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萬羽参考人 弁護士の
萬羽でございます。
日本弁護士連合会は、
昭和四十九年開催の人権擁護大会において、
医薬品副作用被害に対する
救済制度の迅速な確立と
薬事法の抜本的な
改正の必要性を決議して以来、数多くの
意見書を発表して、これの早期実現を訴え続けてまいりました。それは、わが国には世界に例を見ない多数のしかも深刻なる
薬害被害が
発生し、これら
被害者は、
救済されることなく長期間放置され、人権上無視し得ない重大な社会問題となっておったことであります。そして、
薬害の
発生は、その根本
原因を考えてみますと、
安全性を無視した
製薬企業の営利主義と、これを許してきた国の
行政上の欠陥にあるからであります。
国はこのたび、ようやくこの二
法案を提案いたしましたが、その
内容を検討してみますとまことに不十分であって、このままでは真の
被害者救済にはほど遠く、また、将来の
薬害の
発生を
防止する効力を有するものとは言いがたいものであります。かえってこのままでは
薬害隠しという非難を受けることになるのではないかと考える次第であります。
以下、この二
法案の不十分であり、ぜひとも改善を要する事項について御説明申し上げます。
まず
救済基金法案につきましては、われわれは、第一に、この
法案は完全で迅速なる賠償を原則とすべきであり、第二には、
原因者の
責任を明確化するものでなければならない、このように考えております。
したがいまして、
救済法案において改善を要する第一の点は、この
法律の基本的性格を、現在提案されておりますような恩恵的な
補償的
制度とすることではなく、損害賠償としての性格を与えるべきであるというふうに考えます。国はこの
制度を恩恵的な
制度というふうにとらえております関係から、この
法案を見てみますと、
救済の
内容はきわめて不十分であり、また加害者の
責任を不明確とし、その
責任を分散化、軽減化する
機能を持つものとしております。
改善を要する第二の点は、無過失
責任規定の制定であります。
この
規定の必要な理由は、まず第一に、
医薬品は人間の生命、健康に重要なかかわり合いを持っておるということでございます。このような強度の危険性を持ったものについては、無過失
責任の
規定が各方面からその立法が進展しているところでありまして、本
法案におきましてもこれの導入がぜひとも必要と考えております。また訴訟等を通じまして、当初は
責任がとても考えられないような事案と見えた事柄につきましても、審理を進めていき、
企業に最高度の注意義務を課すということによって、究明いたしますと、いずれも
企業の
責任が認められる結果となっておりますことは明らかなところであります。したがいまして、実質的にも、現在すでに、
裁判では無過失
責任主義が採用されているというふうなことも、この
制度を必要とするゆえんであります。
またもう
一つは、
製薬企業は
医薬品を販売することによって利益を得ているわけでありまして、かように利益を得ているところが
責任を負うのは当然だという考え方からも、無過失
責任規定の制定が必要とされる理由と考えられます。
第三点として改善を
要求される点は、
国庫負担の問題であります。
法案は、その第四十三条におきまして「特定の
医薬品の
副作用により著しい健康
被害が多発した場合」に、費用の一部を国が補助するというふうに
規定しております。
薬害被害につきましては、国も
製造承認等で深いかかわり合いを持っている関係上、われわれも、
企業と同様興国もその
責任者であるというふうに考えます。したがいまして、
被害者に対しては、国も、当該
医薬品を製作した
企業と同時に、共同して損害賠償の責めに当たるのは当然でございますけれ
ども、その
原因者の間におきまして最終的な負担をいずれにするかという点は、またおのずから別個の観点から考えてみる必要がございます。この観点から考えますと、最終的な費用の負担者は国とすることは納得できないところでありまして、
企業が最終的な
責任者とならなくてはならないと考えます。国がその費用で損害賠償に当たるということでは、
企業の
責任を国の費用で保険してやるということになる結果となりまして、
企業が
医薬品の開発に対して
