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奥村参考人 御指名いただきました
日本鉄鋼連盟の
専務理事の
奥村でございます。
石炭政策につきましては、かねてから本
委員会の諸
先生方には格別の御
配慮をいただいておりますが、本日は、また
石炭対策につきまして、鉄鋼
業界としての
立場から
意見を述べさせていただく
機会をお与えくださいましたことに対しまして、心からお礼を申し上げる次第でございます。
御承知のとおり、
昭和四十八年末の
石油危機に端を発しました
世界的な鉄鋼不況までは、
わが国経済の驚異的な成長とともに、鉄鋼生産も年率一一%を超える増加を示してまいりましたが、四十八
年度の一億二千万トンをピークといたしまして後退を続け、五十三
年度は前
年度をやや上回ったものの、一億五百万トン
程度にとどまっております。
私が
昭和五十年の七月に
石炭対策特別委員会におきまして、第六次
石炭対策について陳述をいたしました際には、産業構造審議会の総合部会のビジョンとして発表されました五十五
年度粗鋼生産
見通し一億五千百万トン、六十
年度は一億七千五百万トン前後ということになっておりました。
しかしながら、その後、
わが国経済が安定成長路線に移行すると同時に、民間
設備投資も大幅に減退いたしまして、さらに各鉄鋼
需要部門における鋼材
消費原単位も向上するという新しい要因が加わりました結果、
国内需要は四十八
年度の八千九百万トン、これは粗鋼換算でございますが、から
昭和五十三
年度は七千万トン弱に低下しておる次第でございます。
また、輸出につきましては、
昭和四十八
年度の三千百万トンから、五十一
年度には四千二百万トンに増加をいたしまして、内需の減少を補てんするということができたわけでございますが、EC、アメリカ等の主要鉄鋼生産国は、
長期的な構造不況打開の道を探し求めている中で、たとえばECでは、ベーシックプライス制度の発足及び数量、
価格両面にわたる二国間協定の締結によりまして、
輸入鋼材を抑制するという方法が実施されております。また、アメリカにおきましても、
海外からの鋼材の
輸入の激増に
対応して、トリガー
価格制度という制度を発足させまして、鋼材の大量流入を防止する措置を講じております。この結果、五十三
年度の
わが国の鉄鋼輸出は、前
年度比三百七十万トン減の三千五百万トンにとどまっております。
このように、第六次
石炭政策策定当時、
日本経済の高度成長を前提として作成されました鉄鋼生産
見通し、五十五
年度一億五千百万トンは、現在の鉄鋼業を取り巻く内外の客観
情勢から見て、著しい乖離が生じておるわけでございます。最近、公共事業関係予算の増加によりまして、確かに
国内需要の一部では、鋼材
需要の増大傾向があらわれておりますが、他方におきまして、造船用の鋼材の大幅な
需要減退により、内需全体としては、微増
程度にとどまっております。さらに、輸出の
見通し等を総合勘案いたしますと、
昭和五十五
年度以降におきましても、従来のような大きな量的
拡大はとうてい期待し得ないのが
現状でございます。
以上、申し述べましたように、現在、鉄鋼生産の
見通しに大きな差が生じてまいりましたことに加えて、原料炭を取り巻く第二の
変化は、内外炭の
価格における格差が
拡大してきているという問題でございます。
御承知のように、高炉各社は
国内石炭会社の経営の困難な実情を勘案いたしまして、
国内原料炭一トン当たり四十九
年度には三千円、五十
年度三千六百円、五十一
年度千九百円、五十二
年度千九百円とそれぞれ値上げを行いました。また国鉄運賃等の流通コストの上昇分は別途負担することにいたした次第でございます。このように、鉄鋼
業界といたしましてはでき得る限りの協力をいたしてまいったつもりでございます。
さらに、個別の
石炭山の資金繰りの実情に応じまして
石炭代金の支払い
条件を緩和する等、資金面での融資協力をも個々に行っているのが実情でございます。
しかしながら、現在の
国内原料炭の
価格は、品質的に見てほぼ同等と見られる豪州弱粘結炭の
価格に比べますと、
国内炭価格は一トン一万九千五百円に達しておるのに対しまして、現在の為替レートはやや円安になっておりますが、一ドル二百十円をベースとして計算いたしますと、豪州弱粘結炭は一万一千三百円という値段で入るわけでございます。したがいまして、内外炭の間には現在八千二百円
程度の
価格差が生じておるということでございます。さらに今後の
見通しにつきましても、生産性の相違等からて見て、
国内炭のコスト上昇の方が大きいと考えられますので、このままでは内外炭の
価格差はさらに
拡大していくものと予想される次第でございます。
鉄鋼
業界は、確かに現在若干の明るさを見せ始めております。業績が最悪の時期に比べまして徐徐に回復しておりますのは、鉄鋼
業界の労使双方が現在続いております減速
経済をいち早く自覚し、それに向かって懸命な
努力を傾注した結果であろうと思う次第でございます。
一例を申し上げますと、鉄鋼
業界全般に広がっておる自主管理活動という下から盛り上がる力強い
業界活動が
中心になりまして、徹底的な合理化とコストダウンを図ることによって、これ以上は無理だと思われるぐらいの画期的な合理化が鉄鋼
