○米沢隆君 私は、
民社党を代表いたしまして、ただいま
趣旨説明のありました
健康保険法等の一部を
改正する
法律案につきまして、
総理並びに
厚生大臣に若干の所信をただしたいと存じます。
すでに御案内のとおり、今日の
医療保険を取り巻く
情勢は、
医療費の急増による
財政不安、
制度間の不均衡の顕在化、
保険外負担の増高による
保険機能の低下、資源配分の非効率性など、
基本的な問題が数多く噴出し、その上、一部
医療の
荒廃、退廃ぶりが指摘されるなど、きわめて深刻な
状況にあります。それゆえ、
国民のニーズに対応して公正かつ高度な
医療保障
制度を確立するためには、従来のようにその場しのぎの小手先だけの対応策であっては、今日の苦境に立つ
医療保険制度の局面打開はきわめて困難であると言わねばなりません。
しかるに、今回の健保
改正法案は、依然として、
患者の
負担増によって
財政収支のつじつまだけを合わせようという
現状糊塗的な
改正に終始しているところに、私どもは大きな不満を持つものであります。
そこで
総理、まず第一に、あなたは、今日のわが国の
医療を取り巻く
状況、
医療保険を取り巻く
状況をどのように理解をされ、今後どのような発想で
抜本改正に取り組もうとされているのか、その所信を明らかにしていただきたいと思います。
あわせて、
厚生大臣、この
法案は当初から
修正せらるべき運命を持った
法案であると言われておりますが、あなたは、今後の
審議次第でありますけれども、
修正要求には柔軟に対応される姿勢があるかどうか、率直な御
意見を承りたいと存じます。
さて、本題に入ります。
本
法案の第一の
問題点は、新たに設置される
薬剤等の半額
負担制の導入の問題であります。
これは、
高額療養費制度によって補給
措置はありますものの、明らかに
患者にとっては過重
負担となり、
家計を圧迫することは必定であります。確かに、
薬剤費の
患者負担により、どういう薬をどの程度飲まされているか、これまで不明、不安でありました
薬剤使用が明確になることはメリットの一つかもしれません。また、それは過剰
投薬の
是正にも通ずると
考えられます。しかし、
政府案の半額
負担は、余りにも
患者の
負担が過重になるため、結果として、真に
医療の必要な人までも、場合によっては受診の過度の抑制を招きかねないことになり、それでは、
保険のあり方から見て適当な
措置とは言えないことは無論のこと、
医療の
基本であります早期発見、早期治療の道をふさぐものでありまして、私どもはとうてい容認することはできません。
少なくとも、
国民が納得できるよう、その
負担割合を大幅に軽減すべきだと
考えますが、
政府の
見解を明らかにしていただきたいと思います。
第二の
問題点は、入院時
負担の問題であります。
現在、入院時
負担は、一日につき二百円、一カ月間までとなっておりますが、
改正案によりますと、一挙に五倍も引き上げ、一日千円、それも入院生活全期間
徴収となっておりますので、この
負担増はきわめて大きいものがあります。入院した場合には、通常、所得が六割と大幅に減少し、しかも
差額ベッドや付添看護婦料といった
保険外負担も強いられており、この上さらに一日千円の給食費を課すことは、過酷な
措置と言わざるを得ません。
私どもは、
保険外負担の
解消を図った後におきましても、
患者の
支払い能力からいたしまして、入院時一部
負担は一日四百円とするのがぎりぎりの線であると
考えます。
政府は、この
修正要求にどのように対処される
方針でありますか、誠意ある答弁を期待いたします。
さて第三に、
負担の問題に関連いたしまして、
保険料の改定についてお尋ねいたします。
政府案で
考えられております
保険料改定は、第一に
保険料算定基礎の変更、第二に
保険料率改定手続の変更、第三に標準報酬
上限額改定手続の変更の三点であります。
今回のこの一連の
保険料改定は、たとえば本
法案が
実施されれば、平均
医療給付率が実際は低下することでもおわかりのとおり、
家族の
医療給付の引き上げに関連して改定するというよりは、急激に、しかも大幅に上昇していく
医療費を賄うためのものという性格が顕著にあらわれており、この点が
基本的に問われねばなりません。
確かに、
政管健保は五十四
年度末には二千五百億円を超す
赤字であると言われますから、この
財政赤字対策を放置することはできません。だからこそ、この
財政赤字の
原因となる一方では、
医療費増大を効率化する施策が今日ほど各方面から強く求められているときはないのであります。が、これに対する
政府の
対策は遅々として進まない感じがいたしてなりません。
そこで、薬価の公正確実な調査と、それに基づく薬価の改定、検査に対する厳重な指導、
診療報酬出来高払い制の
改正、請求書
審査の厳重な
実施、不正請求の徹底した取り締まりなど、総合的な観点からの効率化
対策の策定と、その
実施体制が速やかに整えられることこそ緊急の
課題だと信じます。
政府は、この重要な効率化
対策にどのように取り組まれているのか、否、取り組まれようとしておるのか、
総理の
見解をお伺いしたい。こうした施策をさておいて、
医療費増大に安易に順応させようとする
保険料改定の意図は片手落ちもはなはだしいと思うが、あわせて御答弁を賜りたいと存じます。
以上述べましたように、今回の特に
保険料率の弾力的な運営の