安全性を重視するということにはならなくなる結果となるおそれがあります。
次に改善を要する第四の点は、
救済機構の是正の点であります。
現在の
法案におきましては、
基金が
拠出金の徴収、
被害の
認定及び
給付まですべてを行うことになっておりますけれ
ども、財源調達機関が同時に
給付の
認定まで行うということでは、公正らしさを担保する
制度とは言えないと考えます。したがいまして、
基金は
拠出金の徴収と後に述べます求償を行うということにして、
被害者の
認定、それから原状回復事業、
医療給付等は、これを国の
行政で行うとすることが必要ではなかろうかと考えます。
次に改善を要する第五の点は、
救済の
対象が狭過ぎる、したがいましてもっと広範囲に
対象を広げるべきである、このように考えます。
その第一点は、この
法案の第二条二項によりますと、との
制度の
給付の
対象となるものは、
医薬品が適正な使用
目的に従って使用したにもかかわらず
発生した
被害ということになっておりますが、これでは
医療過誤及び過剰投与等の場合が
給付の
対象から除かれることになって、きわめて問題であります。
第二の点は「がんその他の特殊疾病に使用されることが
目的とされている
医薬品」が除かれておりますけれ
ども、これら
医薬品によって
発生するきわめて重篤な
被害が本
制度の
対象外に置かれることは、これもきわめて問題であると考えます。
第三点は、第三者に
賠償責任があることが明らかな場合、これも除かれることになっておりますけれ
ども、この
制度の根本的な性格を損害
賠償責任とする見地に立てば、このようなことが除外されるべきでないということは当然であります。
第四点として、
医療費、
医療手当等は「
政令で定める
程度の
医療を受ける者」に
給付されるとありますけれ
ども、このようなことでは、
政令の定め方によっては軽微な
副作用が除外されるということになって、この点も問題でございます。
第五番目に、障害年金、障害児童養育年金等は「
政令で定める
程度の廃疾の状態にある」者について
給付されるということになっておりますけれ
ども、これも廃疾の状態とはいかなるものかということが問題となりますけれ
ども、重篤な
被害でなければこれには当たらないということになっては、そのような
認定を受けれない
被害者はいままでと同様放置される結果となることになるわけでありまして、これもきわめて不当だというふうに考えます。
そして最後に、この問題で最も重要なる事項は、既
発生の
被害については附則の第一条二項でこれを除いているという点でございます。
そもそも、この
制度が世論に押されてこういう形で
法案とまで提案されるに至ったのは、現在すでに多発している深刻な
薬害被害、これがこの運動の根本となっておったわけでありますから、これが
救済されることなく放置されるということであっては、全く何のための
制度かと言わざるを得ないわけでございまして、ぜひともこれは、過去に
発生した
被害もこの
制度の
対象となるように、本法においてこれを明示することが必要であるというふうに考えます。
次に改善すべき第六の点は、真に
救済に役立つ
給付内容に改善していただきたいということであります。
この
法案による
給付の
内容はきわめて不十分であります。そして、その中で最も重要なるものは、この
法案では原状回復事業が欠落している、こういうことであります。
被害者に金さえ払ってやればそれで事足りるということではないのでありまして、
被害者が
被害を受ける前の状態に少しでも近づけるためには、原状回復事業が最も大切なことでございまして、これが落ちていたのでは非常に大きな欠陥であると言わざるを得ません。
最後に、第七点として改善を要する点は、求償
規定の整備を図っていただきたい、こういうことでございます。
この
法案の三十条二項を見ますと、
基金は、第三者が
責任を有することが明らかになった場合は、損害賠償の請求権を
給付をした限度で取得するという
規定がございますけれ
ども、
基金に対して求償を義務づける
規定がござかません。これでは、
基金は求償をなおざりにする結果となって、
企業の
責任が覆い隠される結果になるわけでございまして、
原因者負担の原則が貫けなくなる結果となります。したがいまして、
基金は、
被害者に
給付をした場合に、必ずその
責任において
