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西宮議員
刑事訴訟法の一部を
改正する
法律案について
提案の
趣旨を御
説明申し上げます。
わが国において人権意識はようやく高まりを見せているとは言うものの、国内の人権保障の現実には、なおはなはだ危ういものがあります。身に覚えのない
事件のために逮捕され、裁判でも有罪の判決を受ける者、場合によっては死刑の執行におびえながら無実を訴え続ける者も少なしとしないのであります。もしも無事の者が国家権力により処罰されるとすれば、およそこれに過ぐる不幸、これにまさる残酷があり得るでありましょうか。このような冤罪者を救済することなくして、人権擁護も民主主義も存在しないのであります。
一般世人からは、神のごとく至公至正と見られる刑事裁判においても、不幸にして誤判の数の決して少なくないことを裁判の歴史は示しています。著名な冤罪
事件として知られる松川
事件、八海
事件、仁保
事件にしても、三審制の中で二度ないし三度にわたって有罪・死刑の判決がなされた後に、辛うじて最高裁の
段階で救われたのであります。また、三審
制度の中ではついに有罪が確定し、服役を終わった後において、再審の結果無罪を獲得したものに、最近においては弘前
事件、加藤老
事件、米谷
事件があります。これらはいずれも厳正を生命とする裁判においても、時に誤判のあり得ることを例証しています。しかも弘前
事件、米谷
事件は、真犯人がみずから名のり出ることによって、ようやく再審開始に至ったのであります。
もって再審開始のいかに困難なるかを想像し得るでありましょう。
日本国憲法は全文百三条のうち、第三十一条から第四十条に至る実に十カ条にわたって、被疑者・被告人の人権保障を
規定しておりますが、これは戦前・戦中の司法のあり方を根本的に改善する必要に迫られたからであります。憲法の
規定を受けて一九四九年に施行された新
刑事訴訟法も、個人の基本的人権保障の観点から抜本的な
改正がなされていますが、
刑事訴訟法の「第四編 再審」については、不利益再審の廃上を除いて、旧
刑事訴訟法をほぼそのまま引き継いだ形になっております。
これらの理由により、再審法の
改正は焦眉の急を要するものと思われます。
したがいまして、再審法を無辜の救済の
立場から正しく運用し得るよう、以下のような
改正をしようとするものであります。
第一は、再審要件の緩和及び理由の拡大であります。
再審請求
事件の大部分は、刑訴法第四百三十五条第六号によるものでありますが、その要件である証拠の新規性と明白性について、従来
裁判所の解釈は厳し過ぎ、そのために再審は「開かずの門」となっておりました。
そこで「再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという
意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用される」という最高裁・白鳥決定の
趣旨を踏まえ、刑訴法第四百三十五条第六号を全面的に
改正しようとするものであります。
具体的条文は、現行法中「明らかな証拠をあらたに」を「事実の誤認があると疑うに足りる証拠を新たに」に改めることであります。
第二は、再審請求人の手続面における
権利保障の明確化及び前群関与の裁判官の除斥をしようとするものであります。
再審手続は二
段階構造をとっておりますが、第一
段階が非常に重要であるにもかかわらず、現行法ではその手続はすべて
裁判所の職権にゆだねられておりますので、これを改め、再審請求
段階の国選弁護人
制度、弁護人の秘密交通権及び記録閲覧権・謄写権、記録及び証拠物の保存、審理の公開及び請求人・弁護人の再審請求理由を陳述する
権利と事実取り調べ請求権の保障等を導入することであります。
また、前審に関与した裁判官は除斥される旨の
規定を設け、審理の公正を期することであります。
第三は、検察官の反対立証の制限及び不服申し立ての禁止をしようとするものであります。
再審
制度は「有罪の確定判決を受けた者」の利益のためにのみ存在する
制度であり、これを具体化するため、再審請求
段階における検察官の立証を一部制限し、そのため検察官は新たな事実の取り調べ請求ができないこととし、ただ請求人・弁護人側から出された新証拠の取り調べに際し証拠の証明力を争うため必要とする適当な
機会を与えられるものとしております。
また、再審開始の決定に対する検察官の不服申し立てを禁止することとしております。
第四は、訴訟費用の補償についてであります。
再審で無罪が確定した
事件につきその訴訟費用は、現行法では再審開始後の公判に要した費用のみ補償されるにとどまっており、一例をあげれば加藤新一老の場合、最も困難な闘いを要した再審請求
段階の費用補償は全く認められず、再審開始後の費用を対象とし、しかも所要経費の一部が認められたにすぎません。
これを改め、再審請求より再審開始決定に至るまでの費用も補償することであります。
第五は、確定判決にかわる証拠についてであります。
有罪確定判決の証拠となった証言・証拠等が偽証もしくは偽造である等の理由で再審請求をする場合、現行法では、偽証・証拠偽造等の事実が確定判決により証明されなければならないとし、確定判決が得られない場合はその事実を証明して再審の請求ができることとしています。この際に刑訴法第四百三十七条ただし書きの解釈として検察官により、偽証・証拠偽造の事実につき公訴提起がなされなかった場合は、再審請求の道を閉ざしているのであります。
これは全く不合理であるのでこれを改め、検察官により公訴提起がなされなかった場合にも再審の道を開くこととすることであります。
第六は、理念
規定の創設及び刑の執行停止を
規定しようとするものであります。
再審
制度は、無事を救済し、その人権を尊重するためにある旨の理念
規定を設けるとともに、再審請求がなされた場合は、請求人等の申し立てにより、刑の執行を停止することができることとすることであります。
第七は、その他として、不服申し立て期間及び旧刑訴法下の
事件について、所要の
改正をしようとするものであります。
以上が
刑事訴訟法の一部を
改正する
法律案の
趣旨であります。
何とぞ慎重に御
審議の上、速やかに御可決くださいますよう、お願いいたします。