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高橋(元)
政府委員 退職給与の支払い額と退職給与引当金の残高との割合ということを取り上げてみますと、五十二年で退職給与の年間支払い総額が一兆七千億でございます。これに対して退職給与引当金の残高が五兆六千六百億でございまして、その比率は三・三倍ということになっております。
この退職給与引当金というものは申し上げるまでもなく、
企業が
雇用いたしました際に退職給与規程というものを設けておくわけであります。この退職給与規程に従って、退職時に任意退職という形で支払うべき退職金の総額というものを算定をいたしまして、その中で、当期の
雇用に起因する
部分というものを将来債務として引き当てる、そういうことでございます。給料を払うと同じような
意味で、将来払うべき退職給与の額というものを損金に立て、負債として経理をする、そういう性質のものでございます。これは三十九年に特定預金と切り離されました際に、従来は特定預金というものを持っておって、ある
意味ではそれを限度という形でつくったわけでございますが、ある
意味では支払い財源というものとリンクさせる
考え方をとっておりましたのを、三十九年の当時の
税制調査会でもいろいろ御審議を願ったわけですが、これは支払い財源の準備金ではないという形で、将来の退職給与の支払いの債務といいますか、その費用性というものを当期の
利益から差し引いておく、そういう形のものであるという定義が下っております。
これの引当率をどのくらいにするかということにつきまして、たしか四十三年であったかと思いますが、
企業会計審議会で退職給与引当金の概念についてというのですか、非常に長い意見書を出しておられます。われわれは意見書第二、こう言っておりますが、その中で、退職給与引当金をどういう形で引当率を決めるべきかということについて三つの理論を出しておられまして、それは
一つは、将来支給額を予測して、その予測の当期に対応する
部分を引き当てるべきだという
考え方、それからその支給倍率加味方式というのでありますか、期末の要支給額計上方式というものと、さらには現価方式という三つのあれを出しておられます。三十一年に
制度改正がありました後の税法上の退職給与引当金の損金算入と申しますのは、当期末に全部の従業員がやめたとした場合に任意退職の退職給与一時金として払われるべき金額を
合計いたしまして、それを今後の利子率で割り引いて二分の一として繰り入れることとしたわけでございます。したがって、ある
意味で言えば現価方式というものがそこに入っております。こういう形で退職給与引当金について、将来それが払われるものであるから、現在の益金から控除されるものとしては年金現価しか見ないという
意味では、引当率としてはかなり三十一年に改善をされておるものであろうというふうに私
どもは考えておるわけであります。
問題は、この退職給与引当金が先ほど申し上げましたように、退職給与の支払い財源の準備金でない。これは
中小企業退職金共済事業団というような組織を使いますとか、また適格年金とかそういうものを使いますと、その場合には外部拠出になりまして、
企業は明らかに損金になるわけでございますが、一方で退職者のために共通のファンドというものから退職給与の支払いができる。それに対して、引当金をとっても退職給与資金というものが別にキープされているわけではございませんので、退職給与引当金をとっている
企業が実際に倒れた場合、左前になった場合に退職給与がうまく払えない、そういう問題があるではないかという点に移ってくると思うのです。その点につきましては、実は退職給与引当金の固有の性格と申しますよりは、退職給与の支払い財源をどうやって
確保するかという新しい
制度の問題であろうかというふうに考えます。五十一年に賃金支払い
確保法というものが国会で御議決になって成立になったわけでございますが、その際にも、未払い給与または退職金の支払い財源をどうやって
確保するかという問題があったわけでございます。その点につきまして、これをその一定割合、たとえば四分の一を外部に拠出して、それによって一朝事があった場合には退職金の支払いを円滑に行わせるということを全部の
企業に強制することはどうかという問題として議論がなされたようでございますが、退職給与の支払いの
状況、その確実さの
状況、それから、そういう資金を外部に出してしまった場合左前の
会社がなおさら左前になるのではないかという問題、それから、そういう外部拠出の
制度を設けますと、退職金の支給額そのものがむしろちびられてしまうといいますか、そういうことに関する労働側の懸念というものがありまして、
制度化に及ばなかったというふうに承知しておりますが、今後とも退職給与引当金のあり方について私
どもは勉強しなければならないと思っております。
繰入率につきましては、先ほどの三十一年の二分の一にカットしたということによって私
どもは、
企業会計と税務との調整が図られておるというふうに思っておりますが、たとえば外部拠出の
制度を取り入れて退職給与引当金によって退職給与の支払いを
確保するということが現実的かつ可能であるかどうか、その場合の
制度をどうしたらいいかということについて、労働当局とも勉強をいたしていきたいというふうに思っておるわけであります。