実施につきましては、大きな問題があると指摘せざるを得ないのであります。
賞与等も
算定基礎に含める
保険料率が、
厚生大臣によって弾力的に運営されるということは、
保険収支の結果だけを
保険料率に転嫁させようとするもので、
医療費の効率化
対策よりも、
保険料率引き上げに依存する傾向を助長するおそれが強くなります。したがって、弾力条項は、
医療費の効率化
対策の強化に連動して、あるいは
国庫補助との連動など、発動基準が明らかになった上で
実施するのが正しいあり方であります。
政府は、
国庫補助との連動において、弾力条項発動基準を明らかにする
方針を持っておられるかどうか、
見解を示していただきたいのであります。
われわれは、健保
財政の
改善については以上の
対策を求めましたけれども、もとより、合理的な
制度のもとにおける合理的な
負担の増を否定するものではないことを付言いたしておきたいと存じます。
さて次は、当面しております
抜本改正の問題に触れてみたいと思います。それは、今日、
患者の不安を高めておる最大の問題であります
保険外負担の
解消であります。この
解決なくして
国民医療の
改善向上はあり得ません。
わが党は、次の
措置により
保険外負担を
解消すべきであると
考えます。
まず、
差額ベッドでありますが、
現行の
診療報酬点数で一律適用といたしております室料の
現状を再検討し、新たに
診療報酬の室料に段階制を設け、段階的な室料を設定し、これを
診療報酬として
医療機関に支払うことによって、
患者からの
徴収を全面的に禁止すべきであります。
政府の
見解を明確にしていただきたいと思います。
また、付添看護による
患者負担も、これまた
家計を大きく圧迫しており、その
解消は緊急重点
課題であります。したがって、第一に、
現行の特二
基準看護病院を含め、さらに強化される看護体制、すなわち完全看護病院制を新たに設け、そこには必要とする看護婦の充当を確実に行い、付き添いは全く行わないようにすること。第二に、
現行の特一
基準看護病院以下の病院においては、必要に応じ看護婦の充当を図ることは当然でありますが、その充当がなされるまでの間は、付添看護に要する職員を新たに配置して看護体制を補完することとし、この場合、
診療報酬に付添看護職員の
費用を設けて、それを
医療機関に支払うようにすれば、付添看護による
患者負担を全面的に
解消できると
考えますが、
政府の
見解をただしたいと思います。
次に、出産
給付についてお伺いいたします。
御承知のとおり、ILO百二号条約では、分娩の場合、一部
負担を認めず、全額を
保険給付とするように定めております。しかし、わが国の場合、分娩費は出産
給付として現物
給付化されることが久しく望まれておりますけれども、分娩費の
最低保障額の適用に代替されて、ILO百二号条約で定める国際基準に比べて達していないのが
現状であります。この国際基準を満たすよう、出産
給付として現物
給付方式を早急に採用すべきでありますが、
政府はいかなる
見解を持っているのか、明らかにしていただきたいと思います。
次に、定年退職者の継続
医療制度と高齢者の
医療制度の創設に取り組む姿勢を明確にすべきであります。
現在の
被用者医療保険は、企業による定年制によって当該被
保険者の資格が失われると、当人はその親族の被
扶養者となるか、新たに
国民健保に加入するしかありません。一方、
国民健保は、ただでさえ高齢化傾向にあるものが、それによってさらにこの傾向に拍車をかけられているという欠陥を持っております。核
家族化の風潮から、これらの人々が
国民健保に流れ込むことは必定であり、ただでさえ運営上多くの矛盾と問題を抱えている
国民健保は、とうてい持ちこたえ得るものではありません。特にその
財政は一層困窮化することになるでありましょう。
このような欠陥を
是正するためには、定年退職者の継続
医療制度の適用年数を六十五歳まで延長すると同時に、それ以後は高齢者
医療制度を創設することが不可欠でありますが、こうした問題に対し、
政府は具体的にどう取り組んでいくのか、明らかにしていただきたいのであります。
最後に、
財政調整についてお尋ねいたします。
現在、
政管健保と
組合健保との間の
財政調整が論議されておりますが、私は、両
制度間の
財政調整は軽率に行ってはならないと
考えます。
その理由は、第一に、
政管健保には、
財政調整的な役割りを果たす、かなりの率による
国庫補助が現になされていること。第二に、両
制度間にお整は自主
管理の努力、
医療費効率化の自助努力を摘み取ること。第三に、構造上の問題である年齢、すなわち高齢化比率につきましては、現在新たな高齢者
医療構想が練られつつあり、こうした点を
考えるとき、両
制度の
財政調整を行う理由は全くないと断ぜざるを得ません。
両
制度間の
財政調整の問題について、あわせて、当面問題になっております
齋藤自民党幹事長と武見日医会長との合意メモをやる気か、やらない気か、どう処理されるおつもりか、
総理並びに
厚生大臣の
見解をただしたいのであります。
国民医療の充実は、
保険制度の
抜本改正とともに、
医療供給体制の
改革が不可欠であります。したがって、速やかに
医療供給
制度の
改革についても計画的にそれを促進するよう
政府に強く要求し、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣大平正芳君
登壇〕