業界では行われているわけでございます。
省
エネルギーの成果につきましても驚くべきものがございます。鉄鋼
業界は現在七〇%台の稼働率、操業下でございまして、依然として厳しい
状況下に置かれているといっても過言ではございません。鉄鋼各社は五十四
年度の鉄鋼生産の
見通しにつきましても慎重な見方をとっておるところが多いわけでありまして、五十三
年度の一億五百万トンに対しまして一億六百万ないし一億八百万トンを前提として経営基盤の確立を図ろうと
努力をしている次第でございます。
以上、るる鉄鋼
業界を取り巻く
情勢について御説明申し上げましたが、今後の
国内炭政策について、鉄鋼
業界としての
意見を述べさせていただきたいと存じます。
第一は、数量に関する問題でございます。
五十三
年度の鉄鋼用原料炭の購入量は、
輸入炭四千九百万トン、そのうち豪州弱粘結炭は六百万トンでございます。
国内炭は六百四十万トン、
合計いたしますと五千五百四十万トンが原料炭の総量でございます。これを五十二
年度と比較いたしますと、
輸入炭におきましては四百三十万トン、八%の減少でございますが、
国内炭の方は十八万トン、三%弱の減少にとどまっております。
しかしながら、今後の
国内炭の購入量については、鉄鋼生産が大幅に増加しないと想定されること、また原料炭の
消費量を決定する要因でありますコークス比、つまり銑鉄一トンつくるのに必要なコークスの量でございますが、これが製銑
技術の一層の合理化と他方高能率高炉へ生産を集中することによりまして、さらにコークス比は低下すること等を勘案いたしますと、次に述べます
価格差の縮小のための抜本的な
対策が講じられない限り、
現状程度の
引き取り数量の
維持さえなかなかむずかしいという感じがいたします。
世界の
石炭需要を見ますと、鉄鋼生産の伸び悩みによりまして、主要製鉄国であるアメリカ、ECともに原料炭の
需要は減少しておりますが、反面発電所向けの
一般炭の
需要は増加しておるわけでございます。
IEA決議にも見られますように、
石油にかわる最も有力な
エネルギー源として
石炭の
開発とその
利用拡大策が
各国でも真剣に検討されております。
わが国におきましても、
エネルギー問題は、中期的に見ますと、原料炭よりも、むしろ
石油の代替として
発電用に
石炭を活用することの方がより重要であると考える次第でございます。したがいまして、第一次
石炭対策が
昭和三十八年に実施されて以来、原料炭を重点にしたいわゆる傾斜生産の方針を、この際
一般炭に生産の重点を指向する方向に転換するよう思い切った措置をとるべきものと考える次第でございます。
第二の
問題点は、
国内炭の
価格対策でございます。
第六次
石炭政策におきましては、第五次答申と同様に、
国内原料炭の
価格は、品質を考慮して豪州弱粘結炭
価格を基準として設定することになっております。私
どもはこの設定方法について原則的には賛成であると申し述べた次第でございます。
しかしながら、さきにも述べましたように、実際には
国内原料炭が豪州弱粘結炭
価格に比べて現在八千二百円も
割り高になっていることは、鉄鋼業が私企業である以上、
経済的にも負担の限度を超えているものと言わざるを得ないのでございます。この事実はこのまま放置し得ない重大問題であると考える次第でございます。したがいまして、
現状規模の
国内原料炭の
引き取りを円滑に行うためには、
石炭企業に対し、
政府において相当思い切った
助成措置をとり、早急に
価格差縮小の
対策をとっていただくよう御
指導、御協力をいただきたいのでございます。
私
ども需要家側といたしましても、もちろんでき得る限りの協力は将来ともいたしたいと存じますが、
国内原料炭の
引き取り数量問題は、
価格対策と密接不可分の関係にあることを御認識くださいまして、絶大な御協力をくださいますよう心から
お願い申し上げる次第でございます。
最後に、さきに中期的には
エネルギー問題は
一般炭、とりわけ
発電用炭の入手とその
利用拡大についてであると申し述べました。また前回の
石炭対策特別委員会で坂
参考人が陳述されましたように、
石油価格の上昇傾向から
国内一般炭と
石油価格との値差が将来漸次縮小することが予想されますので、原料炭の
価格差を縮小するために必要とする費用よりもより少ない金額で
国内炭の
需要確保が図り得る可能性が強いのではないかと考えております。したがいまして、新設の
石炭火力が本格稼働する
昭和五十七年ないし
昭和五十八年時点においては、原料炭から
一般炭に炭種振りかえを積極的に行い得るよう
石炭価格是正のための補給金制度の創設をあわせて検討することが緊要であると考えます。
以上、申し上げましたところにより、鉄鋼
業界の
石炭問題に関する考え方を御
理解いただけたと存じますが、厳しい鉄鋼経営の
現状のもとにおいて、
国内炭の
引き取りにつきましても経営合理性が強く要求されるのは当然であろうと存じます。
戦後最大ともいえる
エネルギー事情の激変期における
わが国石炭業界のため、思い気った
対策を講じていただきたいことを、私
ども鉄鋼
業界からも重ねて
お願い申し上げ、私の陳述を終わらせていただきます。