○
向坂参考人 参考人として御
意見を申し上げた
いと思います。
第六次の石鉱審の答申の眼目は、
国内炭二千万トン
体制の
維持と
海外炭の
開発、
輸入の
拡大にあったと思いますが、これは全く変更する理由はないと思います。
最近の国際的な
エネルギー情勢から見ますと、その眼目を実現するために、
エネルギー政策の
政策手段を一層強化する必要があるのではないかと考えます。
イラン革命が起こった後、中東の政治情勢は大変不安定でございます。中東に大量の
石油を依存している日本は、アメリカやヨーロッパに比べて一層
エネルギー供給を
確保する上で不安定性を増したと思いますし、それから
長期的に見ましても、恐らく国際的な
石油需給の展望は非常にタイトになった、ここで大きく変わったというふうに考えます。過去二、三年の間、国際的な
エネルギー専門家の間で
石油の
長期見通しについて楽観論が一時かなり出てまいりましたけれ
ども、その楽観論は、イラン革命以後の中東情勢を見ますと、一挙に吹き飛ばされたというふうに考えていいかと思います。
そういう
観点から、日本の
エネルギー政策をいろいろと強化しなければならない面がありますが、その
一つとして
石炭利用の
拡大という
必要性は一層強まったというふうに考えるべきかと思います。
それから、四十八年秋の
石油ショック以降、日本の
経済の成長は減速してまいりまして、今後恐らく中
長期的に見て五%前後の
経済成長ということになりますと、中高年
労働力層の雇用問題というものはかなり深刻になるわけでございます。そういう
観点から言いますと、産炭地の
経済と雇用の
維持ということは従前にも増して重要になってくる。もし失業者を大量に出すような事態になると、中高年層の転業というものはむずかしくなっているということに十分留意する必要があると思います。こういう
状況と
国内資源の活用という見地を含めまして、二千方トン
体制を
維持するという
必要性は強まってきていると考えます。
ところが、こういう
目標を達成するために大きな変化が起こりましたのは、円の為替相場の急激な上昇でございました。現在やや円が弱くなっておりますけれ
ども、大体中期的に見まして一ドル二百円といったような相場を、いろいろな
政策を考える上の前提にしていいかと私は考えます。この二百円円レートの実現ということによって、
国内炭の
経済性というものは非常に悪くなりました。特に
原料炭についての内外の格差が大きくなりましたし、それから
輸入石油と
国内炭との
価格差も
拡大してまいったわけでございます。現在どの程度の格差があるかは正確にはわかりませんけれ
ども、
一般炭については、恐らく北海道の場合で発電
コスト差が
石油と
石炭の間には
石炭トン当たりにして二千円前後の格差があると考えられますし、
原料炭については、九千円を超える格差があることは御
承知のとおりでございます。
ただ、ここで、今後の
政策を考える上で、
石油価格がどうなるかということによって油と
石炭との格差が変化してまいります。イラン革命、それから今後のサウジアラビアが資源保存
政策を強めるということを考えますと、
石油の価格上昇率は、恐らく一般的なインフレーションレートよりも、中
長期に考えると大きくなるということを考えますと、油炭格差は現在より
拡大するよりはむしろ縮小する
方向だと考えていいと思います。
このような
状況で、
国内鉄鋼業の
不況ということもありましたし、それから
円高による
原料炭の内外格差が非常に大きくなったということから、
国内の
原料炭の引き取りの減少が起こり、そのために
貯炭は累増し、
企業の
資金難が起こっているわけでございますし、出炭が減少になれば原価がふえ、それだけこれまでの収支難に加えて一層収支
状況を
悪化させる
要因になると思います。
現状のようなままで放置すると、なかなか二千万トン
体制も
維持できないという
状況になりはしないかということが懸念されるわけでございます。
同時に、北海道の
一般炭につきましても、電力会社の
立場から言いますと、油炭格差があるにもかかわらず重油の消費を抑えなければならないということから、収支、つまり電力会社の
立場から言うと、
経済的な燃料の
選択の幅が縮められることによって、その収支難に拍車がかけられ、それだけ今後電力料金を引き上げる場合に大幅になる可能性があるわけでございます。
このような
状況から考えますと、一体
対策の
方向をどのように考えたらいいかということについて、二、三私の考えるところを申し述べたいと思うわけでございます。
これを短期と中期の問題に分けてみますと、短期の問題はここ一、二年、少なくともこの一年でいろいろな施策を早急に強化する必要があるのではないかというように思います。現在のように、
貯炭が物理的な限界を超える
状況になってきている。要するに、場所がないというようなことの上に、
貯炭のための
資金があり、それが
企業の赤字
増大要因になってきているわけでございまして、
資金繰りという点から言っても、収支面から言っても大きな負担をかけつつあるのが
現状であろうと思います。
これに対して、もちろん
企業努力も必要であって、いろいろな不要不急の原価費用を削減節約するということ以外にも、恐らく
企業としては、人員の減耗を補てんしないとか、あるいは
維持投資、修繕費などできるだけ繰り延ばせるものを繰り延ばすとか、いろいろな原価
