会談におきましてはお話は出ませんでした。
ベトナムでございますが、日米両国は、カンボジアにおきまして依然として武力紛争が継続しており、中越間では紛争解決のための話し合いが行われておるものの、依然としてインドシナ半島は緊張状態が続いておるということを懸念して、主権、領土保全及び独立の尊重の原則によりましてこの地域における緊張の
緩和と平和の確立が図られることが望ましいという認識で、見解の一致を見たわけでございます。
わが国は、ソ連海空軍のベトナム基地利用が、その態様及び頻度によってはアジアにおける不安定要因になりかねないことはすでにベトナムにもソ連にもこの懸念を伝えてございまするし、米国も同様の申し入れをソ連に対して行ったと承知いたしております。わが国としては、今後とも深い関心を持ちながら事態の推移を見守ってまいるつもりでございまするけれども、現段階で対越政策を見直すということは考えておりません。
それから、インドシナの難民問題についてのお尋ねでございました。
この問題が、今度の首脳会談における重要な
議題の一つでございましたことをここに御
報告を申し上げます。わが国といたしましては、この難民問題に対するアメリカ側の大変な努力に対しまして敬意と謝意を表しますとともに、わが国自身も、人道的見地から、国連の難民高等弁務官事務所にその費用の約四分の一を負担してまいったことでございますが、さらに御指摘のように、定住
条件の範囲を拡大するということにせっかく努力をし、その他を含めて八項目の総合的な
対策を決めて取り組むことにいたしたことをアメリカ側に申し述べておきました。
なお、
政府はさらに先般、難民流出抑制をベトナム
政府が行ってもらわなければならぬということを、ベトナム
政府に要請をいたしたところでございます。
それから、難民条約、難民の地位に関する条約、同議定書への加入でございますが、次期通常
国会におきまして御承認を求める方向でただいま検討をいたしております。
中東政策についてのお尋ねでございました。
結論から申しますと、わが国の中東政策は全然変更をいたしていないわけでございます。つまり、わが国といたしましては、中東地域が国際政治経済の上からもちまして非常に重要な
立場を持っておること、それからわが国との相互依存
関係が非常に深いことを頭に置きまして、この中東地域の各国々との間には友好
関係を持っておるわけでございまするし、それらの国々の工業化を含めての国づくりのためには経済協力もいたしてまいっておるところでございまして、この基本的な
関係は今後も続けてまいるつもりでございます。
カーター大統領の努力によりまして、イスラエルとエジプトの間に平和条約が締結されるようになりましたことは、日本といたしましては、この条約が中東和平へ向けての
前進をもたらすものでなければならないとの
立場をとっております。で、包括的和平を望むアラブ側の意向にも十分理解を示しておるつもりでございます。
このように、わが国は、中東政策につきましてはその継続性と
独自性を堅持しておるものでございまして、米国に同調してこれを変更しておるというようなことはいささかもいたしておりません。
次に、経済摩擦についての解消についてのお尋ねでございました。
日米間には往復四百億ドルに近い巨大な貿易が行われておるわけでございますから、日ごろ経済摩擦が起きても不思議はないと思うのでありまして、問題は、起きました問題を次々に手際よく相互信頼の中で片づけてまいることが大事だと考えておりまして、今日までも、農産物の輸入問題、皮革の問題、繊維の問題あるいは関税引き下げの前倒し問題等につきましては
合意を見て解決をしてまいったのでございますが、残念ながら、解決しようと思いましたけれども
政府調達問題だけが残りましたことは大変残念に思っております。しかし、これも、日米首脳会談におきまして、できるだけ早く解決の軌道をつくり上げようじゃないかということ、継続案件として引き続き協議しようということで確認し合っておるわけでございまして、相互信頼がある限りにおきまして、私は、あらゆる問題が解決できないはずはないし、今日までも解決をしてまいりましたことは御案内のとおりでございますし、いまある懸案も遠からず解決できるものと確信をいたしております。
それから、日米共同声明の中の、われわれが遂行する「基本的政策」とは何かというお尋ねでございますが、これは共同声明に盛られておるとおり、わが国としては内需拡大、市場開放を通じまして、また、米国としては
インフレ対策や石油輸入の抑制等を通じまして、それぞれの国際収支の不均衡の是正に努めるという中期的な展望に
基づく政策を、ここに「基本的政策」と申し上げたつもりでございます。
渡部さんは、それではどこまでやればアメリカは満足するのかというお尋ねでございました。これに対しましては、また共同声明にもございますように、わが国の経常収支の黒字が、世界的に見て国際貿易及び支払いの上で撹乱要因になっておりますることは、これは否定できない事実でございますので、それが「均衡がとれかつ持続可能な国際貿易及び支払のパターンと合致した状態となるまで、」と書いてございます。そういう状態になるまで日本はこういう政策を進めてまいるということで、