原因者を究明する義務を負うようにすべきであり、
原因者が明らかになった場合には、その
原因者に対して求償をすべきである、そのことがまたとりもなおさず
基金の充実ということになって、
被害者に対する
給付がより可能になるという結果になろうかと思います。
次に、
薬事法の
改正について申し上げます。
薬事法の
改正法案で欠落している重要な事項として、まず第一点は、
目的規定を含む総則の
規定の
改正がなされていない、こういうことであります。現在の
薬事法は、これが単なる取り締まり的な法規なのであるか、あるいは
国民の健康を増進すべき積極的な
行政を義務づけているものであるかということにつきまして、現在いろいろ見解が分かれているところでございます。したがいまして、この
改正におきましては、
薬事法の根本性格を明定する
意味において
目的規定を明らかにし、
薬事法は、
国民の生命、健康の維持増進を図る積極
行政を
目的とするものであるということを明らかにする必要があります。
欠落している第二点は、
中央薬事審議会の組織運営の改善が図られていないという点であります。
医薬品の
承認等は高度の専門知識を有する必要から、その
安全性、
有効性の
確保は、専門家である薬事
審議会を中心に図られなければならないところでありますけれ
ども、現在の
中央薬事審議会は単なる諮問機関であって受動的なものであり、きわめて不十分であります。したがいまして、これを改善し、権限を大幅に強化するとともに、薬事に関する重要事項については必ず
中央薬事審議会の議を経なくてはならないものとすると同時に、
中央薬事審議会が
安全性、
有効性を否定する
意見を出した場合には、国もこれに従わなければいかぬという拘束力を持たせることが必要となります。
欠落している第三点は、規制
措置請求権を定めておらないという点であります。
薬事
行政につきましては
国民の絶えざる監視が必要とされるところでありますが、
国民の薬事
行政への参加の道として、
医薬品等によってみずから危険を受けるおそれがある場合、あるいは一般
消費者の生命、身体に危害の
発生するおそれのある場合、
国民は厚生大臣にこれを是正するための適切なる
措置を求める、そういう権利をぜひとも制定する必要があると考えます。そうして、これに対応する国の応答義務を認め、国がこれに従わなかった場合には義務づけ訴訟を開く道までを講ずべき必要があると考えます。
次に
改正案の
内容にわたりますが、
この
内容で改善すべき点の第一は、
製造承認の拒否事由において、その定め方がきわめて不十分であるということであります。たとえば
有効性に関しては、著しく有害な
副作用が
発生して使用価値がないということを拒否事由にしておりますが、このようなことでは
有効性に偏重しておって、バランス論を取り入れて、
安全性を無視しているというふうに言い得るのではなかろうかと考えます。したがいまして、有害作用のあるおそれのある場合も含めて拒否事由とするということがぜひとも重要であると考えます。
そして、これはまた、
承認の取り消し、変更等の
規定が設けられておりましても、拒否事由が不十分に定められている関係上、これが改善されなくては、
承認の取り消し、変更等の
規定が有効に働くことができないという結果になります。
改善すべき第三の点は、新
医薬品について六年目に一回だけの再
審査をするということになっておりますけれ
ども、これでは不十分であって、
承認には、そもそも当初から五年間の期限をつけて、五年目には再
審査、再申請をさせて、新たに
製造承認をする場合と同様の
審査をすべきであろうと考えております。
改善すべき点のもう
一つは、
表示につきましては使用期限の記載の義務づけだけが提案されておりますけれ
ども、これも不十分であって、効能書きをも
製造の
承認の
対象とした上で、これを
患者に交付をするということまでも義務づけるべきだと考えます。
それから治験、すなわち
臨床試験につきましては、
法案では届け出制となっておりますけれ
ども、これでは不十分であって、認可制とすべきであると考えます。そうして、さらには、治験依頼者の無過失
責任規定と
被害者の
救済制度も確立することが、この
法案でぜひとも必要ではなかろうかと考えます。
以上、時間の関係上非常にかけ足で申しわけございませんが、これをもって説明にかえさせていただきます。