コストの引き下げを通じて何とか五十四年の危機を乗り切るという会社の
努力が行われていると思われます。
ただ、しかし、こういったやり方がいつまでも続けられるかというと、私
ども経理内容がよくわかりませんから、いつまでとは正確に言えませんけれ
ども、五十五年、五十六年と続けていったのでは、恐らく会社が生存を続けられなくなるのではないか、二千万トン
体制の
維持という
石炭政策の
目標を実現していくということがむずかしくなるのではないかということが考えられます。したがって、五十四年度の
政府の施策というものは、ある程度予算に盛り込まれたわけでございますが、果たしてこれで十分であるかどうかは、なお論議の
余地があろうかと思いますが、いずれにしましても、五十五年度以降についてもう少しめどをつけていかないと、五十四年度の乗り切りもむずかしくなるんじゃないかというふうに思います。したがって、五十五年以降のいわば中期、
長期の
対策というものをここ早急に考えていく必要があるのではないかと思うわけでございます。
それで、一体どのような
方向が考えられるか。私十分各方面の
意見も聞いておりませんし、情報も
不足のところがあると思いますが、
長期対策の基本的な
方向としては、
原料炭生産から
一般炭増産へ傾斜していくということを考える必要が出てくるのではないか。これまでどちらかと言うと、
原料炭重点に二千万トン
維持をやってきましたけれ
ども、果たしていつまでも
原料炭に傾斜した二千万トン
体制を続けるのか。それとも、
原料炭はある程度減らしても、
一般炭を増産して二千万トン
体制維持を続けるのかということになりますと、私は、
一般炭増産へ傾斜するという、
一つの
政策転換ではないかもしれませんが、会社の
生産方針としては、そういう
転換が好ましいのではないかというふうに考えるわけでございます。
と言いますのは、
原料炭については現在九千円くらいの格差がございます。もちろん円レートが三百円にでもまた下がれば別ですけれ
ども、恐らく二百円前後でしばらく続くということになりますと、
原料炭の内外格差というものはなかなか縮まらない。それで、これを何か補給金
政策、
価格差補給金のようなもので
生産を
維持しようということは、大変金高もかさむわけでございますし、またこの格差をそのままにして、いつまでも鉄鋼会社に最高の引き取りをというふうに言うのも
経済的にかなり無理があるようにも思うわけでございます。
一般炭については、国際的に見ましても、できるだけ発電用など
石油より
石炭への
転換ということを考えているわけでございます。これは最近IEAでも研究報告がまとまり、これは単に短期、中期の問題だけではなくて、来世紀へかけて
長期的に
石油ボイラー用の
石油を
石炭に切りかえるという
方向が出ていることもございますし、それから日本の
立場を考えましても、
石油と
石炭との
価格差というものは、私は、先ほど申し上げたように当面二千円前後。いまのように、ことし
石油が上がっていきますと、もっとそれは千五百円とか千円台になるかもしれません、数字は正確じゃありませんけれ
ども。そういうふうになっていくことも考えられるし、それから将来中期的、
長期的に考えて、むしろ一般的なインフレレートよりは、
石油価格の上昇率の方が大きいということになると、
長期的には油炭格差は縮まるというふうに考えていいのではないか。それだけ
一般炭について何らかの補助
政策を強化するということを考えた場合でも、私はかえって少ない金額でより効果のある
政策が実施できるのではないかというふうに考えますので、一般的に、全体的に見て、
原料炭より
一般炭増産への傾斜という
方向をとるべきではないかと考える次第でございます。
原料炭については、そうかと言ってすぐ
一般炭を増産しましても、十分それをたくだけの
石炭火力の能力がございませんから、やはり
原料炭の引き取りを、たとえばことしが六百三、四十万トンだとしますと、来年、再来年はもう少しそれをふやすということを考えないと、早急には
一般炭への傾斜ということは実現できないので、何らかその
原料炭について
増加引き取りに対して
価格差補給金を出すというような
政策を強める必要があるのではないか。そういう
政策で、従来のように七百五十万トンとかそれ以上の引き取りが実現できるかどうかは、私
どもよくわかりませんけれ
ども、いずれにしましても、七百五十万トン程度引き取りが実現するような
方向で、それが
維持されるような
方向で
増加引き取り
交付金といったものを考える必要があるのではないかと思うわけでございます。
一般炭については、現在、最近の
状況で大体八百五十万トン程度の引き取りが、電力用だけですけれ
ども実現しているようでございますが、これはぜひ
確保しつつ、将来
石炭火力の増設に対して何らかの補助
政策を強めることによって、だんだん
一般炭の発電用燃料としての引き取り量を
増加していって、将来一千万トンとかあるいはそれ以上に持っていくということをねらいとすべきではないかというように思うわけでございます。
いずれにしましても、具体的な
政策は、また何らか審議会なり行政方面で考えることでございますけれ
ども、私は、大きな
方向として、より少ない
資金を効率的に使うということになると、恐らく
原料炭より
一般炭への傾斜を強めるという
方向がとらるべきではないかというように考える次第でございます。
以上で、私の陳述を終わります。