合意をいたしておるわけでございます。
しからば、内需の拡大はいまのような状態で果たして公約を果たすことができるかということでございますが、輸出は引き続き低調に推移しておりますけれども、国内需要は、御案内のように個人消費、設備投資とも着実に伸びておりまして、今後とも、
物価の安定に気をつけながら、引き続き現在の内需拡大基調を維持してまいりたいと私は考えております。
次に、渡部さんは、市場開放の公約をどうして果たすかという具体策についてお尋ねでございました。
御案内のように、ここ二十年ほど、わが国
政府は、資本において、貿易におきまして、その自由化のために鋭意努力をしてまいったわけでございまして、私は、いまわが国の市場開放の度合いがそんなに諸先進国に比較いたしまして遜色があるものとは考えていないわけでございますけれども、今日、そうでありながらも日本の黒字幅が異常に拡大するというような
状況は決して健全とは言えないわけでございますので、
政府としては、今後とも、東京ラウンド交渉において各国が
合意した関税の引き下げ及び規格検査、
政府調達等の各種のコードに沿いまして、できるものから早期に開放に当たってまいるつもりでございます。このような努力によりまして、国際的にも信任が得られるものと確信をいたしております。
それから、大統領
選挙を前にいたしまして、もう次から次とアメリカが問題を提起してくるではないかということでございますが、先ほど申しましたように、若干の問題の提起がありましたけれども、これはそれぞれ解決がつきまして、残った
政府調達の問題も、近く解決の展望を持っておるということで御理解をいただきたいと思うのであります。
米国議会との
関係でございますが、私も両院に参上いたしまして、指導者と時間をかけて会談をいたしたつもりでございます。なるほど米議会の対日批判は
相当厳しいものがございますが、先ほど申しましたように、日米両国が地域的な展望に立ちましてそれぞれの政策を精力的にやってまいりますならば、この解消は不可能でないということにつきまして
相当の御理解が得られたものと確信をいたしております。
それから、
エネルギーの政策についてのお尋ねでございました。
今日、
エネルギーの問題が日本にとりまして死活の問題でありますことは御指摘のとおりでございまして、この安定供給を確保し、それから
価格においても数量におきましてもどうして確保するか、石油代替
エネルギーをどう開発してまいるか、新
エネルギーをどのように開発してまいるかというような問題につきましては、精力的に諸外国との協調も得ながら、大胆に周到な政策を行っていかなければならぬと考えておりますが、詳細は今後
国会でも論議されますので省略をいたしますが、とりわけ東京サミットを控えまして、この東京サミットは
エネルギー問題が最大の焦点になるのではないかと考えておりまして、省
エネルギー、代替
エネルギーの開発導入、新
エネルギーの
研究開発等に対しまして、先進主要国が一致して
エネルギー問題と取り組むという
状況と決意が内外に示されることが必要であろうと考えております。
それから、原子力開発計画に対するアメリカ側の見解でございます。
渡部さんが御懸念になっておりますのは、恐らく、アメリカが原子力開発計画に対しまして消極的になって、わが国の燃料サイクルを独自に確立しようというようなもくろみに対しましてあるいは消極的な態度を示したのではないかという御懸念かと思いますけれども、そういうことはございませんでした。今度の共同声明にもありまするように、日米間では、核不拡散政策を進めるに当たり、必要かつ経済的正当性を有する原子力の開発計画に不当な制約が課されてはならないという原則について、
意見の一致を見ましたことは御案内のとおりでございます。
それから、アルーシャ宣言についての見解を求められたわけでございますが、先ほど川崎さんにも申し上げましたように、われわれは開発途
上国の決意と主張に対しまして理解と共感を持っておるわけでございますけれども、しかし、「第二の窓」に対するわが国のコミットメントを具体的にしなかったゆえんのものは、まだこの内容が、
運営の形態が明らかでございませんし、拠出国の範囲が明確でございませんので、現段階では明らかにし得ない面がございまするので遠慮いたしましたけれども、今後他の先進国との協調を図りながら、わが国としての責任は果たしてまいるつもりでございます。
また、人づくりの問題と並んで農業問題が非常に重要であることは御指摘のとおりでございますし、人づくりの問題も農業開発の問題と一体となって進めるべきではないかという御
意見は、全く御同感でございます。
それから、金大中事件につきましては、先ほど川崎さんにお答え申し上げたとおりでございます。今度の日米首脳会談におきましては、この話は一切出ませんでした。(
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